蕃神   作:名無しの海

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5ー5 アスカ初陣、そして

 「思考言語はドイツ語でいいわよね?それじゃいくわよ!」

 「え?ドイツ語!?ま、待ってよ無理だって!!」

 

 エントリープラグに搭乗した惣流・アスカ・ラングレーは、インテリアに座ると碇シンジの静止する前にエヴァンゲリオン弐号機を思考言語ドイツ語で起動してしまう。

 その瞬間、エントリープラグの内壁一面が赤字の警告文『FEHLER』という文字で埋め尽くされた。

 

 「たから待ってって言ったのに……」

 「あたしはドイツ支部から異動して来たんだからドイツ語に決まってるじゃない!ドイツ語出来ないなら早く言いなさいよ!」

 「ドイツ語なんてバウムクーヘンぐらいしかわからないよ」

 「『Baumkuchen』よ……せめて『Guten Tag』って言って欲しかったわね」

 「ぐ……ぐてん?」

 「もういいわよ!思考言語を日本語に固定!」

 

 碇シンジとの会話に肩を落とした惣流・アスカ・ラングレーは、弐号機の思考言語が日本語に切り替える。

 切り替えによる思考言語統一により、エントリープラグ内壁に表示されていた警告文が消えて弐号機が起動すると、マリ・イラストリアスからの通信が入った。

 

 『はぁ~い姫、準備万端って感じかにゃ』

 「ふんっ、サードがもたもたしてなければもっと早く起動できたわ」

 『姫~、そういうこと言わないの』

 「だってそうじゃない!それに余計なものがいるからシンクロ率が下がってる。これがあたしのレコードだと思われたらいい迷惑よ」

 「何言ってるんだよ!君が無理やり連れ込んだんじゃないか!」

 「なによ!あんたがもたもた着替えてたのも、あんたがいるからシンクロ率が下がってるのも本当のことでしょ!」

 

 惣流・アスカ・ラングレーの言い様に碇シンジが反論すると、エントリープラグ内に険悪な空気が漂い始めた。

 

 『こら!同じチルドレン同士助け合わないと駄目よん。それじゃミサト、状況説明をどうぞ』

 『マリの言う通りよアスカ。それと、まだ冬月副司令が弐号機出撃について艦長と調整してるからまだ出撃しちゃ駄目よ』

 「ミサト!?何言ってんのよ!目の前に使徒がいるのよ!!」

 『いいから大人しくしてなさい。貴方が勝手に出撃すると冬月副司令が困ることになるけど、いいの?』

 「……」

 

 葛城ミサトが持ちだした『冬月副司令』という言葉に惣流・アスカ・ラングレーは思わず言葉を詰まらせる。

 その胸中では、早く出撃して戦果を上げたいという闘争心と、冬月コウゾウに迷惑をかけたくないという気持ちが鬩ぎあっていた。

 葛城ミサトは惣流・アスカ・ラングレーの沈黙を了承の意と受け取り言葉を続ける。

 

 『第8使徒は突如海中から出現、周辺の海面を凍結したわ。太平洋艦隊は氷に閉ざされて身動き出来ずという所ね。冬月副司令は艦長の所に残って、あたし達は、マリが持ち込んだ支援用車両で待機中ってとこね。シンジくん、鈴原くんと相田くんも一緒にいるから安心しなさい』

 『良かった、有難うございます。ミサトさん、僕も弐号機を降りてそっちへ向かったほうがいいですか?』

 『そうね……いえ、そこにいて頂戴。いまから移動するよりもエヴァの中にいた方が安全よ』

 『わかりました。あ、それとそっちに映像って映ってないですよね?』

 『安心しろ碇、お前の女装姿はばっちりカメラに収めてるよ。帰ったらちゃんと淡島にも見て貰おうな』

 『こら!相田くん!大人しくしてなさいって言ったでしょ!』

 『すみませーん』

 

 相田ケンスケの言葉に、碇シンジの脳内に淡島カイの反応がよぎってしまう。

 「え?あー……そ、そういう趣味あったの?うん、多様性の世の中だよな!」と戸惑ったような顔で気遣われるか、「ぷぷぷ。いいよいいよ。需要あるって!攻めてこうぜ?あ、今度さ、綾波さんも連れて女物の服でも買いに行く?俺が選んでやるよ」と揶揄われるか、どちらにせよしばらくは恥ずかしい思いをするだろう事に、顔を青くして「終わった」と零してしまう。

 

 『えー……話を続けるわよ。第8使徒は海面を凍らせた後は攻撃をせず、周囲の船を順番に周っている、状況からは何かを調べている、若しくは探していると推測します』

 「使徒が何かを探すって、どういう事ですか?」

 『ははは、可愛い女の子でも探してるんじゃないか?』

 『ちょっと変なこといわないでよ!』

 『チャラ男は余計なことしか言わないにゃ』

 『俺は場を和ませようとだな』

 

 通信に加持リョウジが加わった途端、会話が賑やかになり惣流・アスカ・ラングレーと碇シンジは思わず目を合わせた。

 

 「加持さんって面白い人だよね」

 「なんていうのかしら。あの人こういうの上手いのよね……それとさっきの事はごめんなさい。あたしが乗るようにいったのにあの言い方は無かったわ」

 「それは僕も……つい喧嘩腰になっちゃって、ごめん」

 『アスカ!太平洋艦隊から出撃要請が入ったわ』

 「待ってました!」

 『姫~。そこから丁度隣の輸送艦にグレイブと超電磁洋弓銃を積んでるから回収してね』

 『まずは超電磁洋弓銃でコアを狙撃、第8使徒のA.T.フィールドを突破出来ないようなら接近して対象のA.T.フィールドを中和、超電磁洋弓銃でコアを破壊よ』

 「行きます!!」

 

 惣流・アスカ・ラングレーの言葉に答えるように、弐号機が動き出す。

 天幕を押しのけながら弐号機が立ちあがると、2人の目の前には第8使徒の力で凍り付いた海が広がった。

 

 「うわ……凄い……」

 「これが使徒の力……やってやろうじゃない!!!」

 

 碇シンジと惣流・アスカ・ラングレーは、葛城ミサトから聞かされていた「周辺の海面を凍結」という言葉に状況の認識はしていたが、その惨状に衝撃を受けていた。

 ある船は氷の圧し潰され、ある船は氷上で転覆している。

 氷に閉ざされた中で、その形を保っている船は弐号機を乗せた輸送艦を合わせて三分の一ほどだった。

 第8使徒は立ち上がった弐号機には目もくれず、ただ只管に周囲の船を周りながら何かを探すような行動をとっている。

 

 「無視ってわけね。すぐに後悔させてやるわ」

 『姫、武装を積んだ輸送艦はそこから左手の船にゃ』

 「わかったわ!」

 

 惣流・アスカ・ラングレーは、海氷の上を伝うようにゆっくりと弐号機を移動させ、輸送艦に固定されていた超電磁洋弓銃を回収する。

 

 「見てなさいサード!アイツがこっちを無視してるうちに、一撃で仕留めてやるんだから」

 「惣流さん、敵のコアは小型なんだからもっと接近した方がいいよ」

 「アタシに指示しないで!七光りのアンタには無理でもアタシならできるわ!」

 

 惣流・アスカ・ラングレーは碇シンジの静止を聞かず、弐号機に超電磁洋弓銃を構えさせると、照準を使徒の頚部にあるコアへ合わせるとトリガーを引いた。

 超電磁洋弓銃は発射口を展開、電磁弦を形成すると瞬時に矢が放たれる。

 電磁加速された矢は凄まじい速度で目標のA.T.フィールドに到達、貫通するとその小さなコアを貫いた。

 コアを失った影響か使徒の頭部は膨れ上がって爆散した。

 鉄筋を組みあわせたような身体は、解けるようにバラバラと氷上に落ちていく。

 

 「凄い、当たった!」

 「フン。これがアタシの実力よ。アンタとは違うの」

 「このクロスボウ凄いね。A.T.フィールドをあんな簡単に貫通するなんて」

 「ちょっと!武器のお陰っていいたいの?シンクロ率が落ちてる状態であの小さい的に当てたのはアタシの実力よ?」

 「うん、確かに。見直したよ、君って凄いね」

 

 エントリープラグ内の空気は緩み、和やかな空気が流れだすが、その空気を壊すようにマリ・イラストリアスからの通信が入る。

 

 『姫、まだよ!集中してっ』

 「え?」

 「惣流さん、避けて!!!」

 

 碇シンジに対してマウントをとることに意識の大半を割いていた惣流・アスカ・ラングレーの口からは呆けたような声が漏れたが、幾度かの実戦を経ていた碇シンジはマリ・イラストリアスの言葉を受けて即座に状況を把握していた。

 弐号機の目の前には、その頭部を狙うように無数の黒い触手が迫っている

 

 「イヤ!」

 

 惣流・アスカ・ラングレーは短い悲鳴と共に、反射的に超電磁洋弓銃を持つ弐号機の右腕を上げて頭部を守るが、触手は弐号機の腕を貫き、超電磁洋弓銃も破壊した。

 その反動で弐号機はふらふらと2,3歩下がると、尻もちをつくように後ろに倒れてしまう。

 

 「……ッ」

 

 惣流・アスカ・ラングレーは弐号機のフィードバックを受け、声にならない悲鳴を上げながら自信の右腕を抱えている。

 

 「痛い……痛い!これがフィードバック……」

 『アスカ、落ち着きなさい!マリ、回路切断急いで』

 『今やってるにゃー。本職のオペレーターがいないのがきついか……よし、回路切断。姫、深呼吸よ深呼吸』

 「ふー……ふー……」

 

 マリ・イラストリアスによる回路切断によち、右腕のフィードバックが途切れる。

 しかし、受けた苦痛が瞬時に消えるわけでは無く、惣流・アスカ・ラングレーは痛みの良いんに苛まれる中で、マリ・イラストリアスの助言にしたがって深呼吸を繰り返す。

 

 「ふー……有難う、マリ。まだ痛いけどもう大丈夫。ミサト、作戦をお願い」

 『アスカ、超電磁洋弓銃はもう使えないわ。グレイブを回収して一旦下がって』

 『急がなくて大丈夫だ。使徒は脅威となった武器と弐号機の腕を破壊して満足したのか、また太平洋艦隊の各船を周り始めてる』

 

 葛城ミサトが方針を示したのに続き、加持リョウジはアスカを安心させるように状況を伝えた。

 

 「っ!アタシなんて止めを刺す必要もないってことか」

 「……惣流さん、落ち着いて。焦っちゃ駄目だよ」

 

 第8使徒に相手にされていない現実に悔しそうに表情を歪ませた惣流・アスカ・ラングレーに、碇シンジは彼女が再び感情を爆発させ無茶をしないかと焦り宥めるように声をかける。

 

 「サード、アンタ……!!」

 

 惣流・アスカ・ラングレーは自身の比較対象とされている碇シンジの言葉に思わず激高しそうになるが、碇シンジの真剣な表情に怯み、目を逸らすと悔しそうに唇を噛みしめる。

 

 「いえ、そうね。そうよね。アンタの言う通りだわ。一度失敗したんだから落ち着かないと駄目ね」

 『そうよアスカ。反撃はちゃんと態勢を立て直してからガツンと決めてやりましょ』

 『ミサトの言う通りにゃ。まだ負けたわけじゃないんだからそんなに落ち込まないの』

 「落ち込んでないわよ!」

 

 碇シンジは葛城ミサトやマリ・イラストリアスとの会話で、一度折れた惣流・アスカ・ラングレーの心が立ち直っていくさまに「僕たちは1人で戦ってるんじゃないんだ」と他者の存在を心強く感じていた。

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