「ったく、入るのにも一苦労じゃねぇか。んで何処なんだ? 一護のいる部屋は」
「知らな~い。あたし、昨日こっちに来たばっかりだし。そのイチゴくんってのも知らないしぃ」
「いやぁ、浦原商店出る時にメモ持ってたじゃないッスか、似顔絵も一緒に。なんかエラい似てる感じでしたけど」
「無くしちゃった! ……谷間に」
「谷間……、だと?」
「いや一体何やってンだ!?」
「無限収納空間か何かなのかな……」
「っていうか、恋次が案内しなさいよ! あたしとか隊長が手続き終わるよりも先に、朽木に会いに行きたいから~って、上司経由で貴族権力使わせてすっ飛んで来たんだから! おかげでカンカンよウチの隊長」
「いやその節は、なんツーか本当、済みません……」
「アタシじゃなくて本人に言ってよねー。トシで言えばアンタらより全然上だけど、まだまだお子ちゃまだし。拗ねちゃうと長いわよ~?」
「その言いぶりも怒られるんじゃねぇか? まあウチにはどうでもいいが……。
しかしそれにしても、今の現世は面倒な服着るよなぁ。あの店で適当に支給された服の方がマシだけど、あっちじゃヤベェって日番谷隊長にも言われたし」
「制服っつって、こっちの学生は着る義務があるんスよ。霊術院にもそれっぽいのはあったじゃないっスか。
というかそれを言うと、全員どっか着こなし間違ってるっつーか…………、ボタン締めましょうよ」
「首回りと腰回り、どうにかなンねぇのか? 窮屈すぎるぜ」
「腰回りは僕たちみたいに、中に入れないで外に出せば良いじゃないか」
「馬鹿野郎ォ! 腰紐に木刀させねェじゃねえか!」
「ベルトッスね。あと、せめてやるんなら竹刀袋か何かに――――」
「やかましィ! 大体今の現世は何だァ? 真剣禁止とか、ふざけてンのかってんだ!」
「いいじゃない! それだけ平和ってことなんだから『表面上は』。あたし気に入ってるわよ、こんな適当な恰好でも素通りさせてくれるんだし♪」
「どっちかっつーと谷間の方に目が…………、あー! 日番谷隊長の同伴、断るンじゃなかったッ!」
「ちょっと! それどういう意味よ、同じ副隊長として猛抗議なんだけど!」
「……何、してンだよお前ら?」
一護のヤツが微妙な顔してやがるが、まァ仕方ねェ。
そりゃテスト返し三日目な今日は普通に平日。そんな昼時早々にガヤガヤと廊下がざわめいてりゃ、あまつさえ「1-3の黒崎?」「黒崎がまた何かやらかしたか?」「朽木さんと仲がタイヘン宜しいことといい、アイツいつかシメる……」などなど色々な所から声が聞こえれば、その状況を確認しに廊下に出るのも当然っちゃ当然だ。
原作とかじゃ日番谷冬獅郎あたりが同伴してるはずの面子には、残念ながらその当人がいねェ。一護も気付いちゃいねェが、その霊圧は黒崎家の方面にいってて俺としちゃ胃が痛ェんだが、それはさておき。「静かにしろ」と言って騒ぎにならないように調整する役がいない以上、死神連中がこっちに来りゃ目立つのは当然の話だ。
……まァなんとなくわかっちゃいたが、物言いと雰囲気からしてどうも原作における「日番谷先遣隊」だなこりゃ。霊術院始まって以来の天才・十番隊隊長の日番谷冬獅郎を中心とした混成部隊。別名ピクニック部隊(主に松本乱菊のせいで)。
面々についちゃ、恋次、一角、弓親あたりは一護と面識があるが、松本乱菊を初見で見る一護は一護でリアクションに困った様子だ。
思わず声をかけてしまったっつー感じだが、いかにも
いやまァ俺自身「ホワイト」としての俺からすりゃ、松本乱菊はもう一人の
ンでもって俺は俺で姐サンを背後から抱きしめて、こっちの目つぶしをしようとしてくるのを無理やり止めていた。
松本乱菊の胸元、開いた谷間とボリューミーなそれに一護が生唾飲んだあたりで嫌な予感がして、その瞬間に速攻で姐サンの背後に瞬歩で回り込むと、俺を探しながら右手を
……足元で振子雪がぎゃんぎゃん楽しそうに色々言ってるが、いや別にイチャイチャしてねーけど?
『イチャイチャしていませんッ! と、というよりも、やはり胸の大きい方が良いと言うのですかッ!』
『いや何嫉妬みてェなこと言ってンだよ。まぁ姐サンは…………、ハッ』
『鼻で笑われたッ!?』
姐サンこと袖白雪、その全体の姿としちゃ美人にゃ違いないが、和服が似合う美人と言う時点である程度の胸部ボリュームはお察しな所がある。さらしくらいは巻いてるだろうから朽木よりは当然大きいだろうが、どうあがいても松本乱菊や井上織姫クラスのそれは難しいだろう。
まあ、そうはいっても好みがどっちかという問題であって別に俺はそんなに気にはしねェんだが…………、それを言うと何だか微妙に一護と朽木ルキアとのフラグを補強しちまいそうな気がするので、ここでは無言だ。
ちなみに真面目な話、今の朽木が一護に腹括って本気になると「崩玉」的な理由からマジでカップリングが成立しかねねェのが厄介だ。原作でもこっちでも人間関係的なことを考えると…………、最終的に曇る人数は少ない方が良いんスけどねぇ
とりあえず地味に落ち込み始めた姐サンを宥めてると、聞き覚えのあるきゃぴきゃぴした声が一護の横からぬっと這い出る。
「わぁ~! すっごい、モデルさんみたい!」
「い、井上!?」
おっと、ここで両手を合わせて目をキラッキラさせた井上織姫のエントリーだ! 乱菊の方を見た織姫はきゃっきゃと喜び、色々とほめちぎってる。言われてる乱菊の方もまんざらじゃねェみたいだな。顔位は知ってるのもあンだろうが……。
「あら貴女、見る目あるじゃないっ! まあ良いわ! せっかくだし、みんなで色々巡らない? お姉さんちょっと初めてなのよここ!」
「わーい!」
「いやちょっと待てェ!? というかこの人誰だよ恋次!?」
「後詰めで来た一人だよ。あー、一護、悪ぃ。今回、俺あんま何も言えねぇ……」
「恋次ィ!?」
『あー、なるほどな』
『あなた……?』
『いや、さっきのやりとりから多少察しがついた』
とりあえず、今日の阿散井恋次は松本乱菊には逆らえねェ感じだな。一角と弓親は……、観光? いまいち原作と違ってこっちに来てる意味がわからねェ。
ぶっちゃけコイツらについちゃ、義骸も浦原喜助謹製「霊圧遮断型」のそれ、
というか、周囲の声が色々アレだな。「あの金髪巨乳、黒崎の知り合い!?」とか「オカッパのオカマに木刀さしたハゲ……」「変な眉毛……」とか。恋次の方が6番隊に入れるだけあってか眉毛罵倒についちゃ軽く流してるが一角は原作同様ブチ切れてるし。弓親? オカマ呼ばわりは相当キたらしく、一角より無表情で襲い掛かりにいってやがる。
というか日番谷がいねェから止めに入るのが恋次しかいねェ!?
「……何をしておるのですか、松本副隊長」
あっ、いつの間にか啓吾がノされてる。倒れた啓吾を水色がばっちいものでも触るみてェなリアクションでチョンチョンしてるのを、横目に見て何とも言えねェ顔してやがるな朽木。
事情説明もかねてとりあえず撤収ってのになったンだが、どうやら井上とか、ついでにチャドもついてくるみてェだ。石田とか平子とかも様子を伺っちゃいるが、そこから追跡してきたりはしねェな。……まァどっちもどっちで立場みてェのがあるんだろうが、それはそうとして尸魂界組に一人も平子の顔に見覚えがないあたりは、何と言うかこう……。
妙に上手い具合に調整されてるのは、原作からといえば原作からなンだが、やっぱり暗躍してるよなァあのメガネ。
『――――ホワイト、由々しき問題が起こった』
『お? どうしたオッサン』
そうこう姐サンと戯れてると、俺の背後(姐サンからすれば影になってる位置)からぬっとオッサンが現れる。こっちはもうかれこれ十数年の付き合いだからこんな登場のしかたも慣れたモンだが、姐サンはまだまだ微妙な反応だ。ちょっとぎょっとして一歩引いて、子雪は「ぎゃお!」と「よっ!」みてェな感じで手を振ってやがる。
オッサンもオッサンで適当に挨拶を返すと、俺と姐サンとを見て胸に手を当てて深呼吸した。何だか疲れてるみてェだな。初めて見るぞ。
『どうしたオッサン、一護の霊圧について気になるところがあったから調査に行ってたけど、何か判ったのか?』
『結論から言おう。……昨日の朽木ルキアとの特訓で一護が見せた
『なん………………、だと?』
そして、オッサンの発言には俺も姐サンも絶句しかなかった。子雪はよくわかってねェみたいに俺と姐サンとの間で行ったり来たり走りながら「うぎゃ?」と不思議そうにオッサンを見てる。
仕方ないといえば仕方ない。子雪の方は一体何がおかしいか、まるでわかっちゃいねェからな。
端的に言えば昨日。平子に一護が絡んで、なんだか聞き覚えがあるような無いような名前と一緒にまた一護の誤解を加速するような話が展開した後。梅針のこととか色々悩んでた一護に気遣って、普段とは違う特訓をしようとその気になった朽木が行った「かんたん鬼道教室」だ。
阿散井はそのテのはさらさら苦手なモンだから役に立たず、朽木の独壇場だった。鉄斎サンがしゃしゃり出てこねェあたりに向こうの微妙な思惑を感じるというか、正体を隠してるのを徹底してンなぁとか思ったりして見てたモンだが。
『詠唱は頭に叩き込んだな? では
『あの兎みてェのにか……? まんまお前の描いてる奴じゃねェか、やり辛ぇ…………』
『たわけ、とっとと構えぬかっ! 詠唱はせずに撃つのだぞ! 絶対だぞ!
――――縛道の一「塞」』
『ば、縛道の一「塞」』
そして一護の放ったソイツ一発で、朽木が作った普段のらくがきみてェなイラストっぽい氷人形は、一護の霊圧で「腰のあたりから」圧殺。粉砕、ぶっ壊れて、軽い月牙天衝の跡みてェな惨状が出来上がった。
阿散井のヤツも「何、だ?」と困惑して呆然としていやがったが、そりゃ当然だ。ありゃ縛道の威力じゃねェ普通に二桁後半の番号の鬼道クラスときていた。そんな威力を平然とぶっ放した一護本人はといえば、それはそれで困惑必須。なんなら威力がデカすぎて月牙を使えなかったコンディションの前の時に戻りかけ、目出度くこっちは大雨洪水警報だ。子雪が生まれてからは初めての水没で、姐サンは無警戒にゴポゴポ不満そうな顔するし、オッサンはオッサンで無言のまま水泳。俺は俺で子雪がテンション高めに頭に齧りついて来やがったりと、まァあれはあれで散々な目にあった。
斬魄刀はともかく、鬼道で一護の霊圧の制御ができねェ……、本来なら俺とオッサンがいる以上はそんなこと有りえねェんだが、そういう現象が起こっちまったのが現実だ。当然のごとく原因追及のため、昨日から何度か一護の霊圧の内部、つまり「俺の影」に潜り込みを何度かして調査していたオッサンだ。
その一言が「お手上げ宣言」と来てるモンだから、始末に負えねェ。
『一体何があったってンだ……?』
『簡単に言えば、母数の違いだ』
『母数? …………あっ成程。となると言い方は悪ィが、よっぽど訓練しねェと無理だな』
『嗚呼』
『どういうことです? あなた、それにご老体の方』『ぎゃう?』
どうでもいいが姐サン、オッサンのこと「ご年配の方」とかから「ご老体の方」に呼び方格下げしてンな……。一護のために目の前で殺すこともやむなしってしたあたりが好感度に響いてンのだろうか。
まあ、とりあえず二人にも分かり易いように説明するには、何か絵でも描けりゃ良いンだが…………、そういや姐サン持ってたな、スケッチブックとペン。
『えっ? あ、はい。どうぞ』
そして頼んだら、特に何の問題もなくすっと出してくれた。……オッサンに背中向けて俺に正面向けながら、思いっきり着物の胸元ガバッと開いてくるのは一体どういう心境からなんだよオイオイ…………。いや、流石に
とりあえず目ェ逸らしながら受け取るが、姐サン本人は「フフフ」と笑っていやがるし、あー、だからコイツはさァ……。
まぁ良いか。姐サンが着付け直したのを口頭で確認してから、俺はスケッチブックを開いて適当にタライみてェなのを描く。一つは手のひらサイズ。もう一つはスケッチブックの残り面積いっぱいくらい。
『こっちが朽木で、こっちのデケェ方が一護だ。内在してる霊力「本来の」総量で言ったらもっと全然差があるが、ぱっと見ならこのくらいだろ』
『……あの、えっと、十倍とかで効かないくらいの差があるのですが?』
まァ朽木の方は、立体物だったら指先で摘まめるくらいだし、一護の方は両手で抱えるくらいになってるから、見た目で言えばそんなモンだ。
『で、この場合「鬼道」使用するのに使う霊力が、せいぜい、朽木で言えば小指の先くらい、だとしよう。一護の方も「同じ威力で」鬼道を放つためにゃ、込める霊力も変わらねェ。
だが「本能で」対応できる範囲を超えてる場合、ニンゲンっていうのは自分の認識でそいつを調整してやんなきゃならねェ。そうすると、当然経験者の言う通りの感覚でやることになる訳だが…………』
全体のキャパシティが馬鹿みてェにデケェ一護からすりゃ、朽木よりも一回にすくえる霊圧の量が「圧倒的に多い」。絵で表現するなら、手水舎の柄杓みてェなものを描くことになるか。当然、朽木のそれより一護のそれが馬鹿みたいにデケェ。そして当然、見る側はどちらも「自分の柄杓を基準として」考える。
『この柄杓で小指一つ分とか考えたとしても、朽木よりも膨大な量を一護はすくっちまう』
『とするなら……、えっと、鬼道を「規模の調整」などせず、そのまま同一の方法で使おうとした場合、田畑で言えば同じ用水路に流れる水の量は「持ち主の霊圧に応じて」変わるということですか』
朽木が丁度良い量を流すのだとしても、一護がそれをそのまま聞いたようにやれば用水路は水が溢れる。決壊し、必要以上の水が流れて台無しになる。
つまり、失敗するって訳だ。
『不発にならずに粉砕しちまう辺りが一護らしいっちゃらしいがなァ』
『…………詳しくは知りませんけど、今の時点であなた達で抑えているのですよね? えっ? どういうことです?』
『まァ…………、「認識できねェ」っつーのは、幸せなことだって話だな』
言い方は悪いが、正しく鍛えりゃ
そしてそんな話をしてると、表の方で虚の霊圧を感じて駆けだす一護の背後で、井上織姫の妙に決心したような声が聞こえてきて、何事かと俺たちは地面に映る一護の視界を見るのだった。
……いや少しは脚を止めろよ、将来の嫁(?)が何か色々良い感じのこと言ってる時になぁ。
※ ※ ※
「遅れた原因の手続きっていうのは、色々通行証だったり外泊期間申請だったり、臨時での部隊編成での細かい作業とか、後は『霊力の調整』だとか、色々あんのよ。特に隊長、副隊長の出撃ともなれば、無断外泊って訳にもいかないし、仕事に穴もあけられないでしょ? 十一番隊は『四席』とか特殊だからともかくだけど。
でもあの阿散井ってば、誰かに会いたいーって言っていの一番に順番無視して申請して出て行っちゃったものだから、お陰でウチの隊長が『監督不行き届き』ってことでお説教されたり怒られたりしちゃったのよ」
「スミマセン……」
「順番は守らねェとな……」
「む……」
謎の圧力に屈した恋次と、同様に何故か逆らいきれない一護。ついでにチャドが微妙な冷汗をかいているが、それも当然と言えば当然か。
下校途中、一団は異様に目立っている。当然と言えば当然であり、スタイル抜群の年齢詐称(極端では無い意味で)疑惑のある乱菊を始め、変な眉毛に髪型にゴーグルな恋次やらどう見ても一番特攻な一角やらが、札付き不良とみなされている一護やらチャドやらを加えているので、道中、未だにケンカ目的で絡まれていないのが不思議なレベルである。
なんなら井上織姫やら朽木ルキアやらがいるのもその注目に拍車をかけているのだが、当人たちにその自覚は薄い。
「尸魂界ってこう、ぱーっと明るくて、綺麗な人たちもいっぱいいて、なんか楽しそうってイメージがあるんですけど、どうなんです? 乱菊さん」
「まーそんなものよ、そんなもの」
「い、いえ松本副隊長!? 流石にお遊びがすぎるのではっ!!?」
「あっはは、ごめんごめん朽木。でも瀞霊廷にもそういう店はあるにはあるし。檜佐木の奴も酔い潰れて失敗談いっぱいあるって聞いたことあるし」
「乱菊サン、それ現世風に言えばキャバクラって奴じゃ……」
「ひさぎさん?」
「ひさぎ……、何か聞き覚えのある様な……?」
顔をしかめて何かを思い出そうとしている一護だが、その名前は以前ルキアが取り出した瀞霊廷通信にちらりと載っている。
閑話休題。
「で、遊びに行くとか言って結局どこに行くんですか……」
「とりあえず、特別任務の話のあった駅前の方? あんた達、一度戦ったんだから何か感じるものでもあるんじゃないの? 霊圧の残滓とか、そう言う感じの」
ニコニコと完全に遊ぶモードに見えた松本乱菊だったが、目的自体は意外とまともである。思わず二度見する一護やチャドであったが、恋次や一角たちはそう態度を変えていないので、普段からこんな調子らしい。
「それに、野良の死神っていうのも色々謎な話なのよ。尸魂界でも教わる『魂の循環』の理屈からいって、元死神の魂が現世にその霊子の霊格を転生させるってことは、ないわけでもないでしょうけど、その時点で死神的な色々を持ったままっていうのも珍しいっていうか」
「死神的な色々?」
「そういう死神って普通『周囲の霊子が不足してるから』、斬魄刀を持ってても覚醒させられないー、みたいな話をウチの隊長がしてたし。
まあウチの隊長も隊長で結構特殊だから、あんまりアテになんないんだけどね? あははっ」
(大丈夫かこの人……?)
困惑しっぱなしの一護であるが、恋次が「諦めろ」とボソリと耳元でアドバイス。
なんとなく自分たちに注目が集まってないのを見計らって一団から離れようとしていた一角たちを「ちょっと待ちなさいよ、やちるに言いつけるわよ!」と脅迫(?)でもって無理やり引き留める松本乱菊であるからして、おそらくこの場で彼女に勝てる相手はいないだろう。
ちなみに当然だが、この死神の人口密度が高い空気に石田雨竜が混ざることはない。
と、そうこう色々と話していると。突如ルキアを始めとした、死神たちが持つ通信機のようなそれに連絡が入る。
それとほぼ同時に、駅前の方面に再び無数の「虚の霊圧」――――いや? 出現したそれらが、一瞬で掻き消え、新たに巨大な虚の霊圧が現れる。
「――――ッ、ま、まさかまた梅針かッ!?」
「あっ! 待て一護、貴様コンがいないままでは……、ええい話を聞け!」
「おいルキアッ!」
「ヘッ、ようやくお出ましかよ!」
「リベンジマッチといこうじゃないか、一角」
いの一番に走り出した一護に続いて、そのまま学生姿のまま走り出すルキアや恋次、一角や弓親。そんな彼等の後を追うように織姫たちも走り出そうとしたが。
「あっ、ちょっと二人は待って。そんなに時間はとらせないから」
背中に声をかけ呼び止める乱菊。ぎりぎりで止まり、振り返る織姫とチャド。
表情こそ友好的だが、しかし目はどこか先ほどまでよりも真剣な表情の乱菊である。
「あなた達の能力とかについて、こっちの方に詳細は連絡がきてないんだけど……、霊圧を見た感じ、どう考えても私たちの中で『一番弱点になりうるのは』二人よ。
そりゃ、普通の
「……足手まといになる、ということか?」
「うーん、ちょっと違うっていうか……、何ていうのかしら。どうしても戦闘中って、色々な所に気を配らないといけないじゃない? 守る相手が背中にいるなら、攻撃がそっちに行かないようにとか。
でもあなた達は、自分でちゃんと戦える。だからその分『安心して背中を任せられない』ってなると、これから先は厳しくなってくると思うの」
『お前らんみたいのに話すことはないわ。
ハゲの真子みたいに曖昧なことは言わん。せいぜい黒崎一護の中の虚にぶっ殺される前に、ここで死ね――――』
昨日。平子と話した一護の様子がおかしかったのを見た織姫とチャドが彼の後を追い、そして遭遇した平子の仲間らしい少女からかけられた言葉である。
その際平子が動かなければ、間違いなく自分たち二人は殺されるか何かしていた。その確信があるからこそ、乱菊のいう「力不足」というその一点は、強く二人に響いた。
だが、それでも。
「…………それでも、俺は一護の背中を預かっている。今のところは、それを誰かに譲るつもりはない」
「茶渡君……」
「井上も、井上なりに理由があるんだろう」
「……………私は、」
走り去る一護の方をちらりと見る織姫。
「……それでも、何も知らないまま、大切なヒトがいなくなっちゃうのは、耐えられないから」
「…………そう、そういうことね」
そのどこか悲痛そうな表情を見て、乱菊は困ったように微笑んだ。
「今すぐにどうこうってことじゃないけど、だったら覚悟しなさい? 修行するとか、もっと別な形で関わるとか、選択の幅は色々あると思うから。
でも『後を追いかける』っていうのは、凄い辛いことだもの」
「……乱菊さんも?」
織姫に笑いかける乱菊の声音は、どこか自分に言い聞かせるようなもので。
それを聞いた織姫もまた、彼女の表情に釣られてどこか引きずったままで。
「……フフ、さぁね? じゃ、早い所追いかけましょっか」
それでも務めて明るく微笑んだ乱菊に、少しだけ頭を左右に振ってから「はいっ」と気合を入れた。