「────はははァはッ! はァははッ! いいぜいいぜ、これを待ってたんだ!! てめェを全力でブッ潰せる時をな!!!
てめェもそうだろ!? あァ!!? 来いよ黒崎一護!!!?」
「いや別に構いやしねぇンだけど!? もうちょっと早く来ちゃくれねェかドルトーニより前とかッ!」
「あァ? ンなもん小手調べにもなってねェだろ霊圧見りゃわかるぞ!」
「そうじゃねェ! わざわざ急がないといけない理由出来てから来ンじゃねェってことだよ! 全力投球できねェって!」
「
俺も全力でてめェを殺す! たったそれだけの簡単なモンだ!」
「てめェは簡単に倒せねェだろッ!」
「わかってンじゃねェか!」
「…………仲良し?」
半壊した
片や哄笑と共に殺気全開で、獣時見た靭力を振るうグリムジョー・ジャガージャック。
片や絶叫で「後で相手してやるから待ってくれよ!」的なことを絶叫し、それはそうと充分な殺気で応じる黒崎一護。
どっちが上だか判らせてやるよ! と威勢の良いグリムジョーは、しかし一護をすぐさまに打倒しきれてはいない。
既に火輪の黒コートをまとっている一護は、グリムジョーが距離をとる隙を狙って斬月を持つ腕と反対の腕を振るい。
初見時は驚いたものの、ちゃんと自分を倒そうとしているらしいその思考や動きには一定の理解を示して、その上で上をいってやるとばかりに速度を上げるグリムジョー。
そのあまりのストレートさに、文句を言いながらも一護はちょっと口角が上がっていた。当初の目的をちょっと忘れかかっている……。
「いや、まあ、言ってもグリムジョーって聞かないだろうしな……。
そしてグリムジョーとは違う精神構造ながらも、戦闘から逃げはしないことには納得しかないリリネットは悩み、難しい顔をしていた。
さて。一瞬で一護の間合いの内側に入り込んだグリムジョー。そんなグリムジョーを避けるタイミングを一瞬見失う一護。若干の超近距離戦闘の不足から、斬月の間合いの内側に対しての対応がどうしても遅れる。
そんな一護に膝蹴りをかますグリムジョーと、衝撃で飛ばされどこかの壁面に背中を打つ一護。
「ほら、こんなモンじゃねェだろ? さっさと来やがれ黒崎ィ!」
「────言われ、なくても……、ッ!?」
石英の砂煙があけ、立ち上がろうとする一護。刀を構えて「嬲ってやるよ」と言わんばかりに壮絶な笑みを浮かべるグリムジョーに、とっとと終わらせてやる! と戦意を固めるが────。
グリムジョーが膝蹴りを叩き込んだ腹部に、
「これは、アイツの……?」
グリムジョーを警戒しながらも、その仮面を手に取る一護。立ち上がり右腕で斬月を構えながら、左手でその仮面を手元に持ち。
何だ何だァ! と困惑する一護とは逆に、グリムジョーは何かを期待するような視線。
そして、思い至る。
かつて内在世界、斬月のおっさんと対峙していた時。相手の放った月牙を己の兵装へと作り変えた時に、一護自身が何を思ったかを。
白一護と……、そう形容するのが本当に正しいかすら定かではない、自らの虚とが何を言っていたかを。
────信じろ。お前は一人で戦ってはいないのだ、一護。
────俺も、オッサンも、テメェの
(おっさんの力だって、俺の力だ。そう思った。
だとするならば。この、あからさまに
「ちょっと待て、グリムジョー」
「あァ?」
仮面を手に少し思い悩む一護。だが、結論を出すのにそう時間はかからなかった。
結果的にではあるが、直前のドルトーニ戦の影響が出ているかもしれない。一護は知らないが
刀を交わして、
結果的にだが虚であるはずのリリネットを保護しながら、そんな彼女に誘導されるままルキアの元へと直球で向かおうとしていたのも、拍車をかけているだろう。
『女の子だぞ、もっと丁寧に運べよ~!』
『そういうのはスタークに言えよッ!』
『いやスターク、あたしと一緒でケッコー面倒がるしお互い扱い雑だから……』
『何だ、兄妹みてェなモンか?』
『そーそ……って、何だよその目? あたしが、姉みたいな方! 今ぜったい、あたしのことちんちくりんだから妹だって断定して言ったろー!』
『そうかよ……』
『信じてないなー! ちゃんと姉なんだからな、おっぱいだってこう……、こう……、………………、とっとにかく姉なんだからな!』
『無理すんなよ』
『にこにこすんな~っ!』
妹二人持ちの兄ゆえにちょっと微笑ましい気分になってしまったのも無理はあるまい。
だからこそ……、虚の本能への忌避とは別に、
自らの霊性に潜むあの人格が、自分を喰い殺そうとしているかどうか。
その
もはや一護にとって、白一護は一言で断定して語れるような存在ではなくなってしまっていた。
…………そんな回想が内在世界で上映されて、■■■■が鼻で笑い白一護が「馬鹿ッ! だからってもっと警戒してそれ捨てやがれッ!」と、一護をかばうためにわざわざ仮面を出現させた本人が絶叫してるかもしれないが、それはさておき。
「確かこうだったな、平子がやってたのは。……これでいいんだよな? えっと……」
そして仮面を裏返し、自らの顔に取り付けようとして────。
『────────────────!!!!』
「……ッ、何だこの霊圧!?」
「チィ……!
人の言葉ではありえない、反響するような虚らしい絶叫。
それが虚夜宮にこだまし……、晴天の下つまりドーム状の室内にいる一護とグリムジョーは、それを見た。
離れた距離でも視認できる。大きさは
巨大な
身体は白い髄に覆われ、下半身のもまた同様。ただ形質は馬と言うより羊か山羊などの毛深い形であり、頭部の形状的にもおそらくそうなのだろう。
身体は女性系。元になったろう人体が想像できるほどそのバストは豊かで豊満であった。巨大な姿となったことでその豊満さは限界を突破した。大虚のバストは更なる豊満であった。
そして長く太い獣じみた両腕と、
出現したその大虚は
咄嗟のことゆえか予想外すぎたのか、グリムジョーも反応できずにぶっ飛ばされた……、飛ばされてきた茶渡と共に。
「チャド!?」
「ッてめ──────────────────────」
「────ち護ッ!? ────────────────」
一瞬視認して反応する一護と茶渡。ついでに共に流されるグリムジョー。全員の反応が終わる前に施設の壁面へと激突しそのままさらにぞりぞりと吹き飛ばされる。いったいどんな威力で部飛ばされたのかと言う謎はあるが、そんなことより
ついでに茶渡が飛ばされた衝撃で手元に持っていた仮面もどっかに飛ばされ「あっ!?」と少し残念そうな一護。内在世界では一安心されていそうだが、それはさておき。
「ああああああああ……ッ!」
「リリネット、あいつ知ってンのか!?」
『────────────────!!!!』
虚らしい絶叫を上げる巨大な女性型大虚……、ネリエルと呼ばれていた存在に困惑する一護は、明らかに挙動不審となっているリリネットに確認する。
チャドたちを助けに行こうにも、明らかにこちらに四つ足で駆けて寄ってくるあの大虚の方が危険性で言えば高そうだ。故にそちらの情報収集が優先なのは当然といえるのだが。
「あ、あいつ…………、えっと、手負いの破面っていうか、ちょっとヘンなことになってんだよ」
「変なこと?」
「
「壊れか、かってる…………?」
なん、だと? と意味が分からないらしい一護だが。リリネットを背後に斬魄刀を構えながら、話の続きを聞き。
「……昔、内輪もめがあってさ。でその時、かなり手負いにさせられて、今ああして虚としての格付けがすごい下がってる状態になっちまってるっていうか。自分を自分だって強く意識できるエゴがなくなって────本能に犯されてるんだ、きっと。
本当はすっごい優しいやつなのに」
「────────そうか」
そして、リリネットのどこか辛そうな声を聞き。
それだけで一護の腹は決まった。
※ ※ ※
「えっと、つまり? 貴女はその…………、竜弦の、婚約者だったと?」
「ま、そーねー。うちの実家の黒崎がなくなってから、石田家にはお世話になってたし。何一つ、何も知らないままじゃ問題があるからって、霊界との付き合い方の手ほどきは必要だーって依澄さんからも言われたし……。
えっと、知ってる? 依澄さん。雨竜くんのお祖母ちゃんなんだけど」
「流石に存じていますが……」
一方、少し時間は戻り。とある薄暗い室内の宮にて。麦茶を飲みながら、黒崎真咲らしい彼女は雨竜の様子に微笑んでいた。
とはいえ彼女からの質問が基本的には多く、時折メイドのナナについて質問が飛んだりと、雨竜から話せるターンはまだ多くない。……付き合ってるの? とか、私よりも井上織姫様の方がタイプかと胸も大変大きいですし、などとだいぶ野暮な話が飛び交っており、既に雨竜はだいぶ胃もたれしていたのだが。
「叶絵ちゃんねー。なんか聞いたら竜ちゃんの幼馴染? というか、だいぶ昔に引き取られた滅却師の家系の子でね? まあそこは混血だったけど、依澄さんもあんまり気にはしてなかったのかな? ってのもあってもう、ずーっと竜ちゃんのこと気にしてて」
「…………」
「あっもしかして照れちゃってる? まあ叶絵ちゃんは昔から竜ちゃんのこと大好きだったみたいだし、色々あって私が石田の家を出た後、たまに女子会してた時にそれはもうウキウキルンルンに『片桐の心は弾んでいます♪』ってねー?
私のこと、ちょっとくらいは邪魔者って思ってたんじゃないかな? 仲は悪くなかったんだけど、結構こう、嫉妬深かったし……。愛情たっぷりね、フフ♪」
「いえ、あの……、どちらかというと居たたまれないといいますか」
「え~? いいじゃないご両親のこういう話とか。私も一護がもうちょっと大きくなったらいっぱいしてあげるつもりだったし」
そこまでにしてくださいと内心七転八倒する石田雨竜。さもありなん。無図痒くなるのも無理はない。
というより今の黒崎一護の性格を思えば、順当に家族何事もなく成長していたら間違いなく反抗期でバチバチ反発していそうだな、などと他所の家庭ながら謎の心配やら納得やらをしてしまうあたり、石田雨竜はお育ちが良かった。大変良かった。
まあ親と言うのは子供のデリカシーをデカシリーだと勘違いして蹴っ飛ばしがちなので、仕方ないといえば仕方ないと言えるかもしれない。
今の話を聞いたせいで、なんとなく仮面を外しているメイドのナナの顔を直視できなくなってる雨竜も、無理もないだろう。というか、
閑話休題。
(しかしなるほど……、黒崎の霊性の高さを思えば、母親譲りの面も大きいということか)
黒崎真咲、あまり自身の実家については話そうとしないので、おそらくは
記憶の片隅にある祖母が、混血の自分も可愛がってくれていたことを思えば。おそらく血筋については拘っていなかったろうと推測も出来る雨竜である。故に、彼女を竜弦の婚約者として引き取っていたという話もそう間違いはないのだろう。……当然、白一護ことホワイトが訊いていれば「もっと細かく追及しろや!? アッでも追求しない方がいいけど……」と微妙な反応になること請け合いの理解ではあるが。
異常な霊圧を持っていた一般人と聞くと、かつての死神となる前の黒崎一護を彷彿とさせる部分かもしれない。
黒崎一護には言っていなかったが、雨竜は雨竜で割と入学初期から一護のことは意識していたのだ。むろん、
だからこそ夜間に虚を滅却していたいつもの習慣において。明らかに虚の出現量が多かったその日を境に、彼が死神の力を身に付けたことにも気づけたわけだが。
(父親が死神で、母親が高い霊力を持っていた。とするなら、今の黒崎の異常な霊力の片鱗はそこにあるってことかな? やれやれ)
とはいえ純潔滅却師の父と、混血の母の間に生まれ、その父から愚弄され続けるとはいえ今の自分の血を恥じることはない。雨竜は、自分の母親に誇りを持っているのは事実だ。祖父に誇りを持っているのも事実だ。
父親については────。
(…………)
脳裏を過る、手術台での
(……滅却師を捨てたあの男を、僕は…………)
「────でね? それで一心さんってば、花火はご実家がご実家だからーとか言って一から作ろうとしちゃってね!? 流石に危ないからって叶絵ちゃん経由で竜ちゃん引っ張ってきて場所借りたり、そもそも何でそんな意味不明なことやっているんだお前はー! とか怒ったりとか色々あって、マー楽しかったわ」
「楽しかったのですか?」
「そりゃもう! 手作り花火とか……、ロマンじゃない? 私も作りたいー! って一緒にやってたから、竜ちゃんに一緒に怒られたし」
「それが楽しいかは、わかりかねますが…………」
「自分が手掛けたものがどうなるかっていうか、実験みたいで楽しいじゃない! 私、理系の成績あんまり良くなかったけど」
「実験…………、ええ、それでしたら楽しいですね」
「おっ意外と食いついてくれた?」
「雨竜様のリアクションを観察するために日々実験の毎日となっております。下着などこれこのように────」
「……って、ナナさん!?」
「あら~、青春ねぇ」
「何を他人事のようにッ!」
「今のところ一番反応が良かったのが白い競泳水着でしたが」
「多分、デザインよりは色じゃないかしら? おっぱいの趣味は……、どっちなの? 大きいの! 小さいの! どっちが好きで
「
「僕の尊厳を何だと思ってるんだ二人ともッ!!?」
押し黙る雨竜の横で、ナナ相手に竜弦の昔の話やら、一護の父親についての話やら色々、惚気なんだか何なんだかと楽し気に話す一護の母親。表情の変化に乏しいながらも、ナナも途中途中で興味深そうに頷いたり、質問を重ねたりしていた。
……そして途中で胸元をめくり、間に柄を挟んだ、織姫ほどとは言えずともそれなりに豊満なバストを包むちょっとエグめの黒い下着がちらりと見えたりして、思考の海から強制的に戻される雨竜である。
ハイテンションに煽り呷られ、ツッコミ不可避なあたりは条件反射であって、断じて猥褻な意味はない(迫真)。
…………なおもし仮に一護がこの場にいれば「お袋、こんなアレな時のヒゲみたいなテンションだのか……?」と疑問符を浮かべていそうな具合のハイテンションぶりだが、実際、黒崎一心は彼女の穴を埋めるために彼女を模して明るく振舞っている面も大きいのだ。
過去の美化を許さない(?)あたりは、ある意味で黒崎夫婦は夫婦らしいといえた。
閑話休題。
話が進まない。
流石に雨竜が疲れてきたのを察して、黒崎真咲は少しだけテンションを落ち着けた。具体的に言うと、椅子の上で正座である。反省してますポーズ。
「えっと、だからどうしてそんな、黒崎のお母さんは、今そうやって…………」
「復活、っていうとちょっとニュアンスが違うのかしら……? 間違いなく私の大本の霊体は
その上で何故今こうして平然とはなしているのか、という問いに関しては。
「何っていうのかしら。私の霊体ってこう、私を殺したグランドフィッシャーって虚もね? あくまで虚なのよ。だからこう、私の魂魄と繋がっていた一心さんの霊力、死神の霊力の影響がちょっと、残ってたって言うか……。それが作用したのかしらねー」
「繋がっていた……?」
「だから食べられても
ちょっと自分でも、よくわからないんだけど。だから、一護がグランドフィッシャーを瀕死に追い込んで……、そのタイミングでギリギリというか、なんとか奪い返せたっていうか、乗っ取り返せたっていうか?」
私もわかんないことばっかりでごめんね? と頭を下げる彼女に、追求しようとして。
雨竜は外部の、異常な霊圧の変動を感知した。
「朽木さん……? いや、
「……?」
「あっ、雨竜君は感知できるんだ」
「…………すみません、雑談はもう少し後に。僕は、急がないといけない。
夜一さんや平子君たちの霊圧も感じられない以上は────」
そして席を立ち、再び入り口の方へと走り席を離れた雨竜は────。
「────雨竜様!」
「えっ?」
突如、後ろからメイドのナナに抱かれるように共に飛ばされ。
彼女の背中越しに、
振り返り様……、驚愕した顔で、赤い滅却師の弓を構える黒崎真咲の姿を見た。