蕃神   作:名無しの海

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3ー4 淡島カイという道具 side Misato

 第7使徒との初戦で為す術もなく撤退に追い込まれ、葛城ミサトと赤木リツコは戦術作戦部と技術開発部合同の対第7使徒作戦会議を開いていた。

 

 「それでは戦術作戦部と技術開発部合同会議を始めます。最初の議題は初戦の状況共有ね。まずは戦術作戦部から報告」

 「はい、第7使徒は初号機射出中に加粒子砲発射のための予備動作を行っていました。射出中の初号機の存在を検知したことによる攻撃行動に入っているため、第7使徒の索敵能力は遮蔽物により遮られない可能性があります」

 

 葛城ミサトにより最初の議題が提示され、作戦部に所属する職員が報告を行う。

 

 「次は初号機の咆哮とその後の動作及び初号機の状況について技術開発部から報告」

 「初号機が咆哮を上げる直前からの記録はレコーダーに残されていませんでした。技術開発部はパイロットの状態悪化による初号機の暴走と判断しています」

 「初号機の損傷は甚大だけど幸いなことに重要な器官へは致命的な損傷は無し。ただ、修復作業を進めているけど激しい動作はまだ無理ね」

 

 伊吹マヤからは初戦の初号機の動作について報告が行われ、続けて赤木リツコが初号機の状況報告を行う。

 初号機が咆哮を上げる直前にレコーダーの機能が停止し、初号機の活動停止とともに、レコーダーの機能が復旧していた。

 つまり、『暴走』とは言っているものの、何が起きていたか分かっていないということだ。

 

 「零号機の状態はどう?凍結解除もされてレイの再起動実験も成功してるのよね?」

 

 明言は避けられたが初号機による戦闘行動が厳しいという内容の報告を受けた葛城ミサトは、つい先日凍結解除され、無事起動実験が成功した零号機について言及する。

 戦術作戦部からの期待が籠った眼差しを受けた赤木リツコは、目を伏せながら口を開いた。

 

 「再起動実験が成功したところで第7使徒が進行してきたのよ。各種未調整だから戦闘行動は無理ね」

 「頼りのエヴァが2機とも難しい状況か」

 

 その言葉を聞いた戦術作戦部のメンバーは肩を落とすが、葛城ミサトだけは「まぁ、そんな都合いいことないわよね」と考えていたため、落胆することなく話題を次の議題へ切り替える。

 

 「次、第7使徒の状況報告」

 「第7使徒はNERV本部直上まで進行、下部の頂点から錐状の穿孔機を射出、セントラルドグマに向けて穿孔中。予測では明朝午前0時06分54秒に全ての防御壁を破壊し、本部直上へ到達します」

 「随分ゆっくり侵攻してくれること」

 「加粒子砲は威力が高すぎて使えないってところかしら。首の皮一枚繋がったわね」

 

 第7使徒は、初号機がカタパルトを破壊し地下へ落下したことで攻撃目標を失うと、直ぐに侵攻を再開していた。

 葛城ミサトは、使徒に対する感情から皮肉めいた言葉を口にしているが、その心情は赤木リツコと同じくリベンジまでの時間ができたことに安堵していた。

 

 「兵装ビル、無人機による攻撃への反応は?」

 「一定距離への侵入すると加粒子砲により撃墜されます。また、範囲外からの攻撃行動については、攻撃が範囲内に到達した段階で反応、加粒子砲によるミサイルの撃墜後、攻撃元も加粒子砲で破壊されます。一定距離外から攻撃後、即移動をしても補足され加粒子砲により破壊されています。」

 「対象のA.T.フィールドは?」

 「肉眼で視認出来るほど強力なA.T.フィールドが展開されています」

 「索敵良し、攻撃良し、防御良しの空中要塞ね。NERV本部を移設したいぐらいだわ」

 

 報告を受けた葛城ミサトは思わず天井を仰ぎ見る。

 

 「あら、勧誘してみる?」

 「菓子折りもって低姿勢でお願いしてくるならまだしも、無遠慮に人の家に無断で踏み込んで来る輩を勧誘するわけないじゃない!」

 

 揶揄うような赤木リツコの言葉に葛城ミサトは即答する。

 ただ1人伊吹マヤだけが「菓子折り……物品の授受?」と呟いたが他のメンバーは大人の心で聞き流した。

 

 「けど、どうするつもり?今の話を聞いたかぎりではエヴァによる近接戦闘は無理よ」

 

 ただ「殲滅せよ」と言葉にすれば使徒を殲滅できるわけではない。

 対象を撃破出来る可能性のある実現可能な作戦が必要だと、赤木リツコは冷静に葛城ミサトに問う。

 葛城ミサトは「ふふん」と鼻を鳴らしながら得意げに口を開いた。

 

 「近接が駄目なら遠隔しかないでしょ。エヴァによる第7使徒の自動攻撃範囲外からの狙撃。勿論デコイも山ほど必要、あとはあのA.T.フィールドを突破出来るほど出力が出せる武装よね。技術開発部としてはどうかしら」

 「開発中のスナイパーライフルやポジトロンライフルが完成していたとしても無理よ」

 「遠隔火力不足か……戦自研が作ってる新しい玩具があったわよね、あれならどう?」

 

 葛城ミサトの言葉に対して、赤木リツコは現状どころか鋭意開発中の兵器を使用しても手も足もでないと返すが、葛城ミサトは手持ちに無ければ他所から持ってくればいいとばかりに戦自研が極秘で開発中の兵器を話題に挙げた。

 

 「それは……確かに。だけど戦自研は国連軍じゃないのよ。極秘に開発中のものを徴発なんてそう簡単に出来るわけないでしょう。どうするつもり?」

 「そこはまぁ、まずは碇指令と冬月副指令に報告からね、MAGIへの作戦提案宜しく。次いくわよ、パイロットの状況報告」

 

 葛城ミサトは、MAGIによる賛成が得られれば後は上司若しくはその上の力を頼る算段だった。

 第7使徒がNERV本部に到達するまでの時間も限られているため、この話はここまでと次の議題へ切り替える。

 

 「サードチルドレンは意識回復。フィードバックにより胸部へ若干のダメージが発生していましたが、大きな影響はありません。外傷は高温化したL.C.Lによる軽度の火傷」

 

 碇シンジも淡島カイと同じく意識不明に陥っていたため、救急処置室へ搬送されたが、その後すぐに意識は回復していた。

 淡島カイの搭乗により、碇シンジはフィードバックの影響を大きく受けることは無いはずだが、それでもなおフィードバックの影響があったことが、第7使徒の放つ加粒子砲の苛烈さを証明していた。

 

 「続けてフォースチルドレンの状況報告をします。戦闘直後に心停止となりましたが、その後の心臓マッサージで心停止回復。しかしフィードバックによる被害は甚大。また心臓マッサージにより肋骨骨折。サードチルドレンと同じく高温化したL.C.Lによる軽度の火傷が発生しています。なお、現在脳波、呼吸に異常はなく容態は安定していますが、意識は回復していません」

 

 第7使徒の加粒子砲直撃によるフィードバックを受けた淡島カイは、一時期心停止に陥るなど碇シンジよりも状況は芳しくなかったが、容態は安定しているという言葉に、彼と関わりのある一部の職員は安堵の表情を浮かべる。

 

 「容体が安定してくれて良かったわ。ただ次の作戦、カイ君の復帰は期待しないほうがよさそうね」

 「インテリア自体は複座式に改装、調整しているけど、勿論パイロット1人の搭乗でも問題はないわ。データの書き換えもすぐに可能よ」

 「今まで2人で乗ってたから1人というのは少し不安だけど仕方ないわね。作戦次第では零号機も活用できるかもしれないけど、初号機はシンジ君1人での稼働を想定しましょう」

 

 

 ■■■

 

 

 「リツコ、貴方本気で言ってるの!?」

 「人の話は最後まで聞きなさい。私はMAGIの回答を報告しているだけよ」

 

 赤木リツコからMAGIへの作戦提案の結果報告を受けた葛城ミサトは、思わず声を荒げていた。

 一方、赤木リツコはそんな葛城ミサトに対して冷静に答えていく。

 

 「何よこのMAGIの回答!『淡島カイを使用したシンクロ率の増加が必要』って。カイ君はまだ意識も回復していないのよ。それをこんな……あんた、あたしにあの子達はあたしの復讐の道具じゃないって言っておいてカイ君を初号機のパーツ扱いするつもりなの!!」

 「ミサト落ち着きなさい」

 「私は冷静よ!」

 「冷静な人はそうやって声を荒げないわ。これは私の提案じゃないの、MAGIの提案よ」

 

 赤木リツコは葛城ミサトの態度に辟易しつつも、今ここで葛城ミサトを軌道修正できる者は長年親友を続けてきた自分しかいないことも理解しており、忍耐強く会話を続ける。

 

 「シンジ君単体のシンクロ率では遠隔用のG型装備を使用しても狙撃が外れる可能性がある。そこをカイ君搭乗によるシンクロ率の増加で補うということね」

 「けどカイ君の意識は回復していないわ、エヴァへの搭乗は可能なの?」

 「そのためのシンクロテストが必要ね。これでシンクロが上手くいかなければMAGIもカイ君の搭乗を取り下げるでしょう」

 「そう、そうよね。意識不明のカイ君ではシンクロが出来ないというデータをMAGIに提示した上で、再度MAGIの回答を求めればいいのよね」

 

 赤木リツコは、葛城ミサトが最後まで落ち着いて話を聞いてくれていれば、話が拗れずにこの結論に至れたということに、思わずため息をついた。

 

 「だから最後まで聞きなさいと言ったでしょう」

 

 淡島カイのシンクロテストは意識不明のまま実施され、葛城ミサトと赤木リツコの期待を裏切り成功することとなる。

 

 

 ■■■

 

 

 葛城ミサトと赤木リツコは、予想外に成功してしまった淡島カイのシンクロテストの結果に頭を抱えた。

 しかし代案も無く時間を無駄に浪費することは出来ないため、葛城ミサトは当初の予定通り碇ゲンドウと冬月コウゾウへの報告を行うことにした。

 司令室で報告を受けた冬月コウゾウは、碇ゲンドウが何も発言せず、対応を自分に任せていることを確認すると、提案内容について詳細を確認していく。

 

 「提案内容は分かった。MAGIの判断は?」

 「MAGIの回答は賛成1、条件付き賛成が2。条件は初号機のメインパイロットとして碇シンジ、シンクロ率増加のため、淡島カイはサブパイロットとして搭乗。MAGIは淡島カイ搭乗によるシンクロ率の増加により、狙撃を外す確率が限りなく低くなると判断しています」

 「サードチルドレンの意識回復の報告はあったが、フォースチルドレンの意識回復の連絡は受けていないが」

 「はい。MAGIの回答を受け、フォースチルドレンのシンクロテストを実施、問題なく成功しました。サブパイロットとして期待されるシンクロ率の増加は可能です。初号機のフィードバックもフォースチルドレンが受けることになります」

 「MAGIの判断はわかった。葛城一尉、君の見立てではパイロットは使えるのかね」

 

 冬月コウゾウが表情も、声音も変えることなく葛城ミサトに重ねて問う。

 言葉だけを捉えれば、「意識不明の淡島カイは実運用に耐えるのか」と問われていることになるが葛城ミサトは、冬月コウゾウや碇シンジ、淡島カイとの共同生活の中で、冬月コウゾウが2人を道具として見ていないことを理解していた。

 そのため葛城ミサトは冬月コウゾウの「意識不明のカイ君を搭乗させることにシンジ君は納得しているのか、それでも初号機に乗るつもりがあるのか」を問われているのだと認識した。

 

 「はい。サードチルドレンとフォースチルドレンによる運用に問題が発生した場合は、初号機のパイロットをファーストチルドレンに変更して作戦を実行します。また、そうならないようにサードチルドレンのメンタルケアも事前に実施します」

 「ふむ……」

 

 葛城ミサトの回答を受け、冬月コウゾウは瞼を伏せ一瞬の思案した後、碇ゲンドウに目を向ける。

 冬月コウゾウの目線を受け碇ゲンドウが口を開いた。

 

 「では問題なかろう。やりたまえ葛城一尉」

 「っは」

 「とはいえ戦自研の説得が必要だな。私も同席しよう」

 「有難うございます」

 「なに、あそこには教え子がいてね。私に任せたまえ。」

 

 冬月コウゾウの予想外の言葉に、葛城ミサトは思わず目を瞠る。

 碇ゲンドウはいつも通り組んだ手で口元を、サングラスで視線を隠しているため、その表情は読めなかったが、問うように冬月コウゾウの名前を呼ぶ。

 

 「冬月……」

 「葦船シキエだ。ユイ君の友人のな。碇、お前も面識はあるだろう」

 

 葛城ミサトは、自身の記憶にも残っている「シキエ」という名前を耳にしたことにより表情が引きつる。

  葦船シキエ、それは淡島カイと家族の食事会で葛城ミサトと激しい口撃を交わした淡島カイの伯母の名前だった。

 

 

 ■■■

 

 

 戦自研の応接室に通された冬月コウゾウと葛城ミサトは葦船シキエの歓待を受けていた。

 

 「話はわかりました。それで我々が素直に頷くとでも?」

 

 冬月コウゾウから経緯説明を受けた葦船シキエは柔和な笑顔のまま、明確な拒絶ともとれる言葉を口にする。

 

 「勿論そうは思っていません。本来であれば使徒に関する記録は極秘扱いとなりますが、陽電子砲の実戦データ等の提供については必要な対価として検討しています」

 「まぁ、面白いこと。実戦データの提出だなんて当たり前すぎて対価になっていませんわ」

 

 冬月コウゾウもまた、本部では見せないような柔和な表情で応対する。

 2人の話を笑顔のまま聞いていた葛城ミサトの評価は「狐と狸の化かし合い」である。

 このような搦め手が得意では無い葛城ミサトは早くも戦略的撤退をしたくなっていたが、この場から逃げ出すわけにもいかず、なんとか踏みとどまっている。

 

 しかし第7使徒が本部への侵攻も行われている現在、時間に余裕がないことも事実だ。

 早く戻って碇シンジの説得もしなければいけない。

 葛城ミサトは化け物達の会話に切り込むことを決断した。

 

 「しかしインパクトの原因となる使徒の放置は出来ません。それは戦自も同じではないですか?」

 「それはあなた方がそのように言っているだけでしょう。目くらましのような情報の開示しかしていない国連を信用できるとでも?」

 「使徒が現在日本を侵略しているのもまた事実です。その観点から我々は協力できるのではないですか?」

 「そうですね。では合同作戦という事でしたら開発中の自走陽電子砲も合同利用というこにしても良いです」

 「それは……」

 

 大人の会話に切り込んだはいいが、あっさり葦船シキエに絡み取られた葛城ミサトは言葉を濁す。

 兵器の提供や実践での戦力の提供なら問題無い。

 しかし合同作戦かつ陽電子砲の合同利用となると、NERVの機密に踏み込まれかねないため受け入れうことはできなかった。

 

 「あら、世界の危機よりも機密を守ることの方が大切なのね」

 「そ、それは……」

 

 葦船シキエがこれまでにない笑顔で葛城ミサトに追撃を仕掛ける。

 

 「やれやれ。葛城一尉、私に任せておきなさいといっただろう。シキエ君もそろそろいいだろう。あまり私の部下を虐めないでやってくれ」

 「まぁ!もう終わりですか?これからがいい所だったんですよ」

 

 呆れたような冬月コウゾウに対して、葦船シキエがにこやかに言葉を返す。

 その言葉は先ほどのような毒気を感じさせなかった。

 

 「あ、あの。さっきまでのピリピリした雰囲気は?」

 

 葛城ミサトは思わず疑問を口にする。

 

 「こそこそ隠れて聞いてる連中向けのプロレスね。もう冬月先生と私の会話データを流してるから盗聴の心配しなくて良いわよ」

 

 先ほどまでの空気は既に消し飛んでおり、葦船シキエは「演技で肩が凝った」とでも言いたいのか首を回しながら自身の肩を揉んでいる。

 

 「ちょ、ちょっと待ってください!」

 「時間が無いんでしょう?戦自も貴方たちと同じで一枚岩じゃないってことよ。掃除が捗るわ」

 

 突然のことに理解が追い付かない葛城ミサトは思わず静止の言葉を口にするが、葦船シキエは応接テーブルに押印済の各種書類を広げる。

 それは冬月コウゾウと葛城ミサトが戦自研に来る前からすでに葦船シキエは状況を認識し、陽電子砲提供の準備を進めていたということを意味していた。

 

 「必要な書類の用意はもう終わっているから持っていきなさい。冬月先生、このあと少しお時間宜しいですか?」

 「ああ、構わんよ。葛城一尉、陽電子砲の搬送手続きをしたら先に戻りたまえ。シンジ君の説得が必要だろう」

 

 葛城ミサトは冬月コウゾウからの「だから『任せたまえ』と言っただろう」とでも言いたげな目線を受けて、もう少し事前説明が欲しかったとも思ったが、自身が腹芸を得意とするわけでもないため、直ぐに知らなくて良かったかと思い直す。

 この程度のストレスは勝利のEBICHUビールを増量して洗い流してしまえば良いと考えたのだ。

 実際には「EBICHUビールを増量するための理由にした」というところである。

 

 勝利後のEBICHUビールというご褒美を思い浮かべ胸の蟠りを洗い流すと、葛城ミサトはその思考を碇シンジの説得に向けて切り替えた。

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