ひめみこ   作:転々々

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テンプレ的な

「よっ、ねぇねぇ、君、一人?」

 

 振り向くと、大学生ぐらいだろうか? いかにもチャラい感じの男がチャラいことをアピールしてくる。

 コレってナンパなんだろうな。

 

 こういう場合、英語で撃退というのがテンプレだったはず。

 

『何かご用ですか?

 出来れば、私の母国語で話していただきたいのですが』

 

『え? どっちの国から? でも君、さっきは独り言、日本語でしてたよね』

 

 くっ、英語で返して来た。テンプレ役立たずだ。私が読んだ範囲のTSものでは、鉄板の撃退法なのに……。

 

 その後、相手が英語で来たら日本語で、日本語で来たら英語で返してるのに、きっちりこっちの言語に合わせてくる。チャラ男のくせに生意気だ。完全に拒否の姿勢に入ってるのに、この野郎は空気を読まない。

 

『どっちもいけるなんて、『舌使い』上手いんだね(意訳)』

 

 思わず顔が赤くなる。怒り七に羞恥三ぐらいだが、目の前のチャラ男は私の反応をニヤニヤしながら見ている。

 いや、教科書通りに訳したら穏当な表現なんだろう。けど、あの『してやったり』なニヤけ顔は、下品なことを考えてるに違いない。大学生ぐらいだろうに、中学生をナンパなんてロクな男じゃない。

 

 

 

『格』で威圧してやろうか? そう思ったときだった。

 

「その辺にしとかないかい? この子も困ってるようだし」

 

「なんだよ、おっさん。関係ないだろ」

 

「一応、この子の保護者のつもりなんだが」

 

 篤志(あつし)か? でも、何でこんなとこにいるんだ? 振り向くと、知らない男だ。目が合うと、ウインクする。野郎のウインクなんてキモいだけだ。

 

 ちょっと待て。これって『前門の狼、後門の虎』(正しくは虎と狼は逆です)ってやつ? いくらテンプレ展開がご無沙汰だったとは言え、コレはちょっとね。

 それにしても、二人に挟まれてるのは、中身がアラフォーのおっさんなんだけど、……知らぬが仏だ。

 

 いずれにしても、二正面作戦は(まず)い。とりあえず、前門の狼さんには早々に退場願うためにも、虎の威を借りておこう。

 

 

 

 二言三言後、チャラ男は仕方なく去った。

 

「ありがとうございます」

 

 一応の礼儀は尽くす。その後どうするかはこの人次第だ。

 改めて見ると、まぁイケメンの部類には入るんだろう。育ちの良さそうな顔に、ちょっと鍛えた身体だ。

 

「なに、大したことじゃない。アキラさん」

 

「あの、失礼ですが、どこかでお会いしたでしょうか」

 

 お通夜でかな? でも仕事関係でも見覚えが無い顔だ。

 

「あー、やっぱり憶えてないか。

 経営者向きじゃなさそうな、器用貧乏だよ」

 

「あ!」

 

 思い出した、工場見学したときの、社長の息子だ。私の失礼な評価まで聞かれてたんだ。

 顔の表面が熱くなる。

 

「そ、その節は、大変、失礼しました」

 

「ということは、本当にそう評したんだね。

 姉から面白い子がいると聞いて途中から混ざったけど、可愛い姿と可愛い歌しか見せてくれなかったから。本当にそんなこと言ったのか、気になっててね」

 

 どうやら、最初の説明の場でヒソヒソ話してたのを聞かれていたのだが、聞いていたのはよりにもよってこの兄ちゃんの姉だった。

 本人は本人で、そんな辛口評を家族以外の女性からされたのは初めてで、そこから興味を持ったらしい。って、M心(マゾっ気)でもあるのだろうか?

 

「どうかな? 私と食事でも」

 

「お誘いはありがたいのですが、今日は母と昼食なので。ここにも母と来てるんです」

 

「そうか、残念。じゃ、また次の機会に」

 

「そうですね。機会があったら是非」

 

 無いけどね。ま、社交辞令だ。

 

 

 

「今の、誰かしら?」

 

 悪戯っぽい笑顔で訊いてきた。

 

「こないだ、社会見学に行った工場の人。こっちは憶えてなかったんだけど、向こうはしっかり憶えてたみたいでさ。

 ……この髪は目立つから」

 

「ナンパかと思ったから、ちょっと妬けちゃった」

 

 そうか、妬けるのか。

 

 レジで待ちながらぼんやりと考える。奥から店員がボール箱を運んできてカートに乗せた。二人合わせてなかなかの高額お買い上げなので、レジ係はホクホク顔だ。

 車まで店員さんに運んでもらい、私たちは乗り込んだ。

 

 

 

「あの店員、あなたの脚ばっかり見てたわよ」

 

 車を出すと渚が憤り混じりの口調で言う。

 

「まぁ、仕方ないよ。男の子だもん。『私』だって、結婚前は君と会うたびに、そのぷりちぃなアンヨに視線が誘導されてたし」

 

「プリティじゃなくて?」

 

「うん。ぷりちぃ。しかも平仮名で」

 

「あなた、今の姿になってからの方が、シモネタに遠慮が無くなった気がするんだけど」

 

「言われてみれば、そうかもね。

 男女の間柄だったときは、やっぱり格好もつけてたし、それなりに言葉も選んでたけど、今はこの身体だだもん。渚だって、女性だけのときと男性が混じったときで、言葉や話題が違うでしょ?」

 

「まぁ、そうだけど。

 話を戻すけど、あなた、脚ぐらい見られても減るもんじゃないって思ってるでしょ。でも、減るの! 少なくとも、女の子はそういう心構えでいなきゃいけないのよ」

 

「の割に、こういう格好させるよね。それに、買ってくる服は脚が思いっきり出るし」

 

「そういう心構えを持った上で、脚を出して欲しいの。

 私はあなたのことが心配で仕方ないのよ……」

 

 

 

 ホテルのレストランは、どう見てもドレスコードはなさそうに見える。こんな服着なくても、いつもの五分丈パンツで良かったんじゃないかな。ヒールが無くても女物の靴はキツいし。

 食べていると、渚がさっきのことを蒸し返してきた。

 

「あなたが、ナンパされるとはねぇ」

 

「驚くことじゃないでしょ。『前世』でさえされたことあるんだからさ。

 それに、あれは困ってる私を助けてくれただけで、ナンパじゃないでしょ。第一、見た目は一回りほど離れてるし。社会人が中学生になんて、ロリコンでしょ」

 

「確かにあなたは童顔だけど、十分恋愛の対象になるんじゃない? 中学生のアイドルだっているし、見た目だったらまず負けないし」

 

「それって、母親が娘に言うことじゃぁないと思いますけど。実際のとこ、法に触れかねませんから」

 

「中身は十分大人でしょ。逆の意味で一回りぐらい離れてるんだから。見た目と中身を足して二で割れば、お似合いの年齢よ。

 助けられたお姫様がナイトと恋に落ちるなんて、定番中の定番よね?」

 

 何でまた色恋に繋げるかなぁ。

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