ちょっとずつ原作に寄っていく要素と、乖離していく要素
※今回から独自解釈タグ追加します
昨晩、と言うか早朝。一護の夢見が悪かったせいで「三人」全員そろって水没の憂き目にあった。
俺は俺でぼうっとうたたねしてたところでいきなり水没したものだから仰天、オッサンはいつも通りのままで、「袖白雪」――朽木ルキアの斬魄刀――は全身濡れながらぷりぷりと怒っていた。
『な、な、一体何なのですかこの場所は!?』
『まぁ落ち着いてくれな? 雪っぽい色した美人の姐さん』
『そうだ、落ち着くのだ客人よ』
『あなた方はあなた方でなんでそんなに平然としていらっしゃるのですか……』
というか大体あなた方は一体何なのですか! と激昂しながら、どこからか取り出したスケッチブックにウサギらしき何か可愛い得体の知れないイラストと、クマらしき得体の知れないイラストを描きこちらに突き付ける。
『元来、斬魄刀と死神の関係と言うのは! 死神が元となる斬魄刀を手にすることで、持ち主の心のそれを映しとり形となるものです! 形となった斬魄刀はそこから持ち主の心と紐づくため、紐づいた相手に何かない限りは永続的にその精神世界にいるはずなのに、どうして! 私はこんな場所にいるのでしょうか!』
『…………あー、悪ぃんだけどそのイラストのせいで緊迫感が全然ねぇわ』
『な……っ!?』
ちなみに絵の感じは朽木ルキアとどっこいどっこいの出来なため、俺としてはコメントが微妙に難しいというか、やっぱり一護めいてしまう。オッサンも同感なのかそれとも聞いていないのか、視線を空に向けてゴポゴポ鼻から息を漏らしている。
『まぁ姐さん的に俺たちが何なのかっていうのが心底謎っていうのも判るし、姐さんがなんでこんな場所にいるのかってのもさっぱり判らねぇんだが……、前の方はともかく後の方、オッサンわかるか?』
『察するものは、ある。ホワイト、『一護が持つ』『今の』斬魄刀を出して見ろ』
言われたまま、今の俺とオッサン自身の力「であるはず」の斬魄刀をこの場に具象化してみる。そして、言わんとしていることに納得できた。
『か、か、解放前の
『おぉ…………、こりゃあんまりだわ』
BLEACH原作初期の頃の、いわゆる「浅打」に相当する形態の巨大な斬魄刀。だが「当事者」になったからこそ、この刀の状態のいびつさっていうか、酷さみたいなものが如実に理解できた。俺たちが絶句する中、オッサンが黙々と解説を続ける。
『「客人の刀」を、一護の力を基準とした巨大さで膨張させた有様、だな』
『なんかこう……、えっちだな。妙齢の美女に年若い青少年の――――』
『な、なんでですか!? 私、ただの被害者ですよ貴方、コラ!』
普通にボクシングスタイルで右ストレートとか打ち込んでくる姐さんは置いておいて。
『もともと、死神として練られた魂魄としての力、および斬魄刀の元になる当人の「心」を一部転写する技術なのだろう、アレは。だが運悪く……としておこう、一護はその朽木ルキアがもちえた力の全てを「映しとった」。結果、朽木ルキアの内にあった世界自体を維持できず、そのまま世界ごと「心を共有した」相手である場所に流れ着いた、ということだ』
『それっぽい説明してくれてるところ悪ぃけど、さっぱりなんだわ。あー、つまり……、朽木ルキアの力がある程度戻ったら、姐さんはめでたくここ卒業、と』
『だろうな』
俺とオッサンの話にホっとした様子の姐さん。が、それはそうと俺らは何なのだって話題に戻った。
『我々は、二人で一つの斬魄刀』
『本当なら一つになってるべきなんだろーが、色々手違いがあってなー。外的要因のせいで「鞘」と「刃」との意識が分離しちまってんだ』とかそれっぽく言っておく。
『…………浅打を経由せずに斬魄刀を持つ魂魄? 「真血」でもそうはならないでしょうに一体…………』
『まぁ細けぇ話は置いておいて。ちょっとした決まり事ていうか、出来れば協力して欲しいことがアンだよ』
と、話してるうちに一瞬で水が枯れた。テレビを見ると一護、完全にゴリラタイプになった父親たる黒崎一心とじゃれてる。
『あのみかんみたいで美味しそうな頭をした青年……、彼があなた方の持ち主ですか』
『あの容姿見て感想が「美味しそう」なあたり、やっぱ持ち主が持ち主だな……』
『…………』
『な、なんですか貴方たち! さっきから巻き込まれた被害者である私に、失礼じゃないですか! 馬鹿にしてますかコラー!』
『おっと!? いやだからギャグ的なツッコミにガチの格闘技使ってくんなっ!』
閑話休題。
『まぁ言っちまうと、コイツすげぇ傷つきやすいんだわ。表面上は普通に見えっけど、何か不幸があるとすーぐ落ち込んじまう。他人の不幸ですらだぜ? クラスメイトの兄チャンが事故で運び込まれて、妹サンが泣きすがってんの見てよ』
『そしてひとたび心が泣けば、空はこの曇天よりもはるかに曇り、世界は猛烈な速度で皆、水底に沈む』
『ええ、それは先ほど体験いたしましたけれど…………。つまり、それを阻止するために力を貸せ、ということでしょうか? 意図はわかりますけれども、一体そんなものはどうやって――――』
俺とオッサンは顔を見合わせて。
『まー、何かあんダロ』
『だな』
『無計画極まりないのですね……』
将来的に一護がほぼ確実に戦いに巻き込まれるのは、俺は俺の事情で知っており、オッサンはオッサンの事情で知ってはいるものの。客人である姐さんに正確に説明できる自信もなく、とりあえずは適当にごまかすことにしたのだった。
※ ※ ※
「死神は全ての霊魂に平等でなければならぬ――――目に見える範囲だけ救いたいなど、都合よくはいかぬのだ!
今その子供の霊を助けると言うのなら、半端な心でないというのなら! 全ての霊を助けるために覚悟を決めろ!」
『嗚呼、さすが我が持ち主…………、凛々しくも愛らしい…………』
『姐さんそんなキャラしてんのか……』
『人は見かけによらぬとは言うが……』
『い、いえ! そんな。彼女の前に現れるときは、いつももっと澄ました風に振舞っておりますもの。醜態を見せたことはありませんとも、ええ』
『ホントか~?』
そんな訳で。とりあえず三人そろってテレビ鑑賞。実質「BLEACH」2話に相当する話を映像で見ている流れになっているが、途中途中の時間がカットされたりしないので移動時間とか意外とけっこう長い。流石に手持無沙汰になっているので、一護の家(に相当する場所)でテレビをつけながら、三人でセンベイと緑茶を手に、適当に過ごしていた。
とはいえ山場ともいえる、子供の霊が襲われる様を前に「動くな」と言われている一護。空の曇り具合がちょっと濃くなってきた気がするので、オッサン的には気になるのか、窓からしきりに空を気にしている。
「――――ゴチャゴチャ煩ぇ! 俺は、助けたいって思ったから助けるんだ! 悪ィか! テメーは違えのかよ!」
「な……っ!」
「俺を助けた時のテメーは、そんな義務がどうとかムズカシイこと考えて助けたのか! 身体張ってるって時は、そうじゃねェだろ!
少なくとも俺は――――違う!」
『おぉー、よく俺とかオッサンとかの霊力がこもっていない状態であそこまで斬れるなぁ。重量とか密度が全然違ぇだろうに』
『ケンカ殺法だな。いかんぞ一護、基礎というものは全てに通じる――――』
『いえ、こんな所で愚痴をいったところで、どうしようもないと思うのですが……』
そもそも対話すら至っていませんし、と言いながら砕いたセンベイをつまむ姐さん。と、そんな時に空を気にしていたオッサンが「おぉ……!」とか感嘆の声を上げた。
『あ? どうしたオッサン』
『見ろ、ホワイト――――――――明けない空が明くぞ!』
いや意味わかんねぇと言おうとして、でもその言葉に納得してしまった。
なにせ、雲が切れたのだ。隙間から光が差し込み、青い空を見たのだ。
一体全体、この場所でそれを見るのは何年ぶりなことだろうか…………。
今までずっと、どんな時でも曇天だった空。多少明るかろうがずっと曇ってた空が、そのまま一護の眉間に寄る皺の濃さのようでもあったが。
だがそんな、いつまた雨に濡れるかわからないこの世界の空が、一気に、雲が明けていく――――。
「確かに覚悟なんてしてねーし、ホントにヤベェって思ったら逃げるかもしれねー、けど! 赤の他人のために命張れるほどリッパな人間じゃなくても、受けた恩忘れてヘラヘラしてられるようなクズでもねぇんだよ!」
一護の台詞に、頭の中では挿入歌な「ナンバーワン」がさっきからずっとかかっているが、それと同時に世界がガタガタと揺れ、歪み始める。
きょろきょろと周囲を見回す姐さんがちょっと可愛いが、あんまり話してる時間もなさそうだ。
『ななな、何なのですか、これは!?』
『あー悪ぃ、説明してる時間ねぇわ! 腕引くぜ!』
『急げ、崩れるぞ!』
姐さんの腕をつかんで窓の外へ「響転」を使い、「霊絡」の上に乗って移動する。上空まで来た俺とオッサン、そして姐さんは、「世界が組み変わっていく様」を見ていた。
『ここまで大掛かりに「心の有りよう」が変わったのって、九歳のあの時以来か?』
『いや、たつき嬢に初めてボコボコにされた時か…………』
『えっと、つまりどういったことで?』
割ける地面。そして
原作における「一護」の心理世界は、こうして出来上がったのか的な感想だ。
『在り様の変化は一護の心の向きの変化。守るべき街から守るべき世界、遥か遠い先を幻視したからこその変化か……』
『どうした? 姐さん。きょろきょろして、まるで数千年くらい未来に来た原始人みてぇだぞ?』
『原始人とはどういう意味ですッ! た、単純に、慣れない建物が多かったもので――――』
そんな馬鹿話みたいなことを話しながら、三人そろって下に降りて地面に足を付け――――。
『あべしッ!』『ひゃんっ!!?』『な、なんと……!!』
三人そろって「横向きに働きだした」重力にひかれて、近場のビルの入り口に叩きつけられた。自動ドアっぽいのに開かず、機能は完全に地面そのものなんだろう。
『…………どうやら、一護自身がこの心の有りように、少しひねくれた見方をしているせいのようだな』
『あー、確かに「立派な人間じゃねーけどクズでもねぇ」みてーな、反抗期特有なひねくれ方してるしなぁ…………』
『雨ですら酷いというのに、重力ですらこの様ですかそうですか…………』
腕を組む姐さんを前に、とりあえず一護の戦闘スタイルからどういった能力の斬魄刀に「なるべき」か、色々オッサンと相談を始める。
これから戦闘が本格化する確信があるからこそのやりとりだったけど、そのせいで危機感を共有できていない姐さんは置いてきぼりだった。
『しっかしまぁ、遠距離攻撃必須だな。あれじゃ身が持たねぇ』
『そうだろうな。おまけに一護自身気付いていないが、自らの霊圧を「現時点ですら」制御しきれていない。「抜刀」はしばらく封印しておいた方が良いだろう』
『っていうか、不安定だっていうならこの鎖も――』斬月(俺仕様というか完現術以降風)を取り出した瞬間、その大きさと軽々あつかう俺にぎょっとした表情の姐さん。『――鎖じゃなくって、霊絡っていうか帯っていうか、そんな感じになっちまうんじゃね?』
『嘆かわしいな……。いや、ならば私の霊子を固定する力を用いて、月牙を――――』
『おぉ! そりゃ良いんじゃねーの?』
『これで十字にして――――はどうだろうか』
『十字はマズイな。見る奴が見ると怪しまれるくらいのアレなんだから、斜めにしてクロス状態にするくらいで良いんじゃね?(ジャンプ的にも十字傷は大事だし)』
と、勝手に盛り上がってる俺たちに、冷や水。袖白雪、氷雪系斬魄刀なだけに冷や水。
『――――と、色々検討していますけれども。「対話」はもうしたのですか? あれほどの力を持っているのならば、もう最初の段階でその域には達してると思いますが。それがなければ、そもそも始解すらままなりませんし』
会話を止めて、オッサンと俺で姐さんを白けた目で見る(オッサンすらギャグっぽい表情なのはレア)。面白いようにうろたえる姐さんは、漫画ならルキア風にデフォルメされてることだろう。
『な、何ですかその目は! 別におかしなことを言ったりはしていないでしょう!』
『まー、普通はそうなんだけどよ…………』
そもそも一護の内に潜在的に存在していた能力が一堂に会するだろう場所がここであるのだから、言うなれば一護自身「自覚していない」だけで、その身にはすべての力が宿り使える状態ではあるのだ。あるのだが、とはいえだからといって使いこなせるかと言えばまた別な問題。
『元々俺とオッサン自身、一護はなるべく戦いからは遠い所にいて欲しいってスタンスだったから、こっちから接触するつもりがなかったっていうのが、やってねー理由の一つ。今だってノリノリで話してっけど、こうなるまで一緒に水没しながら話し合ってたし』
『まあ確かに、これほど傷つきやすい魂魄であるならそれも仕方ないのでしょうが……』
『そしてもう一つ。これが肝心な話なのだ客人よ』
『?』
俺とオッサンは、同時に口を開いた。
『『そもそも一護にこっちから接触するやり方がわからない』』『のだ』『ってワケだ』
『初歩的な躓き…………』
そもそも一般的には「
だが悪いのだが、こちとら原理原則は斬魄刀なんだが、ベースとか完全に虚だし。例えば無理に具象化しようとすると、そのまま一護に仮面をつけて「乗っ取る」ような形になっちまうんじゃないかと思う。
『朽木ルキアも一時的に力を貸し与えているつもりなのだろう。故にそういった作法を教えはしないはずだ』
『つまり、俺たちと一護との魂の結びつきが全然無い状態ってことだ。ここからいきなり結び直すっていうのは、相当無茶が過ぎると思うぜ?』
『それこそ、この世界が崩壊する寸前にでも―――― 一護自身を守るために、なけなしの理性と心を引き込むような非常事態でもなければな』
そんな俺たちの言葉を聞いて、姐さんは少し考えるようなポーズ…………、目が三白眼になってるのがこう、本当にデフォルメならルキアとかの顔そのものになってんだろうが、何度か首肯すると「いけますね」と言ってきた。
『事情はわかりました。…………確かにそう何度も、淑女が水濡れになるのは良いことではありません。溺死こそしないからといって、服が透け……っ、いえ、何でもないですが!』
『自分で自爆しといて俺蹴るの止めてくれねぇ?』
『ともかく! そういう事情でしたら、あなた方が出来ないだろうことに協力するのも吝かではありません。手始めにそうですね――――舞え、「
自らの斬魄刀――――純白の帯を垂らしたそれを出現させて、俺たちに向かって微笑んだ。
『……多少荒療治になりましょうが、あなた方をこの御仁、黒崎一護と対面させてみましょうか』
『なん…………、だと…………?』
いきなり解決策めいたことを提示され、顎あんぐり呆然とする俺だった(髑髏風顔だから顎とか開かねぇんだけど)。
ちなみにオッサンは特に何も言わず、やっぱり空を見つめていた。