pixivより転載
可憐な少女を思わせる風貌だった。鬢削ぎの長い黒髪を括っている。戦国時代の姫君、と言われたら納得するだろう。しかし纏っている装束は戦国時代の武士のそれを簡略化したものだった。
「お初にお目にかかる。
戦国の記憶でドロップした彼が顕現されたとき、近侍だった薬研は思わず口にした。
「良い名前だな。約束事を守ってくれそうだ」
そう言われると、彼――金打は微笑んだ。かなしげな微笑だった。
「あぁ。私は約束は守る。必ず、……壊れてもな」
そして、彼は開いた障子の向こうの空を見上げた。
「良い空だ」
金打は口数の多い方ではなかった。
しかし戦働きは目覚ましい。恐らく極になったあともさぞかし優秀な働きを見せるだろうということは、審神者にも薬研にも想像に難くなかった。ただ、必要以上の殺生を嫌うところがあった。江雪や肥前と言う前例もあったので、そこは特に指摘されることはなかったが。
特に、部隊長を務めると遠戦を口にする。特に、銃兵について。
「たった1発の銃弾がすべてを変えることがあるんだ」
それが、戦での彼の口癖だった。
また、馬手差しを名乗る短刀男士にも関わらず、内勤でもそこそこに優秀だった。それについて薬研が問うと、彼は事もなげに言った。
「私を所有していた家系がサラリーマンだったんだ」
薬研は、このときはてっきり売買などをされた結果一般人の家庭に行きついた刀剣かと思ったのだ。
その上で、酒の席で尋ねたことがある。
「元の主はどんな人だったんだ」
金打は、目を瞬いた。そして、猪口を片手に微笑んだ。あの、かなしげな微笑だ。
「武功の目覚ましい方だったよ。……今の主の先祖に説得されたこととはいえ、人を殺さず人を助けてその上で誉を得た。そう言う方だった。だから」
不意に、言葉を詰まらせた。
「あんな死に方をするなんて思わなかったんだ」
薬研は、それ以上は追及できなかった。
追及しておくべきだった、と後悔したのはある戦場にて。
彼が破壊されるところを見てしまった。
あとでわかったことだが、直前の戦でお守りが発動し、それをそのまま彼も薬研も審神者も忘れていたことだ。このときはまだ部隊長が審神者に提言できる機能がなかった。
敵の太刀に胸に刀身を突き立てられ、仰向けに倒れる彼。駆け寄る薬研は金打の腕を引っ張って戦場の外に出したが――もう遅い。他の男士にも囲まれながら、薬研が頭を支える中――金打は微笑んだ。
かなしげな微笑みではない。本当に、嬉しそうな微笑みだった。そして、小さな、小さな。掠れた声で言った。
「あぁ……又兵衛様……今あなたの元に……」
そして、彼は砕けた。
薬研が、あれ以来ドロップすることのない金打と言う刀剣について調べたところ、奇妙なことがわかった。
野原金打は、埼玉県の民家で発見された短刀。金打と言う号は、どうにも21世紀につけられたものらしい。しんのすけという当時の長男がつけたものだという。
金打の売買記録は野原家に存在しない。しかし野原家は先祖は農民だった。では盗品か? ――それは、金打本刃が否定した。しかし、本霊はそれ以上は語らなかったという。
もっとも奇妙なのは、金打は調べた結果、どう鑑定しても「戦国時代から21世紀初頭にタイムスリップしてきた」刀になる、らしいということだ。時間遡航技術のなかった当時においてこの奇妙な事実は、しかし今を以てなお本霊は口を閉ざしているという。
まるで、金打した武士のように。
了
容姿は、元の主と今の主の先祖が共通して懸想した女性の姿