公園のベンチ。
そこに碇シンジと惣流・アスカ・ラングレーは腰掛けていた
互いに一言も喋ることがなく、公園には風に吹かれたのかブランコがきぃきぃと揺れる音だけが響いている。
どれぐらいの時間が流れたのか、先に口を開いたのは惣流・アスカ・ラングレーだった。
「あたしは、完璧な人間じゃないといけないのよ。」
きぃ
小さくブランコが揺れる音が響く。
惣流・アスカ・ラングレーは深く溜息をつくと、言葉を続けた。
「違うわね……あたしは完璧な人間でいたかったの。」
「それはどうして?」
碇シンジの問い返す言葉に、惣流・アスカ・ラングレーは碇シンジに視線を向ける。
碇シンジはその視線を受けても微動だにしなかった。
「優秀な研究者だったママが選別した優秀な精子から生まれたんだから、あたしはママの選択が正しかったと証明するためにも完璧でいたかったのよ。」
碇シンジは考える。
完璧って何なのだろうかと。
「完璧な人間」なんて、現実には存在しない虚構の理想なのではないかと。
「完璧な人間じゃなくてもいいんじゃないか。完璧じゃないから、僕らは、みんなで助け合えるんじゃない?」
その言葉に惣流・アスカ・ラングレーは一瞬だけ驚いたように目を丸くした。
「それマリにも言われたわ。完璧にならなくていい、足りないところを皆で助け合ってこその人間よって……マリ、あたしが困ってる時は飛んででも助けにいくって言ってたのに」
震える睫毛は、微かに濡れた瞳を隠すように覆う。
碇シンジには、勝気な少女の柔らかいところを隠すように見えた。
送り出される時に、淡島カイからかけられた言葉を思い出し、その唇を強く引き締める。
「だったら、今は僕が守るよ。」
驚いたように固まる惣流・アスカ・ラングレーの手に、自身の手を重ねる。
冷えたその手を守るように包み込む。
「けど僕は「完璧な人間」じゃないから僕のことはアスカが守ってくれたら嬉しいな」
はにかむ様に笑い、もう片方の手は所在なさげにそわそわと彷徨うが、照れたようにそっと自身の頬を掻いた。
「まるで告白ね」
突き放すような冷たい声には、どこか期待したような熱が潜んでいる。
「告白だよ。君が好きだ。」
閉じた瞼が、微かに震えた。
その瞼はゆっくりと持ち上げられ、怯えと期待が混じり合った瞳が、碇シンジの熱の籠った視線と絡み合う。
「言葉だけじゃないって証明できるの。」
挑発的な言葉とともに、再びその瞼を静かに閉じる。
それは、まるで何かを待っているかのようだった。
重ねた手をそっと握りしめ、もう片方の掌を惣流・アスカ・ラングレーのやわらかな頬に添える。
幾何かの空白の後、二人の間にあった、わずかな隙間が埋まる。
そして、そっと触れ合うだけの柔らかな感触を残し、静かに離れる。
「こんなの、子供のキスじゃない」
頬を赤くし、先ほど柔らかな感触を確かめるよう自身の手で触れながらも、惣流・アスカ・ラングレーは不満の言葉を漏らす。
「だからさ、使徒を倒して……」
「倒して……?」
惣流・アスカ・ラングレーは茹で上がった様に顔を赤くしている碇シンジに、続きを求めるようにその言葉を繰り返す。
「たから!……使徒を倒してさ、帰ってきたら続きをしよう」
「……エッチ」
求めた言葉を聴けて満足しながらも、思わずそんな言葉が吐いてしまう。
「はぁ!アスカが言わせたんだろ!?」
「知らないわよ!アンタが勝手に言ったんでしょ!」
先ほどまで空気が嘘のように、今までの勝気な少女が戻って来た。
「それでさ、返事は?」
「い、いちいち言わなくてもいいでしょ!」
「自分は言わせたのに?」
ニヤニヤと揶揄うような碇シンジの言葉に、呻きながらも観念してベンチから立ち上がると夜の公園で叫ぶ。
「もう!最低!信じらんない!好き。好きよ!馬鹿!最低!!」
「えぇ~、どっちなのさ」
「好きって言ってんでしょこの唐変木!あたしを選んだことを後悔なんてさせないんだから。逃げれるなんて思わない事ね!」
「ふふ、なんだよそれ」
鼻息荒く胸を張る惣流・アスカ・ラングレーに、とうとう碇シンジはその腹を抱えて笑い出す。
「フン。勝つわよ、シンジ」
「うん」
手を差し出したのはどちらからだったか。
夜の闇を蹴る足音が響く。
少年と少女の重なる手から伝わる熱は、確かに二人を繋いでいた。