斬魄刀を解放した一角と一護の戦闘は、先ほどまでより加速していた。
「どうしたどうしたァ! 遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅いッ!」
「この――――ッ、ハァッ!」
一護の斬月……、タイミングが得られず未だ解放出来ていないが、それを槍に変化した鬼灯丸を用いて往なす一角。かと思えば、槍は「節の部分で鎖付き」の三節棍へと切り替わり、一護の額を浅く斬ると同時に、そのまま斬月をからめとった。
「あっ! テメェ一角、汚ねェぞ!」
「うるせェ! 相手の得物なんてのはいっつもいっつもお行儀が良い形なんざしてねぇんだよ! これで学習できたじゃねぇか一護ォ!
見た通り俺の鬼灯丸は三節棍なんだよ! そう簡単に逃げられるたぁ思わねぇことだな!」
「この…………、オラッ!」
「って、うおおおおおッ!?」
そして、力比べとしては一護もいくらか霊圧が強まっているのか、絡まった鬼灯丸ごと一角を背負い投げるように、斬月を振り抜く。その際に一角の額を切り付け返し、やや遠方に飛ばした。もっとも一角は空中に足場を作り、そこから「霊圧を爆発させる」歩法をもって一護の目の前に戻ってくる。
ニヤリと笑う一角に、一護も似たような笑みを返す。
「どうだ、アンタの言う『野良死神』ってのは、少しはお眼鏡に適ったか?」
「…………ヘッ、どうだかなぁ。今のは『まだ』マグレだぜ、ガキが」
「だったら少しはマグレじゃねェ所、見せてやるよ――――――!」
斬魄刀を振りかぶる一護に対し、その横薙ぎを空中に「爆発する歩法」をもって回避する一角。まただ、と一護は判断するよりも先に、反射的に斬魄刀を地面に突き立て。
「――――月牙天衝ォ!」
「お? お、おおおおおおおおおお!?」
空中から鎖鎌のように振り回した鬼灯丸を打ち下ろそうとしていた一角めがけて、斬魄刀の軌跡に沿って「霊圧の超重量斬撃」を放った。
立ち上る一撃は圧倒的な霊圧をもって一角を「消し飛ばさん」とばかりの破壊力。どこか嬉しそうに悲鳴を上げながら、一角は霊圧を込めた鬼灯丸を予定通りぶつけ、競り合う。
目論見通り「斬殺されることはなかった」ものの、猛烈な勢いで後方へ跳ね飛ばされていった。ごろごろと転がり続け、大通りの交差点まで跳ね飛ばされた一角。そして「一角のすぐ目の前まで」、月牙天衝によって発生した「コンクリートの亀裂」が、そこまで迫っていた。
「へ、ヘヘ、マジかよ……、ちょっと更木隊長思い出したぜ」
「何、だ? これ…………」
一方の一護は、自分の為したその一発に愕然としていた。彼自身、あまり自覚していなかったが、月牙天衝その一撃は文字通り「普通ならば」必殺であると言っても過言ではない。今までは目の前に対象たる虚がいたので「相手を倒す事で勢いが殺されていた」。今でさえ一角が霊圧同士での鍔迫り合いを行ったからこそ、被害がこの程度で済んだと言えるかもしれない。
なんなら一角が転がった先、小売店の衣装ブティックの手前まで地面を抉り続けた自らの一撃に、冷汗どころの騒ぎでは無かった。
その気になれば「何発でも」「気軽に」放てそうな程度の霊圧消費量だとしても、おいそれと使って良い技ではない――――少なくとも、人が多い所では。
なお、そんな一撃の有様は一角も目の当たりにしている訳で、少し冷静になった彼は斬魄刀を元に戻し、一護へ絶叫した。
「って、危ねぇだろーがお前! 一護! 一応俺も弓親も任務で来てンだからよぉ、あんまり『本来の任務』に支障が出るよォな『腕試し』は拙いんだよ! 加減考えろッ!」
「か、加減って――――」
「非番の時ならいくらでも好き放題やってやるがなァ――――ウチの副隊長にうざったいくらい煽られンだよッ!!?!? わかったかッ!」
「わ、悪ぃ……、って、副隊長…………?」
一角の脳裏で「えっ剣ちゃんがいけないから代わりに行ったのに仕事も出来ないつるりんなの~?」や「パチンコ玉! パチンコ玉!」と楽し気に指をさして愚弄するピンク髪の少女の姿が踊っていた。あのガキにだけは言われてなるものか言われっぱなしなど承服しかねるとばかりに、一角は「意外と」真面目に現世任務に来ているのだった。
もっともそのあたりは一護には伝わらないが、毒気を抜かれ返答された。
ハァ、とため息をつく弓親と、同じく臨戦態勢のまま毒気を抜かれて困惑しているチャドの息遣いが聞こえる。
とりあえず額の傷を死覇装の袖で拭い、一角の前まで走る。一角は一護の動きを見ると「
「っていうか、アンタらルキアと同じ死神なんだろ? で、スタークみてェな大虚と戦うために来たってことで合ってるか? だったら何でいきなり腕試しとか言ってんだよ。もしそのタイミングとかで虚が出てきたら、危ねェじゃねーか」
「おー、説明してねぇのに判ってるじゃねェかよ! ま、それについちゃー、ウチの隊長から依頼されてたことでなァ」
「「隊長から?」」
チャドも追いついて一護と一緒に声を合わせて疑問符を浮かべるが、弓親が「ひょっとして護廷十三隊ってものがよくわかってないんじゃない?」とサジェスチョン。
「確か阿散井の野郎がこの地区の担当者と合流するとか言って張り切ってたが……、お前そのあたりは聞いてねぇのか?」
「聞いてねェも何も、そもそも俺は――――――――ッ!」
「何…………、だ……?」「これは――――」「ムッ……!」「お出ましかぁ、オイオイ――――」
一護が一角と会話している途中で、全員同時に「いきなり感じた」妙な霊圧。さきほどまで周囲を圧するほどに漂っていた一護の霊力すら押しのける、一護並かそれ以上の霊圧の塊。
一護自身はその「垂れ流されている」自分の霊力については気付いていないが、それでも新たに現れた霊圧が自分の霊圧とどうぶつかり合っているかだけは、おぼろげながらに理解できる。
同時にその霊圧によりいくつか周囲の建物が爆破! 人が逃げまどう最中、一護は呟く。
「虚じゃ無い、何だ、これ…………?」
故に「察知したからこそ」発した一言と同時に、本能的に「避けろチャド!」と叫ぶ一護。
咄嗟のことではあったが、このあたりは阿吽の呼吸だ。一瞬遅れて弓親も違和感に気づき後退するが、わずかに遅れたために「飛来した」刃に足を射抜かれる。
「くッ――――」
「弓親ぁ!」
血止めを塗っている途中だった一角は、叫ぶと同時に「解号無しで」鬼灯丸を解放。射出された方向へと駆けだす。が、その斬りかかったその相手は左腕を出し鬼灯丸の切っ先を受け止める。
金属がぶつかる音。飛び散る火花。シルエットから「人間大の姿」であることは判るが、正体が判然としない。
「何だ何だ何だテメェはよぉ!」
「…………“我は刃”
「あァ!? ――――ぐおッ!?」
「一角!」
受け止めた方と反対の腕、右側の腕――――袖のうちより「大量の刃」、むき出しの刀そのもののようなものが射出され、それが一角の腹を撃ち抜く。
さらにその勢いで投げ飛ばされた一角を、チャドが受け止めて弓親の近くに。
「く、くそォ……、これじゃ本当にあのガキに笑われるじゃねぇかよ……!」
「全く冗談じゃないね…………、どうも『任務対象外』の相手みたいだし、さぁ」
弓親の言葉とほぼ同時に砂煙が張れ、その場にあったシルエットの正体がはっきりと見える。
腕と首に錠のようなものが取り付けられ、鎖を垂らした大男。両肩には刃を重ねたような鎧を思わせる装甲と、見れば顎の髭までまるで「刀の刃のよう」。どこかの副隊長ほどではないが特徴的な眉毛を持った壮年の男は――――死覇装を纏ったその死神は、くつくつとどこか嘲るように笑う。
見る者が見れば、その鎧の下に隊首羽織の名残のような白い布が見えたかもしれないが、肝心の弓親や一角は転がされて睨むのがせいぜい。
「死神……?」
「――――馬鹿、一護避けろッ!」
「ッ一護!」
斬魄刀を手に持ったままの一護であったが、現れた相手の存在が意味不明すぎて混乱。同時にその腕から三度刃が大量に射出され一護目掛けて襲い掛かる――――。
右腕を変形させたチャドが「
「ッ!」
とはいえ咄嗟に斬魄刀を盾のようにすることには成功した。もともとがかなり大型の斬魄刀であることもあり、相手の一撃は抑え込むことに成功した。
「クソッ、何なんだよアイツは…………! 額の傷も開きやがるしよッ!」
さきほどぬぐった額の切り傷。一角との戦闘でついたそれがまた開き、左の視界を遮る。
そんな一護を見て、男は「さっきの霊圧はコイツか……?」と笑いながら疑問を口にする。
もっとも一護の耳には届かず、彼は大声をあげて斬りかかった。
男は特に防御の姿勢も取らずに身体で受ける――――再びの金属音。手ごたえがおかしなことに顔をしかめる一護に、手刀を振り回す男。ぎりぎりで躱す一護は、顔のすぐ横を通り過ぎるその手の風切り音が「妙に重い」ことに気づいた。
「さっきの一撃も、今のこの手も、まるで棍棒でも相手にしてるみてェな…………ッ!」
「クッフフフ、『
「でや――――ッ!」
そしてむき出しの腕で一護の斬魄刀と「鍔迫り合い」まがいのことをした後、その状態のまま「腕力で」振り払った。
後方に飛ばされる一護だが、無意識のうちに「足元に」「外界の霊子を収束し」、足場として「意識的に」後方へと移動。ビルの壁にぶつかる前に減速し、バネ仕掛けのように今度は高速で射出される。
「妙な
腰に拳を構えた男は、向かってくる一護の突きに対し。
「――――我に返れ、
解号らしきものと叫びながら、「右腕に霊圧を纏い」正拳突きを放った。
※ ※ ※
「ほっ、ほっ、ほっ、よっ…………、おいルキア、お前何で瞬歩で行かねェんだよ! ソウル*キャンディ持ってんだろ!」
「私にも事情と言うものがあるのだ。大体、貴様こそ早く死神化していけば良いではないか。チャッピーの一つや二つ、買って持って来ただろうな恋次! …………私も欲しかった」
「何言ってっか聞こえねぇよ! 後、バッグの中に入っちゃいるはずなンだがさっきから何度探しても見つからなくて……」
「宿題を忘れた言い訳をする小学生か貴様ァ!?」
さきほど月牙天衝が上がった方向へ走るルキアと恋次である。どこかルキアの方が保護者めいているような言い回しに微笑ましさがあるが、当人たちは大変に切羽詰まっている。
一護と一角の戦闘も問題だが、その後に「妙な死神の霊圧」が出現したからだ。死神でありながらどこか、何かが微妙に違う。霊絡で見ても「赤と白とが入り混じった」まだら模様となっており、何よりその相手は現在、一護と交戦中ときている。
また何か大虚でも厄介だというのに、それ以上に面倒な事件でも起きたか、という嫌な予感に突き動かされ、ルキアは必死に走る。
「――――朽木さーん! 朽木さーん!」
「む? お、おぉ、井上か!」
そうして走ってる途中で、彼女に追いついてきたジャージ姿の少女。学校指定のものではないが、動きやすさを優先しているのか身体にかなりフィットしており、スタイルの良さがよくわかる。
そんな彼女は井上織姫。普段通りに快活な笑みを浮かべながら、意外と健脚にルキアたちに追いついてきた。本日はポニーテール姿であり、ひらひらと頭の後ろで髪が揺れている。
「何か黒崎君の霊圧と、違う人の霊圧がわー! って来たなーって思ったら、何か山の方からびゅーん! って来て、心配になって来ちゃったんだけど、朽木さんも?」
「あ、あぁ…………、意外と探知能力が高いのだな、お主」
「えへへ…………、で、えっと、そっちの眉毛がカッコイイお兄さんは、誰さん?」
ハッ! とした表情が固まる阿散井恋次。もっとも数秒でぐずぐずに歪んで「お、お前……、いい奴じゃねェか…………! イカしたセンスしてるぜ……!」と男泣きに泣いていた。
しらーっとした目で「良かったな、恋次」と適当に励ますルキアは置いておいて。
「こやつは、まぁ………、私の『死神仲間』だ」
「あっ、そうなんだー! じゃあ黒崎君ともお友達になるんですよね?
私、井上織姫です! よろしくお願いしまーす!」
「お、おォ、阿散井恋次だ…………(何だこのテンションの高いガキは)」
後半、ルキアの耳元でぼそりと呟いた恋次は、彼女から「たわけ」と軽く突っ込まれた。
「死神ではないが、それに類する霊能力を持った者の一人だ。……それは報告になかったのか?」
「現地に協力者が何人か居るっつー話は聞いてたが……って、おぉ!? 何だありゃ」
「ッ!」
ルキアたちの前方、建物が連なる道の先。今だ見えないその位置で、一護の霊圧が揺れる。
駆け抜けた先、まだ遠いが見え、聞こえるものは。
「く、ぅああああああああああああッ!」
「一護ッ! くっ――――『
一護の頭部を背後から押さえつける男に向かって、変化した右の拳で殴りかかるチャド。その一撃を肩に食らい、しかし何ら音一つ立てなかったその相手。逆にチャドの拳が「ひしゃげ」、骨が粉砕された感覚が体感としてわかった。
「おお、お……ッ!」
「ん、蚊にでも刺されたか? 現世は今、夏か…………」
「おいおい何だありゃよォ」
「霊圧を吸ってるね、あの男」
弓親の言葉通り、一護は今その身の霊圧を背後の男に「吸い上げられていた」。鬼道系の斬魄刀か何かの能力なのかは不明だが、かなりの速度で周囲を圧していた「垂れ流しだった」一護の霊圧が弱まっていく。
そして男は、「多くの刃に覆われた」「巨大な杭のように変貌した」右腕で、チャドの胴体を凪ぐ。軽く斬るが、傷は浅い。まるでそれは「本命ではない」と言わんばかりのあしらいでしかなかった。
「くぅ……ッ、大丈夫かい?」
「あ、嗚呼……」
「へっ! あの腕が奴の始解って訳か――――」
「――――舞え、
ん? と顔をしかめる男だが。手前で倒れた黒崎一護、その手前の斬魄刀から「氷の柄」が飛び出て、そのままルキア目掛けて「刀を抜いたように」飛び出す。良く見れば柄尻に氷の鎖がからまっており、それはルキアの右腕の手首へと繋がれていた。
並走しながら驚愕する恋次であるが、それ以上に一角や弓親たちの方へと駆ける。
「だ、大丈夫ですか一角サンッ」
「心配には及ばね…………ッ!」
「無理するものじゃないよ、一角。血止めで何とかなる量じゃないし」
「一応、四番隊からも一人来てるンで、そいつに
「あれは……?」
「朽木さんの仲間なんだって、茶渡君!」
「井上」
駆けつけた彼女は弓親たちに、恋次に接した時と同様のテンションで声をかける。
そんな姿を尻目に、ルキアは
「
「…………鬼道の刃か」
肩をすくめながら、再び右腕から「大量の刃を射出」する。その全てに激突すると同時に氷結。しかしそれと同時に「霊圧を感じずに」姿を消す男。
何? と振子雪を構え直すルキアだったが、背後に「急に出現」するまで男の霊圧を感じ取れなかった。
「だが、研鑽が足りねェな」
「ッ、かハッ!」
霊圧を吸収され倒れたままの一護を見ながら、男の右腕によって凪ぎ飛ばされたルキア。そのまま体勢を立て直そうと「振子雪越しに」感じる霊圧を体内から放出しようとするが――――それよりも先に、聞き覚えのある声が自分の首根っこを掴んだ。
「オイオイどういうことだ…………、何で『袖白雪』がそんなコトになっちまってんだ? 意味わかんねェぞ。テメェも死神化してねぇし」
「れ、恋次!」
見慣れた死覇装に、適当にまとめた赤髪。ゴーグルがかかっているとはいえあまりに目立つ眉毛姿。よっと、と言いながら一瞬お姫様抱っこの形になった後、ふらつく彼女を下ろす。
「訳は後で聞くが、やれるかルキア。あの野良死神、何があったか知らねェが、大分ヤバそうじゃねぇか」
「嗚呼…………」
ルキアを飛ばした後、再び一護の背後に回り込み、今度は彼の斬魄刀を背の鞘に戻す男。その上で改めて、気を失った一護を肩に持ち上げ、その霊圧を「吸い出している」。
あれでは、まるである種の虚ではないか。
そう考えながら、「万一のことを考え」一護を一瞥するルキア。
「黒崎君! 朽木さん…………」
「下がっていろ、井上! そなたまず回復を優先しろ――――」
一角に対して双天帰盾を、光る2対の六花を用いた楕円形の盾を持って回復につとめていた彼女だったが、流石に一護の状況には思わず身体が動こうとしたらしい。ルキアが制止をかけ、案ずるなと「あえて」笑う。
せいぜい強がりだが、そうでもないとやっていられない。
「わかっておるか、恋次」
「あァ、これでも『副隊長』だからな。
アイツの霊圧、アレじゃまるで…………」
「そんなにお喋りがしてェなら、待ってやって良いぜ。何、慌てるこたァ無え。ゆっくりと愉しもうぜ?」
そう言って、「吸い取った」一護の霊圧を自らのそれに上乗せ、右腕を掲げて咆哮する。
それに伴い放たれる霊圧は、その圧倒的な圧力は――――。
「…………アレじゃ、まるで隊長格だぜッ」
「あのような死神、記録でも見たことが無い。一護のような『ある種の必然』はともかく、そんなものが普通に存在する訳が――――――――、ッ!? な、何だあれは?」
男の叫び声と同時に「大量の
霊圧自体は高くない、おそらくは強くても
ガハハハと大笑いしながら男は右手を掲げたまま。この事態を引き起こしたのはあの男かと、改めて殺気を斬魄刀に乗せ。
「ガッハッハッハッハッハ………………、あれ? 何であんな大量の虚が出て来てるンだ?」
「「「「って、自覚無しかッ!?」」」」
一護を除く四人の死神たちが一斉にツッコミを入れ、「えっ? えっ?」と困惑する井上織姫と「…………」と無言のまま冷汗を流すチャドだった。
The Sealed Sword Frenzy
※斬魄刀まわりは独自設定(命名)ということでお願いします汗