蕃神   作:名無しの海

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3ー1 道具の価値は

 ある日、記憶の連続性が途切れそれまで他者に対して抱いていた評価が自身の中から消えたことから、自分が2人目であることを自覚していた。

 自分の身体が道具として作られたことは記憶していた。

 

 1人目は命令が無くても動いていた。

 1人目が壊れていたのか、2人目の自分が壊れているのかはわからない。

 2人目の自分にも、1人目と同じく感情はあった。

 だが感情を表現する方法がわからなかった。

 

 しかし、2人目が廃棄されていない事から、道具としてはまだ壊れていないのだろうと考え、命令された事だけを実行することにした。

 道具は命令されていない事は実行しないものだ。

 

 道具として作られた綾波レイにとって、その用途であるエヴァンゲリオンに乗ることは自身の

存在意義であった。

 何故エヴァンゲリオンに乗るのか。

 その為に作られた道具だからだ。

 

 問答は無意味。

 選択するものでは無い。

 それが自分という存在だ。

 綾波レイにとってその質問は「何故息をするのか」と同程度には意味が無いものだった。

 

 プラントでの調整。

 記憶のバックアップ。

 エヴァンゲリオン零号機起動実験。

 命令されたことを実行する。

 それが綾波レイの全てだった。

 

 いつの頃だったか、碇ゲンドウが命令の遂行に不要な干渉をしている事に気が付いた。

 綾波レイという道具に対する性能調査の一環であると考え、碇ゲンドウへ調査内容を照会したところ「気にする必要は無い。そのままでいい」という回答があった。

 

 わからない。

 綾波レイは道具である自分が考えることではないと結論付けた。

 

 それから幾度となく碇ゲンドウが意図不明な干渉をしている際に、小さな声で「ユイ」と呟くことが数度あった。

 「ユイ」という名前は、エヴァンゲリオン開発中の事故で死亡した人物と資料では記録されている。

 そして碇ゲンドウの妻であった人物だ。

 

 綾波レイは解を得た。

 碇ゲンドウは道具としての綾波レイを通して、妻の碇ユイを見ていたのだ。

 つまり碇ゲンドウは綾波レイを、碇ユイの身代わりの、人形として見ていたのだと認識した。

 碇ゲンドウが綾波レイという道具の主であることから、それもまた自分の道具としての用途として定めた。

 

 ソレを認識した日から、碇ゲンドウが自分を通して碇ユイを見ている時、胸部箇所の体温が上昇するようになった。

 赤木リツコに身体の不調を報告し、検査を実施したが異常は検出されなかった。

 繰り返す症状を赤木リツコ博士に報告したところ「レイは碇指令の事が好きなのね」と笑われた。

 

 「好き」とは何か。

 綾波レイは解を持たなかった。

 

 零号機起動実験の際に、零号機が制御不能に陥った結果、エントリープラグが強制射出され、天井へ衝突した後、床面へ落下。

 結果として負傷することがあった。

 その時、最初に駆け付け、綾波レイを救助した人物は碇ゲンドウだった。

 

 綾波レイの生存を認識した時に浮かべた、碇ゲンドウの表情が何度も脳裏を過る。

 あの時、負傷した身体は痛覚という危険信号を発していたが、碇ゲンドウが駆け付けた時、苦痛に苛まれる中でも、胸に暖かい何かを感じた。

 

 道具である綾波レイは、いつしか碇ゲンドウと共にいる事が心地よくなっていた。

 

 ■■■

 

 「きょぉ~っもきょっとって、しっんくっろてっすとぉ~!」

 

 はい!元気よぉ~く!プラグ内でもうたってまーっす!

 あー、カラオケいきて……

 ヒトカラなヒトカラ。

 俺はヒトカラを愛する孤高のシンガー。

 

 いや、昔々今の俺でなかった頃に「僕ヘタなんですよ~」からの「僕なんかやっちゃいましたかね」ってマウントとってくるイケメンズに対するトラウマがだな。

 

 『カイくーん、もうちょっち我慢してね~?』

 「ういっす黙ってまっす」

 

 ミサトさんに窘められ素直に黙るも暇すぎるんだよなぁ。

 っは!

 これ集中したフリをして寝てもばれないのでは?

 そっと目を閉じて心を無に……

 

 『カイ君、寝たら駄目よ』

 「ひぃん」

 

 今度はリツコさんに注意されて情けない声を出してしまう。

 俺涙目である。

 集中力が限界突破なんだが一体どうすれば良いというのか。

 

 そういえばあれからトウジとケンスケが謝ってきてシンジ共々和解した。

 やはりエントリープラグ内で実際の戦闘を見て思う所があったのだとは思うけど、妹のサクラに怒られたってのが大きそうだよなぁ。

 シスコンだし。

 

 「わしをどつけ!」イベントは「貸しは作ったままにしとく」カードを使用して華麗に回避!

 殴られた方はスッキリするかもしれないけど、殴ったほうも痛いんだよ。

 俺は痛いの嫌いだ。

 

 無事3馬鹿トリオも結成されたようで、レイを目で追ってたシンジをトウジが揶揄おうとしたところ、シンジはトウジを後ろから羽交い絞めにすると、左手の人差し指と中指を鼻に突っ込み、右手でトウジの右手首を押さえてレイに向かって手を振るという奇行を実行するも、あえなくスルーされるというイベントを実行していた。

 あれでなんて女子から「碇君って意外と可愛いところあるのね~」になるのか分からん。

 顔か?

 顔なのか?

 まぁ、俺はロリコンじゃないから中学女子からの人気なんでどうでもいいんですけどー!

 あ、トウジは委員長に怒られてました。

 平和じゃぁ~。

 

 最近のイベントも思い出しつくしてしまうと再び暇になりかけてそわそわし始める。

 シンジは良くこんな暇な状況我慢できるよなぁ~っと前席に目を向けると、プラグ内のモニターがレイとゲンドウパパを映し出していた。

 

 あー、なるほど?

 日課(違う)のレイちゃんチェックですね(違う)。

 

 しかしこれだけ見ると、なんとも微笑ましい絵面なんだけど、かたや普段は無表情のアルビノ美少女レイ。

 かたやサングラスで視線を、組んだ手で口元を隠して「……問題無い」といっとけばなんとか思ってるんじゃないか疑惑のゲンドウパパが笑顔とか正直背筋が凍る。

 

 レイは美少女なんだけどやっぱりあの無表情はリアルで目にするとやっぱ近寄りがたいものがある。

 揶揄うか!ヨシ!

 

 「シンジ選手、今日も綾波さんチェックに余念がありませんなぁ~。けどこんなとこでじーっと見てるとみんなにバレバレだぜ?え?何?ひょっとして好きなの?」

 「カイ!変なこと言わないでよ。父さんが……事故があった時に綾波を助けたって聞いてから気になっちゃって」

 

 慌てて否定するシンジに思わずニヤニヤ笑いが零れてしまうが、まぁ恋心とかじゃなくてゲンドウパパ関連で気にしてるんだろうなって感じだ。

 

 「ふ~ん、綾波さんって学校でもNERVでも基本的に1人だよな」

 「うん、いつも無表情で、何考えてるかわからなくて……けど今は父さんと話していて笑ってるんだ。どうしてなんだろうって、見てた」

 

 ふ~ん、シンちゃんってばよく観察していらっしゃる。

 

 「ゲンドウパパも笑ってんだよなぁ……うわっ、しんど」

 

 レイを通して奥さん思い出して笑顔ってほんとキチィよ。

 しかも娘が生まれたらつけようって話してた名前つけてんだぜ?

 妻に先立たれて娘に奥さんの面影を見て手ぇだすぐらいの犯罪臭を感じるし、それだけ碇ゲンドウにとって碇ユイの存在が大きかったってことなんだろ。

 うっかり本音が漏れる。

 

 「父さんって笑うんだ……」

 「そらそーだろ、本当かどうかは疑わしくてもあれでも人間……ってあー……そっか、もう長らくあってないもんな」

 

 年に一度の墓参りだけ2人は会っていたが、それも行かなくなって数年たっている。

 それに家族でいたころの記憶は残ってないんだっけっかなぁ……。

 

 「うん。母さんと父さんと住んでいた頃のことは覚えてないし……父さんって笑えるんだよ……それなのにどうして僕には……ってうわっ!何すんだよカイ」

 「んー、なんとなく?」

 

 どうしてか「僕には笑わない」と言わせたくなくて、前席に乗り出して後ろからシンジにヘッドロックを軽くかます。

 

 『こら!2人とも集中しなさい!』

 「へーい」

 「なんで僕までっ!」

 

 ミサトさんに怒られやる気のない返事を返す俺。

 巻き込まれたと思い込んでるご不満なシンジ。

 いや、お前もレイとゲンドウパパに気を取られて集中できてないの皆さんにバレバレだからね?

 

 『仕方ないわね。ミサト、2人の集中力も限界見たいだし一度休憩にしましょう』

 

 集中力は地に墜ちて限界突破しかけた中2男子に女神リツコからの慈悲を賜ったのであった。

 そしてお茶しながら休憩という名の雑談タイム。

 話のネタは第6使徒だ。

 

 「コアや腕部の破損もあったけど初めて成体の使徒を検体として確保できてみんな大喜びで解体作業してたわよ」

 

 それお茶の時間にする話っすかねぇ!

 

 「それで何かわかったの?」

 「解析不能ね」

 「まぁ、使徒なんて未知の存在だったわけだしね」

 

 ミサトさんの問いかけに小さく息を吐き答えるリツコさん。

 ミサトさんも何かを期待して聞いたわけでもなさそうだった。

 

 「あれ?けど第2使徒と第4使徒って捕まえてたんじゃなかったでしたっけ」

 

 第2使徒はリリスだろー、第4使徒の情報は信用の無い碇ゲンドウ率いるNERV本部に教えて貰えんのかねぇ。

 

 「第4使徒が休眠状態という事は以前教えたわね。休眠といってもまだ雛が孵る前の卵のような状態なの。管轄がNERV本部ではないから詳細な情報は共有されていないのだけど、あまり刺激を加えて活性化されても困るから今は厳重に封印されているというのが正しい状態かしら」

 「何もしてないって事じゃない。起こすのが恐いならエヴァを配備してる私たちに引き渡して解体させろって感じよね。第2使徒については今度、私から2人に話すわ」

 

 ミサトさん辛辣ぅ。

 リリスについてはお預けらしい。

 まぁいきなりお前の足元に第2使徒埋まってんぞ!

 サードインパクト爆心地候補地だぞ!って言われたらびびるわな。

 

 「第6使徒の調査でわかったこともあるわよ。構成素材自体は解析不能でも、信号の配置と座標は人間の遺伝子と99.89%一致しているね」

 「ん-、よくわかんないっすけど、使徒は人間と似てるってことすか?」

 

 はぁん、ミサトさんもリツコさんも沈黙だわ。

 シンジはなんか若干気まずそう。

 そりゃ自分が殺した奴が人間と似てる生き物だったーって言われたらなぁ。

 覚悟決めた軍人でも無し俺たちゃただの中学生だ。

 

 「けどそれだったら、意思の疎通が出来る使徒が出てきたら仲良く出来るかもしれないっすね~」

 

 カヲル君とかカヲル君とかカヲル君とかな!

 リツコさんは意外そうな顔をしたけどミサトさんが睨んでくる。

 うーん、使徒憎しすぎて敵意マシマシィ。

 

 「カイ君あなた何言ってるか分かってるの?」

 「教えてもらえてない情報が多そうなんで判断つかないっすよ。それに意思疎通できて分かり合えるなら、殺し合う必要だってなくなるかもしれないし」

 「使徒は人類の敵よ」

 

 いや、ミサトさんがお父さんの仇って思ってるって事はわかってる。

 本当のところ誰が仇なのかは正直わからん。

 人類がちょっかい出したから発生したんだったら使徒原因じゃないよなぁ……

 

 「俺だって第5使徒、第6使徒みたいに有無を言わさず殺しにかかってくるような奴等と分かりあえるとはいってませんよ。それに人類って一括りにするの無理がありますよ。人類は互いに殺し合うし一枚岩なんかじゃない。もし意思の疎通が出来て分かり合える奴がいたら、戦わなくたっていいじゃないですか。共存できるならその方が良いでしょ」

 

 あれ?

 ミサトさんが人を殺しそうな目で俺の事を睨んでるぞ。

 殺すなら一撃でズドンと頼む。

 

 「2人とも落ち着きなさい。カイ君の話だって仮定の話でしょ」

 「っす」

 

 まぁ、仮定だけど仮定じゃない。

 カヲル君はよ。

 

 「ミサトもよ、今まで普通の生活をしていた子供が突然戦いに駆り出されて『出来るなら戦いたくない』と思うのは正常な反応よ。それに2人は貴方の復讐の道具ではないのよ」

 「そんな事!……いえ、そうね。ちょっち頭冷やしてくるわ」

 

 ミサトさんは顔を伏せると俺達の方を見ることもせず部屋から出て行ってしまった。

 シンジが茫然としながらリツコに訪ねている。

 

 「ミサトさん、どうしたんですか?」

 「セカンドインパクトの時に父親を亡くしているのよ。だから使徒を父親の仇みたいに見てしまっててね」

 

 その後は戻ってきたミサトさんと俺は若干ぎくしゃくしてたが、お互い一言謝って水に流すことにした。

 歩み寄り大事、俺知ってる。

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