蕃神   作:名無しの海

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5ー7 唯一つ、求めたモノは

 支援車両から離れた加持リョウジは、空母オーバー・ザ・レインボー内の宛がわれた部屋にいた。

 室内には加持リョウジの他にドイツ支部から派遣されたまだ年若いNERV特殊監査部の職員が1人。

 寝台には大きな黒いトランクが置かれている。

 

 「加持先輩、準備は出来ています」

 「ああ、すまんな水押(ミヨシ)

 「悪いと思ってるなら日本への異動で彼女にフラれた可哀想な後輩に可愛い女の子でも紹介してください」

 

 水押ツバサは軽口を叩きながら手にしていた鍵をトランクの鍵穴に差し込む。

 やってられないといった風に「フラれた」と言ってはいるが、水押ツバサの別れた彼女から相談されていた加持リョウジは、日本への異動が決まってすぐに水押ツバサが自分から別れを切り出していたことを知っていた。

 日本という使徒との主戦場への異動の意味を知っての行動かと思うと、加持リョウジにはそれを咎めることは出来なかった。

 

 「仕方ない奴だな。合コンなら幾らでも企画してやる」

 

 水押ツバサの言葉に加持リョウジは苦笑しながら、胸の内ポケットから鍵を取り出し、もう一つの鍵穴に差し込む。

 2人同時に鍵を回すとカチャリという音と共にトランクの鍵が開いた。

 トランクを開けると、敷き詰められた赤い緩衝材の中に2つのトランクが収められている。

 加持リョウジはその内の一つを取り出すと、水押ツバサに手渡し、トランクの持ち手と水押ツバサの右手首を繋ぐように手錠を掛けた。

 そのまま、水押ツバサの肩に手を置くと、それまで浮かべていた軽薄な笑みを消す。

 

 「頼んだぞ」

 「頼まれました」

 

 水押ツバサは左手でVサインを作りながら笑顔を見せる。

 

 「あのな、いま真面目な……」

 「加持先輩にそういうの似合いませよ?」

 「お前なぁ……」

 「それじゃ先に日本に行ってきます!後で元カノさん紹介してくださいよ~」

 

 水押ツバサは加持リョウジの言葉を遮ると、トランクを片手に持ち部屋から出ていった。

 部屋に残されたものは加持リョウジと、もう一つのトランク。

 

 「さて、どちらに食いつくか……」

 

 加持リョウジは開いたままの黒いトランクを閉じて鍵を閉めると、2つの鍵を胸の内ポケットに仕舞う。

 状況を打開するための餌は復元した2つのアダム。

 水押ツバサに渡したトランクにはその内の1つが封印されている。

 第8の使徒がNERV本部ではなく、太平洋艦隊を襲撃した理由。

 艦隊を破壊するのではなく、氷に閉ざし太平洋艦隊を検めている理由。

 それらは十中八九、加持リョウジ達が極秘裏に持ち込んだ復元したアダムだ。

 2つのアダムを同時に移動させる事には反対する声もあった。

 しかし、アダムベースのエヴァンゲリオンである弐号機と一緒に搬送するという事が、最も使徒への目を欺けるという結論が出たのだが、結果としてはこの通り第8使徒に嗅ぎつけられてしまった。

 

 「女なんて幾らでも紹介してやる。だから死ぬなよ、水押」

 

 その言葉に答える者は誰もいなかった。

 

 

 ■■■

 

 

 第8使徒はオーバー・ザ・レインボーの前まで移動すると、その胴体をぐるりと反転させてコアを身体の下部に移動すると、コアを覆う赤い液体から生成された触手を伸ばしていく。

 その動きは弐号機を打ち倒すめに振るわれた鋭さはなく、ゆっくりとした動きだった。

 触手が向かう先にあったMi-55D輸送ヘリは、触手に絡めとられる前に離陸し、高度を上げていく。

 

 『アスカ!今よ!!!』

 「うぉりゃぁあああああああああ!!!」

 

 ミサトの合図と共に、アスカは第8使徒に向けて吶喊した。

 弐号機と第8使徒のA.T.フィールドがぶつかり合い正八角形の波紋が激しく明滅する。

 しかし、第8使徒は弐号機を意に介さず、離陸したMi-55D輸送ヘリ向けて伸ばしていく。

 

 「上等!アタシを無視した事を後悔させてやるわ!!!!」

 

 怒声に近い叫び声を上げならが惣流・アスカ・ラングレーは弐号機の頭を振りかぶると壁の様に立ちはだかる第8使徒のA.T.フィールドへ勢いよく頭突きをした。

 その衝撃で第8使徒のA.T.フィールドは弐号機により中和され、霧散していく。

 

 「ミサト!!!!」

 『撃て!!』

 『姫!離れてっ』

 

 葛城ミサトの太平洋艦隊への指示とマリ・イラストリアスの避難指示、そして弐号機がその場を飛びのくのはほぼ同時だった。

 

 轟音とともに幾つもの砲撃音が響き、A.T.フィールドを中和された第8使徒を砲弾の嵐が穿つ。

 その身体は損壊し、コアを覆う赤い液体は弾け飛んでいく。

 

 「凄い!効いてるよ」

 

 A.T.フィールドを失った使徒に通常兵器が効いていることに、碇シンジは思わず声をあげる。

 

 『いけるわ!次っ』

 『おっけ~。姫、投擲ルートを送ったにゃ』

 「了解!止めは任せなさいっ」

 『サポートはアタシにお任せってね。姫、投擲態勢を……いいわ、そこで完璧……今よ!』

 「とぉりゃぁああああああああ!!」

 

 弐号機が投擲した槍を防ごうと、第8使徒は新しい触手を形成するが、槍はそれらを容易く切り裂きコアを貫き、第8使徒は活動を停止した。

 触手は液状に変化しながら流れ落ち、槍に貫かれたコアは氷上に勢いよく落ちた。

 それと同時に第8使徒の身体が赤い液体となり、バシャリと氷上に落ちる。

 また、第8使徒が活動を停止した事で、第8使徒の力で作られた海氷もゆっくり溶け、崩れていく。

 

 『アスカ、そこからだと輸送艦に戻るのは間に合わないわ。弐号機をオーバー・ザ・レインボーの甲板に移動させて』

 「わかったわ」

 

 いくつもの海氷が溶け、擦れあう音が響く中で弐号機はオーバー・ザ・レインボーの甲板に移動して膝を抱えるようにして座らせる。

 

 「弐号機着艦しました!」

 「リベンジ成功だね」

 「ふん!なにそれ嫌味?」

 「ええええええ?なんでそうなるの?」

 「それより!なんか他に何か言う事ないの?」

 

 第8使徒を撃破して自身を取り戻したのか明るさを取り戻した惣流・アスカ・ラングレーはその長い髪を指でくるくると弄りながら碇シンジをチラチラと見る。

 

 「え……?あ、エヴァの操縦とか武器の取り扱いが上手くてびっくりした。僕は洋弓も槍も使ったことないからあんな事出来ないよ」

 「へ?アンタ、戦闘訓練とか受けてなかったの?」

 「うーん、近所の合気道教室ぐらい?訓練とかはエヴァに乗ってからだよ」

 

 惣流・アスカ・ラングレーは碇シンジの答えに唖然とした。

 碇ゲンドウが自分の実子である碇シンジをサードチルドレンとして密に育てていたとか、碇家は現代を生きるニンジャの末裔とか信憑性が高い噂から低い噂まで聞いてきたが、そのどれもが外れていた。

 

 「アンタも苦労してるのね」

 「はは、確かにそうだね」

 「そうだ、アタシの事はアスカでいいわよ。アタシもシンジって呼ぶから」

 「惣流さ……じゃなかった。アスカ、これから同じエヴァのパイロットとして宜しく」

 

 言葉と共に差し出された碇シンジの右手を、惣流・アスカ・ラングレーはそっぽ向きながら握り返した。

 

 「べ、別に馴れあいいとかそんなんじゃないんだからね。マリがチルドレン同士は協力しろっていうから」

 『ああ、夢にまで姫と王子のやり取り……悶え死ぬにゃ~』

 『はいはい、続きは外でやりなさい』

 「そうね、とりあえず外にでましょ」

 「うん……って待って!無理!これじゃ外に出れない!!」

 『シンジ君?何かあったの?』

 

 意味不明な事を口走るマリ・イラストリアスを放置して葛城ミサトはエヴァから降りるように2人に指示を出した。

 その時、碇シンジは大切な事を忘れていた。

 碇シンジが着用しているものは女性用のプラグスーツだ。

 思春期男子としてはその格好で大勢の前に出ることは出来ない。

 碇シンジの状況を正しく理解していない女性陣は頭に疑問符を浮かべている

 

 『あー……シンジ君、NERVの女性陣はデリカシーが無くてすまんな。今目隠しになるものと着替えを用意してもらうから待っててくれ』

 『は?あんた喧嘩売ってんの?』

 『だから、シンジ君は今何を着てるんだ?そのまま外に出たらどうなると思ってるんだ?』

 『あ……オホホホ。そんなの当然気が付いてたわよ!』

 『女装男子とか男の娘っていう文化が日本にはあるって聞いたにゃ』

 「じ、地獄だ」

 

 天からの助け船の如く、加地リョウジから通信が加わった。

 暈して喋ってくれてはいるが、その言葉から碇シンジが何故抵抗してるかを皆がわかってしまい、碇シンジは顔を赤くする。

 

 『アスカ、初めての実戦での使徒撃破、良くやった』

 「おじいちゃん、無事だったのね!ほんとは一撃で決めたかったのよ。恥ずかしいところ見せちゃった」

 『ああ、私は掠り傷一つ無いよ。使徒を撃破出来ているんだ気にしなくていい』

 

 冬月コウゾウとの通信に、惣流・アスカ・ラングレーは満面の笑みで対応している。

 それを目にしている碇シンジの胸中は複雑だった。

 碇シンジは実の親である碇ゲンドウからは労いの言葉は何もなかった。

 しかし、同じチルドレンである目の前の少女は違う。

 「おじいちゃん」と慕う冬月コウゾウから労いの言葉を与えられ、当然のようにソレを享受している。

 父親としての碇ゲンドウの事は見限ったつもりになっている碇シンジは、その感情が嫉妬である事に気が付けなかった。

 

 『待った!パターン青、使徒よ!!』

 『なんですって!?』

 

 鳴り響く警告音と共に響くマリ・イラストリアスの声。

 

 ばしゃり

 

 周囲に響く液体の音と共に、太平洋艦隊を拘束していた海氷が一斉に赤い液体に変化し、青い海へ染みのようにが広がった。

 

 

 ■■■

 

 

 Mi-55D輸送ヘリに登場し太平洋艦隊の上空にいた水尾ツバサは、弐号機に撃破された第8使徒を見て安堵していた。

 

 「すげーなエヴァンゲリオン!あー、助かった」

 

 やれやれと手で顔を仰ぎつつ下を見ると、弐号機がオーバー・ザ・レインボーの甲板に移動し、体育座りをしていた。

 

 「どうします、戻りますか?」

 「いや、このまま日本に向かってくれ」

 「了解しました」

 

 再び海上を見ると微かな違和感を感じた。

 何事かと目を凝らすと、何かと目があったような恐怖が水押ツバサを襲った。

 

 「嫌な感じがする。急いでここから離れてくれ!」

 「は?目標は撃破したんですよね?」

 「いいから!!あ、いや……もう駄目だ……」

 

 海に広がっていた赤い液体がMi-55D輸送ヘリに向かってせり上がり、跳ねる。

 海上を跳ねた赤い液体は巨大な白い深海魚のような姿に変わっていた。

 ソレはMi-55D輸送ヘリへ向かってその咢を開く。

 無数の鋸状の歯と血のように紅い口内、その奥は巨大な深紅の球体があった。

 

 水押ツバサは恐怖に竦む身体を丸め衝撃に備えた。

 

 「先輩……お先です」

 

 咢が閉じ、光が消える。

 凄まじい轟音と衝撃と共に生じた痛みに呑まれ、水押ツバサの意識は途絶えた。




水押くんは名無しの黒服にしようと思ったのですが、
突発的に追加したのでキャラが行方不明になりました。
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