メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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今回もオリ設定というか、設定調整多数なのでご注意…
 
初心の極み(謎)


#023.楽しみは後

 

 

 

 

 

「全く余計な邪魔が入っちまったぜ……。

 まずは『連中を倒してから』だな。それまではオアズケだ」

「…………クッ」

 

「な、何?」

 

 うめく一護を一度その場に降ろすと、「斬魄刀の右腕」の男は虚の方へと駆けて行く。

 その、ついさっき「自ら呼び出したはずの」虚たちを倒さんと動くその男に、ルキアは思わず声を上げ困惑した。

 先ほどまで戦っていた割には丁寧に一護を置く男。ついでに言えば、虚たちへと駆けて行く様も、それこそ「現世の市街地に」「虚が大量発生した」ことに対して焦る、ごく一般的な死神のような所作。

 

 先ほどまでの暴威を思えば、明らかに意味が解らない行動に出ていた。

 隣の恋次も「意味がわからねェぞ……?」と困惑。

 

「…………ッ! よぉ、もう大丈夫だ嬢ちゃん。良い『回道』の腕じゃねェか」

「へ? えっと、あ、はい! どうも!」

「僕からもお礼を言うよ。……さて、一角」

「あァ、状況はさっぱり意味不明だが、おい阿散井!」

「は、ハイッ!」

 

 織姫に礼を言った後、元気百倍とばかりに立ち上がる腹部がボロボロの死覇装を纏った一角は、恋次に怒鳴る。かつての上下関係が染みついているせいか、役職はともかく思わず背筋を正してしまう恋次に、ルキアはニヤニヤと半眼だった。例によって漫画ならばデフォルメされていそうな表情である。

 

「あの死神を追うのはテメェ等に任せる。俺達はあの雑魚共を一掃するぞ弓親ァ!」

「はいはい。……全く、珍しいね、獲物を譲るなんて。どういう兄貴風だい?」

 

 思わず「ハイ!」と声を上げて反応した恋次だったが、それはそうとして困惑する。あれほどの強敵相手に一蹴されて、その報復……というより「ナメられたままじゃ終わらない」というヤンキー上等な神経を発揮せず、妙に物分かりの良い先輩のような振る舞いをされた。いや、本来普段から一角は「十一番隊の中では」物分かりが良い方なのだが、ことこういった面子に関わるようなことは頑固な一面がある。

 にもかかわらずこの振る舞いは――――。

 

「テメェもそのまま絨毯みてぇにおネンネしてるつもりは無ェだろ、一護!」

 

「…………当たり前、だッ」

「黒崎君!」

 

 一角の次にチャドの手を直していた彼女は、思わず震えながら立ち上がろうとする一護へと走る。少し遅れて歩み寄るルキアと恋次。

 

「い、井上!? 何でお前まで……」

「そ、それはー、えーっとですねぇ…………、ネギが安かったから?」

「ネギ……?」

「…………」

「オイ、ルキア。あのガキの頭ン中はどうなってンだ?」

「さぁな…………、おそらくだが、ネギが安かったのだろう」

「「答えになってねェぞ!?」」

 

 織姫なりの照れ隠し、誤魔化しではあったが、発言が例によって色々とぶっ飛んでいる。困惑する一護と恋次(とついでに治療を途中で投げ出されたチャド)に、ルキアは半眼で適当に応対した。

 思わずツッコミが被った一護と恋次。と、ふと顔を見合わせてお互い「何だコイツ」といった疑問符が浮かんでいる。

 

「待ってて黒崎君、額のとか色々、治しちゃうから――――」

「いや、これくらいは大したこたァ無ぇ。早くアイツを追わないと……、井上はチャドの手を直してくれ」

「あ、うん…………」

「一護……、戻ったらすぐに追いかける」

「応」

 

「おい一護ォ!」

 

 井上やチャドとこれからの動きを相談していると、一角が何かを投げて寄越す。適当に受け取ると、それはべっとりとした軟膏とも、接着剤ともつかない独特の物体。「わあ、粘土みたい!」という織姫と違い、実際にその手に乗っかる異物感から半眼になって表情をしかめる一護。

 

「な、何だコレ……?」

「血止めだぜ。鬼灯丸の柄尻から出てくるんだ、額にでも塗っとけ。

 そこの傷は浅くても血が止まらねェ。適当に拭っただけじゃ、邪魔になンだろ」

「お、おぉ…………、サンキュ!」

 

 じゃあ行くぜ! とルキアや恋次のことを忘れたように走る一護。その背中に「このたわけが! 歩調くらい合わせろ!」と叫ぶルキアと、何か釈然としない顔をする恋次が続く。

 

 そんな彼らを見送り「ごめんね茶渡君!?」と大慌てで戻って来て、ひしゃげた手の「その事象を」「拒絶する」織姫。その二人を庇うように立つ弓親に、背を向け今にも駆けださんとする一角である。

 

「そんなに気に入ったのかい? あの一護君。――――妬けるねぇ」

「ンなこと言ってるとまた隊長に気色悪がられんぞ? ま、野良の時点で『霊術院通いだったころの俺』より強ぇと来たら、この先どれくらい伸びるか興味も湧かねぇか?」

「はいはい。やれやれ…………、阿散井が少し可哀想だ」

 

 そして周囲の路地から「死神の霊圧」を目掛けて襲い掛かってくる大型虚に対して、一角は叫びながら斬りかかり。一方の弓親も、斬魄刀を解放して周囲をけん制するように構える。

 

「私たちも早く行かないと……、ん! そういえば石田君の霊圧がないね」

「…………アイツは来ないかもしれないな」

「へ?」

 

 段々と骨格が再生されつつある右腕を見ながら、チャドは井上に聞く。死神と滅却師は馴れ合わないと常々言っている石田の発言を覚えているか、と。

 

「おそらくだが、こんなに死神が出てくるような事態に対して、アイツは積極的には動かないだろう。一護も多分、強制はしない」

「そんな…………、それって、何か寂しいね」

 

 だが、と。チャドは内心で続ける。

 それこそ確信を持った断言であり、一護がこの場に居ても「ああ!」と頷くだけの、そんな思い。

 

(おそらくだが、こんな状況に何もせず黙っているような奴でもない。俺達が知る石田とは、そういう「友」だ)

 

 果たしてそれが届いたのかどうか、そんなことは不明ではあるが――――。

 

 所代わって空座第一高校のすぐ近く。通学路を這い校舎へと向けて駆けようとしている虚たちの前に立ちはだかる、白装束に眼鏡な青年とメイド服の女性の姿があった。

 

「認めたくはないが、朽木さんが言っていた通り死神があんなに大量に来てるとは……。だけど、お陰であっちは任せても大丈夫だろう」

「雨竜様、これを」

「ありがとうございます、ナナさん。

 ……全く、修行だって全然終わっていないというのに――――操霊子(ハーツマニューバ)起動(スタート)!」

 

 瞬間、彼の全身は霊子の光に包まれ―――――――虚たちに大量の矢が刺さり、その場で倒れた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「ルキアの、幼馴染ィ!?」

「そーだよ、悪ぃかよ」

「いや別に悪かぁ無ェけど……、へぇ~」

「おい貴様、何故私を見てニヤニヤしているのだ一護!」

 

 刃の腕を持つあの大男を追いながら、自己紹介を軽くだが済ませる一護と恋次。例の「霊圧が爆発する歩法」を用いて一護の少し先に先行した恋次は、最初喧嘩を売るようなノリで一護につっかかろうとしていたが。しかし一護が妙に陰鬱気な雰囲気を漂わせていたのを見て、方針転換。文句も確認も喧嘩も後だ後、と言わんばかりに、気の良い兄貴分の振る舞いを思い出しながら真似て声をかけた。

 

 なお一護からすれば「ンな話全然聞かなかったけれどな、一体どんな心情なんですかねェ」と言わんばかりの少々下世話なからかいの感情が含まれているが、良く判らないまでも普通に愚弄されていると判断したルキアは、今にも殴って来そうな勢いである。

 

「まあ良い。良くはないがそんなことより、貴様本当に大丈夫なのか? 井上に傷を治してもらわずに」

「あァ、なんっつーか、刀もちょっと交えただけって感じだし、どっちかっつーと『霊圧だけ吸い上げられた』みてェな感じがする」

「そういやンな感じのことしてたなぁ」

「おう、えっと……」

「恋次でいいぜ。俺も、一護でいいか?」

「おう! で、結局アイツは何なんだ? ――――自分で呼び出しといて、向こうで虚と戦っていやがるし」

 

 そのあたりは恋次もルキアも何とも言えない表情である。回答できないというか、何も知らないというのが正しい。ただどちらにせよ、このまま奴も虚も放置するわけにもいかず、しかし優先順位をつけるならば虚の方が先だろう。

 そして、そんな虚たちへあの男は攻撃をしかけていた。

 

「本当に何で出て来てんだ、コイツ等……。

 松礫(マツノツブテ)――――!」

 

 道中で見かけた虚について、片っ端から両腕より射出する斬魄刀の刃のようなもので倒している。そこには先ほどの獰猛さから想像される喜悦すらなく、ただただ、まるで普通の仕事だと言わんばかりに事務的に対処している雰囲気すら漂っていた。

 そう、まるで普通の死神のように。

 

「訳がわかんねぇが、先に行くぜ、一護」

「だな。早くついて来るのだぞ」

 

「お? 何言ってンだお前ら――――って!? ちょっと待てッ!!? それお前等ズルいぞ! いい加減俺にも教えろよルキアァ!」

 

 そして恋次とルキアが一護に先行する形で、例によって霊圧を爆発させて瞬間移動めいた高速の走りをしたのを見て、思わず文句を言う一護だった。

 

「クソ……、さっき『それっぽいのが』出来た気がするが、どうしたもんか。

 とりあえず…………、閃け! 斬げ――――――――」

 

 ――――咄嗟に一護の脳裏を過る、先ほどの一角との戦闘で生み出された、巨大な刀傷。一歩間違えれば地の底まで抉れ、民家すら巻き込み、あわや大惨事になりかねなかったその情景。

 

「――――ッ! くそッ」

 

 解放する構えを止め、一護は二人に追いつかんと叫びながら全力疾走した。

 

 

 

 そしてルキアと恋次は。

 

「虚の数がどんどん増えている……?」

「コリャ……、一旦別れるぞルキア!」

 

 既にあの男を追えるような状況ではなく、巨大虚(ヒュージホロウ)に限らず通常の小型、中型が入り乱れている。

 いったん左右に分かれたルキアと恋次。ルキアの方は振子雪(スノーホワイト)に霊圧を込め、一護の月牙のごとく「地面を斬り」「這わせるように」斬り上げた。

 

「――――参の舞、白刀(しらふね)

 

 剣先から放たれた霊圧が「その場で氷結」し、まるで上り坂か何かのように彼女の前方へと延びる。その延長にいた虚の多くは凍結され、あるいは身体の一部を拘束されていた。

 

「君臨者よ! 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ――――」

 

 その出来上がった坂を「滑るように」走り上ると、スカート姿も忘れたように空中へと舞い上がり、まるで「歪なほどに伸びた」氷の刃で周囲の巨大虚を斬りつけ氷結させながら、左の掌を構え。

 

「――――焦熱と争乱……海隔て逆巻き、南へと歩を進めよ!

 破道の三十一『赤火砲(しゃっかほう)』!」

 

 正式に詠唱した鬼道で、自らの氷結させた虚たちを爆破! 凍った箇所から「全身へと」走った罅が、そのまま虚たち全体にいきわたり、体組織を粉々に崩壊させていく。

 その彼女をちらりと見て、思わず恋次は一言。

 

「袖白雪って、記録だとあんなに広範囲を凍らせられたか……?」

 

 副隊長ゆえに、多少「そういった」登録情報を覗けたりするが故の、その齟齬への違和感。形状が大幅に変わっていることも含め、本当に何があったというのだろうか。訝し気な恋次だったが、そのよそ見していた隙に上空から襲い掛かってくるプテラノドンのような虚を「平然と躱す」あたりは、流石に副隊長といったところか。

 

「別に良いカッコ見せたいとかンなことも無かったが、俺もウカウカしてられないっスかね、朽木隊長――――吼えろ、蛇尾丸!!」

 

 上空へと逃げた虚を、例の動き……、死神一般には瞬歩と呼ばれる歩法・走法を用いて上空へと飛び上がり、斬魄刀を解放。独特の節を持った幅の広い蛇腹剣がごときそれを振るい、中距離に跳んでいた虚へと叩き込む。刺さった刃を「あえて」戻すことで敵を引き寄せ、そのまま「一番力がかかる」延ばしていない状態で切り裂いた。

 落ちながら解けて消えていく虚の身体。それを見送りながら霊圧を上げ、周囲の注意を引く恋次。そのまま挑発とばかりに笑い、急速落下しながら斬りかかっていく。 

 

 

 

「まだまだだが、基礎は出来てるみてェだな。これなら『今の』隊長格もまあまあ期待できそうだぜ…………。流石に『山本のジジィ』とか『卯ノ花の姐さん』並のバケモンは居ねェよな?」

 

 

 

 ルキアたちよりも離れた場所で、彼女たち同様に虚を倒し続けるかの男は。二人の戦いぶりを観察しながら、ニヤリと「どこか懐かし気に」笑う。

 

「それはそうとあの小僧、顔立ちどっかで見た覚えがあるような気がするが…………、ん?」

 

 うおおおおおおッ! と、絶叫と共に虚の波が一直線に斬り伏せられていく。その声と、未だ元気百倍と言わんばかりの力強さに、男は思わずニヤリと笑った。

 

「あれだけ『喰って』まだ余裕があるか……。いいじゃねェか、わざわざ隊長格を待つまでも無ェな、小僧!」

「はァ!」

 

 再び飛び上がる一護は、そのまま男に斬りかかるような動き。男もまた拳を構え、一護を殴るような動き。

 しかし、両者の刃がぶつかることはなかった。

 お互いがお互いの背後から襲い掛かってくる虚へ、それぞれの一撃を叩き込む。

 その、意外と「らしく」決まった連携に、男はますます楽しそうに嗤った。

 

「よォ、まだ遊べるみてェじゃ無ェか小僧」

「小僧じゃ無ぇ。黒崎一護だ」

「そうかよ。ハッ、だったら俺も名乗らねェとな――――――――」

 

 一護と背中合わせになりながら、男は「両腕を刃の杭に変え」、そして叫ぶ。

 

「――――だいぶ昔のだが、元十一番隊第二席官、紅染月(べにぞめづき) 梅針(ばいしん)だ。覚えても覚えなくても良いぜ」

「……あっちの死神の階級だか役職だか、全然判らねェんだよ! なにせこっちは、只の人間で、死神代行だからなッ!」

 

 そう叫びながら虚に斬りかかる一護の声を背に聞きながら、梅針もそれに倣ってか笑い、そして叫びながら虚たちに殴りかかっていった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『なぁに、これ』

『……あの、あなた? しっかりしてくださいっ』

『ぎゃぅ?』

 

 思わず妙に幼児みてェな発音で言葉が口から出た。いや、だって仕方無ぇだろ、いくらなんでもよ……。

 誰だよ梅針って。テレビにも劇場版にも出て来て無ェだろ? 真面目に誰オブ誰!? 原作BLEACH的にもノベライズ的にも全然知らないんスけどォ!!?

 

 俺の考えまではわからないだろうが、困惑と衝撃だけは伝わってるのか、オッサンもオッサンで微妙な顔しながらビル壁面、つまりは地面側に映ってる一護とルキアの視点の映像を見ている。

 

 そんな俺らを見比べて不思議そーに姐サンの髪を引っ張ってる振子雪(ふりこゆき)と、何故か俺の汗をどこかから取り出したふきんでぬぐい取ってる姐サン。

 

『って、いや冷たッ!? 首はちょっと止めてくれよ、姐サン体温低いんだからよォ』

『そ、そうは言われましても、何やらお疲れのご様子でしたし…………。一応は妻なのですから、夫のことは気に掛けるものかと――――』

『それもマジでそのままで良いのかって話なんッスけどねぇ!? いや振子雪いるからあんまドーノコーノ言う話でも無ぇが』

『な、何か私相手だと不満だとでもいうのですか、あなた! 人に子供まで孕ませておいてっ』

『いや直接は産んで無ぇだろォ!? そーゆー例は「どこかの隊長サンの」斬魄刀であるけどよォ、なァ!?!!?』

『がッふン』

 

 ちみっちゃいガキんちょな振子雪が腕を組んで「ふんす」とばかりに鼻を鳴らして威張ってる姿は、なんとも姐サンやら黒崎家の血筋を感じる顔立ちやらが混じっていて、可愛らしい分脳がバグりそうになるが、目を閉じて頭を左右に振って現実逃避。

 

『…………まァ、とりあえずお前よくやってるよ振子雪。見てみろ、明らかに姐サンの「本当の能力」までは使え無ぇなりに、上手い事俺の能力使って、それっぽく戦わせていやがるし』

『がッふン♪ がッふン♪』

『お待ちください、あなた。いつ私の本来の能力について知ったと言うのです? まだそんな「恥ずかしいことまで」話していないのですが……』

『いや、ンなのはあの、参の舞だったか? アレ見りゃわかンだろ。明らかに冷気の効果範囲みてェなのの性質からして、使うたびに姐サンの手ごと「凍り付く」のがおかしいじゃねェか』

『………………』

『ど、どうした?』

『い、いえ、意外と見てくれているのだと思うと、その…………』

 

 だァからンなチョロいリアクション見せられても困るンだっつーの! 昔の朽木かお前ッ! いやまぁ「斬魄刀と死神の関係」的には昔の朽木でも間違っちゃいねェんだろうが。

 

『あの梅針(ばいしん)という男、および斬魄刀「梅針鞭(ばいしんべん)」についてだが』

 

 と、姐サンが異常なほどチョロい具合に顔を赤くしてるのとかンな雰囲気を無視して、オッサンが俺たちに話しかけて来た。振子雪も「ぎゃう?」と俺と一緒に首傾げてやがる。

 

『どうやら斬魄刀と融合しているようだな』

『あ? ってェと…………、特殊な具象化みてェなモンか? 名前的に使い手との親和性、ヤベェくらい高そうだし』

 

 斬魄刀の「本体」とは、使い手の心を写し取るかあるいは使い手の内にあった「何か」を表出させたものに他ならない。だからこそ名前や能力っつーのはそれなりに使い手の性質を、時に本人が意図しないで反映することもある。

 あの鬼灯丸の血止めだって、なんとなくそんな感じがするくらいだ。意外とナリはともかく、真面目っぽかったり女々しい部分もあったりするのを隠してるっつーのが、上手い事斬魄刀に反映されてるんだろうと思う

 

『あの、解号が「我に返れ」だったから、もしかして始解で使用者と融合する、といったものだったのでは?』

『あー、そういう可能性もあるか。実際わかんねェけど…………、でもちょっと違うな』

『えぇっと……?』

 

『――――それよりも、もっと問題があるとするならば。あの男の霊圧の高ぶりで、虚たちが呼び寄せられたというその一つの事例だろう』

 

 オッサンの言わんとしていることは、よくわかる。ほかならぬ実験体(ホワイト)であるからこそ、その声をほぼ「意図的に」潰されていた、その理由を知ってるからこそ。

 

『ぎゃんぎゃ、ぎゃん!』

『お? そーかそーか、お前もわかったか。…………相変わらず何でお前の言葉がわかンのかが全然わかンねぇが……』

『どういうことです、振子雪。あれは「どう見ても虚混じり」な旦那様(ヽヽヽ)の霊圧を吸収して使ったから、何か異常が起きたと思ったのですが――――』

『その呼び方ちょっと止めろォ! ケツが痒くなるわッ』

『ぎゃんぎゃ!』

 

 何が旦那様だバカバカしい、というか本当に姐サンの距離感がどうなっちまってンだコレ!? 思わず叫んだ俺に併せて、振子雪も何故か叫ぶ。ただ、意味は「どうでもいいけどね!」みたいなこと言ってるから、とりあえず額を小突いた。

 

『さ、流石にいきなりすぎましたか…………』

『嘘だろ姐サン、流石に対人経験少なすぎンじゃねぇか……? パーソナルスペースっつーか、もうちょっと色々となァ……』

 

『…………話を戻して良いか』

 

 痺れを切らしたオッサンが声をかけて来たので、慌てて首肯した。

 

『例えそこのホワイトの霊圧を使ったとしても、客人を経由した霊圧を使ったのだとしても、そのどちらにおいても「吸収された以上は」あの男の霊圧になる。死神の霊圧は虚の霊圧を抑え込み、霊圧同士を争わせれば勝利するのは死神の性質でなければ既に「虚に堕ちている」だろう。

 故にこそ、黒腔が開いたのだとするのならば――――』

 

 オッサンは画面の向こう、一護の戦いぶりに何故か「懐かしそうに」笑う梅針を見て、言った。

 

『――――――――奴もまた、虚が混じった存在であるということだ。おそらく「斬魄刀そのものが」虚化しているのだろう』

 

 また厄介なことが起こってンなぁとため息をついて、俺はどこぞの眼鏡の黒幕に、内心でヘイトを貯めた。

 

 

 

 

 


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