ひめみこ   作:転々々

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疑惑?

「ねぇねぇ、本当に男のコ? ボクって言わないの?」

 

 部外者的には面白いんだろうけど、いろんな意味で当事者な私にとっては、触れてもらいたくないところだ。

 何度説明しただろう。『ボク』は危険人物二人に調教された結果だ。キャラなんか作ってないし、むしろボクキャラの方が作ってる方だと思うんだけど。

 

「じゃぁ、どっちが本当の昌ちゃん? さっきのお姉さん方としゃべってるときが地なの?」

 

「でも、さっきの方が自然な感じがするよね。昌ちゃん、普段はあまり感情を見せないもん」

 

 由美香ちゃんまで!

 

 でも、そうかも知れない。沙耶香さんは私のことをフォローし続けてくれたし、神子のみんなも受け容れてくれた。だから、()の自分をある程度出すことができた。

 でも、学校では……。

 嫌われたくない、受け容れられなかったらどうしよう、そういう気持ちが先に立って、常に一歩引いていたかもしれない。

 

「私は、人見知りだから……」

 

「その辺は、追々慣れていけばいいんじゃない?」

 

 由美香ちゃんは本当にいい子だ。

 

 

 

「紬としては、昌クンが男のコかどうかが気になるのですよ」

 

「男の子って……、まさか私のこと女装して女子として暮らしている男子とか考えてる?」

 

「そう! 男のムスメと書いて『男の娘』なのです!」

 

「それは、現実的に無理でしょ」

 

「無理を通すから『男の娘』なのですよ。ロマンが分かっていないのです」

 

 浪漫って言った。そんなしょーもないことに浪漫って言った。言葉の使い方が違うよ。

 

「それは無いわね。私、昌ちゃんが着替えるとこ見てるし、健診も一緒に受けてるよ」

 

「世の中には豊胸という手段もあるのです」

 

 そこまで人生賭けて女装する人なんていませんって。仮にいても家族が止めますから。

 

「ふふふ、今夜のお風呂で昌ちゃんの正体を確かめるのです。どんなブツが生えているか確認するのです」

 

 紬ちゃんは妖しく目を輝かせる。もしかして光紀さんと同じ人種なのか?

 

「生えてませんって!」

 

 そう言ったところで、思い出した。生えてないけど、確かに生えてないけど、生えてないのはアレだけじゃない! この不毛地帯を見られるのは恥ずかしすぎる!

 どうしよう? なんとかこのイベントを回避する方法は……。

 

 必死で考えるが、いい案が浮かばない。

 

 

 

 工場に着くと、まず会議室っぽいところで工場の概要説明になった。大半の部品は外注で、工場では組立がほとんど。でも、一部の基幹部品は、ノウハウや技術を維持するために内製している。

 

 映像による説明が終わって休憩時間。

 詩帆ちゃんが私の肩をつついて、小声で話しかけてきた。

 

「ねぇねぇ、最初に挨拶したお兄さん、イケメンだったよね。あの人、社長の息子らしいよ」

 

「ふーん」

 

 正直、風呂対策で頭がいっぱいで、半分上の空だった。

 言われてみれば確かに育ちの良さそうな顔してたかも知れない。でも、工場仕切るには頼りなさそうだ。

 

「あんまり興味無さそうだね。上手く付き合えれば、玉の輿だよ。優良物件だよ」

 

「玉の輿って、どう見ても一回りは離れてるでしょ。リア充イケメンが中学生なんか相手にしないし、したら犯罪でしょ? それに物件って、人をモノ扱いするのは……」

 

「ときにはそういう風に見る冷静さも必要なの。恋愛は恋愛、結婚は結婚。そこは区別! 昌ちゃんって、恋愛に夢見てるの?」

 

 詩帆ちゃんはいつになく力説する。こんな一面があるんだ……。

 

「そういうわけじゃないと思うけど……。

 それを言ったら、あの兄ちゃんは頼りなさそうだよ。能力はそこそこあるんだろうけど、多分頼み事を断れないタイプと見た。自分のキャパ超える仕事を抱えさせられて沈むタイプだよ。

 社長の息子なら部長ぐらいはすぐ行くんだろうけど、今のままじゃ、せいぜい課長どまりの器用貧乏かなぁ。どっちにしても経営者向きじゃなさそうだよ。当然、玉の輿もナシ」

 

「キッビシぃ」

 

「私は、イケメンには厳しいのです」

 

 

 

 私としてはリア充イケメンの品評よりも風呂イベント回避の方が重大事だ。考えるだけでお腹が痛くなってくる。トイレに行こうかな? と思ったところであることを思いついた!

 アレが来たから大浴場はムリって言い訳すればいい! 我ながらナイスアイディア。早速トイレに行こう。

 

 

 

「急にアレが来ちゃって、大浴場はムリだよ」

 

 いかにも済まなそうな顔で紬ちゃんに耳打ちする。我ながら完璧な言い訳だ。

 

「それはウソなのです」

 

「なんで?」

 

「昌クン、一昨日終わったばかりですね」

 

 何故それを! 私にはプライバシーがないのか? それとも紬ちゃんは犬並みの嗅覚の持ち主なのか?

 紬ちゃんは私の表情を一瞥して続けた。

 

「だから、天然と言われるのです」

 

「私は天然じゃありません! ……でも、どうして分かったの?」

 

「教えて欲しいですか?」

 

「教えて下さい」

 

「では、これからは一人称をボクにするのです」

 

「だから、それはヤだよ」

 

「なら、この社会見学の間だけ」

 

 うーん。二日間ぐらいならいいか。

 

「それぐらいなら……。うん。するから教えて下さい」

 

「『ボクに教えて下さい』です」

 

「ボ、ボクに、教えて下さい」

 

 恥ずかしい……。

 

 

 

 紬ちゃんはひそひそと話す。

 

 タネは単純だった。

 私はアレ用品を小さなポーチに入れてトイレに行くのだけど、ポーチをその期間だけしか持ち歩かなかったから。それに、今も持ってない。

 あとは、それを拠に揺さぶりをかけたときの反応も非常に分かりやすかった、らしい。

 見てないようで、見てる人は見てる。

 

「普段から持ち歩かないあたり、『天然』と言われても仕方ないのです」

 

 うーん。それは天然というより女子力、もとい、女子歴の問題だと思うのです。あ、思考に口調が伝染(うつ)った。

 あれ、私のことをそういう風に見てたってことは……、

 

「ところで、わた……、ボクのこと男の娘って言ってたのは?」

 

「そんなお莫迦なことを本気で考える人はいないのです。ちょっと狼狽(うろた)えている昌クンを愛でたかっただけなのです」

 

『愛でる』キター。ここに来てやっとテンプレな展開! でも嬉しくない。

 

「やっぱり昌クンは、お姉さん達の言うとおり、ド天然なのです」

 

……悔しい。女子中学生ごときに手玉に取られた。

 

「ボクは天然じゃありません!

 疑うことを知らない、ピュアな心を持ってるんです!」

 

 助けを求めて詩帆ちゃんを見たら、彼女は目を逸らした。

 

「ごめん。そこはフォローできない」

 

 それは私が天然だということですか?

 由美香ちゃん。もう頼れるのは貴女だけだよっ。

 

「うーん。まぁ、昌ちゃんは、きっと、すごく素直な心の持ち主なんだと思うよ」

 

 燃え尽きた……。見学が始まる前に燃え尽きたよ……。

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