蕃神   作:名無しの海

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5ー2 ちるどれん(3) みーつ ちるどれん(2)

 「くぅぅぅう!!まさかまさか!Mi-55D輸送ヘリに乗れるなんて夢みたいだ!これもシンジのお陰だよ!友よ!いや、親友よ!」

 「やっすい親友やな」

 「えぇぇ……まぁ、うん」

 

 相田ケンスケは、ハンディカメラをせわしなく各所に向けながら感極まったように叫んでいる。

 相田ケンスケと共に、碇シンジの友達枠という事で同行している鈴原トウジは、そんな相田ケンスケをジト目で見ている。

 親友と呼ばれた碇シンジは困り顔で相槌を打つので一杯一杯だった。

 

 「も~、シンジ君も鈴原君も相田君ぐらいとは言わないけど、折角の空の旅!さらにその後は豪華なお船でクルージンなんだからもっと楽しんで。そうそう、相田く~ん、録画してもいいけど後で没収だからね~」

 「わ、わかってます!戻ったら淡島君に見せてやってください」

 

 葛城ミサトは相田ケンスケに比べてテンションの低い碇シンジと鈴原トウジに声をかけつつ、相田ケンスケの行動に釘を刺す。

 声をかけられた碇シンジと鈴原トウジは互いの視線は合わせた後、相田ケンスケを視線を向け、再び互い視線を合わせると同時に苦笑する。

 2人とも戸惑いながらも初めての輸送ヘリ体験を十分楽しんではいるが、ミリオタである相田ケンスケと比べられても無理があるだろうという所で心は一つだった。

 

 「カイ君のために……か。くぅ~、男の友情ね!あたしに任せときなさい、椅子に縛り付けでも見させてやるわ」

 「さすがミサトさん頼りなります!あいつ、ちょっと引いたところありますからね」

 「カイも綾波も来れたら良かったのに」

 

 葛城ミサトの言葉に、淡島カイの事を思い出した碇シンジは、窓の外に広がる太平洋を見下ろしながら、気落ちしたようにぼそりと呟いた。

 

 「2人とも仕事やねん、しゃぁないやろ」

 「それはそうだけど……」

 

 鈴原トウジは仕事で家を留守にしがちがな父親や祖父に甘えたがる妹にも同じような我儘を言ったかなと懐かしい気持ちになりつつ言葉を続ける。

 

 「それに2人とも見送りには来たけど、全然興味無さそうやったやろ」

 「それも確かに……」

 「ワイらはワイらでめっちゃ楽しんで、土産話でも聞かせてやればええねん。カイの奴も綾波の奴もその方が嬉しいやろ」

 「うん、そうだね!」

 

 葛城ミサトは碇シンジと鈴原トウジの会話に耳を傾けながらも、要注意人物とされている相田ケンスケの行動も本人に気取られないように監視していた。

 2人の同行をセッティングした冬月コウゾウは、離陸して以降、目を閉じて腕を組み、ピクリとも動かない。

 ひょっとして寝ているのではないかと冬月コウゾウをちらりと盗み見るが、少年たちの会話の邪魔をしないように気配を殺しているようにも見えた。

 葛城ミサトの視線に気が付いたのか、冬月コウゾウの瞼が開き視線が会うが、すぐにその瞼は閉じられた。

 その行動に、葛城ミサトはひょっとしたら冬月コウゾウは普通に寝てるのかもしれないと思い直した。

 

 

 ■■■

 

 

 「到着よ~!」

 「うぉ~~~~!!こ、言葉にならない!凄い凄い!はぁー……はぁはぁはぁはぁ、これ現実?現実だよね?凄いいいいいいいー!碇ィ!ありがとぉおおー!」

 

 葛城ミサトの到着の号令に被せるようにテンションが振り切れてしまった相田ケンスケが輸送ヘリから叫び声を上げながら空母オーバー・ザ・レインボーに降り立った。

 

 「ちょ、ちょっとケンスケ落ち着きなよ!僕の名前を叫ばないで!!」

 「諦めろシンジ。ああなったケンスケはもうあかんで」

 

 相田ケンスケを追いかけるように碇シンジと鈴原トウジも輸送ヘリを降りるが、降りてすぐの所で呆けたように立ち止まっていた相田ケンスケにぶつかり、3人でもつれるように船の甲板の上に倒れてしまう。

 

 「うわ!!」

 「いってぇ!何しとんねん」

 「あいたたた……カメラカメラ……」

 「ふーん、あんたがサードチルドレン?実物は冴えないわね」

 

 悲鳴を上げる3人の少年に呆れたような声がかけられる。

 少年達が見上げると、黄色いワンピースを着たツーサイドアップの金髪の少女がいた。

 

 「げ……激マブ……」

 「ちょー好み……淡島のためにもカメラに収めないと……そう、これは淡島のため……男の友情……」

 「アイドルみたいだ……」

 

 少年たちは、かけられた言葉を理解するよりも先に、思春期の脳に突き刺った暴力的な視覚情報に反応して思わず心の声が漏れてしまう。

 

 「は?意味わかんないんだけど……マリ、本当にコイツがサードチルドレンなの?」

 「姫~?友好的にって言ったよね?大丈夫かい、わんこ君にそのお友達君達」

 

 ワンピースの少女は訝し気な表情を浮かべると、後ろに控えていた黒服の少女、マリ・イラストリアスに問いかけるが、マリ・イラストリアスは呆れた口調で少女を咎めると、迷うことなく碇シンジに近づき手を差し伸べた。

 一方差し伸べられた碇シンジを含め、少年たちは新たに出現したマリ・イラストリアスを呆けたように見上げている。

 

 「これまたべっぴんさん……」

 「な、なんて碇ばっかり……」

 「……可愛い……」

 「ふ、ふふふ。君たち、褒めてくれるのは嬉しいけどもう少し心の声が漏れないようにお口にチャックする訓練した方がいいよ」

 

 マリ・イラストリアスは笑いを堪えながら、倒れたまま呆けてる少年たちを立たせていく。

 最後に碇シンジを立たせたると、唐突にその脇腹、胸、肩、足などを撫でまわしていく。

 

 「わ!ちょ、ちょっと……やめてください!」

 「あっれー、もやしっ子なのかなと思ってたけど、これはなかなかどうして。君、鍛えてるの?」

 「ちょっとマリ!なにやってんのよ!」

 「姫も触ってみなよー!結構がっしりしてるよこの子。ちょいと失礼……っと!」

 

 止めようとするワンピースの少女を意に介さず、マリ・イラストリアスは一気に碇シンジのYシャツを捲り上げ、見た目に反して鍛えられた肉体を露わにする。

 

 「う、うわ!!」

 「おー……これはなかなかどうして。ちょっと摘まみ食いしてもいいかにゃ」

 「キャー!馬鹿!変態!!」

 

 焦る碇シンジに、吟味するマリ・イラストリアス。

 そしてワンピースの少女は突然目の前にさらけ出された同世代の少年の肉体とマリ・イラストリアスの言葉に顔を赤くしながら大きく手を振りかぶると、そのまま碇シンジの頬を目掛けて振り下ろした。

 誰もが碇シンジに強烈な平手打ちが炸裂したと想像したが、甲板に小気味よい音が鳴り響くことは無かった。

 碇シンジは、振り下ろされた少女の手首を反射的に掴み、その勢いのまま捻り上げようとするが、マリ・イラストリアスは碇シンジの手首を掴み、その動きを止めた。

 

 「2人とも、暴力は良くないにゃ」

 

 呆れたような顔を声音で2人を諭すようにことを言うマリ・イラストリアスに対して、初対面の2人は思わず顔を見合わせると同時に叫んだ。

 

 「き、君のせいだろ!!」

 「あんたのせいでしょ!!」

 「うーん、仲良きことは美しきかにゃ」

 

 息のあった2人の行動に、マリ・イラストリアスは満足げに頷くが、遅れてやってきた冬月コウゾウの言葉に、すぐにその顔を顰めることになる。

 

 「さて、イラストリアス君。摘まみ食いとはどういう事かね?」

 「おっと保護者登場か。据え膳食わぬは女の恥……じゃなかった、わんこ君と姫の仲を取り持とうとしてですね」

 「却下だ。碇の息子は据え膳では無いよ」

 

 冬月コウゾウの冷たい視線にマリ・イラストリアスはそっと目を逸らす。

 先ほどまでの賑やかな空気はすっかり消え去り、周囲は固唾を呑んで2人を見守っていたが、そんな空気は、冬月コウゾウに抱き着いたワンピースの少女によって意図もたやすく打ち砕かれた。

 

 「おじいちゃん!!!」

 「「「おじいちゃん!?」」」

 

 ワンピースの少女が発した予想外の単語に少年たちは異口同音に叫んだ。

 

 「こら、アスカ。仕事中は冬月副司令と呼びなさいと言ってるだろう」

 「えへへ、今日は私オフだもん。だからおじいちゃんでもいいでしょ」

 「仕方のない子だ」

 「やった!」

 

 冬月コウゾウの咎める言葉には、先ほどマリ・イラストリアスに投げかけたような棘は無く、諭すような声音だった。

 対してワンピースの少女、惣流・アスカ・ラングレーは少年達の視線に気が付くことなく無邪気な笑顔を浮かべている。

 少年達はワンピースの少女、惣流・アスカ・ラングレーの変わり身に茫然としながらも、心の声を再度漏らしてしまう。

 

 「笑顔はもっと可愛いんやけど」

 「え?天使?ここ天国だった?」

 「うん、笑ってる方が可愛い……」

 「ほら、少年たち。さっきも言ったけどね、お口にちゃっく。見世物じゃないよ」

 

 マリ・イラストリアスは冬月コウゾウの意識が自分からそれた事に安堵すると、少年たちの視線を遮るように目の前に立つと、片手を口に添え、チャックを閉めるような動作をした。

 

 「ちょっとこれどうなってるのよ」

 

 オーバー・ザ・レインボーの搭乗員と書類の手続きを終えた葛城ミサトは、混沌とした様子に呆れた声をあげてしまう。

 

 「ハロー、ミサト!久しぶりね」

 「ミサトがもたもたしてるから、あたしが冬月副司令に怒られちゃったにゃ」

 「ハァイアスカ、相変わらずおじいちゃんっ子ね。マリ、それ絶対あたしのせいじゃないでしょ」

 

 そんな葛城ミサトへ、惣流・アスカ・ラングレーは冬月コウゾウに抱き着いたまま手を振る。

 一方マリ・イラストリアスは恨めし気な表情を葛城ミサトへ向けていた。

 

 「あの、ミサトさん。その人たちは?」

 「貴方たち、また自己紹介していなかったの?冬月副司令にくっついてる子はセカンドチルドレンの惣流・アスカ・ラングレー。シンちゃんの先輩ね。アスカ、もうわかってると思うけど、いま質問した子がファーストチルドレンの碇シンジくんよ」

 「敬意を籠めて惣流先輩と呼ぶなら特別に指導してあげてもいいわよ」

 

 若干の嘲笑、若しくは敵意を含む声音に、碇シンジは思わず怯んだ。

 

 「なんか嫌だな」

 「何よ」

 「ほら!姫、喧嘩しないの。そしてあたしがマリ・イラストリアス。今は北極支部に所属してるけどもうすぐドイツ支部に移動予定よん」

 「えっと、イラストリアスさん?」

 「ん?マリでいいわよ」

 「それじゃマリさん。マリさんもチルドレンなんですか?」

 

 碇シンジは、惣流・アスカ・ラングレーと違い自身に友好的な態度をとるマリ・イラストリアスを会話をすべきと考え質問を投げかけた。

 

 「ふふ、わんこくん。現在エヴァンゲリオンのパイロットとして認定されているチルドレンは4人よ」

 

 マリ・イラストリアスは、碇シンジの言葉を否定した。

 そして、人懐こい笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

 「まずファーストチルドレンの綾波レイ。世界で最初に認定されたチルドレンね。続いて少し遅れてセカンドチルドレンの惣流・アスカ・ラングレー。この2人以降マルドゥック機関よる適正者の報告は数年間行われる事がなかった」

 

 言葉を区切ると、マリ・イラストリアスは冬月コウゾウの様子を確認する。

 冬月コウゾウにマリ・イラストリアスを止める意思が無い事を認識すると、口元を笑みに歪ませ、さらに言葉を続けた。

 

 「そしてつい最近、第5の使徒によるNERV本部襲撃の数日前にサードチルドレンの報告があった。これは君の事だね、わんこ君」

 「そう、だけど……それは父さんに呼ばれて……」

 

 戸惑う碇シンジにマリ・イラストリアスはゆっくりと近づいていくと、碇シンジの両肩に手を置き、耳元の顔を近づける。

 鈴原トウジと相田ケンスケは何を勘違いしたのか、固唾を呑んで見守り、葛城ミサトは興味の無いフリをしながら一言も聞き洩らさないように意識を集中させる。

 惣流・アスカ・ラングレーは2人のやり取りに興味を示さず、冬月コウゾウは静かに2人を見守っていた。

 

 「そしてNERV本部襲撃当日、偶然にもマルドゥック機関はフォースチルドレンの報告を上げた。そう、君のお友達の淡島カイ」

 「それは!……たまたまそうだったって……」

 

 マリ・イラストリアスは笑みを崩すことなく碇シンジの耳元に唇を寄せた。

 

 「たまたま君と同行して、たまたまエヴァとシンクロ出来て、たまたまチルドレンとして報告されていた。君の友達は……本当に私達と同じニンゲンなのかにゃ?」

 「やめろ!」

 「にゃん。わんこ君乱暴~」

 

 マリ・イラストリアスの言葉を耳にした途端、碇シンジは声を荒げるとその身体を引き剥がし、突きとばす。

 突きとばされたマリ・イラストリアスは何事も無かったように笑いながら碇シンジから距離をとる。

 様子を伺っていた冬月コウゾウは、それまでの空気を壊すように、両手を一度叩いた。

 

 「さて、いつまでも外で立ち話もあるまい。葛城くん、艦長への挨拶と書類の引き渡しもあるだろう」

 「そ、そうでした。ほら、みんな、ブリッジに行くわよ~、迷子にならないようにちゃんとついてきてね。アスカとマリはまた後でね」

 

 碇シンジは、マリ・イラストリアスを睨みつけると、拳を握りしめたまま葛城ミサトの後に続いていった。

 その姿が見えなくなると、マリ・イラストリアスは空を見上げ、楽しそうに呟く。

 

 「ふふ、そんなに大切なものならちゃーんと手元に置いておかないと、後悔することになるよ?」

 「マリ、あんた愉しそうね。サードと知り合いなの?」

 「初めましてだにゃ~。姫はどうだった?噂のサードチルドレン」

 「ぱっとしない感じだけど、私の平手打ちも普通に止めてたわよね。実力が無いってわけじゃないんだろうけどまだ良く分からないわ。それに、これまでの実績は実績よ」

 「おや、思ったより高評価」

 

 マリ・イラストリアスの言葉に、惣流・アスカ・ラングレーは毅然として言葉を返す。

 

 「実戦の機会さえ私でもやれるわ。いえ、やらないといけないのよ。すぐに私の方が上だって理解させてやるわ」

 「……姫の居場所はそこだけじゃないんだから、あんまり気を張らなくていいのよ」

 「それでもよ。やらないといけないのよ。だから……」

 

 惣流・アスカ・ラングレーの言葉に困ったような笑みを浮かべたマリ・イラストリアスは、握りしめたその拳にそっと触れると、その手を解し指を絡める。

 

 「あたしも、冬月副司令も応援はしてるにゃ。けどこれだけは忘れないで。エヴァのパイロットじゃなくても、冬月副司令は勿論、あたしだって姫の事を捨てたりしないわ」

 「……うん。わかってる。少し寒くなって来たわね、私達も行きましょ」

 

 2人は手を繋いだまま、甲板を後にした。

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