「おろろ~~~~~! おろろろ~~~~~~~~!? ぽんっ」
「よし出た! ったく、毎回気持ち悪ィんだよなぁコンから本体出すの」
「一護、それは…………、可哀想じゃないか…………?」
「仕方ねェだろ? コンの場合簡単に頭潰したら出てくるようなモンでもないんだし」
「え……、お前、何でソウル*キャンディで出し入れしてねェんだ、それ? 小せぇ動物いじめてるみたいになってンぞ」
「むしろ謎生物じゃないかなアレは。…………醜いを超えた醜いの極みだねッ」
チャド、および一角と弓親がドン引きするのに対して「うるせェ」と軽く言いつつ、一護は気絶していたコンから取り出した
独特の音を立てて幽体離脱するように、肉体から「抜けた」一護がその場に立つ。コンはコンで気絶したままなので、その場で倒れそうになる一護の身体。危ないとチャドが引き受けて運んだのを見て「あっ悪ィ」と軽く手を上げて感謝した。
背負った巨大な斬魄刀を抜く一護。その「霊圧が詰まった」一振りに、いまだ解放していないながらも「へぇ」と一角はニヤリと口角を上げた。
「霊力のコントロールをしてないくせに『しっかりした』斬魄刀じゃねぇか」
「あ? どういう意味だよ」
「知らないのか? いや、だとしてもこいつは…………、ひょっとして、ひょっとすンのか? まさか『抑えて』その大きさとか言うんじゃねェだろうなァ!」
げらげらと笑う一角。大層愉しそうなその姿に、弓親は「どうやらお眼鏡に適ったみたいだね」と涼し気に言う。
いまいち状況が読めない一護とチャド。その二人を見て、ニヤリと笑い鞘と刃を同時に構え。
「じゃあ行くぜ、俺達『更木隊』をせいぜい失望させんなよッ――――!」
「何言ってんだテメー? いきなり襲い掛かってきといてなァ!」
一角に合わせてか、未開放のまま斬月を振るい、鞘と刃を重ねた一角と鍔迫り合いを開始した。
※ ※ ※
「面倒なことだ……、現世に来てから想ったことなど、どれも『死神として不要な感情』だというのに。まだ
自嘲しながら歩くルキア。元はチャドと一緒に出掛けた一護の後を隠れて追跡していっていたのだが、その途中で誰かに監視されているような、注目されてるような、微妙な視線を感じたからだ。彼らがファーストフード店に入るよりも先に察したために、一護たちを一瞥した後に人通りから外れていったルキア。まだ日中ゆえ目立つことは相手も避けるだろうが、それでも万一を考慮するならば、ということである。
尸魂界から自らを「捕縛しに来た」相手だというのならば、それくらいの警戒は当たり前だ。
死神の力の人間への譲渡は大罪――――過去にあった大きな事件によって決定されたらしいこの事実は、一発で該当者の死神としての人生の終わりすら意味しかねない。
ルキア自身、心のどこかで「あの
だがだからと言って「今の」自分がそうやすやすとどうこうされる必要があるか、というのはまた別だ。
決して「掟に逆らおう」というほどに明確な離反意識などない。だが、だからこそそれでも、あの子供を――――自らが巻き込むべきではなかった、油断などせず確実に処理しておかなければならなかった虚を倒せなかったせいで巻き込んだ、どこか「あの
まあ、だからこそ色々と困惑することになったのだが。
「いよーぅ! やっぱり判ってんじゃねぇか。こっちに俺みたいなのが来てるってことをなァ」
はっとして振り返るルキア。声のした方向、つまりは少し後方の電柱の上。いまだ日中だというのにそこにしゃがみ込んでいた「見覚えのある」赤い長髪と「明らかに変な形状をした」眉毛。
ただ恰好が問題だった。
「恋、次…………? 貴様、
「あ? ンだよ、見てわかんねェのか――――――――」
「その季節感もないあまりに珍妙で現世のセンスの欠片もない小っ恥ずかしい恰好をした男はお前かと聞いておるのだこのたわけ――――――――ッ!?」
「なッ!? こ、これ現世じゃ普通の服装なんだろ!!? こっちに来てすぐテレビで見てわざわざ恰好揃えたんだぞオイッ! じゃなきゃ、わざわざこのクソ暑い中でこんな格好する訳ねぇだろォがッ!!!」
まあ、具体的にどういう恰好をしていたかと言えば。上下ともにスーツ姿に、髪型はオールバック。お陰で独特な眉毛が目立つ目立つ。その上でサングラスをかけて手には皮手袋、斬魄刀でも下げる様に腰には猟銃めいたそれ(モデルガン?)を引っ提げており、左胸には西部劇とかで見かけそうな星型の飾りがつけられている。
要するに、太陽にほえるアレである。石〇軍団的なアレである。
こっちに来て最初に見たらしいテレビがそれとかどうなのだ? と思いながらも、思わず「幼馴染」の汗ダクダクな姿を前に(※現在真夏である)指をさしてツッコミを入れてしまったルキアを誰が責められよう。少なくとも袖白雪とて居れば似たようなリアクションをし、彼の斬魄刀に吠え返されていることだろう。
ともかく、ルキアに言われてから「よっと」と電柱より飛び降りた恋次は、肩に掛かった首の後ろに適当に縛った髪を払い「く、首が暑い……」と唸った。
「本当にどういうつもりでその恰好をしているのだ、貴様」
「け…………、刑事だ」
「は?」
「お、オホン………、だ、だって、どっからどう見ても刑事だろーが! 目星付けた相手に刀じゃなくて銃構えて殴り込みかけんのが刑事だろォが! 死神と何も変わらねぇだろ!」
「――――――――」
ぽかーんとしたルキアに、慌てて弁明なのか何なのかいまいち不明なことを言い募る恋次である。
その後も色々服装について言い訳を続けようとした彼のサングラスを「ていっ」と飛び上がって奪うルキア。
「あー!? テメェ、それ一番高かったんだぞ! この服の3倍くらい業者の商店で環(※尸魂界の通貨)払って手に入れたんだぞ! もっと丁寧に扱え馬鹿ッ!」
「それ、絶対に浦原に騙されているぞ。というか刑事だと? 恋次貴様それは流石に…………」
「な、何だよルキア、お前プルプルしやがって――――」
「――――やはり駄目だ、笑いをこらえきれぬ! ふ、ふは、ふはははははははははははははははははは――――――、ッ!!?!?! つ、攣った、腹筋が、ぐ、ぐおお……ッ!!!」
「な、何がおかしいってんだ! えっ、そんな俺、お前に笑いものにされるくらい妙な恰好してるってのか!? 本気か!?
誰か、誰か説明してくれ――――――――ッ!!?!?!」
腹を抱えて大爆笑するルキアに、恋次は頭を抱えて絶叫する他なかった。
閑話休題。
しばらくした後、駅前のビル店から出て来たルキアと恋次。ルキアの恰好は変わらずだが、恋次は「多少はまともな」風の恰好に仕立てられていた。もっともどこまでいってもストリートで屯しているヤンキー感が抜けきらないのはルキアのセンスか、あえてその変な形の眉毛に配慮したせいか。
「ふぅ、ようやくまともな恰好になったな。これで現世を歩いても問題のない服装になったぞ」
「そ、そうか? 何かネクタイみたいなの頭に巻いてるし、このシャツの絵は……」
唸る恋次の服、Tシャツにでかでかと描かれたウサギのチャッピーのイラストを前に、ふふんとルキアは鼻を鳴らした。
「喜べよ恋次、只のシャツだと味気ないと思ってな! さっき私がぱぱっと描いたのだ!」
「そォかよ…………」
「む? 何だその反応は恋次貴様……?」
「何でもねェよ! だだ、だから顔近づけてくるんじゃねェ!?」
額に乗せていた例のサングラスを下ろして目元を隠し、ルキアから何故か数歩距離を取る恋次。やれやれとため息をついたルキアは、どこか寂し気に笑った。
「…………貴様は相変わらずだな」
「あァ? 相変わらずも何も、お前とはその……」
「たわけ。しばらくぶりだろうと何も変わらぬ。…………ん? というかそもそも貴様、何故義骸に入っているのだ?」
罪人たる私の追跡に来たのだろうからそんなもの無駄だろう、と。ルキアがそう続けるよりも先に、恋次は「何当たり前のこと言ってんだ?」と不思議そうな顔をした。
「そっちの伝令神機に連絡とか行ってるだろ?
「それは確かに確認はしたが、『十番隊』が主となっているはずだろう」
「だから、特別編成部隊だって言っただろ? 俺は『朽木隊長』からの推薦もあって、部隊に入ってンだよ。――――なにせ副隊長だからな!」
「な――――貴様、いつの間に副隊長に!? しかも六番隊、だと……?
私ですらまだ席官にもなっていないというに!」
「何だよ、何か文句あンのか?」
「いやぁ別に……」
途端、半眼でニヤリと笑うルキア。恋次も「お、ぉう!?」と引きつった表情。お互いギャグ顔でデフォルメされる類のそれだが、続くルキアの「頑張れー副隊長殿!」だの「強いぞー副隊長殿!」だの「変な眉毛だー副隊長殿!」などのふざけっぷりに「殺すぞお前ッ!」とキレる。
「きゃー、いけませんわぁ? この無作法な男に犯され遊ばれますぅ~」
「き、気色悪ぃ……!? 何だルキア、テメェその口調!?」
「貴様まで気色悪いとか言うな、たわけがー!」
「ぎゃー!? 目は止めろ目はッ!」
離れていた時間。お互いにあったわだかまりなど色々あるにはあるのだが。本日に関してはルキアにまだ余裕があったことと、初っ端の恋次の刑事風の服装が功を奏して、もはやシリアスどころではなかった
「…………で、と、とにかく。それで俺は、まあ正直に話せば、隊長からも『面識がある』ってんで、現世の担当やってるお前も部隊の一員として活躍するから、それならいた方がいいだろうって話だよ」
「何……?」
「だってそうだろ? 現世に出て来た大虚をぶった切ったって死神が、しかも『護廷十三隊』所属でもない野良の死神が現世にいるって話なンだ。そいつにどう対応するかってことを考える必要もあるが、既に現世でお前と一緒に虚退治してるって話じゃねぇか。
だったらお前も部隊に含めてるってのは当然だろ? っていうか伝令、最後まで見てないんじゃねーかお前」
(あ、有り得ぬ…………、何故そのような形で伝わっているのだ、これは)
衝撃を受けるルキア。実際、現世で彼女が「尸魂界」的にやらかしていることとしては、死神の能力の移譲に加え、無断での長期滞在に他ならない。前者はともかく後者にも色々と問題があるため、仮に前者がバレていなかったとしても後者でまずお縄であろうと考えていたのだ。
それが、いざふたを開けてみれば「一つも正しく伝わっていない」。いや、一護個人に関して言えばまんざら不正確な情報と言うわけでもないが、恋次の口だとまるで「今まで当たり前のように尸魂界との連絡を続けていた」ような――――実際には立場として連絡できなかった――――ことを言っている。
まるで本当に、自分は何もしていなかったかのような。それほどまでに、言葉に不自然さが無い。何よりこの幼馴染は大根役者なので(断定)、そういった腹芸は不可能だろう。
(あまりにも私に……、いや、一護に都合が良すぎる。何だこの状況は……! 地獄蝶がそういった情報の通達を偽るとは思えないが――――)
「それで? お前が世話になってるっつーその野良死神、どこに居ンだ?」
「どこ、とは? それくらい霊絡を見れば――――ははぁ」
「…………オイ、何だよお前その顔は」
「いやぁ何、貴様はそもそもそういった鬼道系の作業が酷く苦手だったと思ってなぁ。まあ実際に見た回数は色々あったから少ないが…………」
「オイだから、テメェ!」
そうだな、とルキアは――――もはや
「この町に流れている『ひときわ強い霊圧』、それが奴だ」
「あン? ひときわ強いって言ったって、こりゃ単なる『霊圧の乱れ』みてェなもんだろ」
「私も最初はそう思ったのだがな。奴が戦う所を見ればおのずと納得もできよう。
そもそも斬魄刀を解放せずとも、通常の浅打のままで『霊子が詰まったまま』巨大な刀となっているのだから」
「なん……、だと…………?」
何故かルキア本人が我がことのように得意げに語るという事実に気づかず、恋次は驚いた眼で周囲を見回す。
そう、人が多い場所で見られる微弱な霊子の奔流による霊圧の乱れ「ではない」。明確にこの流れが、一人の死神によって放たれているというのだ。
「下手すりゃ隊長格……、いや、そうじゃなくても副隊長格じゃねェか。そいつが『垂れ流し』とか、一体全体どうなってんだこりゃ…………!」
「これでも『封じている』のだがな…………、む?」
と、そうこう話をしている途中で「
それが丁度、恋次もまた何かを感じ取ったタイミングと重なる。
「斑目さん、さっそくだなぁ……。更木隊長から『野良死神の腕見てこい』って言われて張り切ってたし」
「はッ!? い、いやそれは、拙いのではないか…………?
「おい、俺の古巣にあんま文句言うなよ……。流石に腕を見るだけって言ってたし、後から日番谷隊長も来るから、そう酷ェことには――――」
そうこう話しているうちに、ドゴーン! と漫符で表現できるような大きな地響きとともに、地上から天まで目掛けて立ち上るような「霊圧の斬撃」。
それを見て、ルキアは恋次に半眼を向ける。
恋次も恋次で冷汗をかいていた。
「い、い、いやぁ、さ、流石に斑目さんと言えど、なぁ……。
弓親さんも一緒にいるし…………」
「詳しくは知らぬが、どちらも十一番隊なら火に油ではないのか? ハァ……。行くぞ恋次」
「あ、おい! 待てよルキアッ」
とにもかくにも、と。走り出したルキアの後を追い、恋次はごそごそと買い物袋の中から「ソウル*キャンディ」を探しながら走り出した。
※ ※ ※
コイツ……、普通に強ぇ!
目の前の相手、一角と斬り合い殴り合い、率直に感じた一護の感想だ。
「体捌きも斬魄刀の扱いも温い温い! その割には妙に戦い慣れてやがるぜ!
ウチの隊長みてぇに『野生で』洗練されちゃあいねぇが、野良でこれってんなら叩きゃもっと伸びるなァオイッ!」
「くッ!」
剣と鞘、その双方を使って斬りかかってくる一角の動きは。スタークと相対した時のような「はるか高い電波塔の頂上を見る」ような遠さは全く感じないものの、それでも「剣術として」自分よりも上であると、戦っていて体感できた。
斬拳走鬼、といつかルキアに聞いたような記憶が一護の脳裏に過る。なるほど、確かに斬拳走鬼だ。ルキアのも使ったあの「瞬間移動みたいな」霊圧が爆発する走りも含め、一護の中の死神のイメージがなんとなく形作られる。
「でも、届かない訳じゃねェ!」
「おおッ!」
一方、一角も一角で一護の奮迅ぶりには驚かされていた。
(コイツ、今俺と戦いながら「戦い方を吸収」していやがるな?)
自らとの戦闘中に、明らかに成長していることが判る。自らの戦い方を見てとって、それを軸に剣捌きを変え、試し、そして「確実に」この刹那の瞬間で育っている。
今はまだヒヨコの頭に卵の殻が乗っているようなものだが、これを叩きあげれば果たしてどれくらい強くなるか――――。自らの隊長に良い報告が出来そうだと上機嫌になりながら、一角は一護に笑った。
「名前、聞いておこうか」
「……黒崎一護」
「一護、ヘェ…………、良い名前じゃねェか」
名前に一等賞の一が付く男は、才能溢れる男前と相場は決まってるからなァ! と。そう笑いながら、自分も名乗りを続けた。
「十一番隊第三席副官補佐、斑目一角だァ! 一の字同士仲良く
始解をして「槍型に斬魄刀を変形」させ、斬りかかる一角。
そんな彼の姿をニコニコ微笑んで見ながら、弓親こと綾瀬川弓親は、自分の目の前で一護を心配そうに見守るチャドに声をかける。
「……そんなに心配なら、君も参戦すればいいのに。彼、拒否しないでしょ?」
「…………そうかもしれない。だが」
チャドは一護の表情を見ながら、心配しながらもどこか懐かしいものを見る目をしていた。
「…………戦意はあるが敵意はない。殺意はよくわからないが」
「へぇ、判るんだ。それで?」
「絶対に認めないだろうが、そういうケンカをするのが一護は、結構好きなんだ」
「それはまた、んー……、微妙にウチの隊ともズレそうな」
戦いの果てに殺し合いなんて日常茶飯事だしねー、と。肩をすくめる弓親に。しかしチャドは己の右腕を「異形に変化」させて、頭を下げる。
「図々しい申し出の自覚はあるが、少し願いを聞いて欲しい。――――俺と、戦ってくれ」
「えっ? 僕、一角の雄姿をこの目で見ていたいんだけれど……って、何それ。気持ち悪い。鬼道系の技とかじゃないよね…………?」
「………………」
あからさまに嫌そうに、どこか女性的に表情を歪める弓親。だがチャドは、あえて引かない。
「もしかして一角に何かあったら、僕が彼を殺しにかかるとでも思ってる? 見くびらないでもらいたいな」
「そうは思っていない。だが――――――――腕試しが目的と聞いた。だから頼みたいんだ」
言いながらチャドは、腕に霊子を収束させ始める。
「今の俺では、あの戦いについていくことは出来ないと思う」
「だろうね。一角にあそこまで普通に食いついてくる野良の死神とか、正直びっくりだもの。……そもそも『野良の死神』っていう存在がびっくりだけれどもね」
「だが、それでも――――俺は一護の隣に並び立たないといけない。だから少しでも、経験が欲しい。強い相手との闘いの経験が」
「わざわざ殺さないでくれってかい? どうして僕が
それに君だって、どうしてそんなことに拘るんだい?」
「そう約束したからだ―――― 一護と、俺自身の魂に」
それを聞いた瞬間に、弓親の表情が少し変わる。
「へぇ……。うん、肉体はそれなりに鍛えられていて、美しさを感じないでもない。
後、その心意気は嫌いじゃないよ」
ただ僕は一角と違って全然優しくないからね、と。ソウル*キャンディを飲み込んで「死神の姿」になりながら、肩をすくめて笑う。
「それだけ言うんだ。無様にすぐ倒れるような真似はしないでくれよ?」
「無論、そのつもりだ――――」
咲け、藤孔雀――――。弓親がそう解号を唱えると同時に、チャドは構え――――。
その横では、一角に対して追い詰められた一護が「始解せずに」月牙天衝を放ち。その迸る霊圧に、楽しそうに悲鳴を上げる一角の声に、思わず二人そろって一護たちを見てしまった。