ついに対面
「一体、どうしたってんのさ……! せっかく少し息抜きってことで、練習休んで遊んでる日曜日だってのにっ!」
駅前で一人、誰も居ないのを確認してフリフリな「あたしには似合わないよねぇ……」と思いながらも興味のある衣装をちらっとウインドウショッピングしたり、年頃の女子らしく雑誌の恋愛コーナーを見て一喜一憂したりドキドキしたりと色々アレな生態を繰り広げた有沢たつき。
そんな彼女だったが、駅前で繰り広げられた謎の爆発を前に、思わず駆けだす。
「み、皆さん落ち着いて、落ち着い―――――だわあああああッ!?」
先ほどお昼ご飯を食べたファーストフード店の新入りバイト(「やまだ」とネームプレートがついてる)が自主的に避難誘導めいたことをしているが、パニック具合はもはやそれどころではない。
たつきとてそのパニックと似たような状態で、わけもわからずこの場から逃げようとしているが。そんな彼女の目の前で、信号機が落下してきたりもする。
本当になんら前触れなく、軋み、そして「斬り落とされた」ような断面をもって落下するそれらを見て、そこに「違和感を感じ」、たつきは震える。
「何、これ…………?」
もやのような何かが信号機の上に乗り、それと同時にひしゃげ、倒れる信号機。えぐれる地面。「聞こえるはずのない」目の前を通過する風切音――――。そのどれもが、たつきの目の前に「何かがいる」ことを如実にかたっており。
そして運の悪いことに、たつきは「時折」それが「ノイズ交じりに」見えてしまうくらいには、霊的素養が目覚めていた。
「バケモノと……、ハゲ?」
「オラオラオラァ! まだまだこんなモンじゃねぇだろ!」
「縛道の五十八『
「おう! 逃がすかァ」
人間よりも大きな、胸に穴の開いた怪物。そいつらと戦う「一護のように」黒装束で、武器を持った連中の姿。周囲の反応からして自分にしか見えていないようだが、それがなおの事不安をあおる。
「……?」
そして、ふと何か「妙な感覚」を覚えた、たつきは自らの直感に従ってその場を離れ進む。何だろう、上手くは言えないのだがまるで、誰かが自分を呼んでいるような。
通学路の先、道中で朽木ルキアの姿を見たりもしたが、そちらには「今更驚く話でもない」。時折、「黒装束の」一護と共に学校から出たりといった光景を目撃しているせいもあった。
そして、見つけてしまう。
「あ、あぁ…………ッ」
茶系の仔犬。人懐っこそうな顔で、いつもなら舌を出してへっへっへっと彼女を見てお座りをして、まるで自分を待っているようによく見ていた犬。
その犬が、ボロボロになって、まるで車にでも弾かれたように倒れており――――その姿は、感じるイメージは普段通りだというのに、その全身に「ノイズが走っていた」。
「うそ、だよな? ワンコ、あんたも幽霊だっての?」
『――――――――』
たつきの脳裏には、幼い頃の一護の姿が過っていた。とある事件が起こるまで、一護はかつて「生者と死者の区別がついていなかった」。あまりにも自然に「死」を視てしまうせいで、幽霊と人間との垣根を理解することが出来なかったらしい。
そんな状態だったというのを後から聞いた彼女は、いまいち実感がわかないながらも「そんなものだった」「それはそれで大変だった」と認識したが。今の状況が、たつきの感覚をさらに不安にさせる。
「……結構辛いんだ。目で見てるものが、本当にそうかって判んないって」
運よく織姫やチャドたちとの遭遇を回避したからこそ、そのダメージはさらに少なくなっているのだが。それを自覚しなかったからこそ、たつきは「さらに感じる嫌な感覚」に沿って移動する。
そして、見てしまった――――――――幼馴染のオレンジ色な頭をした少年が、謎の大男から斬られるその瞬間と。
倒れ伏した彼が、痛みを叫び、堪えるような苦悶の表情を浮かべながら、自分と目が合ってしまったのを。
※ ※ ※
『戦いたいか――――』
『勝ちたいか――――』
『それとも、生きたいか――――どれだ』
再び、いつかのように現れた「斬月のおっさん」。自分の斬魄刀というには陰鬱げなその男の言葉に、既にボロボロの一護は震える。
周囲の時は色あせて止まったまま。一護は「死にかかりながら」、斬月の顔を見上げていた。
状況を整理するならば、それは「大量の虚退治後」となる。一通り虚の気配が消えた後、一護に襲い掛かった
「ヘッ! どうした。さっき『解放しようとしてた』っぽい霊圧出してたじゃねェか」
「……ッ! こっちにだって事情があンだよ!」
「そうか? ま、手は抜かねェけどな――――」
ニヤニヤ笑いながら刃と化した両腕で
若干だが直前まで戦っていた一角のそれに近く、しかしそれ以上に別な何かを一護は感じ取っていた。
斬り合い、徐々に徐々にその勢いで街から離れていく一護と梅針。その最中、ルキアたちが追い付かない距離で、一護は零した。
「何で…………」
「あ゛?」
「何でこんな………………、辛い剣してんだ、アンタ」
「――――――――」
一護のその指摘に、一瞬表情が凍り付く梅針。だが少しの間を置いてから、大声で笑い飛ばした。
「クッフフフ。さて、何のことだかな」
「梅針……、アンタ一体――――」
「――――知ったところで何か変わるわけでも無ェ。随分甘っちょろいこと言ってるな小僧」
口ではくさす様に言う梅針だが、その目はどこか哀れみとも、諦観ともとれる色が浮かんでいる。それがどうにも納得できず、何か事情があるのではと、そういった判断こそが一護の剣を鈍らせた。
嗚呼、そうだ。それこそスタークとの戦闘で、お互いやり辛さを感じた時も。それでもなお「戦う本能」を振りかざしてきたスタークや、この男と違い。黒崎一護は、喧嘩はともかく本気の殺し合いなど、そう経験したことのない高校生だったのだ。
だからこそ、一瞬斬魄刀にかかった霊圧が緩み――――。
「――――ッ!?」
「なァ? 言っただろう、
ニヤリと笑いながらも、どこか悲し気に見えたその目の奥。
一護は言葉を続けられず梅針に斬魄刀を叩き折られ。そのまま膝から、地面に倒れ伏した。
自分の背をにじりながら、再び霊圧を吸い上げる梅針。それこそルキアたちが言っていた通り虚のようであるが、だが違う。スタークのような「自分と似た感覚」でもない。だが、間違いなくこの男の剣には、拳にはそれ以外の感情が多く含まれていた。
まるで、もう取り返しがつかないことを嘆くかのような――――――――。
ルキアたちの霊圧が迫っている。だがそれよりも、朦朧とする意識の中で、一護は物陰に隠れる「彼女」と目が合った。
有沢
「何が、一体…………ッ」
「いち――――ッ! ……」
たつきは呆然と一護を見ており、しかしはっとした顔をするとその場から駆けて逃げた。幸い虚の気配もなく、梅針も彼女へは意識を向けていない。やがてその場にルキアたちの霊圧が近寄ってきたことから、たつきはそれを感じ取って逃げたのかと、一護にも不安がよぎる。
自分を見捨てて逃げた、などと考えないくらいには、一護は彼女を理解している。
自分がいたら邪魔だと本能で判断してその場を後にしたのだろう、そう考えるくらいには、一護は彼女を信頼していた。
だから、今はたつきのことよりも。背後に立つ梅針を睨みながら、一護は唸る。
「テメェ、どうして俺の霊力を…………」
「別に『一杯あるんなら』『誰でも良かった』ンだぜ」
「……何…………、だと………………?」
白状するとなァ、と梅針は苦笑いしながら続ける。
「元々『大量の霊力』さえあるんなら、さっきの虚連中を食ったって良かったんだ。だけど、お前の霊圧は妙に『親和性』を感じるからな」
「親和性……? 何、言ってンだよ、アンタ」
「気づいて無ェのか? じゃあ、教えといてやる――――」
「――――お前の霊圧には『虚』の力が混じっていやがる。俺の『梅針鞭』と同じようにな」
梅針のその言葉に、反応できない一護。斬魄刀に、虚? 不意に思い出されるのは、スタークと戦った際の仮面や、それを見て形相を変えるルキア。あるいは平子に対して強い警戒を抱いていた彼女や、大虚と戦った際に初めて解放した斬魄刀とは別に、自分の頭部を覆っていた「虚のような仮面」。
「
「そんな名前が付いてンのか今は。昔はそれこそ『只の虚』扱いだったんだがなァ」
結局のところ、ルキアとそのことはまともに話すことが出来ていない。今はまだ、とはぐらかされている一護であるが故に、全く無関係の第三者から語られたその一言は、また違った意味合いを帯びる。
そんな最中、世界が色を失い。現れた斬月のおっさんを前に、一護は吠えるように言った。
「…………全部だ」
『聞こえんな』
「全部って言ったんだ。だけど…………、それでも足りないッ!」
ほう、と一護を見る斬月。
表情こそ変わらないが、どこか試すような響きがあるその声音に、一護は素直に答える。
戦うだけでも、意味がない。
生き残るだけでも、意味がない。
そして――――勝つだけでも、意味がない。
「コイツには、それだけじゃ意味がないんだ…………!」
『ならば何をしたい。私を使い、この男の斬魄刀から感じたものを以て、何を為す』
「俺は…………」
何をしたいかと問われても、一護にはまだ具体的に思いを口に出来ない。
どこかで助けを求めているような――――それでいて、絶対に自分は助からないと確信しているような、深い絶望。
「それでも、何とかしてやりてェんだ!」
『縁もゆかりも、お前には無いだろうにな、一護。
…………良いだろう。ならば来い』
斬月がそう言い、自らの視界がそのコートの闇に覆われる。
瞬間的に梅針から吸われる霊圧の痛みや脱力感が軽減し、『斬魄刀から』流れる霊圧のそれが、こちらに駆けてくるルキアの手元の振子雪へと「霊絡を介して」繋がれているのが見えて。
「一護! くっ…………、 次の舞・白――――」
『――――潰せ、
梅針目掛に向け技の構えをしたルキアと、聞き覚えのない声および霊圧が梅針に襲い掛かり。その軌跡が飛来したのを感じて、一護の意識は現実から離脱した。
※ ※ ※
「…………って、ここは?」
『ぎゃう?』
「……いや、何だよお前、ってここアレじゃねェか!? 危ねェぞ!」
『ぎゃーん!』
あー、あー、この感じ完全に原作だと更木剣八とやり合った時のテンションじゃねーか、一護お前よォ………………。
例によってビルの壁面に降り立った一護。まあ例によってっつーほどアイツもこっちに来れちゃいねェんだけど(時々コンを使って幽体離脱した後に刃禅しちゃいるが、姐サンの封印のせいでうまくつながらない)、それはそうとしてこっちに来たら間違いなくこの場所に降り立っている。
そんな一護は、尻もちでもつくように座った形で着地。興味津々な風に顔を覗き込む振子雪を前にびっくりして、そして「以前来た時のように」「本来重力が働く方向へ」落ちると予測。振子雪を抱えて一緒に壁面へと背中を預け、ビルの窓のへりに足をかけ寝そべった。
『……何をしている?』
「い、いや、だってこうでもしねェとまた落ちンだろ! ……って、いうかコイツ何だ? おっさん」
『ぎゃー、ぶん?』
「いや、何言ってるか全然わかんねェ。……つーか、昔の夏梨みてェな顔してんな」
おっと、その感想は俺とも一緒だ。少しだけ俺と一護とのつながりみてェなのを感じられて、若干テンションが上がる。
まあ、その後は基本的に原作通りというかアニメ通りと言うか、この重力が横になってる状態が基本であるということを理解させられた一護が微妙な顔をして立ち上がるところだ。
『未だ先は遠いが、死神としてどう強くなりたいか、定まりつつあるようだな。
…………立て、そして受け取れ一護』
「あ? って、お、おぉ…………、っと!? あ、危ねェだろいきなり抜き身の刀放り投げて! ガキンチョに当たったらどーすんだッ」
『ぎゃんぎゃん!』
「って、お前はお前で何にキレてンだよ……」
斬月のオッサンが投げた刀、まあ「浅打」なんだが、厳密には浅打というより「俺の一部」だ。俺自身は生成の過程で、多くの虚化し暴走させられた死神とその斬魄刀とが材料になった虚。だからその素材の一部を「意識的に」「名前を以て」切り出せば、本来の浅打と同等のものなんざ精神世界ならすぐに作り出せる。
それが良い事か悪い事かは別として。
『持って居ろ一護、お前の刀だ』
まァ、一部とはいえ俺だからな………………。
「な、何だって、俺の刀? いやだってこれ、大きさも全然フツーだし、斬月じゃ――――」
『…………』
『―――浅打。護廷十三隊の死神が最初に手にする斬魄刀。全ての斬魄刀のひな形であり、ある意味で「全ての斬魄刀」でもある。私や、その振子雪や、ご老体の方のように』
「っ!」
と、一護の視線が姐サンの方に向く。……姐サンは姐サンで振子雪を抱えて一緒にビルの窓開けてその中に隠れてたンだが、どうにも振子雪の好奇心が勝っちまったみてェで、飛び出したのを追いかけてきた感じだな。
おーおー、自分の横にクール系とはいえ普通に美人が現れて動揺してやがる一護。
「あ、あ、あ、アンタ、えっと……?」
『おや、声が聞こえますか。では改めて――――袖白雪です。我がルキアが世話になっております』
「あ、ああ、いや、こちらこそ、ご丁寧に……」
『ぎゃん?』
不思議そうにしてる振子雪を一護から引っぺがして抱える姐サンに。前に見た時にはしゃべれなかった姐サンとの会話で、ドギマギというか普通に緊張してるあたりは、まーフツーに高校生っつーことだな。こっちもこっちで下手に硬派気取ってる訳じゃねェけど、慣れちゃいねェのに違いはねェ。
「って、なんかンな話、ルキアから聞いたことはあるんスけど……、いやそうじゃなくってな、おっさん。斬月って言ったらこう――――」
『お前の言う斬月とは、先ほど解放せずにあの男に叩き折られた――――これのことか?』
まァ、刀自体は俺とオッサン、なおかつ精神世界なものだから、その状態に姐サンの封印はない。最初に解放された時の、刃に沿った孔の空いた妙な形をした斬魄刀のままだ。
それを見て驚く一護。なんつーか、ここまで原作通りの流れで来てると、俺まで原作通りの流れで出てこねェといけないのかって感じになってくんだが……。
「氷が、張ってない……?」
『あれはルキアが、貴方の霊圧を封じるために「わざと」私で封じ込めた形。……私に断りもなくやったことなので少々言いたいことはありますが』
「あ、あァ? それってどういう――――」
『ぎゃーぶん!』
「え、えぇ? 何、何言ってんだお前……? っていうかそこの姉ちゃんはともかく、お前一体何だよ!?」
あー、これはアレだな。俺とかオッサンとか姐サンは振子雪があの怪獣言葉みてェなのしゃべってても何となく何言いたいのかわかンだが、こっち側の事情には関係してねェ一護には伝わらないっつーことか。
というか、今の指摘でオッサンと姐サンと、ついでに俺も遠い目をしている。振子雪に指さして怒鳴る一護に姐サンも注意する余裕が無ェ。本当、このガキンチョについては何なんだろうねマジでさ…………。なんかカワイイ感じに頭傾げてやがるが。
と、思ったら。姐サンは一護の方を見て、にっこりと微笑んだ。
『娘ですが、何か?』
「は、はァ?」
『ルキアが私を介して生み出した娘ですが、何か?』
『ぎゃん? ぎゃー』
「あ、いや、別に文句は無ェんっスけど、えっと、ハイ……」
あー、一護の「影の方」を指さしてる振子雪の手を無理やり取って、何か疑問がありそうなのを封殺してやがる。一応「まだ」俺が出てないから気を遣ってもらってて、色々と申し訳ねェ……。こういうのは多少は「それっぽさ」を重視した演出が必要なものだってのは判ってもらってるし、そのあたり協力してくれンのはマジで助かるわ。
後本当に一護が姐サンに頭が上がらねェなこれ。どーもこういう、遠慮ない感情を向けられるのはルキアを思い出すし、その割には朽木みたいなガキンチョっつー感じでもないから、戸惑いやらドキドキがあるっつーことかね。アレで朽木、お前より5、6倍以上は長生きしてンだが。
ともかく、改めてオッサンに向き直った一護だが。オッサンは斬月……、正確には「斬月もどき」を布でくるんで背負い、一護を見据える。
『今のお前に、これを渡すことは出来ない』
「……ッ! 何でだよ、というかそれってそのまま仕舞えンのか――――」
『――――全く、何も判ってねェんだなぁ、「自分の斬魄刀」のことを』
と、言う訳でここから俺登場。「一護の影」に「同化していた」俺は、そのまま一護の影から身体を表出させて、蹴り飛ばすように瞬歩で移動。
一瞬遠くに行ってから、再度瞬歩して一護の目の前に拳をつきつける。白打なんてそれこそ数十年はやって無エが、まーそれっぽい感じには出来ンだろ。
『今ので一回、死んだぜ?』
「……ッ! な、何だよお前…………ッ!」
『オイオイ何だは無ぇだろ、
まァ、どう見ても今の俺の姿っていわゆる「白一護」そのものだから、見た目の威圧感と怪しさと、ついでにワルモノっぽさは人一番だかンなぁ。姐サンも半眼で「そんな物言いをしたら勘違いされません?」みてェなこと内心で思ってそうだが、これについちゃ仕方無ェ。
既に外部では浦原喜助によって朽木の「俺」に対する認識は虚。なんなら
とすると、俺自身の名乗りはともかく「虚の力に対して」「一定の警戒心を育む」っつーことだけは、忘れさせるわけにゃいかねェからな。
まァそんなに戦闘狂でも無ェから、どこまで上手くいくか判ンねーけど。
『これからお前が、
『お? っとと、ンだよ、結局渡すのかよ』
「あっ……」
おっと? 本来の予定だと、このまま俺が腰に差してる浅打を使って一護と斬り合って、少しばかし「三者の思う所」をぶつけて色々促す予定だったンだが、こっちに斬月を投げて寄越すオッサン。アドリブか?
そう思って見れば、なんとなく「一護の感じている恐怖」が何かわかって無ェから自覚させろー、みたいな感情が伝わってくる。全く、口じゃ言わねェくせに人使い荒いぜ。
ま、「対等な」半身なんだし、気にすることでも無ェけどな。
「……何の真似だ」
『何のってこたァ無ェだろ。「死神ごっこ」してるガキンチョにゃ――――真剣は勿体ないってだけだぜ!』
「ッ!」
そしてそのまま、受け取った状態の「包帯巻」っぽいままの斬月もどきで、俺は一護に斬りかかった。
斬術「紅染百式」ベースのそれに倣い、
おいおいそうじゃ無ェだろ……。その気になったらこの場だけ「本来の」斬月だって呼び出せるはずなんだぜ? なにせ俺とオッサンの両方が見ている中で、おまけに一護自身の内面世界なんだから。「霊格が足りない」なんつーソウルソウルした物的っぽい事情なんざ完全スルーして、そのまま「抜刀状態の」「鞘と刃の」オッサンと俺を呼び出せだってするっつーのに。
こういうのアレだ、もどかしいってやつだ。妹とか弟とかが捕まり立ちしようとしてンのを見たり、初めて花火づくりしてンのをおっかなびっくり火薬間違えねェか見守るような感じっつーか、まァそんな不安感だ。
「斬月の布を振り回して……ッ!? そんなの、俺は思いつきも――――」
『あーあー、情けねェな一護! ンな「出来損ないのくせに」「結構使える」刀持ってて、何ビビってやがンだよ!』
「ッ!」
おおむね原作通りに適当な立ち回り。それでも必死な一護からすりゃ、こっちのそれはお節介というかやかましいっつー感情になるんだろォから、多少は「一護に合わせて」伝え方を考えてやらねーと。一応「お兄ちゃん」みてェなもんだし。
ビビってるっつー俺の指摘に、一護は目を見開いてる。……そしてシリアスしてっから気づいちゃいねーが、あっちの別なビルの方に避難してる姐サンに抱えられた振子雪が「ぎょーん! ぎょーん!」と両手パタパタ振ってテンション上げてやがる。応援してるっつーか、怪獣プロレス見てるノリだぜオイ。ちっと大物すぎやしねェか。
だがまぁ、そういうことだな――――――今の一護は、「斬月の力にビビってる」。斬月の、つまり自分が持つ力を振るうことそのものに恐怖を覚えちまったっつーことだな。
刀交わせば見えてくるものもある。浅打に霊圧注ぎ込んで急速に自分の刃にするっつー発想も出てこねぇンだろうが、それ以上に月牙天衝の威力の「本来の」大きさにビビリすぎて、さっきだって「体内で霊圧が暴走して」抜けきらず、霊体の構成もギリギリだったし。
むしろ梅針に抜かれたお陰で、安定しちまったくらいだ。……原作のホワイトも本当に頭抱えてたんだろうなこれ。どうしたもんか。
あー……、アレだな。少し「戦う」っつーことから、もっとシンプルに、気楽に刃を振るえるようにしてやらねェと無理だな。
優しいからこそ、時にはそういうシンプルに戦うっつーのも必要だろう。相手がどう考えるかじゃなく、一護自身がそう考えられるように。
斬月もどきを投げる俺。それを「ぎゃん!」と姐サンの手を抜け出して受け取った振子雪。慌てて抱え直す姐サンはともかく、何をするつもりかとオッサンの感情が伝わってくるが、まぁ見とけよ。どうせ「表は表で」梅針は逃げて、浦原商店に運ばれてる最中だし。
「どういうつもりだ、テメェ」
『今のお前にゃ斬月は勿体ねぇ。刃どころか「振るう事すら」する必要も無ェな。お前にあの刀と触れあう資格は無ェと、俺がお墨付きをくれてやるぜ』
「さっきから何言ってやがる――――」
『――――表で戦ってる時。あんな状況で持ち主が死にそうになっても、自分を解放しなかったのを見た斬魄刀がどう思うか、考えたことあるか?』
俺の指摘に目を見開いて硬直する一護。いいぜ、そうやって少し意識する範囲を広げろ。そんなに後生大事に扱えとは言わねぇが、そもそも俺もオッサンも「そのために」お前の手元にあンだぜ。
だから、少しはそれを思い出させてやる――――――――。
腰から浅打を抜き取り、そこに「ある種の」霊圧を流し込み、存在を上書きする。俺としちゃちょっと複雑な感じだが、一番適性が高いのがコイツだから仕方ねぇ。
『だから少し見せてやる。斬魄刀と死神の戦い方ってやつをよォ』
柄を持ちながら手元で回転させ、俺は「名を呼ぶ」――――。
『
その解号を聞いた時。姐サンは密かに目を見開き、その色白な顔色をもっと悪くした。