蕃神   作:名無しの海

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5'ー3 唯一つ、求めたモノは'

 減った減った腹減った。

 という事で念願のお昼タイムを手に入れたゾ。

 お弁当もってお昼ご飯~

 レイも誘って食堂に乗り込んだ俺は、レイには席に座っててもらって2人分のお茶を取りにいってたんですが、戻ってきたら問題勃発ですよ。

 そう、レイの前に広げられてるのは大小様々な錠剤やらカプセルが詰め込まれた大きなピルケースが置かれていた。

 

 「……ソレはナンデスカ?」

 「昼食」

 

 絞り出すような声で問いかける俺に、一言のみ返すレイ。

 いやーレイさんっぽいですね!

 っていやいや「昼食」じゃねぇよ!

 

 「いや、お弁当あるから……てなんでそんな驚いた顔するの?」

 

 レイの目の前にでんっと風呂敷に包まれた弁当を置いたら、お弁当を持って不思議そうな顔で見られてしまった。

 

 「碇君、今日いないから」

 「いや、シンジが居なくても俺が作るって。自分の分しか作らないような薄情な人間じゃないからな俺はー。ほら、それ仕舞って弁当食え食え」

 「けど、私……」

 「あぁ、レイの分は肉抜きにしてあるからな」

 

 だからびっくりした顔すんなって!

 

 「こういう時は「ありがとう」て一言だけ言ってくれればそれでいいから、そんな顔されると俺の繊細なガラスハートが傷つくから!」

 「カイ君……有難う」

 「俺もレイって呼び捨てにしたんだから、レイも「君」は禁止な」

 「そう……カイ、有難う」

 

 んんんん……。

 このシチュはちょっとにやけるな。

 レイの口角が微笑むように上がって見えたのは自惚れかね。

 シンジほどじゃーないけど、最近ではレイの感情の変化とかがわかるようになってきた。

 シンジの察し力は俺には無理っす。

 あれはなんだ、血とか遺伝子とか何かが成せる技なのかね。

 そのせいか、初めの頃は恐かったリアル無表情レイのちょっとした表情の変化でも可愛くみえる。

 

 「どういたしたしまして。そうだ、レイは30回ぐらい噛んで食べろよ」

 「30回噛むといいと言われてるわね……」

 「いや、不満そうな顔するなって。ゆっくり食べた方が消化にいいんだよ」

 

 レイは錠剤とか栄養剤的なのとかリツコさんの調整で生命維持していて所謂ちゃんとした固形物の食事は食べてなかったと仮定すると、ゆっくり噛んで食べる事を教えた方がいいのかなって、兄心的な!

 ほら、普段錠剤とかゼリー飲料ばかりだと顎とか胃袋とか大丈夫なのか心配じゃんか。

 

 レイはお箸を持つと、野菜炒めを一口分とり、口に運ぶ。

 ゆっくりと噛みしめるように、数を数えるように咀嚼している。

 その姿を見て満足すると、空腹が限界になってきた俺も自分の分の弁当を食べ始める。

 

 「カイ、30回食べないと駄目」

 「……スミマセン」

 

 淡々と指摘されてしまった。

 いやまぁ確かに自分が言った手前、レイの前ではそうすべきかなぁ。

 

 

 ■■■

 

 

 昼を食った俺とレイは控室で絶賛待機中。

 次は零号機で試験だ! 

 俺は初号機しか乗ったことが無いからちょっと緊張する。

 初号機の試験の時は、レイ単独、俺とレイ同乗だったけど、零号機は順番が逆で最初に俺とレイの同乗、俺単独だ。

 俺単独のタイミングでレイは他の用事があるらしい。

 んー……身体の調整……なのかなぁ……。

 

 室内のモニターは映し出された零号機をぼんやり眺める。

 十字の形状をした新型の拘束具に固定されているその様は、まるで罪人のようだ。

 

 「どうしたの?」

 

 零号機を見つめていた俺の隣にいつのまにかレイが立っていた。

 

 「や、零号機が十字架に磔られた罪人みたいだなーって」

 「真希波博士が開発した新型の拘束具と聞いているわ」

 「暴走もなんなく抑え込む安心安全の装置ですって感じなのかね。けど十字架って不穏じゃね?」

 

 レイさんお返事ありません。

 ちらりと横を見ると考え中ですみたいな感じで少し首を傾げている。

 

 「いや、あれじゃ磔刑じゃん。ちょっとびびる」

 「恐いの?」

 「本能的な恐怖っていうのかな。これから刑を執行される気持ちになるというか」

 「……そう」

 「まぁ痛いのは任せときなさい、フィードバックは俺担当だから!」

 

 あ、痛いのは嫌いですよ?

 俺は痛いのは嫌いです。

 大事な事なので二回言いました。

 痛いのも辛いのも恐いのも基本的に駄目なんですぅ~。

 あ、汚いのも嫌だな!

 

 ん?

 レイが俺の右手を取っ……はぁ!?

 ちょっとレイさんが俺の手を自分の胸の中心に押してあててるんですが意味がわかりません。

 

 「レ、レイさん?」

 「心臓の鼓動が、トクトクしてて、その度に暖かかった」

 

 うーん……しんきんぐたいむ!

 ちっちっちっぴーん!

 

 あー、午前中のアレか……?

 思わず苦笑してしまった俺を、レイが不思議そうに見つめている。

 俺は左手で、俺の右手を抑えるレイの手をそっと外すと、右手をレイの胸から離してそのまま頭を撫でる。

 レイはちょっと驚いたような表情を浮かべると、俯いてしまった。

 恥ずかしがるポイント違くね?

 うーん、ちょっと距離が近くなると小さい子みたいで可愛いなぁ。

 

 「ありがとな。けど男の手をそんな風に胸に押し当てちゃ駄目だぞ。俺がオオカミさんだったらどうするつもりなんだ全く」

 「カイは人間よ?」

 「いや、オオカミさんというのは例え話でだな、好きなやつ以外に不用意に身体を触らせちゃ駄目だぞ」

 

 小首を傾げなら不思議そうに聞かないで欲しい!

 赤ちゃんかな?

 全く保護者がちゃんと性教育的な事を……という所で思考が止まる。

 綾波レイは道具だから、使い道が決まっているからソレを知る必要が無いのだと。

 

 俺の右手に捕まれたレイの細い手首。

 そこから伝わる柔からな体温。

 生きている人間の暖かさだ。

 

 それなのにレイは碇ゲンドウの道具なんだ。

 もし、死んだとしても幾らでも変わりが作れる道具。

 それが、何故か悔しくて歯を食いしばる。

 そんな俺の頬をにレイが手を添えた。

 レイの行動と掌の柔らかさに目を瞠る。

 

 「どうしたの?」

 「な……んでもない。そろそろ時間だ、行こうか」

 

 俺は掴んでいたレイの手を離すと、俺の掌から消えて行くレイの体温が名残惜しくて、掌をぎゅっと握りしめた。

 

 

 ■■■

 

 

 エントリープラグのインテリア。

 初号機の時と同じくレイが前席で俺が後席。

 エントリープラグ内はまだ暗い。

 

 リツコさん達の準備が出来たら零号機に挿入、L.C.L.注水なんだ……けど、暗い中で前傾状態ってのがちょっと恐い。

 いや、ビビッてないよ?

 ちょっと怖いだけだ。

 ホントだぞ?

 いや、けどなんか寒気がすんな。

 

 「あーレイ、レイさん?」

 「どうしたの?」

 「ちょっと寒くない?」

 「寒くないわ。赤木博士、カイが寒いと言ってるわ」

 

 あ!

 ちょっと!

 その報告要らないから!!

 

 『レイ、貴方……マヤ、フォースチルドレンの状態は?』

 『はい。体温、脈拍ともに正常です』

 『だそうよ。貴方たちいつの間に名前で呼び合うほど仲良くなったの』

 「仲良く……わからないわ」

 「レイ酷い!俺のガラスハートが砕け散るから!初号機乗った後に色々話をしてお互い名前呼びになったんですよ」

 

 レイさん素っ気なし。

 さっきはあんなにイチャイチャしてたのに。

 レイの事だから「仲良く」って言葉の基準がわからないとかなんだろうなぁ。

 頼むからそうであってくれー。

 

 しかし、体温も脈も正常だし緊張でもしてんのかなぁ。

 いや……

 なんか鼓動?心音聞こえね?

 

 「レイ、なんか聞こえね?」

 「……私には何も聞こえないわ」

 「なんか、こー不穏っていうか嫌な感じがすんだよね」

 

 落ち着かない。

 奥底から誰かがじっと覗いているような感じ。

 そわそわする。

 

 「あー、リツコさん!一旦外にでたい!」

 『どうしたの?もう始まるわよ』

 「そ、そうだ!トイレ!トイレいきたい!!」

 『ちょ、ちょっと待ちなさい!』

 

 ココは嫌だ。

 ココは恐い。

 まるで巨大な怪物の舌の上に乗せられているような感覚。

 ココからハヤくニげろと頭の中に警鐘が鳴り響く。

 我慢できず、脚を覆うインテリアのカバーを外して立ち上がろうとしたその時、エントリープラグが勢いよく零号機に挿入された。

 落下するような速度に俺は慌ててインテリアにしがみつき、レイが短い悲鳴を上げた。

 

 「リツコさん!酷い!!」

 『違うわ!こっちは何もしてないの!!マヤ!』

 『エントリープラグ排出……出来ません!L.C.L.注水始まります!そんな……どうして!?』

 『これはこれは、面白いことになってきたかな?』

 『真希波博士!こんな時に何を言ってるんですか!』

 

 スピーカーから響く声が耳に入らない。

 噎せ返るような血の匂いと共に勢いよく流れ込んで来たL.C.L.が俺達を呑み込んだ。

 

 「うっわ……レイ、大丈夫か!」

 「私は大丈夫。これは……零号機?止めなさい!」

 『マヤ!実験中止、エントリープラグ強制排出!!』

 『駄目です、信号受け付けません!そ、そんな……プラグ深度120に到達!フォースチルドレンの精神汚染濃度危険域に突入します!』

 

 その時、クスクスと笑うような女の声がエントリープラグ内に響いた。

 スピーカーからじゃない、エントリープラグの奥底から聞えた。

 

 「っひ!や、イヤダイヤダ、く、来るな!こっち来んなよ!!!」

 『カイ君落ち着きなさい!そこには貴方とレイしかいないのよ!』

 「どうして!零号機、その人はダメ!!」

 「嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ、アあああああアイツが!!あ……やだ…やめろ!イヤダ俺を……あぁぁぁ……た、食べないでイヤダ食われたくないこんな終わり方はイヤダ!たす、助けてよ!嫌だこんなのはイヤダぁぁぁあああああ!!!!」

 

 

 ■■■

 

 

 ケイジに設置されている十字架の形をした拘束具に設置された零号機の頭部の上に光の輪が出現する。

 

 「光輪現象を確認!プラグ深度なおも進行!零号機からフォースチルドレンへの浸食止まりません」

 「ファーストチルドレンは!?」

 「計測器は全て正常値を示しています」

 「このプラグ深度で正常値を示すことが異常ね……電源カット、急いで!」

 

 コントロールルーム内に鳴り響く警告音の中、赤木リツコは伊吹マヤをはじめとしたオペレーター達に指示を出していく。

 

 「零号機電源カット……予備電源に切り替わりました。活動停止まで5、4、3、2、1、0……零号機停止しません!」

 

 予備電源の残量は0となっているが、なおも零号機の活動は停止しなかった。

 拘束具に固定された零号機は身じろぎ一つしないが、エントリープラグ内に存在するフォースチルドレンの浸食続けている。

 

 「赤木博士、このままでは零号機が覚醒する。Heilige Lanzeの使用を推奨します」

 「先輩!Heilige Lanzeを使ったらパイロットが!」

 「赤木博士も分かっているでしょう?ここで零号機が覚醒したらそのままサードインパクトが起きます」

 「言われなくても分かってます!マヤ、Heiliger Nagelの起動を」

 「今の状態のエヴァはHeiliger Nagelでは止められないよ」

 

 赤木リツコの決定に、真希波マリは呆れたように溜息をつくが、Heilige Lanzeの使用タイミングは赤木リツコに任せると言った言葉の通り、それ以上の異を唱える事は無かった。

 

 「Heiliger Nagel起動」

 

 オペレーターの操作によりHeiliger Nagelが起動する。

 拘束具の内側から打ち出された4本のHeiliger Nagelが零号機の手首と足首を貫いた。

 零号機の血が滴るHeiliger Nagelの赤い先端は4つに割れると錨の様な形状に変化し拘束具の内側へと引き込まれ、零号機の手首と足首にきつく食い込んだ。

 

 『がぁぁあああああああ!!!』

 『っく……あぁぁぁっ』

 

 スピーカーから響くのはフォードバックを受けた淡島カイと綾波レイの悲鳴。

 零号機の頭上の光輪は掻き消え、苦しそうに頭部を振りはじめる

 

 「ファーストチルドレンもフィードバックを受けてる?これはフォースチルドレンのキャパシティを超えるフィードバックが発生しているのか、それともHeiliger Nagelの影響か……ふふ、これは面白いね」

 「駄目です!零号機のフォースチルドレンへの浸食が止まりませんっ」

 「赤木博士、決断の時だよ。この段階の零号機はHeiliger Nagelでは足止めにしかなっていない。このままフォースチルドレンを零号機に食わせ、サードインパクトを引き起こさせるか、それともHeilige Lanzeを使用してフォースチルドレンとファーストチルドレンを殺して零号機を止めるか」

 

 聞き分けのない子供に諭すような真希波マリの言葉に赤木リツコは項垂れる。

 赤木リツコはNERVの研究者として、人類存続の為ならどんな非道も厭わない覚悟が出来ていたと思い込んで来た。

 

 コアの作成のために人の魂を取り扱う行為に手を染めた。

 碇ゲンドウの指示を受け、綾波レイの器も作っただけでなく、その後の調整も行っていた。

 

 これまでしてきた非道に比べれば、綾波レイの器を一つ廃棄し、淡島カイ犠牲にすることなど造作もないはずだった。

 

 脳裏に浮かぶのは淡島カイの成績が上がったご褒美にと強請られたデートと称されたジオフロント内の散歩と、赤木リツコでの研究室で行われたお茶会。

 ワックスでセットされた髪、普段の制服ではなく、デート用に新調したという小洒落た私服。

 「今日は!デートだから!手を繋いでくれるんですよね!!」と半ば強引に握られた手。

 すれ違うNERV職員からの好奇の目には「成績が上がったご褒美にデートして貰ってるんですよ!いいでしょ~」と笑顔で返していた。

 

 淡島カイに対して恋愛感情があるわけでは無い。

 友人でも、家族でも無い。

 それは自分に懐いてくる年の離れた弟か従妹のような。

 

 「Heilige Lanzeを使用します」

 

 淡島カイを自分の指示で殺す。 

 赤木リツコはきつく目を閉じたまま、戻ることの出来ない決断をした。

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