連休途中の平日、始業前の教室全体は、どことなく浮ついている。或いは眠そうな顔もチラホラ見える。
大手の製造業なら、十日~二週間程度の連休になるところだが、学校はカレンダー通りに営業している。
合宿以後、朝はいつものメンバーでおしゃべりタイムだ。
由美香ちゃんからDVDを受け取る。この数日で、劇場版の三部作を視終えたようだ。
「どうだった?」
「割と面白かった。でも、公国とザビ家の関係がイマイチ分からなかったかな」
その辺は紬ちゃんがじっくりと説明する。でも、その言い方だとシャアを主人公にした貴種流離譚みたいに聞こえる。
でも、この作品の魅力はキャラだけじゃないと思う。
戦争はそれぞれの立場で正義が異なることを明確に表現したり、国が戦争に負けて衰退していくのはこういうことだってことを、分かりやすく映像にしたのは、アニメではこれが初めてに近い。
そして、兵器はあくまで兵器で、手順を踏めば通常兵器で破壊できるものにしたことで、リアルロボット路線を開拓した作品だ。
これ以前はスーパーロボットで、通常兵器では傷もつけられない。同格同士でないと勝負にならなかったのが、この作品からはそうでなくなった。
主人公格補正が小さくなると同時に、兵站という概念が導入された
と、考えていたら……、話は推しキャラの方へ。
こういう話は、黙って聞いているだけの方が良いと思う。
うん。ハヤトは悪くないぞ。カイは、意外とああいうのがあっちこっちで女を作りそう。ブライトは、うーん、あの歳でちゃんと作戦指揮できたんだから大したもんだ。もうちょっと評価してもいいんじゃないかな? それに、割と常識人だし……。
紬ちゃんがニヤニヤしながら、由美香ちゃんにどのキャラが推しかを訊く。それは私も興味あるところ。周囲りの男子も聞き耳を立てているようだ。
さて、由美香ちゃんの好みのタイプは……?
「変わった人ばっかりだから、あんまりタイプの人は……」
由美香ちゃんは言葉を濁す。そこに紬ちゃんが食い下がると、根負けしたのか「シ、シャア」
まぁ、予想通りだ。
でも、このキャラ、話が進むにつれて、どんどん変になっていくし、マザコンのくせにマッチョ思想だ。絶対、部下である前に女であることを求めるタイプ。手当たり次第にヤってるに違いない。現代日本だったら、訴訟と慰謝料だな。
劇場版三部作しか視ていなければ、そういう選択もあるかも知れないけど、多分もうちょっと大人になったら、アムロの方がいいってなるだろう。彼はかまってちゃんだったけど、人間としてちゃんと成長している。
「そういう昌クンは、誰がいいですか?」
周囲りを見ると、ここでも聞き耳を立てている男子がチラホラ。
「あんまり、いい人って、出てないんだよね。
常識の範囲内という点ではブライトだろうけど、男として魅力があるかというと、ちょっとねぇ」
「憧れる人とか、居ないですか?」
例によって、紬ちゃんは食い下がる。
多分、私の好みとかを知りたいのだろうけど、そもそも男性をそういう視点で見られるかというと……。
「恋愛的な憧れるというと少し違うんだけど、憧れる
「「「え?」」」
三人は絶句する。確かに、この作品屈指の、女ウケ悪そうなキャラだ。まず見た目が悪い。
「いや、だって、ドズルは漢だよ!
上官には『戦は数だよ!』って食ってかかるけど、部下の前では『ビグザム量産の暁には』だよ! それに、
これはねっ、自分が兵の将ではあっても、将の将たる器じゃないって判っていて、そして弟の力を認めていて、自分はその下で働こうって、自分の力の範囲で頑張ろうって言ってるんだよ!
で、家族との
奥さんも、それを解ってグダグダ泣かずに行くんだよ!
ああいう奥さんを貰える漢なんだよ!
きっと、家では、娘にデレデレのパパなんだよ!」
あれ? 三人とも停まっている。
周囲りで聞き耳を立てていた男子も、聞いちゃいけないことを聞いた感じの顔。
もしかして、って言うか、確実にやらかした。
後日、私が年上好きどころか親父趣味ということになった。両親を亡くしている設定だから、年上好きのファザコンの噂まで。
そして、ランバ・ラルあたりも好みに違いないという噂も。
いや、ランバ・ラルはダメだ。「ザクとは違うのだよ!」と啖呵を切った割に、負けたときの負け惜しみがダメだ。
そっちに行くぐらいなら、アムロに行く。彼はかまってちゃんだけど、適切に構ってあげれば有能だし、稼げる男になる見込みが十分だ。