メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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姐サン側の話と、ちょっとずつ人数が増えていくやつ
この時点で何かを察する人もいるかもしれない


#020.狂乱するにはまだ早い

 

 

 

 

 

「くぅ、ぁあああああッ! ったく、ようやく虚の連続出現とかも落ち着いてきたし、日曜の午後くらいはゴロゴロさせてくれってンだよなァ。試験中まで出てくるとか本当、少しは空気読んでくれってンだよなァ」

「……おい一護、あんまりゴロゴロしてると太るぞ」

「そーそー、太るぞ一護! 姐さんの言うとーりだ!」

「お前だってゴロゴロしてンじゃねーかよ。コンはまぁ……、ぬいぐるみだし?」

「…………してない、ゴロゴロなどしていない」

「ルキア、今思いっきり起き上ったじゃねェか……」

 

『当たり前みてェな顔して部屋でくつろいでやがるぞ、朽木の奴……』

『微笑ましいなぁ……』

『いや、オッサンだいぶテキトーすぎじゃねェか?』

 

 ベッドの上で転がる半そで姿の一護と、黄色い半そでワンピースな恰好なまま床でゴロゴロ本を読んでいるルキア。さらにその横にはコンが雑誌の袋綴じを開いて見ていたりと、BLEACH的には「時系列と言う意味で」そこそこカオスな光景だ。なんなら以前に比べてだいぶ朽木ルキアも一護の部屋を我が物として占領している感が強い。

 そしてそんな連中を見て、どこか微笑ましそうにしてるオッサンが色々と妙な感じだ。

 

『ぎゅーん……、ぎゅーん……』

『フフフ…………、寝る子は育つと言いますし、たくさん寝なさいな』

 

 あっ、ちなみに姐サンは俺の横で、振子雪を膝枕して寝かしながらニコニコして、茶の間(一護精神世界の地面というかビルの部屋の一つというか)でルキアたちの姿を見ることから目をそらしている。言い方は悪いが、どんどん朽木の奴が一護に心許していく様を見ていられないということだろう。なんなら声のトーンも1つ2つ上がって女の子らしいものになってるし。

 これが噂の、脳が破壊されるってやつか…………?

 

 その後、ごろごろなどしておらんわ! とキレる? ルキアとじゃれてる一護とコン。現世の衣服を調査してるだの何だの言いつつ、ヘタウマタッチな絵で調査内容をまとめているルキアに突っ込む一護と、余計なことを言って頭踏みつけられるコン。馴染みっぷりが尋常じゃねェぞ本当……。

 

『…………ま、水没しなきゃ言うことは無ェけどよ』

『ホワイト、客人よ。茶がはいった』

『お、サンキューなオッサン』

『いただきます、ご老体の方』

 

 そしてちゃぶ台の上に乗っかったせんべいを齧りながら、オッサンが湯呑に入れた紅茶を一口。うん、微妙に合わねェ。苦笑いする俺と、呑むタイミングも表情が変わるタイミングも一致した姐さん。思わずお互い顔を合わせて、ちょっと名状しがたい気まずい感じになる。

 

『あー、しっかしアレだな………………………………』

『な、何ですか? 何だというのですか白い方、あなたッ!?』

『何でそんな警戒した感じで身体抱きしめてンだよ自分で、つーか顔赤らめンの止めろよ』

『あああ、赤く等なっておりませんとも! この、また凍らせますよ!

 くぅ…………、振子雪が膝の上で寝ていなければ……!』

 

 ぷりぷり怒って足を振り上げようとしてンのは、今まさに画面の中(というか現世現実世界の方)でコンの頭を踏みつけて肩で息してるルキアの雰囲気そっくりだ。普段は見た目的にあんまり似てる訳でもねーけど、こういう所はそっくりっていうか、コピーじみてるっていうか。姐サンの「絵」もそうだが。

 

(ねぇ)さん……、オレは、オレは…………、ゲフッ」

「ふむ、(コン)は滅んだか。

 さて次は貴様だなぁ一護」

「お、おい待て!? いくら何でもこんな時間から襲いかかンの止めろ!? 下にまだ親父たち全員いるんだぞ!!?」

「む? それもそうか。ならば一度手を引くが……、後で覚えておけよ?」

 

 ひぃ、みたいな声を出す一護と、俺の声が重なる。

 

「と、というか、アレだ。服で思い出したけれどお前、そーゆー服ってどこで買ってるんだ? 制服もだけど現世の金とかロクに無いんじゃねーのか?」

「たわけ、多少は換金しておるわ。基本的には浦原の店で、あちらの預金を下ろしてはいるが」

「あっちの預金ねぇ……。尸魂界の方のってことは、あの下駄帽子って本当にそーゆー仲介業者っつーか、輸入業者みてェなことしてんだな」

 

 何モンだよアイツ、とぼやく一護に、ルキアもいまいち微妙な顔だ。ルキア的にも知りたいが知らない、といったところなんだろーが。続けた一護の台詞に、姐サンの顔が豹変した。

 

「というかそーゆー話だったら、風呂とかもあの下駄帽子になんとかしてもらえねーのか? いい加減、遊子(ゆず)達が寝静まった後に俺が見張りながら風呂に入るのも面倒だろ、お前だって」

「うむ……、しかし『現世での生活が』『絶対に長引く』ことが確定しているから、あまり予算を使えぬのだ」

「長引く?」

「こちらの事情だ。深くは気にするな。

 ………………………………ん、まーさかとは思うが貴様、覗いていたりは―――――」

「しねーよ、そんなお子様体型。まだ夏梨の方がスタイル良いんじゃねェか?」

「お子様とは何だお子様とはーッ!」

 

『――――――――』

『姐サン、姐サン、歯ぎしり止めてくれ歯ぎしり止めて、怖ェからよ……。振子雪も起きるからホラ、な?』

『――――元はと言えば半分くらい貴方のせいですよね?』

『お、おぉ…………』

 

 姐さんの圧が強い。霊圧じゃなくて怒りの圧力だ。

 とりあえず振子雪に最低限は配慮しちゃいるが、いつ白刃とかが飛んで来るかわかったもんじゃねェ。

 と、こっちが困っているとオッサンが助け舟を出してくれた。いや、助け舟っていうか、部分的に火に油を注いでいる話ではあるんだが。

 

『――――そもそもその子はお前たちの子なのだ。子供の前で、親の喧嘩を見せるものではない』

 

 いや、本人的には完全にお爺ちゃん的な目線での助言っつーかアドバイスなんだろォが。姐サンはそれを聞いて「だからそれも納得していないのですが……!」とこっちにもキレる。

 

『そもそも、その、ま、ま、まぐわう(ヽヽヽヽ)ようなこともしていないというのに生まれているのにも、色々言いたいことはあると言いますか、ええ』

『何ドモってんだよ姐サン、初心か?』

『…………………………………………』

『わ、悪い悪い、つい本音が……』

『貴方はまずその軽率さを直す方が先でしょうとも、白の方。……そもそもどうして「子供」という形で出力されたというのですか。せいぜい妹とか、そういう見た目や性格でしょう?』

 

 これについては姐サンの知識不足というわけでもないだろォが、まあ経緯はどうあれ「生み出す」という事実に変わりはないってのだけはわかっているんだろう。その結果がこんな幼児で、しかも俺と姐サンとを親と認識している奴になるというのが意味不明だと言ってる訳だ。

 まあ、そのあたりについちゃ俺もよく判ってねェんだが…………。原理は説明できンだが、娘になった理由についちゃ心当たりがいまいちだ。

 別に姐サン、俺のこと好きとかそんなことはないだろうし。まあ「妻帯者だった」記憶もあるから、そのあたりは微妙な気分になンだが。

 

『……二つほど理由は考えられる』

『どういうことだ、オッサン』

『どういうことです、ご老体の方』

 

 オッサンの唐突なそのセリフに思わず顔を見合わせて聞く俺と姐サン。オッサンは紅茶を飲んでから、テレビの方を見て、きゃっきゃうふふとガミガミじゃれあってる一護と朽木を見た。

 

『一つは朽木ルキアの側の事情。もう一つは客人の側の事情だ』

『あー、あ? だからソウルソウルしてそうな話は得意じゃねェんだよ』

『焦るな、ホワイト。…………朽木ルキアがまず、自らの死神の力の所在をどう認識しているか。これがまず第一だ』

 

 続くオッサンの話はちょっと回りくどかったんで、まとめると次のような感じになる。

 朽木ルキアは自らの死神の力を黒崎一護に注ぎ込み、結果として袖白雪ごと貸し与えるどころか分捕られたと考えている。その状態で一護が始解をしたものだから、一護の内にある死神の力というのは「一護本来の死神の力」とは認識できず、「袖白雪」や自らの力の延長であると考えていた。そう「勘違いしていた」。

 だからこそ、そこから武器を取り出すときに「袖白雪」と「一護の死神の力」、つまりは俺を無意識に使ってしまったのだろうということ。

 

『浦原喜助の言い回しのせいもあり、その誤解はより深くなっている』

『そこまではまだ何となくわかるっつーか、なァ』

『え、えぇ。それで、私の側の事情というのは?』

 

 

 

『客人よ――――お前はそこの我が半身を好いてはいまいか?』

 

 

 

 そして、オッサンがデリカシーを蹴っ飛ばす発言をしてから、沈黙。

 姐サンは顔色を赤くしたり青くしたりを繰り返し、必死に叫ぶのをこらえていた。それを横目に見ながら、オッサンに「いや無ェだろ」とツッコミを入れておく。

 

『何も共に添い遂げたいということや、子を為したいという程「具体的な感情」でなくとも良い。当初この場所に来た時に比べて、かなり打ち解けてはいるが。それ以上にこのホワイトのことを、自らの身内であると認識していないかと問うている』

『そ、それはまぁ……。私程ではありませんが、自らの使い手を敬っておりますし? ご老体の方より私を気にかけていただいておりますし』

 

 ちらちらこっちを見て、目線が合うとちょっとびっくりして逸らす姐サンが生娘じみた反応でどんな顔したらいいんだこりゃ。

 

『種類を問わず、それは好意あるいは好感と取れるだろう。その好意を持っている客人を使用し、朽木ルキアが自らの力をもって新たな刃を錬磨する際に。その感情の種類を、振子雪を形作る際の基礎としたのだろう』

 

 オッサンのその発言は端的に言って爆弾発言なんだが、姐サンはいまいち理解できていない様子だ。オッサンが俺の方を見て「説明しろ」と暗に言ってくるが、いやンなこと俺の口から言ったら完全にアレじゃねーか。

 俺の視線を見て察したのか、オッサンは特に躊躇いもなく、事実の「半分」を言葉にする。

 

『つまり、客人が抱いている好意の種類が、そのまま振子雪の形成に関わっているということだ。友愛であれば弟妹であろう。親愛であれば自らの複写であろう。そして――――情愛に至る類の好意であったからこそ、振子雪はお前の娘として産み落とされたのだ』

『――――――――へっ?』

 

 姐サンが動揺してこっちを見てきた感じがするが、全力で視線を逸らす。目と目が合った瞬間、その時点で俺の方はともかく姐サンに関しちゃゲームセット、ゆりかごから墓場までご招待って感じだ(意味不明)。ただそんな俺をじっと姐サンは見たまま、しばらく押し黙ると。

 

『…………わかりました』

 

 なんて不穏なことを言ってきて、そのまま俺の隣に「くっつくように」座った。振子雪も膝枕したまま移動してるので、ちょっと不格好だ。だが、それ以上に俺の腰とかに自分の腰とかくっつけてきてるこの距離感は、久しくなかった「女」との「まともな」接触ってことで、流石に動揺している。

 

『いや、オイオイ……。流石に冗談が過ぎるぞ姐サン、何の真似だ? アンタ、基本は俺のこと嫌いだろ』

『……嫌いと言う程でもありません。もとより何の感情もなかったというのが正しいのでしょう。ですが「今の」私が「そういう感情を」前提としている、という状況証拠があるのならば…………いえ、認めたくはありませんが』

『なら何でだよ』

『しかし実際、白い方がどういう方なのかというのも嫌という程見てきました』

 

 そのまま姐サンは、横を見て表情が引きつってる俺を、下から上目遣いに覗き込むようにいて。

 

『だったら、せめてここから出るまでの間くらいは、諦めても「問題はない」と感じました。ええ、なので――――不束者ですが、よろしくお願いしますね? あなた(ヽヽヽ)

『――――――――――――――――』

 

 いやチョロいとかそういう話ですらないっつーか、何だこの展開……。い、一応は振子雪の前で仲の悪い姿を見せないように、的な意図があるのは猫可愛がりっぷりからわからなくも無ェんだが、それにしたって何でいきなりこんな距離を詰めて来た姐サン!?

 

 そしてもっと恐ろしい話が一つ脳裏を過る……。斬魄刀というのは、基本的には「魂の映し手」、自身の使い手と鏡合わせの関係になる。一見して色々違うように見えたとしても、本質的には似通っているっつーことだ(俺と一護、姐サンと朽木を比べれば「そのまんま」だろう)。

 そしてそんな姐サンが、一時的にとはいえ「夫婦」のような振る舞いをすることに躊躇いがないくらいには、俺のことを好いているような状態っつーのは、「場合によっては結婚しても良い」くらいに好かれている状況っつーのは…………。

 ひるがえって、朽木が一護に今向けている感情っつーのは…………。

 

「お兄ちゃん大変! なんかでっかい人来た! お兄ちゃん――――――あれ? お部屋に鍵がかかってる」

「(!? お、おい早く押し入れに隠れろッ)」

「(い、言われずとも――――ぬっ、あ、足がスカートに引っ掛かって……)」

「(こんな緊急時にそんなドジしてんじゃねーよ!? あーもう面倒くせぇ……!)」

「(こら!? 抱えるなら抱えるでもっと丁寧に運ばぬか、たわけ!)」

「(コラッ一護ォ! 姐さんお姫様抱っこなんてうらやまけしからんことしやがって、やるんなら俺に替……ぎゅむ)」

「「(あっ、ふんづけた)」」

 

『…………死ぬなよ、一護』

『?』 

 

 不思議そうにこっちを見る姐サンから目を逸らし、俺は両手を合わせて蛇尾丸と恋次(眉毛のヘンな副隊長)とに命までとらないでくれと、星に祈るように願った。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「――――っで、インコ探しに来たついでに近くまで来たから寄ったってことかチャド」

「嗚呼…………。柴田が入っていたインコだったから、出来れば看取るまで育ててやりたかったんだが」

「まー、ああいう小さい生き物だと身体デカいと怖がるかもなァ。チャドいいやつだけど、伝わんねーだろうし。勿体ない」

「済まない、一護。ありがとう」

「別に慰めたとかじゃねェぞ? 思ったことそのまま言っただけだぜ」

 

 ルキアと一緒に部屋でゴロゴロしていた当日の、そこから少し時間が経った後。一護はチャドと一緒に、ファーストフード店から出たところだった。

 経緯としては至極単純で、チャドこと茶渡泰虎が顔を出しに来たからだ。本人いわく「近くまで寄ったから、顔を出してみようかと」と言いつつ袋アイスをいくつか差し入れに。一護の父一心からは感謝されたり、遊子からはちょっと怖がられたり、対照的に夏梨からは「おっさんくつろいでけよー!」とだいぶ気安い扱いを受けたりしたが。

 それとなく彼が落ち込んでいることを察した一護が外に連れ出し、ファーストフードでも食べながら事情を聞いたりしたという流れだ。何だか妙にヘコヘコしてる店員だったなァなどと店の感想を思い出しながら、一護はついこの間の出来事を思い出す。

 

 ……なお余談だが、ルキアから「いつ虚が出てくるか判らぬのだからもって行け」と渡されたコンがカバンには入っており、そのコンを発見したチャドが「いつかのヌイグルミ……」と可愛いもの好き精神を発揮した結果、その「いつか」のトラウマが刺激されて気絶していたりするが、そこは割愛。

 

「母ちゃんに会えると良いな、アイツ。虚に騙されて『あんなこと』になってたままじゃ、本当、浮かばれない」

「そうだな。…………また肩車するって約束もしたからな」

 

 少しだけしんみりしている一護とチャド。もとはといえば、「とある事情で」インコに憑依していた少年の幽霊・シバタユウイチ。彼を魂葬し尸魂界へと導いた後、その仮初の肉体となっていたインコである。

 本来はルキアが記憶処理を施した後にチャドが引き取ることになっていたのだが、どうやら飼育している途中で逃げられたらしい。そのインコが飛んでいった方向に痕跡が無いかを探している途中で黒崎家に立ち寄った、という流れだったようだ。

  

 そして雑談は必然、尸魂界の方へと移っていく。

 

「虚を斬ると浄化……、成仏するのか?」

「そこまで詳しい話はあの後しなかったからな。確か、ルキアはそんなこと言ってたぜ? で、シバタの時のあの虚みたいに『生前に罪を犯していた』奴については、そのまま地獄で裁かれるらしい」

「そうか。…………ん、そうなると大虚(メノスグランデ)はどうなるんだ」

「あ? どうってそりゃ…………、あれ? いや、大量の魂魄を取り込んで自我を持ってるやつってことだから、んん? あー、ヘリファルテとかは特別自我が強いやつはどーのこーのとか言ってたけど、ルキアに前にされた説明だと、あァ……!?」

 

 いまいち今の知識では理解できない難題である。チャドともども顔を突き合わせて悩んだ後、結論が出ないということで夜一の話題になった。

 

「夜一ってあの人……、人? 人でいいんだよな、あれ」

「嗚呼、そのはず…………?」

「チャドもよく知らねェのか。下駄帽子といいあの人といい、何なんだ一体全体……?」

 

 半笑いの一護と冷汗なチャド。チャドもまた一護、石田同様に死ぬほどびっくりさせられた記憶があるので、お互い表情は微妙な感じである。

 と、そんな途中。一護がはっとした顔をする。「どうした?」と確認するチャドを見て、咄嗟に腕を交差させて頭上に構え――――。

 

「――――おぉらッ!」

「ッ!?」

 

 そして「頭上から落下してきた」バンダナを頭に巻いた青年の、「竹刀袋」の打ち下ろしを防ぐ。一護! と声を荒らげたチャドが、その相手を殴れば、逆にその動きを利用されて「竹刀袋」越しに躱し、その勢いのまま後方へバク宙してから着地した。

 とはいえ、勢い余ったせいかバンダナがとれて、スキンヘッドの頭がキラリと光る。黒いリストバンドを両腕に巻いたいかにも柄が悪そうな青年は、ニヤリと笑って一護とチャドを見た。

 

「ホーゥ! 良いじゃねぇか……、軽い不意打ちとはいえ、今の一発を『なんとなく』で防ぐか。おまけに『器子』なくせにこうもあっさりぶっ飛ばされるたァ、そっちのデカいのもやるじゃねぇかよ!」

 

「何なんだ、テメェ……?」

「…………ッ!」

 

 防ぎはしたが、一護はなんとなく困惑している。チャドは「また一護か俺にケンカを吹っかけてきた不良か?」と判断しているようだが、一護の側は違うからだ。

 今の一発と相手の表情から、純粋にケンカないし殺し合いを愉しむ戦闘民族のような気配を感じ取ったのである。その微妙な、現代にいる人間としてはちぐはぐなタイプの感情に困惑していた。ヤクザや不良たちが「ぶっ殺してやる!」と言って武器を構えたりした時とは違う喜悦が、いまいち不可思議である。

 そんな一護を前に独特のステップと歌で踊りを踊り始めた青年。これには一護だけではなく、戦闘態勢をとっていたチャドも「何なんだ……?」と少し警戒が緩んだ。ダンサーのそれというより、何かしらの儀式のようで、しかしこう「幼稚園生や小学生」くらいが考えたりしそうなテキトー極まりないものである。一体どんな顔をすれば良いのやら。

 

 その困惑のせいか、目の前に「真っ黒な蝶」が過ったことに気づかない二人であった。

 

「――――ダメじゃないか一角(ヽヽ)、『ソウルキャンディ』を忘れちゃ」

「おぉ、よーやく来たか弓親ァ! お前らも悪かったな、こっちの準備が終わるまで俺の『ツキツキの舞』で待たせちまってよォ」

 

「「ツキツキの舞…………?」」

 

 困惑する一護とチャドに、「俺がツイてるってことを世界に感謝する舞だぜ?」と自信満々の一角。ハァとため息をついた弓親と呼ばれた赤寄りの若紫なワイシャツ姿の青年(目元に独特の飾りを着けている)は、一護も見覚えのある紫色のケースな、アヒル頭のそれを取り出した。

 流石にそれを見てハッとする一護。

 

「お、お前等まさか――――――――」

「おー、流石にわかるよなァ! なにせ『こんな霊絡』持ってるんだからよォ!」

 

 言いながら一護とチャドに見せつける様に「大気中の霊力を」「自らの霊圧で圧縮し」視覚化した霊子の線を、一護の線を見せつけて「握り」掲げる。白い霊絡の内に明確に色の付いた一護のそれと、そして一角と弓親から伸びる、同様に色の付いた霊絡。霊絡のそれについて知らないチャドだけではなく、これには一護も瞠目した。

 

「弓親ァ!」

「はいはい。全く……、君は堪え性がないんだから」

 

 投げ渡されたソウルキャンディを手に取り、アヒルの頭を潰す様に押し。出て来た粒状の義魂丸を飲み込み、そして「見慣れた」形で音を立てて肉体から剥離する一角。

 背負っていた竹刀袋から取り出した斬魄刀。見慣れた死覇装。――――平子のような形ではない、朽木ルキアや西堂榮吉郎のような「死神らしい」死神であった。

 

「まだ他の連中がほとんど来てない今くらいじゃねぇと、相手の腕試しも出来やしねェからなぁ…………、構えな『現世の野良死神』! ウチの隊の流儀ってモンを教えてやるぜ!」

 

 そんな一角の挑発を前に、庇うように前に出るチャドを「待ってくれ」と押さえてから、一護はバッグからコンを取り出し、いまだ目を回したままのその口に手を入れた。

 

 

 

 

 

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