蕃神   作:名無しの海

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5ー3 ぼーい みーつ がーる

 「ぬぁ~にが『付き添いの方は子供達と一緒に食堂へどうぞ』よ!」

 「ミサトさん、あの艦長も悪気があったわけじゃなかったみたいですし落ち着いてください」

 「なお悪いわ!」

 

 葛城ミサトは荒れていた。

 空母オーバー・ザ・レインボーのブリッジで行われた艦長との会話において、葛城ミサトは艦長に全く相手にされなかったからだ。

 艦長の視界にはNERV本部副司令の冬月コウゾウしか映っていなかった。

 戦術作戦部作戦局第一課長たる葛城ミサトは存在を認識されていなかったのだ。

 

 「ミサト、前向きに考えなよ前向きに。嫌味たらたらオトナの会話とか面倒くさいお世辞合戦を回避できたと思えば儲けものよん」

 

 食堂で合流したマリ・イラストリアスは、葛城ミサトを宥める碇シンジを支援するように、慰めの言葉を口にしつつ、紅茶が満たされたカップに口をつける。

 一方、マリ・イラストリアスの声を耳にした碇シンジは、甲板での出来事が記憶に蘇り、思わず顔を顰めていた。

 

 「うーん、わんこ君には嫌われちゃったかにゃ」

 「僕は『わんこ君』なんて名前じゃありませんから」

 

 愉快そうに笑みを浮かべるマリ・イラストリアスに対して、碇シンジは不快な感情を隠そうともせず、顔を逸らす。

 

 「なんやシンジつんつんして。飴ちゃんでも舐めて機嫌直しぃ」

 「ちょっ、トウジ!!やめ……むぐ」

 「トウジ、それおばちゃんっぽいよ」

 「なんやてケンスケ!」

 

 顔を向けた先にいた鈴原トウジが手にした飴玉を碇シンジの口の中に捻じ込む。

 そんな鈴原トウジを相田ケンスケは呆れ顔で評している。

 

 「っく、ふふふ、君たち面白いねぇ。君の友達についての発言は謝るから仲直りしようよ、碇シンジ君」

 

 思わずといった風に笑みをこぼしながら、マリ・イラストリアスは碇シンジに向けて手を差し出した。

 碇シンジは、怪訝そうな表情を浮かべたものの、差し出された手につられ腕を持ち上げかけてしまう。

 マリ・イラストリアスはその動きを見逃さず、テーブルの上に素早く身を乗りだすと碇シンジの手を握りしめる。

 

 「はい!握手にゃー!」

 「う、うわ!何するんだよ!」

 「良いではないか、良いではないか~」

 「うーん、仲良きことは美しきかな」

 「ミサトさん!変なこと言ってないで助けてください!」

 「はいはい。マリ、うちのシンちゃんをあまり揶揄わないでちょうだい」

 

 碇シンジの手を握りしめたまま、テーブルの上を匍匐前進するように近づくマリ・イラストリアスに怯える碇シンジ。

 葛城ミサトはそんな2人を揶揄いながらも、碇シンジに助け船をだした。

 

 「お、賑やかだな」

 「来たなチャラ男」

 「ゲ!あんたいたの!?」

 「おいおい、酷い言い様だな」

 

 賑やかな空間に紛れこんだ軽薄な男の声に、マリ・イラストリアスと葛城ミサトがネガティブな反応を示した。

 よれよれのシャツにワインレッドのネクタイを締めた男、加持リョウジは2人の反応を気にすることも無く、カップを片手に近くの席についた。

 

 「セカンドチルドレンの随伴でね」

 「あたしは断ったわよ、ミサトが会いたくないと思ったもの。マリも来てくれるって言ってたしね」

 「呼ばれてもいないのに態々来るなんて図々しいわね」

 「ははは、女性陣は辛辣だな、上からの指示だから仕方ないじゃないか。君たちもそう思わないかい、男子諸君」

 

 葛城ミサト、マリ・イラストリアス、惣流・アスカ・ラングレーからジト目でちくちくと口撃を受けていた加持リョウジは、それらの言葉を気にもせず軽薄な笑みを浮かべている。

 

 「うわっ、話ふられちゃったよ」

 「あかん、目を合わすな、巻き込まれるぞ」

 「えーっと、あははは」

 「おいおい、酷いな。シンジ君は葛城と一緒に暮らしてるんだろう?どこまでいったんだ?」

 「ちょっとアンタ子供に何言ってんのよ!」

 

 加持リョウジに話題を振られた少年達は巻き込まれては堪らんと目を逸らしつつ曖昧な返事を返していたが、続く加持リョウジの言葉に葛城ミサトが思わず大声を上げてしまう。

 

 「愛に年齢は関係ないだろ?」

 「はぁー!?」

 

 加持リョウジと葛城ミサトは周囲の人間の存在を忘れたかの様に丁々発止のやり取りを始めた。

 戸惑う少年達を目にしたマリ・イラストリアスは呆れたような笑みを浮かべると、少年達に助言を口にする。

 

 「放っておけばいいよ。ほら、夫婦喧嘩は犬も食わないってやつにゃ」

 「聞こえたわよマリ!夫婦なかじゃないわよ!!」

 「おっと藪蛇藪蛇。ほら、君らも巻き込まれないように別のテーブルに移動しよう」

 

 マリ・イラストリアスは肩を竦めると「ほらね」というように鈴原トウジと相田ケンスケにウィンクをした。

 

 「まったく、さっさと元鞘に収まって欲しいね」

 

 ■■■

 

 「サードチルドレン、ちょっと付き合いなさいよ」

 

 加持リョウジと葛城ミサトの言い合いの最中、惣流・アスカ・ラングレーは半ば強引に碇シンジを、オーバー・ザ・レインボーから輸送艦へ連れ出していた。

 

 「えーっと……加持さんとミサトさんって仲が良いの?」

 

 連れ出された碇シンジは、自身を連れ出した惣流・アスカ・ラングレーの不機嫌そうな表情と沈黙に耐えかねてなんとか話題を作ろうとしていた。

 

 「あの2人、昔付き合ってたのよ」

 「あー、そうなんだ。うん、なんか納得かも。なんで別れちゃったんだろ」

 「さぁ。けどマリは「あの2人はドМだからにゃぁ」って言ってたわよ」

 「ドМ?ミサトさんが??」

 「マリ、時々変なこと言うのよ。アンタも何か言われたみたいだけど、あまり気にしない方がいいわよ」

 

 甲板での事を気にしているのか、惣流・アスカ・ラングレーが気遣うような言葉を口にした。

 碇シンジを気遣うような言葉だが、その中身はマリ・イラストリアスが悪感情を持たれないようにと意識したものだ。

 

 「君たち、仲がいいんだね」

 「子供の頃からの付き合いだもの。マリはドイツ支部にはいなかったから実際に会ったのは暫く後だけど。よし、着いたわよ」

 

 天幕の隙間から射す光が照らすのは、L.C.L.に満たされたプールへ頭部を横向きにし、俯せている赤い巨人。

 

 「うわっ」

 「ふふん、どう?あたしの弐号機よ、凄いでしょ。これが世界で最初のPRODUCTION MODEL。本物のエヴァンゲリオンよ」

 

 驚嘆したような声をあげた碇シンジに、惣流・アスカ・ラングレーは満足気な表情を浮かべる。

 

 「いや、首が寝違えそうだなって」

 「はぁ?あんたバカァ?エヴァの首が寝違えるわけないでしょ」

 「馬鹿っていきなり酷いな」

 「あたしの弐号機に『寝違えそう』とか的外れな事いうからよ」

 「けど、俯せの弐号機を見せられても、赤いなぁ、とか目が4つあるんだとしか思わないよ」

 「情けない感想ね」

 

 会ってまだそれほど時間もたっていない同年代の少女からの辛辣な言葉に、碇シンジは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

 「はぁ、過去に戻れるなら可愛い女の子に声をかけられても呑気についていくんじゃないって言ってやりたいよ」

 「ふぅん、あたしの事、可愛いって思うんだ。目は腐ってない様ね」

 「うわ、自信家」

 

 碇シンジの弐号機に対する感想は0点だったが、惣流・アスカ・ラングレーに対して「可愛い」と称したことで、一転して機嫌を良くした。

 惣流・アスカ・ラングレーは自身の容姿が他者より優れている事を理解しており、碇シンジの言葉自体は言われ慣れたありきたりの言葉だったが、自分の比較対象とされていたサードチルドレンが発した言葉という所で言葉の価値が違っていた。

 

 「当然よ。あたしは一流の科学者だったママと、そのママが選んだ一流の精子を使って生まれたのよ」

 「せっ!せせせ精子!?い、いきなり何いいだすんだよ!」

 「ん?精子バンクよ。知らないの?」

 

 碇シンジは、惣流・アスカ・ラングレーの口から飛び出した「精子」という単語に、年頃の少年らしく顔を赤くして焦るが、口にした方の少女は何事も無かったかのように話を続ける。

 

 「あたしはね、試験管の中で生まれたのよ。ママがあたしの為に選んでくれた最高の精子を使ってね。だから、あたしが優れているのは当然なの。選ばれた次世代の人間ってとこかしら」

 

 誇らしげに胸を張る惣流・アスカ・ラングレーに対して、同年代の少女から飛び出す「精子」という単語に衝撃を受けていた碇シンジは曖昧な笑みを返すことしか出来なかった。

 その態度が気に入らなかったのか、惣流・アスカ・ラングレーの眉が怒りでつり上がる。

 

 「何それ、自分は碇指令の息子でこれまで実績も出してるから余裕って事?」

 「父さ……あの人は関係無い」

 「関係あるわよ!皆が言ってるのよ、碇指令の息子のサードチルドレンが、世界で最初に使徒を撃破した、その後も戦果を上げ続けてるって!あたしが弐号機と一緒に手にするはずだった栄誉を貴方が奪ったのよ!碇指令の息子ってだけで特別扱いされてる貴方に!」

 

 碇シンジの言葉が気に入らなかったのか、惣流・アスカ・ラングレーは怒りの感情を隠すこともせずに捲し立てる。

 碇シンジは一瞬呆気にとられたが、自分の事を碇ゲンドウの息子ということで批判する惣流・アスカ・ラングレーへ対して反感を抱き、負けじと言い返す。

 

 「あの人は自分の息子というだけで特別扱いするような人じゃないよ。それに僕だって乗りたくて乗ったんじゃない。そんなに言うならなんで君があの時、日本にいなかったんだよ!特別な人間だっていう君が居なかったから、いま僕が、僕たちがこんな目にあってるんだろ!必要な時にいない特別なんでただの役立たずだよ!」

 「なんですって!乗りたくて乗ったわけじゃないって何よ!あたしがどれだけの努力をしてきたのか知りもしないで!」

 「わかるわけないだろ!君だって僕の事情を知りもしないで文句ばっかりいってくるじゃないか!」

 

 碇シンジも、惣流・アスカ・ラングレーも怒りに形相を歪ませて掴みかからんばかりに手を握りしめ、腕を振るわせている。

 その時、軋むような轟音と共に輸送艦が大きく揺れ、惣流・アスカ・ラングレーは弐号機を冷却するL.C.L.に満たされたプールへ投げ出された。

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