ひめみこ   作:転々々

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あの子との出会い

 こんなきれいな子がいるんだ……

 

 それが初めて見たときの印象。

 

 

 

 始業式の日だった。

 クラスのメンバーは八割がた変わっている。と言っても、ほとんどの名前は見たことがある。去年の体育祭(運動会)準備で名簿を見ているから、名前だけは大体知っている。

 

 名簿の中に見慣れない名前があった。

『小畑 昌』、転校生かな? どんな子だろう?

 教室にそれらしい姿は無かった。始業式を終えて出席番号順に座ると、私の前の席が空いている。『小畑さん』、今日はお休みかな?

 

 

 

 それは藤井先生の自己紹介が終わった後だった。

 

「それでは、皆さんにも自己紹介して貰いますが、その前に、気になってることがありませんか?」

 

「その席!」

 

 声の主は三枝(さえぐさ)男バス(男子バスケットボール部)のお調子者だ。うん、私も気になっていた。

 

 藤井先生によると、その子は病気の治療で長いこと海外にいたらしい。そして治療の副作用で外見が私たちとは少し違うそうだ。

 初めからではなく先生がわざわざ断ってから教室に入れるなんて、余程の外見なのかも。病気で外見が変わるって、女の子にとっては、いえ、男の子でも、ものすごく辛くて大変なコトに違いない……。

 

「それじゃ、小畑さん、入って下さい」

 

 教室の戸が開き、女の子が入ってきた。

 私は少し構えてしまった。でも、それは良い意味で裏切られた。

 まず目をひいたのはその真っ白な髪。そしてほっそりとした(からだ)に小さな顔。黒目がちの大きな目。その目は蒼かった。

 

 こんなきれいな子がいるんだ……

 

 黒板の深い緑の中に、真っ白い髪と同じく白い肌の顔、背景とのコントラストからか、淡い光を纏っているようにさえ見える。それがあの子の姿を一層神秘的にしている。

 男子だけでなく女子の大半も彼女に見とれている。こんなとき大騒ぎしそうな三枝まで、呆けた様に口を半開きにして見ている。

 

 年明けぐらいからだろうか、噂になっていたのは彼女に違いない。見かけたらしい男子が「天使がいた! 妖精がいた!」と騒いでいたけど、それも言い過ぎじゃない。

 

 その『天使』は、藤井先生の隣まで来ると自己紹介を始めた。

 

「初めまして。小畑 昌といいます。

 こんな色の髪と目ですけど、日本人です。

 よろしくお願いします」

 

 先生の説明によると、小畑さんは治療の副作用で色素を作る力をほとんど失って、白髪に蒼い目という外見になったそうだ。病気や治療の中身については触れられなかったけど、白髪になってしまうほど大変な治療だったのだろう。

 

 その日はそれ以上の話は無く、彼女と話すことも出来なかった。正直、小畑さんの外見に気後れしてしまって、声をかけられなかった。明日こそ声をかけよう!

 

 バスケ部のメンバーとお弁当を食べているときも、小畑さんの話で持ちきりだった。特に男バスの連中は、何とか接点を持とうとしているようだけど……、肝心の三枝が半分腑抜けになっている。そうなるのも分からないではないけどね。

 

 

 

 翌日の身体計測では小畑さんとペア。彼女と話す機会が出来た!

 

 彼女は先生が言っていた通り、同年代の人に慣れていないみたいだ。そして感性も違う。自分の肌を見られたときより、私の肌を見たときに恥ずかしがっている。

 

 彼女は、そのほっそりとした躯の割に、意外と体重があった。でもシャツを脱いだ後ろ姿を見て納得、明らかに鍛えた身体だ。私も鍛えているから判る。あの身体は一朝一夕にはつくれない。

 どんな病気をしたかは分からないけど、病後は相当に厳しいリハビリをしたに違いない。

 

 その後、ジャージに着替えた彼女を見て更に驚いた。

 脚が長い!

 私より十センチほど背が低いのに、腰の高さがほとんど同じ。日本人離れした体格だ。

 

 それを見て、私は思わず失言をしてしまった。スタイルを誉めるつもりで「外人みたい」と口にしたのだ。きっと彼女はその髪や目の色を気にしているに違いないのに。せっかく仲良くなれそうだったのに。

 

 でも、そんな私を昌ちゃんは笑って許してくれた。ううん、笑ってはいたけど、その笑顔はぎこちないものだった。本当は、気にしてるんだ。きっと。

 

 

 

 家に帰ってから、お母さんに新しい友達が出来たことを話した。

 

「珍しいわね、由美香が外見のことから話すなんて」

 

「だって、本当に美人だよ! スタイルもすっごくいいし」

 

 小さい弟と妹がいることや、三月まで病気療養だったことを話していたら、お母さんは意外なことを言った。

 

「その小畑さんって子、もしかして、銀色の髪の、とってもきれいな子じゃない?」

 

「知ってるの? 髪のこと、言ってないのに」

 

「見たこと無いけど、話には聞いたことがあったのよ。結構、噂になってたし」

 

 

 

 お母さんから聞かされたのは、かなり重い話だった。

 

 昌ちゃんの実の両親は既に他界していて、今は実父の家に継母と暮らしていること。当然、弟や妹とは母親が違うこと。現在同居している家族とは帰国して初めて会ったらしいということ……。

 

 今でこそ、本来の銀色の髪で生活しているけど……、初めは黒髪のウィッグを着けていたそうだ。それでも目を惹く美しさで、買い物客の間ではちょっとした噂になっていたらしい。買い物に来る時間が時間なので、ワケ有り――不登校とか――だとも思われていたようだ。

 

 ところがあるとき、何かのひょうしにウィッグが取れてしまい、彼女の銀髪が露わになった。そのときに、彼女が父の通夜で倒れかけた銀髪の少女だということが知れた。――通夜の一幕も、彼女の容貌と相まって、あちこちで話の種になっていた。

 

 

 

 昌ちゃんは、大きな病気をしただけでなく両親も失っている。自分だったら耐えられただろうか? 絶望してしまったんじゃないだろうか……。

 

 お母さんは「いいお友達になれるといいわね」と締めくくった。

 なりなさいでも、なって上げなさいでもない。

 

 うん。きっとなれるよ。

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