ひめみこ   作:転々々

87 / 88
写真

 中間試験は無事終わった。国語と社会では満点を逃したものの、総合では詩帆(しほ)ちゃんをおさえて学年三位。別に手を抜く理由も無い。

 それでも、中学生で私より上が二人もいるのか。『私』は大学出ているんだけどなぁ……。

 社会なんかは手を抜いたわけじゃ無いけど、知識の更新が足りなかった。きちんと教科書を読み込めてなかったようだ。次回は頑張ろう。

 

 

 

 数学で七十五点以下の生徒は、間違った部分を直した上で、課題を提出。そのノートを一組の分、何故か私が持って行く。私は満点だったのに、釈然としない。

 

 藤井先生にノートを持って行ったところを、馬淵(まぶち)先生に呼ばれた。確か、教科は理科。一度だけ科学部を覗いたとき以外、私と接点は無いはずだけど……。

 学校生活に慣れたかとか、放課後の生活について雑談をした後、改めて科学部に勧誘された。でも中学レベルじゃできることは限られている。液体窒素で遊んだりがせいぜいか。テレビでやってたみたいに、液体窒素でアイスクリームを作ったり、そういうのだったら参加してもいいかな。

 活動が週三ぐらいならアリかも、と思っていたら。

 

「前置きはこのぐらいにして。私、小畑さんのお父さんのこと、少し知ってるのよ。ある意味、私の人生を少し変えた人」

 

 え? 馬淵先生なんて知らないぞ。

 見たところ、二十代後半から三十代前半ってとこか。『私』とは少なく見積もって五年から、下手すれば一回りぐらい違うかも知れない。確かに女性の年齢は、見かけだけじゃ判らないけど。

 

「あの、失礼ですが……、父と接点があった(とし)には見えないのですが。上に見積もっても、せいぜい三十ぐらいでしょ? 父は、生きていれば四十近いはずですから……」

 

 一応、若めに言っておく。女性に対するマナーだ。

 

「そうね。普通なら接点が無い年齢差ね」

 

 馬淵先生はニコニコ笑いながら言う。うーん、思い出せない。どう考えても接点が無い。

 

「あ、昌ちゃん」

 

由美香(ゆみか)ちゃん」

 

 後ろから由美香ちゃんに呼ばれた。

 

「あ、馬淵先生。お話のとこ、すみません。杉本先生、どちらかご存じありませんか? 体育館の教官室にもいらっしゃらなかったんですけど、こちらじゃないですか?」

 

「あぁ、杉さんならあすこよ。もうちょっと待ってれば話しも終わるでしょ」

 

 指差した方向には、宮川先生となにやら話し込んでいるバスケ部顧問の姿。お礼を言う由美香ちゃんに、馬淵先生は「いぃえぇ」と応じると、悪戯っぽく笑いながら、机の引き出しから一枚の写真を取りだした。

 

 

 

「小畑さん。この人、誰だか判る?」

 

 見せられた写真には、制服姿の女子高生が六人と彼女たちに囲まれた私服の……。

 一瞬で記憶が繋がる。『私』黒歴史。

 

 あれは大学四年のとき。院試の前に教育実習のお礼をと高校に行ったら、帰りに実習をしたクラスの女生徒に捕獲され、学祭の余興で女装をさせられたのだ。

 始めはきゃぁきゃぁ言ってた女子生徒達だったが、化粧が進むにつれだんだん静かになっていった。ちょうどそこで私に声をかけて写真を取ったのが確か馬淵さん。十数年前の少女。

 

「へー。きれいな人。もしかして、昌ちゃんの親戚?」

 

 由美香ちゃんが写真と私を見比べる。

 

「うふふ。この人はね……」

 

「こっ、この人は、若い頃の伯母です! 父の姉です。親戚だから私と似てるんです! 私はお父さん似だから、伯母とも似てるんです!」

 

 慌てて馬淵先生の言葉を遮る。これ以上余計なことを言わないよう、目で訴える。何か言ったら『格』を全力以上で使うぞ!

 

「昌ちゃんの周囲(まわ)りって、美人が多いね」

 

「そ、そうかな?」

 

「そうだよ。やっぱ、血筋かなぁ。(つぶら)ちゃんもすっごくカワイイし、今度お父さんの写真見せてよ。絶対イケメンなんでしょ?」

 

「ま、まぁ、今度ね」

 

 意外と由美香ちゃんはメンクイだな。でも、期待を裏切りそう。

『私』は、いわゆるイケメンじゃなかったし。見せられる写真と見せられないのを仕分けしとこう、と思いつつ、部活に向かう由美香ちゃんを見送った。

 とりあえず、今度の読み合わせで集まるまでにしとかないと。

 

 

 

「どうしてあんな写真見せるんですか!」

 

「ってことは、あの写真の『女性』が誰か分かるわけね」

 

 知ってますよ。本人なんだから。

 無言の私をいたずらっぽく見る目は半笑い。

 

「多分、私の『父』ですね」

 

「さっすが! ちゃんと判るんだ」

 

「もしかして、先生、無理矢理女装させたんですか?」

 

「無理矢理じゃないわよ。途中からはノリノリだったんだから」

 

 いや、ノリノリなんかじゃなかったぞ。ステージでもすごく恥ずかしかったし、最優秀女装賞のときは肩身が狭かったんだから! 全く……、勝手に話を作って。

 

「……でもね。私、小畑さんのお父さんに、ちょっと憧れてたのよ。理系に進んだのもその影響。それを勉強したら、近づける気がしてね。

 で、気がついたらこの仕事、というわけ」

 

「へー。もしかして、初恋だったとか?」

 

「それは秘密。ご想像にお任せします」

 

 あ、頬を染めてクネクネしだした。三十過ぎてそれやるかな?

 

「じゃ、勝手にいろんなこと、想像しますよ。いいんですか?」

 

「いいですよぉ。ただし、どんな想像したか、ちゃんと教えてね。素敵な話だったら、即採用よ!」

 

 採用って……、何に採用するんだろ。そんなこと言われたら、変な想像できないじゃないか。あ、それが狙いか。

 

「で、初恋の相手に、女装させたわけですね」

 

「そこは、まぁ、ノリと言うか勢いと言うか」

 

 

 

 なんだか『私』の人生で遭う女性って、こういうのが多い。それとも、女性って本質的にこういうことが好きなのだろうか? いや、(なぎさ)は違って……、でも今の私を着飾らせるときはかなり楽しそうだ。

 あ、あの写真、没収すれば良かったな。名誉毀損と肖像権の侵害だ。名誉の回復と損害の補償を求めないと。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。