メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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続けてみました。
初遭遇はやっぱりあのシーンまでどうあがいても無理なので・・・


死神代行 篇
#002.曇天


 

 

 

 

 

 一護についてだが、やっぱり一番大変だったのは赤ちゃん時代だった。

 夜泣きのたびに水没の結果、延々とQOL(生活の質)を落とされ続けた俺と■■■■のオッサンが、当初若干反目しあっていた名残を忘れ去り暇さえあれば愚痴をこぼし合うくらいに仲良くなったのは、まず間違いなく赤ちゃん特有の情緒不安定さだ。

 

『外に訴える手段がないからこそ、感じた心の雨がそのまま内にも外にも降り注ぐことになるのだろう。とはいえ見るのだ、ホワイト。見渡す限りのこの花々…………、真咲は当然としても、死神とはいえ志波一心も一護には愛情を深く注いでいるのだろう』

『当たり前って言えば当たり前なんじゃねぇか? 誰だって子が憎い親は居ねぇだろう。それなりに愛情注がれて育ったってんならよ』

『しかし世の中には、自らの目的のために己が血を、その子らを生贄に捧げるように非道に扱う者もいる。そういう意味では、この子は未だ幸運の中にあるのだ』

『生贄って、■■■■のオッサンの本体みてぇにか?』

『…………フッ、テレビでやっている弓道大会の決勝戦を見ているな。楽しそうだぁ』

『無視かよ、スゲーなアンタ……』

 

 まぁ多少なりとも仲良くなったところで、オッサンはオッサンでだいぶマイペースなんだけど。

 ただそんな生活も、年を経るごとに少しずつ変わっていく。大体言葉を覚え始めたあたりで我らがメゾン・ド・チャンイチ勢の目の前にテレビが設置されるようになったり(テレビで色々学んでる影響だろう)、そこに一護が今置かれてる状況が映るようになったり……、まぁこの頃は相変わらず水没していた時期だったけど、妹たちが生まれてからはちょっと我慢することを覚えたのか、全身つかるくらいだったのが首くらいは水面に出せるくらいにはちょっと水の量が減った(五十歩百歩か?)。

 幽霊を幽霊と認識できていないが故におこる問題も多かったが、それとてまだ小事。この世界自体に大きく影響を与えたのは、幼馴染の有沢たつきと共に、空手道場に通い始めてから。花畑にテレビとかおもちゃとかが散乱していたこの精神世界は、いつの間にやら一面の地平線の先まで畳が敷き詰められた道場に変貌した。

 

『いや素直に影響受けすぎだろコレ……って! やっぱ雨漏りは健在かよッ!』

『ふむふむ…………、画面を見るのだ、ホワイト』

『泣かされてるじゃねーか!』

『どうやら、たつき嬢のかかと落としがダイレクトに脳天へヒットしたらしい。流石に私も「影」など使う訳にもいかないからなぁ』

『こーやって毎度毎度、泣かされてはいるんだけど、それでも道場自体はやめねーんだよなぁ……、おや? おやおや? ひょっとして……』

『どうした、ホワイト』

『いや、別になんでも?』

『一護がたつき嬢に好意を寄せていることか?』

『判ってる上にデリカシーが欠片もない一言ォ!?』

 

 何をそんなに慌ててると、例によって渋い声のまま表情を変えず言葉を続けるオッサンは、まー何というか、相変わらず浮世離れしている。

 

『とはいえ幼子の好意だ。相手を欲する気持ちのベクトルは、当然まだまだ浅い。責任という観点もない上に、本人の自覚も薄いと来ている。特に問題視する話でもないだろう』

『いや問題視してるって訳じゃねーけど……。ほら、今たつきちゃん言ってるじゃん? 「一護のことは私がずーっと守ってやるから!」って。自覚してないけどほぼ逆プロポーズじゃん。むしろあっち側の好意の方がデカいんじゃね?』

『ふむ……』

『これでたぶん、本人ずっと幼馴染の距離感で接し続けて、向こうもそれを受け入れてってなると……、大分こじれそうな気がすんのは気のせいか? オッサン。ちょっと女泣かせすぎじゃね? 我らが家主』

『……良い戦力になりそうだ。今後とも一護を守ってもらいたい』

『おおおおおおいぃ? 観点ちょっとマイペースすぎやしねーかオッサン……』

 

 だが、これでもまだ「のほほん」と過ごしていた時期なのだということを、俺は知っている。当然原作BLEACHの通りに世界が進行するなら(というか俺みたいなイレギュラーが外界に接触できないので変わりようがないんだが)、当然あの出来事は、残念ながら回避できない。

 

 6月17日。一護にとって決して忘れられない――――この世界の構造「そのもの」を変えてしまう日が来た。

 

『…………虚だな。しかもだいぶ性質が悪そうだ』

『ああ』

 

 オッサンと共に、一護のライブ映像を見ているのだが。そこに雨に打たれる「テルテル坊主のような」人影に、俺たち二人は嫌なものを感じる。グランドフィッシャー、疑似餌を垂らしそれを視認する「霊力の強い」魂を喰らう虚。

 俺に関してはその存在に、原作知識があるが故に嫌悪感が強いが。例え「一護がその真の姿を認識できない」のだとしても、それを知っているからこその発言だが。お隣の■■■■のオッサンはそうでもないだろうに、経験則からか何か(よこしま)な雰囲気でも感じ取ってんのか?

 

『だが心配することはない。真咲にはその姿が見えているのだろう、あちらが守るなら何ら問題はないはずだ。あの子は天才だからな』

『おっ子孫自慢?』

『ああ。たまには良いだろうなぁ……』

 

 珍しくニヤリと笑う■■■■のオッサン。その笑い方は「斬月として」振舞っている時のニヒルかつオサレなものじゃなく、もっと感情の乗った自慢げなものだ。それを見てオッサンの本体である■■■■の笑い顔を想起するのだから、なんとも世の中は変に出来ている。

 

 だが残念なことに、オッサンの思惑通りには事が運ばない――――ってちょっと待て!?

 

『おい、おいオッサン! どうしたオッサン!』

『わ、わからぬ…………、だがこれは、まるで「本体」が――――』

 

 オッサンの全身が青白く輝き、その身体が宙に浮く。まるで「この世界から」剥離させられようとしているかのようである。

 原作を知る身としては「ついに来てしまったか」という感じだ。「聖別」――――滅却師において、その祖たる■■■■が自らの子孫、それも混血から自らの力を抜き己の一族が糧とするものだ。

 

 例の青白い剣だか矢だかを出して、地面に突き刺すオッサン。それに両腕で縋りつくが、すでに足が上空に引っ張られている有様と来ている――――。

 

『…………そうか、「私」はこの私の存在すら受け入れられぬ、か。真咲の子である以上、一護にも血装も「文字」を受ける資格もあるのか。故にこそ…………、どうやら私はここまでのようだ、ホワイト。私の代わりに、一護を見守ってくれ――――』

 

 地面から「剣ごと」抜け、宙に放り出されるオッサン。

 そのまま上空、虚空へと吸い込まれていくのを――――俺は「響転」で追いすがる。

 

『!? 一体何を――――』

『馬鹿がオッサン、アンタが居なくなっちまったら「問題がある」だろっ! 一護の中のアンタですらそうなんだ、母ちゃんの中だってな! そうなったとき、一護には『母親由来の』力が全然残らないことになっちまうじゃねーか! そりゃ拙いだろ!』

 

 言いながら具現化した「斬月」の刀を鎖鎌の要領で地面に投げ捨て、俺自身とオッサンを鎖で縛る。猛烈な勢いで吸い込まれそうなそれだが、俺自身ともいえる斬魄刀そのものが強力な重しとなっているのか、ギリギリその場から動くことはなかった。

 

『何を言う、あの子は純血の滅却師だ。何を恐れることが――――!』

 

 そう言うオッサンだったが、俺とオッサンはともに地上にあるテレビ、一護の周囲で起きている事柄を目撃していた。

 

 

 

 だからこそわかった。黒崎真咲が内血装を走らせた瞬間に「全身から」霊圧が抜け、腕が暴発したことに。

 

 

 

『なん…………、だ……?』

『見るんじゃねぇ! 一護!』

 

 唖然とするオッサン、知ってはいたが声をかけるしかもはやない俺自身――――。

 

 

 

 結論から言えば、その日から数日。この世界は水没ではなく「深海となった」。

 プカプカ浮いてるテレビに映る一護の姿。膝を抱え、落ち込み、妹たちに合わせる顔がないというその様子。

 

『…………ホワイトよ』

『……嗚呼、その感じだとなんとなくわかる。「俺のせい」ってことだろ?』

 

 あくまで推測だが、と断りを入れた上で。■■■■のオッサンは俺に語る。

 元来、純血の血筋だった彼女は、あの場で死ぬはずではなかった――――大型虚(ヒュージホロウ)程度に後れを取るような滅却師ではない、本当の意味での滅却師なのだから。

 だが想定外の事柄としては、おそらく彼女の中にも「俺」もしくは「虚の力」だけは、已然として存在し続けていたのだろう。

 

 一護の内にある虚と■■■■は、死神の力の後押しを受けた俺とオッサンが「斬月」になることで一つの和解をみたが。

 彼女の内においては、死神の力と共にオッサンが、いまだに虚の力と日夜戦っていたという事なのだろう。

 

『本来なら私の存在がなくなったところで、真咲が死ぬことはなかった。……滅却師と虚、相反する属性の力で魂魄が崩壊するのを、黒崎一心が己が人生をかけて積み上げてきた死神としての力を注いで抑えているからな』

『自らの霊的な素養、能力全てを使いつくしてまでな? まー、そうだろうな。曲がりなりにも俺が正気を持っていられるって言うのは、その死神の力の後押しが絶対に不可欠なんだろうし』

 

 だが悲劇は、目の前に虚がいる状況で、逃げることも出来ない状況で――――夫である一心すらわずかなりとも慢心するのを責められない状況にこそあり。

 

『その諸悪の根源というか、それを引き起こした俺を恨むか、責めるか? オッサン』

『…………お前と共に、一護の心を見守ってきて十年は経ったか』

 

 厳密には八年とか九年くらいだろと返すと、■■■■のオッサンは目を閉じる。

 

『その間、茶化すことはあれどお前が一護を害そうとすることはなかった。影が繋がってるからこそ、お前の機微も私は把握することが出来た。だからこそ自称通りに、死神だったころの理性を失っていないというのも把握している』

『……オッサンはずっと、郷愁とか、寂寥って感じだったけどな。そりゃ、多少は感情の揺れ動きはあったけど、まとめるとその感情が強かった』

『嗚呼、そしてだ。そうして私の心の機微すら気を配るお前を、今の私は「同じ住まいを共有する者」として、認めざるを得ない』

 

 ――――斬魄刀は持ち主に似るもの、持ち主の「心」を映して形どるもの。

 

『お前自身、自覚はないのだろうが。虚としての闘争本能を除いた時点で、お前の気質の根底は一護のそれと等しい。否、「等しい状態で」再構成されたのだろう』

『…………』

『お前を責めると言うことは、一護を責めると言うことに他ならない。そこまでお前は一護に寄っているのだ。そして、そうまで共に落ち込んでいるお前を、どうして悪者に出来ようか。……何よりそれは、お前にとっても「母」を失ったことに違いないだろうからな』

『…………フッ』

 

 アリガトよ、と少しだけ応じる俺に、オッサンは何も言わず空を見上げた。……共にぶくぶく口から泡を放ちながらという絵面が壮絶にダサい気もすっけど、まぁ細かいことは言いっこなしだ。

 

 実際、落ち込んでる。

 ホワイトとして自分を認識した時点でこの展開が避けられないのは間違いないが、あの頃はこういった冷静な判断以上に虚としての「生存本能」が何よりも強かった。だからこそ連中の命令に逆らうことが出来なかったし、目の前の敵をみすみす逃がすことも出来なかった。

 それが周り周ってこうなったとするなら、それは何とも因果応報で自業自得なことだ。

 

 と、ぶくぶくと言っていた水が引いていく。一瞬で気化したのは何だろうとテレビ画面を見れば、どうやら父親の一心が色々と慰めているらしい。とはいえ水が消えた世界は以前とは大きく様変わりしてる――――道場は影も形もなく、この場所は「空座町」、一護たちが住む町そのものだ。

 

『ここは……』

『…… 一護の「護りたいもの」といったところだろう。この町での生活を、人々を、なにより家族を』

『十歳にもなってねーガキが抱くにゃ、ずいぶんデケェ志だな』

 

 まあ俺としちゃ納得って言うか。原作の一護が言っていた「山ほどの人を守りてぇ」という彼のその心の在り方こそがそれなのだろうが。

 

『…………でも空めっちゃ曇天だな』

『いつ降ってきてもおかしくはないな』

 

 実際その通りで、表面上泣かなくなった一護だったが、街の水没頻度はそれこそ夜泣きの頃のように増えた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 あれから一護はだいぶ変わった。幽霊を幽霊と認識できるようになり、また抱えている影が大きくなるにしたがってどんどん町の上空の曇天は雲の厚さを増し、昼間の場景がもはや過去のものとなっている。

 

『っていうか、不良扱いされて「なら不良になってやろうじゃねーか!」とか思いながらも勉強はしっかりやってたり、そのわりにこっちを相変わらず水没させんのは変わんねーなぁ』

『一護は素直なのだ』

『ま! これも痛い青春の一ページって奴かねぇ? 見た目について変えるつもりはねーから、真面目風なイメージ作りとか始めてるし……、後でゼッテー頭抱える奴だろコレ』

 

 そんな風に何かが変わったように、何かが変わらぬように毎日を続け。気が付けば、そう。俺にとっては懐かしい横顔が一護の部屋に現れ、過る。

 

『死神…………』

 

 そこからの経緯は多く語るまでもない。表面世界はおおむね原作通り、一護が死神・ルキアの力を奪い取る形で、その力を引き継ぐ形に――――。

 問題なのは、ちょっとこっちの方かもしれない。

 

 

 

『――――へ? えっと、あなた方は……』

 

『あっ、これ朽木ルキアの斬魄刀だな……』

『予想外だ……』

 

 

 

 オッサン諸共、顎あんぐり。この曇天の世界に現れたのは、ひたすらに雪のように白い、和服をまとった女だった。

 袖白雪――――アレはアニメのイメージだろうに、そのまんまの姿で彼女が目の前に現れていた。

 

 

 

 

 




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