霊圧が、重い! 全身を拘束されて、しかも内側から今か今かと爆発寸前みてェな有様で、俺自身がどうにかなっちまいそうだ。高揚感よりも生命の危機を強く感じるってんだから、封印が外れた一護のヤバさが浮き彫りになる。
何だこれ二日酔いとかそんなレベルじゃねェぞ、高熱で魘されながらっ無理やり立ち上がってるようなッ、徹夜明けで平衡感覚ぶっ壊れてるような、ンな感覚じゃねェかッ!? 一護お前よくこんな状態で立ってられるよなァ音とか全部ぐわんぐわん反響して聞こえンぞ! もっとバンバン月牙撃てや一護ッ!
(――――無茶言うなよ!? っていうか、テメェ一体……!)
とりあえず文句を口に出しはしなかったが、思考が全部筒抜けって訳でも無ェみたいだな。思考の変遷、途中経過の分を一護が察知していないのが、今の一護から伝わってくる困惑で理解できる。
まァそりゃ好都合っちゃ好都合だが、逆説的に一護が俺を受け入れていねェってことの証左でもあるから、心中は複雑なモンだ。
まあ、端的に言うと「俺」が表に出た。以上。
振子雪が何かあっちで暴走した結果、少しだけ姐サンの封印に亀裂が入っていたり、そこから物理的に氷が破損したりして、出てきやすい素地が完成したところで、
あっちで姐サンが吹き飛ばされそうなのは振子雪が責任をもって抑え込んでくれてるみてェだが(感覚でわかる)、それはそうとしてまずこの頭痛を抑え込まないと何もかも話になんねェ。
ウルキオラの奴が何か言ってるのに適当に答えちゃいるが、正直自分が何言ってるかわかったもんじゃねェ。完全に理性とかそういうものを、身体の生存本能が殺しにかかってきていやがる。
とりあえず地面に刺さってる斬月
『あァ、少しは頭が軽くなったぜ…………って、いや回復早すぎか!? すぐに霊圧暴れてるじゃねェか!』
(何でテメェがそんな慌ててンだよ……)
『馬鹿か一護お前、よくこんな状態で戦ってられたなって話だぞ!? 気を抜いたら一気に
(なん……、だと!?)
ちなみに一護の意志についちゃ、こっちの方で「抑えに回ってない」から、普通に意思疎通が出来る感じだなオイ。本来なら立場を逆にした上で、これくらいの感覚で俺もオッサンも一護に話しかけられるはずなんだがなァ……、おのれ浦原喜助詐欺師なる者。
オイ俺の身体どうなってンだ!!? という一護の絶叫に頭痛を覚えながら、とりあえず振子雪を見る。よく判らねェが、あの氷輪丸に大層ライバル意識みてェなのを発揮して、一護の精神世界で暴れていやがる。ついでにウルキオラとかの霊圧で虚の力も昂っちまってるし、俺がこうして出て来たっつーのも納得っちゃ納得だ。
ただし気を抜くと、俺も獣みてェに暴れまわりそうになる。これ原作でホワイト出て来てる時の暴れっぷり、一護が見て居られねェからとかもあるが、それ以上に「霊圧を無理やり抜かないと」「こっちがおかしくなっちまう」っつーのもあるな。
全く、手間のかかる兄弟だぜ。
(いやお前、俺の虚なンだろ多分!? 何冷静にヤレヤレみてェにため息ついてんだよ!)
『ったくよォ……、戦犯その1のくせに結果だけ見りゃ多少はマシになってるとか、頭どうかしてンだろ。誰に似たンだお前。後でオシオキな』
(お前も無視かよ!? 斬月のおっさんもそうだけどさーッ!)
いや悪ィが本気で余裕無ェから、ちょっと待て。
とりあえず振子雪を朽木の方に投げて、後方の連中に逃げろって声だけかけて、霊圧を抜くために火輪斬術らしく「霊圧の炎を」「全身から放つ」。斬月の布を捩花振り回すみてェに回転させながら、体内の霊圧が安定するのを待つ。
あ゛~~~~、これ楽だわ。ヒエ〇タ貼った時の比じゃねェくらいに全身から熱が抜けてくわ。ぶっちゃけこの霊圧の炎って炎じゃなくて揺らめいてるだけの霊圧だから、特に何か物理的に問題が出てくる訳でもないし。多少これで霊圧が抜けるってなモンだから、一護には教え込まないとならねェか……? ちょっと悩みどころだな、初代剣八に目を付けられかねない的な意味合いで。
(何だよ、これ)
『やり方は判らなくても「こうすりゃ」良いってのくらいは覚えておけ』
いくぜ、と。一護に手本を見せるみてェに、この身体で瞬歩を使う。
恋次やらルキアやらから斬拳走鬼を教わり始めてる一護だが、今の所上手く行ってるのが拳だけときていやがる。走やら鬼に関しちゃ霊圧の操作が必須だし、今の中途半端な状態じゃ猶更制御が難しいっつーのもあるだろうが、とはいえ「どういう風にやるかを」「身体を使って」教え込めば、少しは方向性くらい見えてくるだろ。
こっちの様子を伺っていたウルキオラの目の前に接近して、「鞭みたいに伸びた斬撃の軌跡」を手繰り寄せる。その先端が三つの円盤みてェになってんのは、まぁ何となくだ。
(
「
ちょっと前に見せちゃいたから、一護としてもそっちを連想すンのは当たり前か。
まァ、元ネタは確かにあっちなんだが、あっちも本当は捩花の
……まァ、
そして霊圧がブーストしたままのこの状態なら、大振りな斬月を使ってても全身超高速機動することが出来る。
斬月を円形になった月牙をウルキオラが弾き飛ばしてる隙間をぬって、一気に腕をブーストさせて斬りかかる。
そして斬月と奴の斬魄刀が接触したのと同時に、斬月の「氷が欠けた穴」と俺の全身から更に霊圧をブーストして。
『――――月牙天衝』
そのまま無理やり押し切る。厳密には「噴き出した垂れ流しの霊子」を「壁」に見立てて、そこに斬月の刃を押し当てることで、その接触箇所から月牙を生成してるっつー理屈になるが……。このあたり微妙に袖白雪の理屈に近いんだか遠いんだかっつー感じで、何とも言えないところだ。これ浦原の奴の調整結果じゃなくて、一護が解放した時点でこういう仕様になっちまってたからなァ…………。
いや、まぁ「地面に這わせなくとも斬撃を飛ばせる」っつーのは、そういうのが本当の使い方だって思い込んでもらった方が後々楽っちゃ楽なんだが。
(本当に…………、迷いが、無ェ)
一護は一護でまた別な動揺していやがるし。アレか? 斬月に恐れは抱かないって決心はしたけど、それでもいざ月牙を放つってなると、周辺被害とかは考慮しないといけないってのは頭ン中から離れないってか。……まあそれもそうか。本来ならそれどころじゃ無ェってことで暴れまくるしか無ェが、幸か不幸か「俺の材料」の問題で、多少なりとも霊圧を無駄に消費することが出来るっつー感じだし。そこは少しくらい、汲んでやる余裕があった。
その分こっちも余裕が出来るから、原作程切羽詰まって殺しにかからなくて済んでるってのはあるな。…………いやでも気を抜いたらあっという間に一護の身体に補填されてくる底の霊圧が全然尽きる気配が無ェし、やっぱり慢心は駄目か。
まァそのまま虚閃を撃とうとするヤミーの背後に回ったりして、腕を月牙で斬り落とす。……いや無理だった。せいぜい傷をつけるくらい。
そうだなこれ、霊圧が無駄に垂れ流しになっちまってるから「威力を収束出来ねェ」。月牙の威力に無駄とムラがあるっつーか、制御できないからこその問題だな。
いくら霊圧を大量に垂れ流せばンなこと関係なくなるとはいえ、さすがに始解のままじゃ限界がある。
そしてこの状態の斬月もどきとはいえど、一護は俺もオッサンも屈服しちゃいねェ。
(何でお前、こんなに戦い慣れて……ッ)
『言っただろ? お前がオギャアと生まれてから、お前以上に俺のことを知る存在なんて居ねェってことをよ』
とりあえずちびっ子隊長の方はともかく、朽木たちは今の霊圧の状態だと全然準備が出来ちゃいねェ。恋次は限定解除も間に合わねェだろうし、そう言う意味じゃ今の一角の方が霊圧的にも強いくらいだ。
さてどうしたモンかねぇ。そろそろ下駄帽子の一人や二人くらい来そうなモンだが……。斬月をまた振り回しながら、とりあえず朽木たちの手前に立って、霊圧をもっと全身から炎にして抜く。
そんな時だ。朽木の奴が、微妙に空気を読まねェことを言ったのは。
「――――――――
(かいえん?)
『何か言ったか、朽木』
愕然とした声で何か言ってくる朽木。……いや、まぁ「違っちゃいない」が「正解でもない」身としちゃ、答える話でもない。その上、俺の心はお前に預けた身だ。
ソイツはもう死んだ奴の名前だ、と。
これは…………、一護にも朽木にも話すようなことじゃねェ。
とりあえず質問は「聞こえなかった」という体で返答しておいて、今度は斬月をしっかりと手に持つ。オッサンの布が俺の腕に巻き付いて、火輪の炎をもっとブーストしても取り落とさないような感じになった。
何も言って無ぇンだが、こういう所は本当、気が利くよな……。
煙が晴れた先、何かを考えるようなウルキオラと、イライラが限界に来たらしいヤミーが抜刀しやがる。
オイオイ、ちょっと待てお前等さぁ……。斬月もどきを見て、どうしたモンかと思案する。この状態だとオッサンの側は「形を形成して抑える」位しか仕事してねェから、やってはいねェが月牙を「描く」ことが出来ないはずだ。
とすると、描ける月牙に制限が大きい。
ンでもってついでにだが、何か一護の身体が慣れちまったのか霊圧の炎で消費しきれねェくらいに一護の体内に霊子と霊圧が補填され始めて来てる。お前、何で指数関数的に右肩上がりで身体パンクさせようとしていやがンだよ!?
アレか、朽木のせいか? いや朽木っつーより朽木の中のモンっつーか。何かしらこっちにバフをもたらす要因でもあるっつーのか!!?
「解放はするなよ」
「ンなことは判ってるっつーのッ。ただ、普通に殴るんじゃァ詰まらねぇ。
死ね、ゴミ屑共ォ!」
『月牙〇字衝』
(!? そ、その使い方――――!?)
斬りかかってくるヤミーは、こっちの動きを見てそれっぽく学習したのか自分の斬魄刀に虚閃を纏わせていやがる。その斬りかかりは直接受けるとなりゃ、流石に周囲への被害甚大だろう。
そう判断して、〇字衝を「横に向けて」、盾みてェにして前方に飛ばした。
迫ってくる無数の円形の盾みてェな霊圧。思わず困惑したヤミーは斬魄刀を振り下ろして――――。
「――――――――どうも、遅くなっちゃったみたいッスねぇ」
「…………」
『ッ!?』
瞬間、いつの間にか俺の横に移動してきてこっちの首を斬ろうとしてたウルキオラから、浦原の奴が庇うように紅姫で、その一刀を受けていた。
※ ※ ※
(梅針の回収に、また来るって…………?)
『こいつは悠長にしちゃいられねェな。どうするよ一護』
黒崎一護は、声にならない声で思考する。
その思考に、自らの肉体を乗っ取っている虚は、嬉々として揶揄うように笑った。
先日、精神世界で戦った時も理解していたが、自らの内に潜むこの虚の戦闘力は、平子が指摘したように「全てを壊しかねないほどに」強い。自分自身が扱いきれないほどの霊圧や能力すら、文句を言いながらも簡単に制御して敵を斬り殺しにかかる。
今はおそらく、あの破面たちがいたからこそ味方面をして協力しているのだろうが。こんな虚が、何ら制御もなく暴れまわりでもすれば――――――――。
――――甘いで、お前等。そう幸せに思ってられるんは今の内だけや。
――――このまま日々過ごすだけでも、徐々に徐々にお前の力は高まり『境界が薄くなり』、必ず暴走して梅針みたいになる。
平子真子の台詞が、頭の中で繰り返される。
その言葉は、おそらく自らに迫っている一つの終局。
さらに言えば、それが訪れるまで思ったほど猶予はないのかもしれないと、一護の内心は荒れていた。
(どうしたら良い、このままじゃ俺は…………)
『まずこのアホみたいな霊圧でぶっ壊れない身体作るところからだなァ。……本当は
(……いや、何がなァだ? つーか、何でそんな馴れ馴れしいんだテメェ)
そしてそんな一護の焦燥が混乱するように、自身の虚は腕を組んで適当に肩をすくめていた。
形成されかかった仮面を「ずらした」自らの身体は、浦原や夜一たちが状況を治めたのを見守る。全身から噴き出している霊圧は相変わらず、しかしそれでも斬月を地面に突き刺し、それに寄りかかるようになっている虚の姿は、自らの身体とはいえどうにも妙な感覚だった。
ウルキオラとヤミーは、撤退した。それこそ一護の虚ことホワイトが精神世界にいれば「まぁ概ね原作通りっつーか、なァ」とでも言っていそうなところだが、結果として一時撤退と言う形でウルキオラたちは現世を後にした。
目的は梅針の回収。故に、いずれまた襲撃に来るだろうことが察せられる。
おそらく梅針と何かしらの決着をつけるまで、猶予は残されていない。
そのことが未だ身体の自由を取り戻せていない一護の焦燥感を煽っていた。
「さて、と。――――縛道の六十一『
『おォ?』
(えっ!?)
ウルキオラ達が去った
詠唱破棄ゆえに、瞬間的に一護は霊圧の花弁のような刃に刺し貫かれ、拘束される。
「夜一サン!」
「まさかここ最近になって、こうも使用頻度が上がるとはのぉ。
…………賜れ、
髪留めの中からヘンな形をした待針のようなものを取り出すと、解号を唱える四楓院夜一。ちなみに猫ではなく人間の姿で、今回は忍装束のようなタイツ姿である。
巨大な簪のように変化した斬魄刀を持ちながら、夜一は瞬歩で一護の周囲を駆けまわり。いつの間にやら一護の全身が、浦原の鬼道の上から再度拘束されていた。地面から伸びた布のようなものが巻き付き、斬月ごとまとめて縛り上げている。
『いきなりご挨拶じゃねェか。
(
「ッ!? 喜助、こやつもしや…………!」
「『覚えている』とすると、かなり拙いかもしれませんね。……朽木サン!」
(何が、何なんだよこれ……!?)
『どうせ死にはしねェから、お前は気楽にしとけよ』
混乱する一護に適当に嗤う虚の人格。そして、朽木ルキアが詠唱をしながら走る。
そしてそれは、今までルキアが使ってきたどの鬼道にも該当しないタイプの内容だった。
「黒白の網、二十二の橋梁、六十六の冠帯。
足跡・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列……」
『あっ』
(何だテメェ、その何か面倒くせェもんでも見たみてェなリアクション……?)
「大円に満ちて天を挺れ! 縛道の七十七『
そして
「――――――――
『おォ、こうなンのか』
(れ、霊圧が……?)
一護の全身から噴き出していた霊圧、それに負けじと補填されていた霊圧が一気に収まり、同時に斬月の穴の欠けた氷が一気に埋まる。文字通り栓でもするかのように止まった霊圧に伴い、一護のずらされた仮面も徐々にボロボロと崩れ落ち…………。
「お、収まった………? ッ!?」
「一護!」
解除された夜一と浦原の拘束。それと同時に力を失ったかのように倒れ込む一護を、ルキアは正面から抱き留めた。
一気に気絶でもしたような一護の、その眉間に刻まれた皺に、どこか沈痛な顔をするルキア。
「やれやれじゃな。上手く作用しておるではないか」
「ふぅ、とりあえずこれで一安心ッスね。
それはそうとして…………、あー、いなくなっちゃいましたね、仮面の死神」
周囲を見回す浦原の言葉通り、既にジャージ姿の男は姿を消している。日番谷は座り込んだまま、腕を組んで浦原の方を睨む。先ほどの戦闘、後半「あえて」参加しなかった彼ではあるが、何やらその視線には「多少は事情を聞いた」と言わんばかりの気配が漂っている。
ややバツが悪そうに視線を逸らした浦原は、一護を寝かしつけてその顔を覗き込む、暗い表情のルキアへと移り。
「…………いい加減、話してもらうぜ。ルキア」
「……嗚呼」
拳を握り、何かの理不尽に立ち向かう様な悲壮感を浮かべた恋次へ、朽木ルキアもまた何かの決意を固めたような声を発した。