「ふんっ……出撃」
いや、ほんとこのおっさん説明しないのな。
高所から俺達を見下ろすゲンドウの表情は逆光になっていてよく見えない。
あ、冬月さんが隣で溜息をつきながら頭を押さえてるぞ。
第3新東京市に到着するとほぼ同時に、特別非常事態宣言が発令されたため、お迎えの車のままNERV本部に突入、今に至るわけだ。
N2地雷の爆風で車がひっくり返るかもしれんとびびったが、運転手さんのドライビングテクニックなのか、俺達が早めに第3新東京都市についたのか、N2地雷が発動する前に安全圏に移動できたため、無残な姿になることなく無事NERV本部に辿り着けた。
さすがに俺はここでお留守番かなぁと思ったし、冬月さんもそのつもりだったんだけど、シンジはここが安全じゃないかもしれないってことや、そもそも俺が付いてくる事の許可は父親に得てるということを主張……というか「好きにしろ」とゲンドウパパが書いた手紙を見せて、「好きにしろと言われています」と俺を置いて行くに反対した。というか、俺の腕を掴んで離さない。
ゲンドウパパの「好きにしろ」は俺を第3新東京都市に連れていくとこまででさすがに本部に入れる事は想定外だと俺も思うんですがぁ!!
「絶対カイを置いていったりしませんから」
「……分かった。好きにしたまえ」
いやいいんかい。
まぁ、確かに使徒が来ているこの状況で問答をしている時間の余裕はないだろう。
冬月さんが案内してくれているお陰か、迷うことなく廊下を進みエレベーターに乗り込めた。
シンジと俺は冬月さんに渡された「ようこそNerv江」と表示に書かれたパンフレットを見ている。
ちなみに一冊しかないので、俺が横から覗き込む様な感じだ。
裏表紙には「極秘」と書かれているが、シンジが冬月さんに俺にも見せることの許可をとってくれている。
といっても色々知ってる俺にとっては正直大した事は書かれていないので「ふぅ~ん」といった感じだ。
エレベーターの表示が「8-28」に切り替わるとゆっくりと止まり後、静かに扉が開き、水着に白衣といった天才的な姿の赤城博士ことリツコさんことりっちゃんが入ってきた。
っくぅ~……と、とてもエッチです!推せる!!
とはいえじろじろと見るのは失礼なので、なんとか目を背けようとするが、視線誘導効果が凄まじく、なけなしの理性をフル動員して必死に目を瞑り顔を背ける。というかシンジ君、君は何でチラっと見る程度で気にしないでいられるの?
「冬月副指令。この子が例の……2人、ですか?」
「こちらの子が碇シンジ君だ。隣の子……何故か顔を背けてる子が付き添いの淡島カイくん。どうしたのかね?」
話を振るなー!!!
さすがに顔を背けたまま話すのは失礼なので、正面を向くが、どうしても、視線が胸とか股間とかにだね、いってしまうので、なんとか目線だけは横に逸らしておく。
「そ、その……水着で白衣のお姉さんの刺激が健全な中学生には刺激が強すぎて直視できません!!」
「あら、可愛い事いってくれるわね。私は赤木リツコよ、宜しく。しかし冬月副指令、部外者の彼を連れてきて良かったのですか」
俺には挨拶だけで後半の言葉は部外者を本部に連れてきた冬月さんへの言葉だ。
挨拶もしてくれて名前も教えてくれるなんて神か?冬月さんの副指令効果か?つまり冬月さんも神。
リツコさんの運命の人になりたい……とか馬鹿なことを思いかけてしまう。
りっちゃん恐ろしい子!
「緊急事態だ、構わんよ。それに碇が、シンジ君に「好きにしろ」と返事をしてしまっていたらしくね。責任は全てヤツにとってもらう」
「そ、そうですか」
溜息と共に呆れたように答える冬月さんに対して、リツコさんもさすがにそれ以上は返せないようだ。
エレベーターを乗り換え移動をしていると「総員第一種戦闘配置」やら、「対地迎撃戦用意」と物々しい館内放送が流れてきて、思わずびくっとして上を見る。
まだ、まだ大丈夫だよな……この段階は安全でいいんだよな。
俺はこの物語にいらない存在だ。いつ「退場」になってもおかしくないし、出来れば「痛くない」ようにさっさと退場した……いってぇ!
不満そうなシンジが脇腹抓ってきやがった。
「今、変なこと考えてなかった?」
「俺の頭の中は不穏な館内放送へのびびりと、赤木さんとどうやったら仲良くなれるかなという気持ちでいっぱいだ。つまり健全な男子中学生の思考と言える疚しいことなど欠片も無いな!」
どうだ!と胸を張って答えたのだが、シンジはまだ不満そうである。
「……大丈夫だよ、僕がカイを守るし、一緒に家に帰れる」
決め顔でシンジ君はそういった。
やだしんちゃんイケメン……惚れちゃぅ。
いや、決め顔じゃなくて、ジト目だったんだけどな。
そう、この世界のシンジは何故かメンタルツヨツヨなんだよな。
俺の記憶に残ってる最初の頃のシンジは、いわゆる内に閉じこもったイメージ通りのシンジ君なんだけど、いつの頃からか、変わっていた。ある日突然というかゆっくりと。
たぶん俺が前世を自覚したあの事故が原因なんだよな。俺が怪我する事を酷く忌避したり、将来のことを思って鬱りそうになると、すぐに気が付いて励まそうとしてくる。
このシンジくんなら人類総LCLエンドにならないのでは!?と少しの希望を持ってしまいそうになる。だけど、戦略自衛隊による皆殺しエンドとかもあるしNERVに関わりたくないんだよなぁ。
未来がねぇーー!
そんな事を思ってたらいつの間にか目の前には冷却されてる初号機のご尊顔がでんっとあったり、ゲンドウが高所からこっちを見下ろして「ふんっ……出撃」とか寝言言ってる場面になってたわけだ。
「貴方は何を言ってるんですか。今日はもう二度と僕に関わらないで欲しいと伝えにきただけです」
一瞬唖然としたシンジはため息をつくと、ゲンドウを見上げて言い返した。
こら!冬月さんもシンジもあまり溜息ばっかついてると幸せにげちゃうぞ!
「子供の我儘に付き合ってる時間はない。冬月から説明は受けているはずだ。乗れ、乗らなければ帰れ」
いや、ほんとなんでゲンドウパパはこれで乗ると思ってるの??冬月さんは相変わらず額を手で押さえてるし、こ、こめかみがピクピクしはじめたぞ!
心労お察しである。
「よし、もう帰っていいらしい。カイ帰ろう」
「葛城一尉、レイを起こせ」
一瞬の間の後、父子はお互いに顔を背けるとそれぞれ別の人物に話しかける。
オイィィィィイイイイ!
コミュニケーションとれやぁあ!
『碇指令、レイは昏睡状態です。エヴァの操縦が出来る状態にありません』
お、ミサトさんボイス!!さーびすさーびすぅ!!
そうか、冬月さんとゲンドウがここにいるから、ミサトさんが残って指揮をとってるわけか。
というかこの場はレイが運ばれてきてゲンドウパパが「予備が使えなくなった」とか実の息子を予備扱いする場面では!?!?
その時、使徒の攻撃が激しさを増したのか、轟音と共にケイジ内を激しい揺れが襲い、俺はものの見事に足を滑らせ、落ちた。
「カイ!!!」
落ちる瞬間、手を伸ばしてきたシンジの手を掴もうと必死に手を伸ばすが、指先がかする事もなく俺は落ちていく、このまま池ぽちゃならぬエヴァをひえひえにする冷却水ぽちゃの運命だ。
服着たまま泳げる自信は無いのでこのまま溺死だろうか、うう、絶対苦しいヤツじゃん。
落ちていく時間はスローモーションのようにゆっくり風景が流れ、最後にシンジの顔でも見るかと上を見上げると、必死な顔で手を伸ばしながら落ちてくるシンジがいた。
あれ?なんで、お前まで一緒に落ちてるんだよ、シンジ……
激しい水音とともに、2人して冷却水に沈み込む、落ちた際に背中に受けた水の衝撃で思わず口を開いてしまったせいで、なけなしの酸素を吐き出してしまう。さらには酸素の代わりとばかりに大量の水が口の中に流れ込んできた。
俺のことなんてさっさと諦めればいいのに、シンジは俺の腕を掴んで必死に水上に出ようと藻掻いている。
だが、それも一瞬の事で、すぐに俺達は下から来た何かに救い上げられて水上に出ることが出来た。
俺は、俺達を掬い上げた何かの上へ、げーげー言いながら水を吐き出す。胸が死にそうに痛い。
「そんな!エントリープラグも挿入していないのに初号機が動くなんて!」
溺れかけたせいで朦朧とする意識の中で、リツコさんが叫ぶ声が聞こえる。
きっと初号機の中の碇ユイが、シンジを守ったんだ。
ああ、そうか……ここはゲンドウとシンジの父子の再開だけじゃなくて、ユイとシンジの母子の再開の場面でもあったんだ。
「シンジくん、君は冗談だと思ったようだが、車の中で説明したとおりだ。本来は守られるべき君のような子供を使徒との戦闘に向かわせるなど本来はあってはならないことだろう。しかし、今、この場でエヴァを動かすことが出来る可能性がある人間は君だけだ。そして、卑怯な言い方かもしれないが、この場で君がエヴァに乗り、使徒を退けられなければ人類は今日、滅びるだろう。勿論、今君が助けようとした淡島君も死ぬ事になる」
ゲンドウからシンジへの説得?会話?を諦めたのか冬月さんがシンジに語りかけている。
まぁ、確かにシンジがこのまま戦わなくて、レイが昏睡から目覚めなければそのまま人類総終了エンドだろうな。うう、まだ水が残ってる気がする。
必死になって水を吐き出そうとしてる俺の背中をシンジがさすってくれる。
「わかりました。緊急時という事でまずは今回だけは乗ります。後の事は終わってからちゃんと説明してください。それからどうするか決めます」
「勿論だ。我々とて騙し討ちのように君を強制する事は本意ではない」
シンジ、乗るのか……お前は、迷わないのな……
奢りかもしんないけど俺がここにいるせいか。
「あと一つ、乗るのはカイも一緒です」
シンジさん!?!?!?!?!?!?!
え?ご乱心????
「無理よ!」
リツコさんの叫び声がケイジ内に響き渡る……俺も同感ですぅぅぅ!!!