『えっ、何あの剣。怖…………』
『え、えぇ……? てっきり私がルキアの手元に呼び出されると思っていたのですが……?』
『――――いつまで抱き合っているのだホワイト。一護が客人を弾こうとするのは、もう収まったぞ』
はっ!? っと、オッサンに指摘されて、俺と姐サンは思わず飛び退いた。さっきまで必死に、それこそ全力でお互い抱きしめ合っていた状況だったせいもあって、微妙にいたたまれない。
というか姐サンは顔赤くすんな、生娘かッ! ……いやまぁ、ルキアも生娘だろうし生娘なんだろうが。
場所はいつもの横摩天楼………………なんだが微妙に違う。俺達の足元、壁面にはいつの間にか都心みたいな巨大なテレビ画面みてーなものが設置されていて、そこに普段の外の情景が映っている。それだけ一護の今の心のあり様として、目の前で起きていることが意味不明すぎてびっくりしてるというのが現れてんだろうが、それには俺も同意だ。
『どう見ても姐サンの鍔を使った
『客人の鍔を使って新たに生成された武装だろうな』
オッサンと俺とで認識を合わせてから、思わずため息をつく。
……元々はアレだ。一護が戦闘中、あのヘリファルテっていう虚に「普通に戦っていたんじゃ勝てない」と本能で判断したのか、姐サンの封印を「無理やり」破ろうとしたことが発端だ。
まぁこっちから手を出した訳でも、生命の危機に瀕して俺の側の虚の本能が暴走したって訳でもねぇ。純粋に、真っすぐに自分自身の力で姐さんをどうにかしようとしたってことだ。
そうなると、俺としちゃどうしようもない。
オッサンは静観しながら一護が暴走した時に「影」を使って取り押さえるために待機しっぱなしだし、そっちに手を借りるのは俺としても問題がある。実際問題、一護の虚の力が暴走した場合、今のままだと俺だけでは一護もろとも「本能に呑まれる」可能性が高いからだ。
かつての
つまり、俺が外に出ても俺自身の本能に振り回されないようにするためには、そもそも一護の霊格が「それなりに」育たないと無理ってことだ。
このあたり、そのまま原作の「
だからこそ、いつかのオッサンみたいに空に引っ張られそうになっている姐サンを、全力でお助けしていた訳だったんだが…………。
『きゃあああッ!』
『うぉおおおおおおお!? なんか俺まで吸い上げられてんぞオッサンンンンンンッ!』
『いかんな。そういえばお前は一護の「剣」の側、「力の象徴」か…………。止むをえまい』
姐サンに手を伸ばして「本来予定していた」斬月を地面に刺しても、それでもオッサンの時と違って俺自身すら「この世界から」外の世界へ弾かれかかっていた。
つまりは、俺自身もまた一護に「力」として求められていたせいだったんだろォが、流石にそこまで今無茶をすれば前回の二の舞。住宅地としちゃ欠陥品どころの騒ぎじゃねェぞこれ。
だからオッサンも全力で「影」を伸ばしていつかの時と逆に俺個人をこの世界につなぎ留めるために、全力を尽くしてくれたって訳だ。
でその際、流石に俺も吸い上げられかかってる状況で、姐サンの手を引っ張るだけで抑え込めるわけもなく……。結果としてハグするというか、救命するような形で姐サンを強く抱きしめざるを得なかった。
姐サン本人もなんかギャーギャーうるさく色々言ってた気がするけど、俺もそれに適当に答えてなだめすかしながらしてた、そんな時。
「こんな、こんなものなのか! 私が守ろうとして、自ら手放したその結果が、この様だというのか!――――」
ルキアの現世の絶叫が、俺たちに聞こえて来た。……俺に聞こえたのはまァ、アレだ。流石にあれだけぎゅうううってお互い密着してりゃ聞こえちまうモンだろ。共鳴したのか霊圧が同調してたのか、そのあたりの細かいソウルソウルしてる理屈は知らん。
重要なのは、そこから。
『ルキア――――何を嘆くのです』
「……っ、その、声は」
その時は画面が地面に無かったから、姿までは視えなかったが、それでもまぁ
『貴女はまだ、あの少年に何も出来ていないのでしょう? ならば嘆きの涙は、まだ取っておくのです。それは全てを為して、それでも何一つ残せなかったとき、心の内で流すもの。
大丈夫です、その時でも私はそばにいるのですから』
うーん、言い回しに完全に志波海燕のことを含んでいて、俺視点としても「俺じゃない」視点としても微妙な気分になンだが、下手にツッコミを入れると藪蛇だからスルーする一択だ。
『ならば貴女がするべきことは、嘆くことだけではないはずです。そうでしょう』
「……ん、姐サン?」
そして、色々と言いながらなんだか姐サンから出ている霊圧の「質」が変わった気がする。理性的なものというか、もっと生物的というか、獣というか、「会話は出来ているのに意思疎通は出来ない」ような虚を斬った時みたいな妙な感覚と言うか。
その姐サンの霊圧を受けたせいか。ルキアも自嘲げに笑って。
『今再び、呼ぶのです! 私の名を――――――――』
「舞え、
『――えっ!
そっちってどっちだとか言うよりも前に、姐さんのと俺の全身からごっそりと「霊圧が抜け」、気が付けば抱き合ったまま二人とも地面におねんねと来ていたのが冒頭。
そのまま抱き合ったまま身体を起こして画面を見て、なんか知らない剣を持ってるルキアに一護が「なん、だと……?」してるっていうのが今の状況だ。
そして妙なことに、映像は1つじゃなかった。
巨大な画面は、一護の視点と「ルキアの視点」とを行ったり来たりしてるように、お互いの意識が交差でもしているような疎らな映り方をしている。というか、感じとしては視界ジャックというか、テレビで視点がザッピングされるみたいに、その場面その場面でわかりやすい相手の視点が映ってるみたいな、そんな感じになっていた。
そんなこんなで冒頭に戻る。
『理屈としちゃ、チャドとか井上相手にしてた時みたいなアレなのか……? あっオッサン、ありがとな』
『気にすることもない。
おぉ、オッサンがニヒルにニヤリと笑ってくれた。珍しい表情だ。思わず俺も笑い返す。そしてお互いどちらからでもなく、視線を姐サンの方に向ける。
姐サンはなんというか、微妙な表情で映像に映るルキアを見ていた。
「嗚呼……、感じるぞ。死神としての感覚を、霊圧を、そして『一護を』!
この剣は、一護から溢れ出ていたあの力を、少し拝借しているのだな」
『ま、まぁ白い方も結果的にですが一緒に呼ばれたような形になりましたし、私の力だけでは今のその笑顔はないと思いますけど、ちょっと複雑です…………』
何だろう、あれだな。あのルキアの完現術もどきみたいなのは、俺と姐サンの霊圧……というか、下手すると「魂魄の一部」を吸い上げて形成したんだろう。発生している事象の意味不明さで言えば流石は崩玉ってところなんだろォが、俺と姐サンの魂魄を巻き込んでっていうのが色々頂けない。
それってつまり何が起きるかって言えば――――――――。
『――――ぎゃう?』
『はっ?』
とか何とか考えていると、座った首に何かが抱き着いて、上から見下ろしてくる。
見た目は何っつーか小さい頃の一護というか、夏梨っぽい感じなんだが、目つきがキリっとしてて色々違う。肌は白い。髪も白い。ついでに服っぽいのも白いし、何だコイツ……? 大体、5、6歳くらいのガキだな。女の子というには、ヤンチャさが透けて見える。
というか、こめかみ辺りから角みたいなのが生えてる? 髪留め? 何だそれ。
『……そうか、おめでとうと言っておこう』
『は? いや、何だよオッサンその生温かい目。小さい頃の一護でも見てるみてェな顔しやがって』
『えっ? えっ? 誰ですその子供?』
知らないガキを肩車しているような状況になっているせいか、オッサンと俺のやりとりを聞いたせいか、姐サンがこっちを見る。
とりあえず立ち上がって頭に齧りついてるガキを「高い高い」の要領で持ち上げた。「うっきゃー!」とやっぱり言語らしい言語をしゃべらないでテンションを上げるガキを下ろしてやると、ガキはそのまま姐サンの方に駆けて行った。良く見れば服は何かこう、西洋のお姫様を適当にデフォルメして和服っぽく仕立てた感じのヘンな服と来ている。
そしてまァ、足元なんだが並ぶと、ガキは姐サンとよく似ていた。「ぎゃ?」とオレの方を見て不思議そうにするところとか、困惑してる姐サンの今の目の感じとそっくりだ。
『………………隠し子か?』
『へっ? ――――――――ち、違いますとも! 何をいっておりますか白い方、あなたッ! しばき倒しますよ、
おっと!? 冗談交じりにからかったら、氷の刃が飛んできた。自分の斬魄刀を具現化しなくても使えるのかよ技! 思わず悲鳴を上げながら躱したりしてると、何が楽しいのか「ぎゃうー♪」とか言いながらガキンチョはばっと飛び上がり、また俺に張り付いて――――いや顔面に飛びつくんじゃねェ、前見えなくて危ねェだろッ!
引っぺがして姐サンを宥めていると、オッサンが俺と姐サンの両肩を抱いて、そして寄せた。
俺と姐サンの肩がくっついて、ついでに引きはがして襟のところでプラーンとしてたガキを姐サンが抱きしめる形で受け取るような状態に。
『ぎゃう! ばっは! ばっは!』
『そうか。…………嗚呼、楽しいだろうとも。「私と違い」親の温もりを味わえるのだ、今は気にせずにすると良い』
親? と。姐サンが首を傾げる。
一方の俺は、流石に予想していただけあってアタリがついてしまった。
なにせガキの襟首のところ、良く見たらローブっぽいその衣服は「爬虫類の骨」でも象ったような模様が描かれているし。
『穴は……、開いてなさそうだな。まあ「俺の段階で」既にそこは埋められてたから、不思議でも無ェんだろうが』
『ぎゃん!』
『えっと、先ほどからお二方とも何を言って…………?』
察しが悪いのか、それとも薄々認めたくないのか。トボけてる訳でもないだろうが思い至らない姐サンに、オッサンが残酷な真実を突き付ける。
『――――朽木ルキアのあの能力は、客人の鍔を媒介に新たな刃を作り出すものなのだろう』
『それは、わかりますけど……』
『ならば、材料はどこからくるのだろうな』
『材料?』
あっ駄目だ。オッサンはこれ以上の説明をしない、というか多分「語彙が無ぇ」。代わりに俺が話してやるしか無ぇか。先が思いやられる…………。
『死神の斬魄刀ってのは、自分の魂を元になる浅打に写し取ったもの、だろ? だから持ち主の魂魄に俺達は影響を受ける』
『当然です。
『…………あ? いや、何で姐サンそんなこと覚えてんだ? フツー、写し取る以前の記憶なんてモンは綺麗さっぱりオサラバしてると思うが。人間の魂魄が死神になるときに、生前の記憶を消し飛ばすようなノリで』
『ッ!!?!?!?!?!?!!!?!?! い、いえ、何でもありませんとも! 続きを、続きを話してください白い方』
なんか妙なことを言い出した姐サンはともかく、時間はないので、映像の中で「冷気の斬撃を飛ばす」ルキアを横目に見ながら、話しを続ける。
『つーことは、逆説的に死神が剣を振るうなら、その素材になるモンが必要ってことになる』
原作において一護が覚醒する完現術も、そう言う理屈になる――――まあアレについては実質ホワイトそのものと結びついていた関係もあるのか、一護がそれを振るえばほぼ俺自身めいた鎧を身に纏うことになっていた訳だが、アレの素材は言うまでもなく、一護の中にある虚的な素養が大部分だろう。
ならば、それに対して朽木ルキアは? この時点の崩玉に、そこまで強い意識があるとは思えない。とするなら崩玉がルキアの能力の素材になることはない。
ならば何を素材としたか――――自らが死神の力を失う状況に於いて、それを振るうにはどうすればよいか。それを、崩玉がどう判断したか。
『一護の「死神の力」を司ってる俺の魂魄と、姐サン自身の「朽木ルキアの分身」としての魂魄。姐サンがここにいることと、姐サンを介して死神の力を送られ続けることで、俺たちの関係はかなり強く粘着しているはずだ。
だからまー、その両方を分捕ったっていうのが、さっきのアレだろ? それは、なんとなく体感でもわかるな。朽木ルキアに姐サンと、一護の死神の力を届けるために』
『え、ええ。…………あの、何か妙に嫌な予感がしてきたのですが』
うっきゃー! と両手を上げてルキアを応援しているガキ。気のせいでもなければ、ガキの口元から冷気が漏れている。それでいて放たれる霊圧の質は……、あー、つまり。
『意図せずなんだろーが、俺と姐さんっていう浅打の一部同士を、あの能力で「無理やり」「鋳造し直した」、みたいな結果なんだろうよ。つまりアレは、ルキアの能力でもあるが、同時に「もう一振りの斬魄刀」にもなっちまったって訳だ。
正式に浅打をもらえば、多分もう一本、ルキア用の刀が出来ンだろ』
『えっ?』
『おぅ、オメデトサン。尸魂界史上、三人目か四人目の「二刀一対型の斬魄刀」の誕生だぁ』
『ぎゃーお!』
『な、何故そんなにやる気が無さげなのですか! それに、嗚呼そうやって暴れない暴れない……』
腕白な小娘だなこのガキ。抱っこされてあやされても全然テンションが堕ちる気配が無ぇ。そして姐さんがボソっと「竜の気質が出ているのはそういうことですか」とか呟いたのが、何か嫌なフラグな気がするというか。
それにしても、スノーホワイト……、スノーホワイト…………。白雪の英訳と考えるのは妥当なんだろうが、何か引っかかる。こう、死神時代、前に西梢局の方に援軍として派遣された時に何か聞いたことがあるような、無いような……?
そしてオッサンが、締めくくりに一言。強烈な一発だ。
『つまり客人よ。貴様と、そこの我が半身。その双方の子のようなものなのだ、その
『あ? ひょっとして名前を本人に聞いたのか』
『ぎゃーヴン!』
『いや何で威張ってんだよお前よォ』
えっへん! と言う感じで胸を張るのは可愛いっちゃ可愛いが……。
それを聞いて、フリーズした姐さんが、大声を上げて絶叫するまで、大体十秒くらいは時間を要した。
※ ※ ※
感じる。自らの内に走る、霊力を。
「嗚呼――――」
感じる。自らが視ていた世界が、より鮮明に「死の世界」へと近づくのを。
「そして――――」
そして何よりも。自らが握るその剣から、ひしひしと、氷の剣であるにもかかわらず、今にも火傷しそうなほどに溢れ出んばかりの「一護の霊圧を」。
「なん、だと……?」
「この剣は、一護から溢れ出ていたあの力を、少し拝借しているのだな」
こちらを見上げて間の抜けた顔を晒す一護に、思わず苦笑いが浮かぶ。嗚呼そうとも、いずれ死神の力が戻ると「偽っていた」にもかかわらず、いざ手にしたこれがもはや「単純な死神の力」ではないと、一目でありありと判る有様なのだ。
ヘリファルテを名乗った虚は、しかし律義にも一護から遠ざかり、ルキアが何かをするのを待っているようだ。先ほどまでのやり取りを思えば、つまりは「この状況においても余裕がある」ということなのだろう。……事実、もう破損した身体がボコボコと音をたて再生し始めている。
「不甲斐ない姿を見せて済まなかった、一護。この通りだ」
「ルキア、お前……っ」
苦笑いを浮かべながらしゃがみ込み、朽木ルキアは目を伏せ、倒れる一護の頬を撫でる。愛おし気に、というよりも、どこかそれは一護であって一護ではない「遠い所」を見ており。そして彼女は、大破している斬月の、未だ凍っている穴の部分に、袖白雪の鍔を置いた。
「これを持って、今は待っていろ。この刀を通して伝わってくる。……お前は回復するのだな、嗚呼。『何を言ってるかわからないが』、言いたいことはわかるぞ?」
「……っ! そんな真似が出来るかよッ! というよりルキア、その剣は何なんだっ!」
「説明している暇はない! 後、私にもわからん!」
「わからんじゃねーよ!? どういうことだよ、まるで意味がわかんねェぞッ!」
浦原喜助がいれば「ツッコミの才能がありませんね~黒崎サン」とでもからかいを入れるだろうやり取りに、しかし笑ったのはヘリファルテ。
『――――ッフッフッフ。なるほど、今覚醒した新たな力というわけか。そのような使い慣れない武器を持って、中型大虚最強格たるこの私に敵うと本気で思っているのかな? 死神の少女よ』
「勝てる、勝てない、ではない。少し気恥ずかしいがこの男に重ねて言うなら――――守ると決めたのだ。私もまた、この男の守りたいものを」
「――――」
何故か、今にも泣きそうな顔に一瞬なった一護は。しかしそれでも頭を振り、状況を観察するようににらみつけ。
「それに一言だけ言っておくぞ、貴様。力を使い慣れていないと言うのは、時に『危険そのもの』ということだと」
『どういうことかね?』
こういうことだ、と。振りかぶったその剣、
「
そう叫んだと同時に。まるで目の前の敵を切り裂くように振り下ろしたその刃から「高密度の霊子が」「猛烈な冷気を伴い」、そのままヘリファルテへと向けて射出された。
あたかも斬月本来の、月牙天衝を思わせる形で。