まあタイミング的にはいつも通りなので、例によって独自解釈やら独自設定もろもろ注意な感じですが、今後ともよろしくお願いいたします…
志波海燕の人生を死後さえ振り回し、黒崎一護に至ってはその延長で生まれから現在、将来まで縛ろうとしていたと。
あまつさえそんな
それらの根底に、生まれの特殊さからくる異能と、それにより叶えられた暗い願望があり。
あまつさえ母体、姉たる彼女の人生を奪った上での所業である────。
実態がどうかは、確定的なことは不明。
だが少なくとも、
故に朽木ルキアは膝をつき、立ち上がることもできない。
アルトゥロは、そこで追撃を止めた。
実際がどうであるか……、指摘するまでもないということだろう。
「……く、ぁぁ…………ッ!」
そして胸の中心を抑えて、ルキアは苦しむ。
肩でぜいぜいと大きく息をするが、段々と過呼吸のように荒くなっていく。
それと同時に、彼女の輪郭がうすく霊圧に輝き。さながら半透明に透けるように────。
「魂魄臓器に直接埋め込まれた異物を抽出する方法は二つしかない。
超々高度の熱波破壊能力で内部損傷させないように外殻である魂魄自体を短時間で蒸発させるか。何らかの方法をもって魂魄組成に直接介入して直接分離を図るか」
「何、を……ッ」
アルトゥロの指摘と同時に、ルキアの胸の中央が輝く。紫のように光り、それは千里玉が下がっている開けた胸元の奥、心臓よりも少し底の方で球体の輪郭をとっていた。
アルトゥロは語る。それもまた朽木ルキアが願ったことなのだと。
「君がその願いを結論とする気持ちは、
────その崩玉とやらが、自分の身体に残ることが1秒でも許せないのだろう。だからこそ
アルトゥロの指摘は、当たり前だと言わざるを得ない。
だが……。
「今のまま無理に分離するのは、その結果を
君の魂魄に内在する崩玉は、かつて君の魂魄核の代理を果たした。現在は死した朽木緋真の魂魄核を再吸収することで、君自身が
この分離は
君が朽木緋真であれば、崩玉と言う存在を意識して分離するだけならばこうはならない」
つまり何を言いたいのか。激痛と、悲壮感と、いらだちと。様々な情報や情動が頭蓋の内側を這いずり回り、ルキアは思考がまとまらない。だがそれでも、男がもたらす結論がロクなものではないというのだけは予想できた。
そしてその予想は外れることはなく。
「崩玉と魂魄核との乖離は強くあれど、君は所詮は分身体でしかない。そう君が認識したことによって、改めて崩玉との切除が可能になった。
ただ崩玉の切除を願わずにいられない君は、そんなものを内包したままでは生きる価値はないと自分で考えている。同様に、崩玉が無くとも自分の出生がそうであるなら、そもそも死ぬか生きるかの価値を問える立場にあるかどうか。それさえ不明なんじゃないだろうか」
そもそも合わせる顔が無いと、自分の生命そのものにもはや価値はないと考えているのなら。
アルトゥロの指摘に、ルキアは頭を左右に振れなかった。
食いしばるように、紫の宝珠の胎動を耐えるしかなかった。
「…………ッ!」
「……全く恐ろしいものだ。これでさえ、未だ崩玉が封印状態にあるが故に
だからこそ、故に。
「君が望むままに在れば良い。どの願いが受理されるにしろ、
今にも崩れ落ちそうなルキアに指をさすアルトゥロは嗤い。
しかし、嘲るわけでもなくルキアの状態の推移を見守る。
やがて絶叫するルキアはその場で倒れ伏し、全身が紫に発光。
同時に霊圧の関係か千里玉もまた光を放ち、崩玉の光とさながら共鳴するように輝いて────。
「────ほう? なるほど」
そして。
その様子をアルトゥロは目を見開き、少し興奮したように見た。
※ ※ ※
アルトゥロの言葉が、朽木ルキアの中で租借され反芻される。
それはこれ以上ないほど明確な毒となって、彼女の過去を、記憶を、認識を犯す。
実際の事実がどうであったかと。その当時の自分の想いも何もかも。その全てが、果たして自分が思っているだけのそれが真実であったのかと言う疑念を、突きつける。
そしてルキア自身……、アルトゥロの言葉を直接否定するのは、難しいところがあった。
────幼き日々を捨て死神として生きることさえ捨て去り、ただの人間として再び志波海燕の生まれ変わりと巡り合いたい。
それが願いかと問われれば、そんな
海燕殿への憧憬が、恋慕の形をとっていたその感情が、決して嘘ではないことを彼女は自覚している。
────恋慕していたからこそ殺害した罪の意思から逃れるために、自分の手で殺した志波海燕の人格を残したままの完全な生まれ変わりを望まなかったか。
嗚呼、それは望むだろうとも。だってそんなもの、誰だってそうではないか。
あの人の弟と思しき子供と、遺体を引きずっていった時に出会った。よほどひどい顔をしていたのだろう自分を見て、その子はおびえ、そして敵意を向けてきていた。
妹らしい、あの人に似た女性もまた。殺意をこちらに全く向けてこなかったわけはない。
その始まりが……、根底が
────ありがとな。お陰で……、心は、此処に置いていける…………。
……違う。
違う、私は、礼を言われるようなことは何一つしていない。
ルキアの脳裏を駆け巡る当時の記憶。志波海燕を殺すに至った、あの夜の記憶。
あの日、あの時。逃げ出したのは海燕殿と戦うのが恐ろしかったから。それでも戻ってきたのは、浮竹隊長も海燕殿も置き去りにして自分一人で助かろうと、そうする自分自身が恐ろしかったから。
海燕殿に刃を突き立てたのは、苦しむあなたを見ていることに耐えられなかった────
(嗚呼、結局私は……、私は大事な人など、何一つ救おうとしていなかった)
自分が救ったのは自分自身でしかない。その背後に、どうお題目を掲げたところで醜いとしかいえない自分のエゴのさらに深奥に。それさえも凌駕するほどに浅ましい、ただの小娘の個人的に過ぎる我儘や、独りよがりな悪意があったのだとすれば。
「私に生きる価値など、ありはしない」
本来なら義兄と添い遂げ、子をなし、幸せに暮らしていたかもしれない
「救われるような価値など、あってはならない…………」
その果てに、愛しきあの人の死後すら振り回し……、その縁者たる少年の生き方すら滅茶苦茶に引っ掻き回す様な、その始点が自分にあったのだとすれば。
「すまない、海燕殿──── 一護……」
どうやら自分はここまでのようだと。
自分が彼を殺めたからこそ、彼の霊体はこの男たちの手に墜ちた。
海燕殿の誇りだけでも、心だけでも奪い返し。海燕殿を魂魄に持つだろう一護に伝えていければと。言葉にはしなかったが、そういう気持ちも強くあったのだろう。
だが、それは過ちだったのだ。
このような危険な場所に一護を巻き込んだことが……そもそも一護に死神の力を与えるような状況に至ったのが。
自分にはもう、何かをする資格もない。その意志もない────。
────吹雪の吹き荒れる断頭台に、気が付けばルキアはいた。
見慣れた内在世界は、普段よりもさらに凍てつく程寒い。
彼女の心象風景が投影されているのか、それは居るだけで来訪者たるルキア自身を攻めるように鋭く。それだけでも殺されてしまいそうなほど、自分自身の生命に爪を立てる。
喪服のような袖白雪が、そんなルキアの傍らに立つ。
『ルキア…………』
「…………」
『………………止めませんよ、例え首をそこに差し出すのだとしても』
「…………ッ」
明らかにその声は、苦悶に満ちていた。
自らの半身たる斬魄刀にそうまで言わせてしまったことが、さらにルキアの心臓を締め付ける。
ひざを折ったまま立ち上がることが出来ないものの、ベール越しの彼女もまた辛い顔をしていることは、容易に想像できた。
「済まぬ……、
振子雪の姿は見当たらない。
それがさらに、ルキアの心中を荒れさせる。
二人きりだからこそ、袖白雪にそうまで言わせてしまうことの辛さを……。さながら姉のように振舞うこともあった彼女と言う存在を身近に感じているからこそ、自殺を止めはしないと言わせてしまった不甲斐なさと、そのこと自体が彼女を傷つけているだろうこと。
それらへの謝罪は、育ち取り繕ったものではなく、それよりもはるかに過去の口調へと戻りかけていた。
そんなルキアに、袖白雪もまたしゃがみこんで、肩に手をやる。
語る袖白雪の口調もまた、へりくだりすぎないものになっていた。
『あなたが謝ることなどないのです。……ええ、あなただけが悪い訳ではない。
あの
「だが………! だけど、あたし、一護だけは…………!」
『そうですね。……そもそも生まれもしなかったかもしれないと思えば、彼の魂魄核は別な人生を歩んでいただろうことは、ですね』
嘆くルキアを慰める言葉を、袖白雪は持ち合わせてはいなかった。
人生を完全に振り回したというのは、そういうこと。魂魄の循環、生まれ変わりの概念を考えるのならば。尸魂界で死した魂魄の核たるものが、
もしかしたら今のご両親の下に生まれることさえなく、ごくごく平凡で、虚も死神も関係のないような、そんな人生を。
…………混乱のあまり両者思い至っていないが、志波海燕の有無はともかく
否、むしろ思い至らないほどに素直に突きつけた言葉で、彼女の精神を切り裂き続けたアルトゥロの手腕が悪辣であるのかもしれない。
「守りたい人を、守れないとかじゃない……、あたし、恋次にも、一護にも、こんなのひどい…………」
『……貴女の、流魂街での過去までは知りませんが。それでもせめて
「……待って、何だと?」
そして袖白雪の言葉に、ルキアの声に芯が少し戻る。
予想外の、意味不明な発言故にか混乱し、警戒し。
だが嗚呼……、自らの斬魄刀であるのなら、それは思い至っていても不思議ではなかったのかもしれない。
「袖白雪、あなた…………、知っていたの? 白哉兄様の奥さんが、あたしの、
『姉と言ってあげなさい貴女とて同じ立場なら気にするでしょうし語るときも濁しはしますが妹ということにするでしょうにルキア』
「う、うん…………」
袖白雪、迫真のフォローアップである。いきなり早口で突っ込まれたせいで思わず首肯してしまったルキア。なお、そのお陰で袖白雪の微妙に生温かいような視線の意味にまでは、思い至ってはいなかった。
『そもそも真央霊術院で浅打を受け取り私を形作り始めていた途中、明らかに貴女の魂魄構成が変わった感覚がありましたから。同調や対話まではさらに時間がかかりましたが、おおよそ周囲の状況から経緯は推察できます。
まあ…………、
そして、その言葉の含意もルキアは汲み取り切れない。
あくまで昔のことを振り返っているから懐かしんでいるのだろう、くらいに解釈して。そんな昔から自分の魂魄が普通ではないと、そう理解していたらしい彼女に申し訳なくなる。
「ごめんなさい。……あたしが死んだら、貴女だって死んじゃうのに」
『(さて、それはどうでしょうか)』
「えっ?」
『いえ、何でも』
何やらぼそぼそと呟いた袖白雪はともかく。
『それでも、死にたいというのなら……。貴女の胸の内にある苦しさから、貴女が解放される手段がないというのなら。私は、貴女を止めることはできません。
たとえそれが、どれほど身を焼かれるほどの苦しいことであろうと』
「…………」
『
「だからそれは止めなよ」
『
そこの優先順位まで違えたら……、
「…………うぅ、ばけもの?」
『……ッ! オホンッ、何でもありませぬ』
子雪がいたら脇が甘いとか言ってきそうですね、などと呟きながら、口から冷気の煙をともなう咳払いをする袖白雪。
指を立てて、ベール越しに優し気な視線を向ける彼女は、言う。
『だから、私はあなたの選択を止めることはできませんが。
それでも、一つだけ』
何を? と。幼子のような、自分の定まっていないような、ふわふわと彷徨うような問いかけに。袖白雪はほんの少しだけ、意地の悪いような色を声に滲ませた。
『────かつて貴女は、黒崎一護に頼られた時に。仲間なのだから水臭いことを言うものではないと、たしなめたではありませんか。
今の貴方を見たら……、きっと黒崎一護も、他のご友人も、同じことを言うのではないでしょうか。貴女の、心を守るために』
「────────」
脳裏を駆け巡る、現世での日々。
叫谷での激闘。一護の虚を全員で沈めたあの総力戦。梅針へと向かう一護の姿を見上げていた時の焦燥感。振子雪でもって大虚へと立ち向かった久しく感じていなかったあの高揚感。石田と張り合う一護を見て感じた微笑ましさ。グランドフィッシャーを相手に限界を超えて戦った一護への慈しみ。インコに閉じ込められた子供の霊を助けられずうなだれたあの日。井上織姫の兄の虚を葬った時のことも、大勢の人を守りたいと叫んだ一護も。
あの夜、刃を突き立てて。鎖結と魄睡との中間点から死神の力を注いだ、あの時。
守る力を得て立ち上がった一護の、その背中の頼もしさ────。
そして、嗚呼、何故忘れていたのか。かつての日々で、あの方は言ってくれたではないか。
『命を守るための戦いも、誇りを守るための戦いも、結局どっちも同じものを守れって言ってるんじゃねェかと思うんだ』
『心だよ。いいか? 心は身体じゃなく、俺達がふれ合う時に初めて、俺達の間に生まれるんだ。もし世界に自分一人しかいなかったら、心なんてのは無ェんじゃねぇかってな?』
嗚呼、そうだ。
『お前がこの先戦うとき、絶対にしちゃいけねェことがある──── 一人で死ぬことだ』
そう、おっしゃってくれたじゃないか。
『心は、仲間に預けていくんだ。そしたら心はそいつの中で生き続ける。だからお前は絶対一人で死ぬなよ、朽木』
それを、私は、きっと一護に伝えることが出来たじゃないか────!
「そうだな。……嗚呼、そうだ。とても語れることではない。どう話したところで、誰も彼も、その死を愚弄することにしか繋がらない。
だが────」
顔を上げ、立ち上がり。
共に抱き起すように立った袖白雪に礼を言い。
『行くのですね、ルキア』
「嗚呼。……世話になった。
『…………! あら、まあ』
彼女の言葉が想定を超えていたせいか反応に。それでも振り返るルキアの目元から流れる涙。
決意と共に、勇気と共に足を進めるその彼女の貌を、袖白雪はしっかりと見て。
背を向け歩きだすルキアに、彼女は微笑んだ。
『心を決めたのなら、揺らがぬことです。
迷い乱れは貴女を砕くでしょう。でも──── 一所に固めたなら、それは何物をも凍てつかせ、歩みの先を払うのですから』
生きなさいルキア、と。
語る彼女の輪郭はほどけ、いつの間にか白い霊圧の束となり……それらはルキアの右手の手元で、袖白雪の形へと形成されていった。
※ ※ ※
「……思い出したのだ」
「────ほう? なるほど」
今だ感覚が覚束ないが、それでも朽木ルキアは意を決する。転がった
「私にも、こんな私でも、できたことがあったのだと……、託されたものと、託せたものがあったのだと」
椅子に座ったまま、ルキアの動向を
そんな彼に向けて……、もはや内心の葛藤が全てに勝利してることもあり、怒りの感情を叩きつけるという風でもない。
ただただ、斬らねばと。
少なくともそれは、それらの因縁の根幹に立たされている自分がするべきであろう。
ただ無理なら、みんなに頼る。少なくともそういう選択肢が取れる程度に、彼女は落ち着きを取り戻していた。
だからこそ、その声は震え。
「私の罪を、そうであるのだと問うたな? 貴様は。だが────そんなものは後だ。
私に罪や咎があるのだとしても、それを、それを貴様のようなものに咎められる謂れはない……っ! それを、問える者が居るのなら…………」
両方の脚で床に立ち。一度深く呼吸をし。
左手の甲を右の肩につけるように、結晶剣の切っ先を地面に向けるように──右手をその左の肘につけ、斬魄刀の切っ先が天を向くように、構え。
「…………これは私とあの方と、翻って、
ここで、ただただ荼毘に付すことなど許されるはずもないッ!」
喝を入れているように立つルキアは……どうしようもなく、泣いていた。
右目から透明な雫を、左目から血の雫をそれぞれ流しながら、アルトゥロへの戦意をたぎらせる。
そして双方の刀の構えを、それぞれ左側を天、右側を地に向けるように回して、正面に付きつけ。
「舞え────」
左右に開き、共に一度握り直して。
結晶剣を天へ回し────────。
斬魄刀を地へ回し────────。
彼女の体内で脈動する、紫の宝珠────。
「────『
一刀。すべてが純白の、帯を揺らす右の白き斬魄刀。
鏡映し。鍔のみ鮮血のように赤い、鎖揺らす左の白き斬魄刀。
二刀一対。ルキアの両手に持つ剣が、刀が、完全に連携して
「尸魂界に一つ、新しい歴史が刻まれるかもしれないね」
それを見て、アルトゥロはどこか楽しそうに微笑み、立ちあがり。
「それに、悪くない。自刃に逃げず黒崎一護に生命の進退さえゆだねるそれも、また一つの勇気と言えるだろう。だからこそ崩玉も
では────」
では第二プランといこうか、と。
間発入れずに呟いて、腰から金色と黒の装飾が施された斬魄刀を抜き放った。