蕃神   作:名無しの海

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5ー6 それぞれの覚悟

 「ミサト、弐号機の外部電源パックが1分を切るわ」

 『それじゃまずは空母オーバー・ザ・レインボーに引き渡した非常用電源ソケットに接続を切り替えましょう』

 「了解、準備宜しく」

 「マリ、連絡お願い。持ってきたとはいえ本当に非常用電源ソケットを使うことになるとは思わなかったわね」

 

 弐号機に装着していたバックパック型外部電源パックによる稼働可能時間が1分を切ったため、まずは葛城ミサトがNERV本部から運搬してきた非常用電源ソケットによる電源供給への切り替えを最優先とした。

 ただでさえ劣勢の状況では容量が1分弱となった外部電源パックと5分の内部電源では第8使徒との戦闘継続厳しく、まずは安定した電力供給をすべきという判断からだ。

 方針が決まり、惣流・アスカ・ラングレーは第8使徒を刺激しないようにゆっくりと弐号機を立ち上がらせる。

 第8使徒が弐号機に反応しない事を確認すると、頭部の触手による攻撃を警戒しつつ空母オーバー・ザ・レインボーへ移動し、外部電源パックを取り外して甲板に用意されていた非常用電源ソケットを接続する。

 

 「よし、お待たせ。電源の切り替え完了よ」

 『それじゃ状況説明はアタシからやらせれもらうにゃ。さっき姫が超電磁洋弓銃で破壊したコアはデコイだったみたいね。デコイ破壊後は身体を崩壊させてコアを壊されたフリをしていたんだけど、すぐに下部の球体を頭部に移動して再稼働。コアの周囲は赤い液体で覆うと、この液体を黒い触手に変化させて弐号機をブスり。脅威となった超電磁洋弓もこの時に破壊』

 「デコイって……なんか僕たちがコアを狙うことがわかってるみたいですね」

 『使徒が情報を共有しているのか、今回の個体が偶々デコイをもっていたのかそこは謎ね。断言するにはサンプルが全然足りないかにゃ~』

 

 弐号機が破壊した赤い球体はコアではなくデコイであったというマリ・イラストリアスの説明で、コアを破壊したはずの使徒から攻撃を受けた理由が判明した。

 デコイに騙されて油断をしてしまった惣流・アスカ・ラングレーは悔しそうに拳を握る。

 

 「それで作戦は?あるんでしょう、アタシと弐号機がアイツに勝つための作戦」

 『遠隔戦の要だった超電磁洋弓銃がもう使えないから、エヴァ単騎での撃破はもう諦めましょう。今、冬月副司令が太平洋艦隊へ協力要請をしてもらってるわ』

 

 惣流・アスカ・ラングレー単騎での使徒撃破は諦める葛城ミサトの言葉に惣流・アスカ・ラングレーは顔を顰めた。

 眉間に皺を寄せて不満そうに口を開くが、結局何も言わずに口を閉じるとそのまま目を閉じ、悔しそうに固く唇を噛みしめる。

 沈黙を了承と捉えたのか、葛城ミサトは作戦の説明を続けた。

 

 『弐号機の役割は、第8使徒の攻撃を引き受けながら、比較的無事な太平洋艦隊が攻撃可能な地点へ誘導。目標地点に到達したら弐号機で第8使徒のA.T.フィールドを中和、太平洋艦隊によるコアへの一斉砲撃。もしそれで駄目ならグレイブの投擲、弐号機で使徒によじ登ってプログレッシブ・ナイフで攻撃とかしかないわね』

 「わかったわ。やってやろうじゃない」

 

 

 ■■■

 

 

 状況は芳しくなかった。

 弐号機による再度の妨害に苛立っているのか、第8使徒の攻撃は苛烈さを増していた。

 第8使徒の目標地点への誘導は終えたが、A.T.フィールド中和のための接近が出来る状況ではなかった。

 第8使徒の頭部から繰り出される無数の触手は、グレイブで薙ぎ払おうとも即座に再生するため、接近する隙が無かった。

 

 「こりゃじり貧だな」

 「うっさいわね、わかってるわよ」

 「けど加持くんの言う通りでもあるね。姫の動きが悪くなってる。このままだと時間の問題よ」

 

 加持リョウジの思わずといった呟きに葛城ミサトは噛みついてしまう。

 マリ・イラストリアスの指摘も尤もであるが、だからといって対応出来る作戦を立案できるわけではなく、葛城ミサトの苛々が募っていく。

 

 「だからわかってるわよ!何か、第8使徒の気を逸らす事が出来れば……アイツが探してた何かを餌に……加持、アンタ何か知ってるんでしょ」

 「オレかぁ?そこはマリじゃないのか?」

 「なんでそこであたしかにゃ」

 「それはだな……おっと冬月副司令から通信が」

 

 太平洋艦隊に何故か居合わせた加持リョウジとマリ・イラストリアス。

 そこに現れた第8使徒は周辺一帯の海を凍らせ太平洋艦隊を足止めし、何かを探している。

 葛城ミサトの知識では、使徒はNERV本部地下のリリスを目指す存在であり、太平洋艦隊を検めるような祖納ではなかった。

 葛城ミサトは、加持リョウジ若しくはマリ・イラストリアスが、使徒が求めるような何かを運搬しているのはないかと推察していた。

 最初に加持リョウジを標的に選んだのは、過去の関係もあり与しやすかったためだ。

 当の加持リョウジは副司令からの通信を支援車両の端末ではなく、個人の端末で受けており、その事実がまた加持リョウジの怪しさを増していた。

 

 「はい、……かり……許可が………。では予備を……。………、至急………。あ、葛城すまん、野暮用でちょっと席外すわ。あと宜しく~」

 「はあぁあああ!?ちょ、加持!待ちなさいよ!」

 「おいおい、お前は逃げる男を追いかけるような女じゃないだろ?じゃ!」

 

 加持リョウジはイイ笑顔で手を振りながら支援車両から姿を消した。

 

 「あ、あかん……逃げよった……」

 「ええええええ、いや、え?ホント?あの人ホントに逃げたの?と、トウジどうしよう」

 

 颯爽と去った加持リョウジの姿に、鈴原トウジは呆けたように呟いた。

 一方、相田ケンスケはNERVの大人大人が自分達子供を置いて逃げ出したという状況に、戸惑いを隠せなかった。

 

 「しんっっじられない!」

 「ミサト!冬月副司令から通信!」

 『今から5分後に標的の注意を引く。その間になんとかしたまえ』

 「加持……ですか?」

 『うむ。彼には私が指示を出した』

 「どちらにしろ策は無いんだからそれに懸けるしかないんじゃないかにゃ」

 

 かつての恋人の行動に、瞬間湯沸かし沸騰器が如く激昂した葛城ミサトは冬月コウゾウとの通信で冷静さを取り戻す。

 加持リョウジと葛城ミサトは別れたといえ、その理由は相手に対して何か問題があったわけでは無く、両者共に自身の内面に抱えていた問題が原因だ。

 元恋人という存在に苦手意識はあれども、恋人としての加持リョウジを嫌っていたわけではない。

 それ故、加地リョウジの事を本気で嫌いにはなりたくないという未練にも似た感情を抱えていた葛城ミサトは、加持リョウジが自分達を見捨てて逃げ出したわけではないという事に安堵していた。

 

 「アスカ、今から5分後に第8使徒の注意を引き付けるわ。その時まで無理せず避けることに専念して。太平洋艦隊にはこちらからタイミングを伝えるわ」

 『5分!?やってやろうじゃない、サード次はどこから!?』

 『そこを右に避けたら次は正面に来るのをグレイブで薙ぎ払ってから左にステップ!』

 

 第8使徒の猛攻により前進できない状況に、心身共に疲弊していた惣流・アスカ・ラングレーは、新たな方針を示され回避に専念する。

 同乗している碇シンジのサポートもあり、回避に専念してからは目に見えて被弾が減っていく。

 

 「よっし、姫の動きも良くなってきた」

 「加持……」

 

 葛城ミサトは無意識のうちに胸元に下げたクロスペンダントを握りしめていた。

 

 

 ■■■

 

 

 「あーもう!5分たったんじゃないの!?」

 「まだ4分ぐらい……待って、攻撃が止まった。使徒が移動してる……ミサトさん!?」

 『冬月副指令から連絡が来たわ。第8使徒はオーバー・ザ・レインボーに移動します。目標地点はオーバー・ザ・レインボーの正面よ』

 

 ただ只管回避に専念して連絡を待つという状況で、時間がたつのが遅く感じていた惣流・アスカ・ラングレーは早くも愚痴をもらしていた。

 そこに入った葛城ミサトからの通信の内容に、惣流・アスカ・ラングレーと碇シンジは同時に叫んだ。

 

 「待って!オーバー・ザ・レインボーにはおじいちゃんが乗ってるのよ!」

 「え?それってミサトさん達もいる船ですよね!?」

 『そうよ~。目標地点は送ったから、そこに使徒が到達したらお願いね』

 「お願いねじゃないわよ!さっさと避難しなさいよ!!」

 『あたし達が避難したら指揮もエヴァのサポートもできなくなる。後は全部、姫にかかってるのよ。シンジ君も姫のサポート宜しくっ』

 「バカマリ!」

 

 冬月コウゾウの命も、マリ・イラストリアスの命も、自身の行動と結果にかかっている事に気が付いた惣流・アスカ・ラングレーはその事に恐怖し、俯いてしまう。

 脳裏に過るのは油断と慢心から招いた右腕の負傷と、虎の子の超電磁洋弓の破壊。

 フィードバックにより受けた痛みと恐怖は、惣流・アスカ・ラングレーの心に刻み込まれていた。

 次に失敗すれば、冬月コウゾウとマリ・イラストリアスは確実にその命を落とすことになる。

 その思考に反応した身体が意図せずに震えだした。

 

 「惣流さん、命を懸けて戦ってるのはパイロットだけじゃないんだよ。NERVのみんなも大切なものを守るために命を懸けて戦ってるんだ」

 「そんなこと……そんなことわかってるわよ!」

 

 碇シンジの諭すような言葉に、惣流アスカラングレーは乱暴にインテリアに拳を打ち下ろして叫ぶ。

 NERVの職員が命を懸けて戦っている事は知っていた。

 知ってはいたが、本当の意味で理解してはいなかった。

 

 「惣流さんが出来ないなら、僕がやる。そこをどいてくれ」

 「アンタ!!!」

 

 惣流・アスカ・ラングレーは碇シンジの言葉に激昂し、左腕を振り上げる。

 しかし、碇シンジは抵抗もせずに穏やかな表情で続く言葉を綴った。

 

 「殴りたければ殴ればいいよ。それで気が済んだらそこを退いてくれ。僕はそうやって何もしないまま、皆を見殺しには出来ない。あそこにはミサトさんが、友達がいるんだ」

 「そんな事……アタシだって……!」

 

 惣流・アスカ・ラングレーは碇シンジを殴りつけることも出来ず、衝動で気に振り上げた拳を力なく下ろし、再び俯いてしまう。

 悔しさで震える惣流・アスカ・ラングレーの両肩を労わるように、碇シンジはそっと手を添えた。

 

 「酷い言い方をしてごめん。けれどもう時間が無いんだ。惣流さんが続けられるなら任せる。けど、無理なら僕に任せて欲しいんだ」

 

 その優しい言葉に惣流・アスカ・ラングレーの心は折れそうになる。

 全てを碇シンジに押し付けてこの現実から逃げ出したい。

 

 「あ……あたしは……」

 

 惣流・アスカ・ラングレーが諦めの言葉を口にしようとした時、暖かな何かがまるで幼子の頭を撫でるように、何かが自分の頭を撫でたように感じた。

 その瞬間、思い浮かんだのは微かに記憶に残る惣流・キョウコ・ツェッペリンとの記憶。

 今ここで諦めて、弐号機を碇シンジに託すということは、母が遺した弐号機との繋がりすらも失うことに繋がるこに気が付く。

 冬月コウゾウもマリ・イラストリアスもその決断を尊重してくれるだろう。

 しかし、惣流・アスカ・ラングレーは、きっとその決断をした自分自身を許せなくなる日がくると確信した。

 

 「………わよ」

 「え?」

 「アタシがやるって言ったの!目が覚めたわ。おじいちゃんもマリもアタシが守ってみせるし、そのついでにミサトもあんたのお友達も守ってやるわよ!」

 

 惣流・アスカ・ラングレーは先ほどまでの弱々しさを微塵も感じさせない態度で力強く宣言する。

 その姿を碇シンジは優しい優しい眼差しで見つめていた。

 

 「元気出たみたいだね」

 「お陰さまでね!あとその目やめて、アタシがセカンドでアンタはサードなの。アタシの方が先輩なんだからね」

 「はいはい」

 「その言い方もムカツクわね」

 

 口ではそういいつつも、惣流・アスカ・ラングレーは笑顔だった。

 碇シンジは苦笑しながら第8使徒を指さす。

 

 「ほら、丁度いい所に発散相手がいるよ」

 「そうね、アイツには散々虚仮にされたから今度は痛い目みてもらわなきゃいけないわよね」

 

 殺る気に満ちた惣流・アスカ・ラングレーは獰猛な笑顔を浮かべた。

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