第3新東京市立第壱中学校2-Aでびゅー!!!
実は全員パイロット候補という恐ろしい教室。
それはつまりみんな最低片親というしんどい教室。
そんな教室作ったら絶対噂になってんだろー。
そんな思いを馳せながら俺が何をしているかというと、折角アームホルダーも取れて身体の痛みも無くなってたっていうのに、右頬にぶち込まれたトウジの拳に激痛を感じながら校舎裏を吹き飛んでた。
いやぁ、空が青いなぁ……。
おかしい。
シンジとは事前にエヴァパイロットって事は秘密にしとこうなって言ってたのに、なんでこうなってんだ?
トウジとケンケンは中学生探偵か?
執念って恐い!
校舎裏につれていかれて「あ、シンジが殴られる」って思った瞬間、シンジとトウジの間に入り込んでそのまま殴り飛ばされて今に至る。
ゆっくり流れるこの思考は走馬灯かな?死ねるかな?
中学生のパンチぐらいじゃ死なねーか。
まぁ、反抗期マシマシの中二男子だし可愛い妹が怪我して苛々MAXだろうし多少はね?おにーさんもその鬱憤をはらすためにちょっとぐらい痛いの我慢してやろうと思ったんだけど、がっつり痛いわこれ、口の中が切れてるかもしれん。
本当に後悔しかない。
あ、シンジがトウジのこと殴り飛ばしてる。
「なんやこら!ワシはお前らを殴らないかんのや!」
「僕たちには君たちに殴られる理由はないけど、僕が君を殴る理由はある!」
「ふざけんな!」
「お前、カイの事を殴っただろ!!」
思わずぽかんと口を開けて2人を眺めてしまう。
なんだ、青春漫画か?
シンジは殴りかかってくるトウジを軽くいなして投げ飛ばす。
しかし、それでもめげないトウジはシンジに飛び掛かってはまた投げ飛ばされるを繰り返していた。
口の中で溜まった血を地面にぺっと吐き出すと、眼鏡男子のケンケンこと相田ケンスケが話かけてくる。
「悪いね、トウジの妹さんがこの間の騒ぎの怪我で入院しちゃって荒れててね。血でてるけど大丈夫?保健室連れてこうか?」
「んー、俺は大丈夫。あっち加勢しなくていいの?」
「僕は別に何か恨みあるわけじゃないしな。それに、アレは加勢しても指一本触れずに終わりそう。勝てない喧嘩をするヤツは馬鹿でしょ」
を、ケンケン辛辣ぅ
まぁ、これはトウジの事を馬鹿にしてるといより、自分は勝てないと判断したから手は出さない、って意味だろ。
「けどあんな強いならわざわざ君が殴られなくても良かったんじゃない?」
「いや、あの距離で不意打ちみたいなもんだからたぶんヒットしてた。あと一発殴られてやったらお前の友達も満足してくれるかなーって期待があったんだけどな」
「そっちの友達が反撃してくのは想定外だったのか」
「っそ。てかあれどうやって止めるか。お前、友達のこと止めれそう?」
ちょっと期待を籠めた目でケンスケを見ると、無理無理と手を顔の前でふられてしまった。
「ところでパイロットってマジ?本当にパイロットならお近づきになりたいかなぁ、色々教えてもらいたいし!!実際どうなの?」
ああ、そうだな、ケンスケはエヴァ乗りたいマンだよなぁ。
それが最悪の結果で終わったのが漫画版だっけか……。
叶うなら、こいつらはシンジの良い友人、三馬鹿トリオで終わって欲しい。
「ご想像通りだよ。けどそんないいもんじゃないぞ。こうして殴られたりするし……諜報部のみなさぁーん、時間の無駄なんで高見の見物辞めてさっさと2人を止めてください~」
後半は、シンジと俺の見張り兼護衛への要請だ。
監視カメラも盗聴器も使ってるだろうし、さっさと介入して欲しいもんだ。
視界の端から黒服がゆっくり近づいてくるのが見える。
のろのろ歩いてんじゃねぇよ!
走れ!
ほんと、NERVの諜報部はイメージ悪すぎ。
■■■
「転校初日にシンジ君とカイ君がクラスメイトと喧嘩したんですって?」
場所はいつもの赤木研究室。
兵装ビルの復旧状況や、カイからリクエストのあった白兵装備の実現可能性についての会話がひと段落し、チルドレンの情報共有に会話が移ったところだった。
「カイ君が一発顔に貰って、シンジ君が相手の顔に仕返しとばかりに一発いれた後は、殴りかかってくる子を一方的に投げ飛ばしてたらしいわ。合気道習ってたって報告はあったけど、シンジ君が一回も打撃を受けてないのは凄いわね」
「呆れた。関心してる場合じゃないでしょ。諜報部は何してたの?」
赤木リツコの言葉に思わず言葉に詰まる葛城ミサト。
その諜報部の事で淡島カイからお小言をいただいていたのだ。
「ユルシテリツコ……それカイ君からも延々と苦情を言われたの……。干渉しすぎて友達が出来ないのも良くないと思うんだけどねぇ」
「報告書、私も見たわよ。シンジ君が一方的に相手の子を捌いていたとはいえ、カイ君が要請をだすまでまったく動かないのは問題ではなくて」
「カイ君が諜報部に気が付いていたのも問題よ……ほんとなんなのあの子……」
頭を抱える葛城ミサトに、赤木リツコが抱く感想は「自分から引き取ったのにもう弱音か」といった容赦のないものである。
とはいえ、ここで親友を見捨てるほど薄情でもない、適度に愚痴らせてストレス発散させて上げようという友情はあった。
「その様子だと他にも何かあったのかしら?」
「クラスメイトとの喧嘩の後ね、たまたまカイ君が1人でいる時に上級生に絡まれたんだけど……半殺しにしてくれたわ」
葛城ミサトの口から零れた想定外の言葉に赤木リツコも思わず資料を捲る手がとまる。
「それは穏やかじゃないわね」
「本当よ、複数人で絡んで来た上級生を全員ノして気絶してる子の上に馬乗りになって殴り続けてたらしいわ。これはまずいと諜報部が慌てて止めに入ってやっと殴るのを辞めたのよ」
一度言葉を区切ると盛大に溜息をついたあと、珈琲に口をつける。
「クラスメイトから殴られたときはそんな事しなかったんでしょう?カイ君は何か言ってるの?」
赤木リツコは当然抱くであろう疑問を口にした。
直前にクラスメイトに殴られたときは、淡島カイ自身は反撃をしていないのだ。
「あの子、止めに来た諜報部にね、『見てるのに止めに来ないから殺していいのかと思いました』って言ったのよ。あと『上級生だからクラスメイトじゃないし、必要無いかな思って』ですって」
「それ、本当にカイ君が言ったの?」
「そう思うでしょ~。普段の彼からは全く想像つかないわよね。録音聞いたあたしも信じられなかったわ」
今まで葛城ミサトが見てきた淡島カイは、ちょっとお茶らけてやんちゃだけど親友の事を大事にする少年だったが、そのイメージを見事にブチ壊す感情の色を感じさせない冷たい声音に葛城ミサトは衝撃を受けていた。
「これはちょっちあたしには厳しいわ~と思って、保護者仲間の冬月副指令に即連絡をとったらサクっと揉み消してくれたわ。それはもう躊躇なくお金で解決。諜報部には今後もめ事があった場合は即介入の指示、カイ君とも話をしてくれるらしいわ」
「ちょっと、貴方も保護者を名乗り出たんでしょ」
「それはそうだけど、子供の教育手法なんて、そんな経験も訓練も受けたことないんだから人生の先輩兼保護者仲間に頼るしかないじゃない……」
項垂れる親友にさすがに赤木リツコも追撃を控える。
「どっちが本当のカイ君なのかしらね。京都の調査はしているんでしょう?」
「京都時代は綺麗なものよ。本当にちょっとした喧嘩があったぐらい」
「葦船家が綺麗にしたってことはあるんじゃないかしら」
「それでも……よ。綺麗に洗ったとしてもNERVがその痕跡も見つけられないというのはさすがに考えにくいわ」
葛城ミサトは国連直属の組織が一国家の一派閥に諜報戦で手も足も出ないということはさすがに無いと信じたかった。
「ああ、そうそう。調べてて分かったんだけど、カイ君って小学校の頃にトラックに轢かれてるのよね」
「なんですって?」
「なんと、轢かれた理由がシンジ君に向かってトラックが突っ込んで来たからシンジ君を突きとばして代わりに自分がっていう……ね。トラックの運転手は即死、カイ君は奇跡的に擦り傷程度だったけど検査入院」
「トラックの運転手が即死するような事故で轢かれた子が擦り傷なんてありえないでしょ!」
葛城ミサトは赤木リツコの言う事も最もだという思いからその言葉に頷く。
だが、この件については碇シンジにも確認済だ。
「本当よ。シンジ君にも確認したわ。当のシンジ君は突きとばされた時に気を失っちゃったらしいけど」
「信じられないわ……」
「それはあたしもそうね。けど事実としてそう記録されてるのよ。シンジ君も事故の事を気にしている感じだったけど嘘はついてないと思うわ。さすがにこれ以上葦船家の縁者を探るのは蛇が出てもまずいんで調査は打ち切り」
「碇指令と冬月副指令は何か言ってきているの?」
「『問題ない』ですって」
葛城ミサトはその時のゲンドウの口調を真似たが、気持ちとしては正直問題しかないのでは?というところであった。
「シンジ君にはカイ君のことを聞いてみたの?」
「それがね~『ミサトさん、また僕を揶揄おうったってそうはいきませんよ。カイがそんな事するわけないじゃないですか』ですって!」
「ちょっとミサト!『また』って貴方なにやってるの?」
「え?今食いつくところそこ?」
論点が変わり慌てる葛城ミサト。
だが喰らいついた赤木リツコは逃さなかった。
「冬月副指令がぼやいてたわよ。『いや、耳にはしていたがまさか葛城一尉があそこまで家事が出来ないとは……集団生活として分担はしたいのだがどうしたものか……』ですって」
「え?それ、副指令本部内でぼやいてるの?」
自分の生活態度が全NERV本部職員に知られてしまうのではとさすがに慌てる葛城ミサト。
「貴方まさか、家事を全部冬月副指令やシンジ君達に押し付けてるんじゃないでしょうね」
「しょ、しょうがないじゃない!朝は起きれないから朝食作れないし、というか台所に立つことは禁止されてるのよ!」
「ミサト貴方……せめて掃除は頑張りなさい……」
「わ、わかってるわよ。私だって何か出来るはずなんだから!」
叫ぶ葛城ミサトの声と重なるように本部内に新たな使徒の出現を告げる警報が鳴り響いた。
主人公の『上級生だからクラスメイトじゃないし、必要無いかな思って』の意図は「パイロット候補にもならないんだからいなくなってもNERVだって困らないでしょ」ということです。