メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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多分後1、2話くらいで梅針パート決着
 
シリアス目な部分が続いたで若干ギャグ強めなのと、今回ちょっと短めだったので簡単なおまけパート入ります。


#039.悲しみを踏み越えて

 

 

 

 

 

『――――アカンわ、一護のヤツ。いや一護の虚か? 梅針目掛けて隙に虚閃お見舞いしたんに、防ぎよってからに自分。

 何がしたいねん、アイツ』

 

「平子くん!?」「!」「テメェは……!?」

「…………」

 

 仮面が形成されかけている一護。その一護の猛攻を受けきっている梅針。両者の剣戟の合間をぬって、遠方より虚閃を打ち込んだ平子真子であるが、仮面をつけた一護の放つ円形の月牙が、文字通り梅針の盾のような役割を果たし、かと思えばそのまま梅針へと襲い掛かる。

 ちらりと平子の方を見た、おそらく乗っ取られているであろう一護は。黒く染まった目で平子を一瞥すると、ため息をついて背を向け、戦闘に戻る。

 空中で繰り広げられる梅針と一護。共に何かしら虚の力を引き出して戦っている二人のそれは、しかし虚のそれだとは思えない程理性的で、戦略めいていた。

 

 仮面を外し砕きながら、平子はルキアたちの隣に着陸。斬魄刀を納刀し、一護の様子を伺っていた。

 と、そんな平子に浦原は軽い調子で声をかける。

 

「どーもー、平子サン。何かご機嫌悪そうッスけど――――」

「誰のせい思っとるんや自分!? こっち来て十数年分絶対えらい隠し事あるやろ!!? 奥歯ガタガタ言わすぞこんの下駄帽子ッ!!?」

「おぉ怖い怖い……、そうやってカツアゲするみたいにしないでくださいよぉ、アタシと平子サンの仲じゃないッスか」

「これは中立の範囲やし全然ちゃうって情報共有せんくせどんな面の皮の厚さしとんねんっ!!?」

 

 浦原の胸倉をつかみ上げる平子だが、浦原は全く応えた様子もない。足元で猫の夜一が「いいぞ、もっとやれ」などと煽る煽る。

 知古か貴様ら、というルキアの確認に、嫌そうな顔をする平子と「まぁそれなりに」と帽子を直しながら返答する浦原。どちらも反応は軽く、それだけに距離の近さを感じさせる。

 

「何や喜助、ルッキャちゃんたちどころか全然話しとらんのか?」

「混乱させるのもどうかと思いまして。主にあっち(ヽヽヽ)の関係で」

「そらそうやけど……、まぁええわ。

 それで? アレは一体どういうことや喜助――――何で大虚(メノス)以上の虚が一護に混じっとるんや。お前何か知っとるやろ。どう考えても普通の虚なら、隊長格クラスの卍解に太刀打ちできる虚のランクやない」

 

 平子の一言に、その場は一瞬凍り付く。その中でもルキアは特に苦悶の表情を浮かべ、胸元で拳を握る。

 浦原は一護たちを見上げながら珍しく真面目な表情で。

 

「仮説はあります。アタシは、その仮説に従って動いていますが、確たることが言えない以上、不確かな情報は徒に誤解をまねくことになりかねない。

 特に……」

 

 アタシも最近、結論を決めかねている事柄はね、と。

 浦原の見つめる先の空中で、さらに霊圧を跳ね上げた梅針が、一護から一気に霊圧を吸い上げる――――。

 

 

 

「――――氷天十架葬(ひょうてんじゅうかそう)ッ!」

 

 

 

「ッ、あれは……!?」

「日番谷隊長っ!」

 

 そして、そんな一護たちの戦いに割って入るのは、卍解した日番谷冬獅郎。十字に霊圧の斬撃を放つと、その霊圧が一気に大量の水へと変化し雪崩のように梅針へと堕ちる。一護はといえば、黒い霊圧の炎でブーストされたまま超高速で後退。そのまま十字の氷柱へと閉じ込められるのを回避する。

 もっとも梅針とて拘束されるのは一瞬。すぐさま純粋に大量の霊圧を全身から放出し、自らを覆う氷を打ち砕いた。

 

「ゲッヘッヘ……、何だよ。表も()も今良い所だってのに。決闘に割って入るくらい、今の護廷十三隊には余裕が無ぇのか?」

『そんだけ一護から吸い上げた霊圧の量がヤベェんだろ。下の朽木とかも大分ビビッてるみてェだからな。相変わらずすーぐ絶望しやがるぜ昔よりはマシだけど』

 

 肩をすくめる仮面の一護。そのやりとりは吹き荒れる高密度の霊圧と単純な距離で聞こえないのだが、何故だか瞬間的にカチンときたルキア。「ど、どうした?」と動揺する恋次に「何でもない」と言いながらも、半眼のまま一護たちを見上げる。

 

「――――真子、サボってねェで手伝え!」

「お、羅武(ラブ)が一番乗りかいッ。せやかてなぁ…………、多分妨害されんで。多少人数集まってから作戦立てんと……」

「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ、あの昂り続ける霊圧……! あれじゃこの街くらいは簡単に吹き飛ぶだろ!」

 

「えっ!」

「それは……拙いな」

 

 井上織姫が驚愕に目を見開けば、チャドも右腕を変化させ、自分も何か協力できることはないか探す姿勢になる。

 ルキアたちは浦原と仮面の死神たちへ警戒しながらも、しかし夜一の一言が各勢力にそういう問題ではないと知らしめた。

 

「霊圧を外に放出するのならば、その懸念もわかるが…………。何故あの男、吹き荒れる霊圧をどんどん体内に集中しておるんじゃ。

 あれでは攻撃に転ずるよりも先に、自分の身体の霊子結合がバラバラに砕け散るぞ」

 

 手の込んだ自殺ではないか、という言葉に、ルキアたちははっとする。

 すくなくともあの男は、元護廷十三隊。例え何百年前の死神だろうと、そういった知識が存在しない訳はない。

 だとするなら、その上であえて霊圧を集中しているのだとすれば――――。

 

「……っ、皆サン、アタシの背後に。

 ()け紅姫・“血霞の盾”――――――――」

 

 

 

「――――松竹梅大嵐(しょうちくばいのおおあらし)

 

 

 

 瞬間、浦原が平子らの前に立ち、杖から仕込み刀のようなものを引き抜いたと同時。周囲が赤い閃光に包まれたかと思えば、暴力的な霊圧に乗り大量の刃がうずまき、この場一帯を襲った。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 ――――――――――そんな死に方があるかよ!!!!

 

 一護の絶叫に、内在世界での梅針か梅針鞭かは、苦笑いを浮かべる他なかった。

 

『じゃあ、どうするってんだ? 今まだ、俺の意識が勝ってるから色々出来るが、そのうち俺に潜んでる虚が俺を乗っ取ったら、それこそどうしようも無ぇ」

「けどよ……ッ」

『ガキみてェに泣いてんじゃねェよ。ンでもって、時間も無ぇんだ』

 

 俺が俺として出来ることは限られていると、梅針は言う。

 

『一護、お前から吸い上げた霊圧を使って自殺できねェかやっちゃみるが……、失敗したら間違いなく、そう時間もかからずに俺の内側に潜んでる奴が、飛び出しちまう』

「…………」

『そうなったら、もう俺の手でできることはもう無ェ。あとは寄生虫みてェに虚に食い荒らされて、それでオシマイだ。

 頼む。今回しか、お前くらい膨大な霊力を使ってしか出来ねェんだ。……俺を、死神のまま、斬魄刀のまま死なせてくれ』

「……………………ッ」

 

 あばよ、と。どこか寂し気な声と共に、一護は梅針に殴り飛ばされ、いつの間にやら自らの肉体へ。

 

 虚の自分は、肉体を乗っ取っている自分は、梅針のいる上空を見上げている。先ほどの嵐により、身体に刃が刺さり地面へと叩きつけられたのだろう。視界の端に、あの子供のような隊長やらの姿も見えるが、そちらも同様にあの大嵐の被害を受けたのだ。

 吹き荒れる霊圧と、そこに乗る大量の刃。それらがバリケードのようになり、梅針へと近寄れない。

 

 そして、それらがあるタイミングで回転を止めて、一気にその中心にいる梅針本人をくし刺しにするように、一斉に中心へ射出された。

 

(梅、針……)

 

 

 

「ゲッヘッヘ…………、これでも、駄目か」

 

 

 

 傷ついた梅針は、四肢や胴体すらボロボロになっている梅針は、次の瞬間には「体内から」霊圧が吹き荒れ爆裂し。しかしそれでも、梅針自身を殺しきるには至らず。

 抜けた刃の箇所から、猛烈な速度で肉体が再生し、何ら今までと変わりない姿となった。

 

「ゲッヘッヘ…………、ゲッハッハ……、ゲァーッハッハッハッハ――――――――!」

 

 大笑いしている梅針に、周囲の死神たちは困惑している。何をやりたいのかさっぱりわからず、しかしそれでも笑い続ける梅針に。

 だが一護だけは、その意味を正しく理解している。

 

(泣いてるんだ、アイツは今…………)

 

 涙などとうに涸れはてた。故にその感情の行き先は、もはやそれしかないのだろう。 

 そして超速再生がはしったということは、その身がさらに虚へと近づいているという証であり……。

 

 その意味を正しく理解できているのは、その嘆きを正しく理解できているのは、おそらく、自分だけだ。

 多くの者が困惑と、戦意と敵意に満ちてあの男を見ている中で、死神としての自らと斬魄刀としての自らの死を覚悟し、尊厳としてのそれらだけでも守らんと戦っているあの二人(ヽヽ)を理解しているのは。

 

 ならば、自分が為すべきは……、自分にしか出来ないことは…………。

 

『無茶苦茶やりやがるぜ。だが……、って、お?』

 

 腹や腕から多少は刃を引き抜き立ち上がる、虚の一護。

 その仮面を、斬月を握っていない左手が、いまだに完全形成されていない右側の素顔の部分へと延び、指をかける。

 

 そのまま仮面を引きはがそうとする左手に、虚の一護は目を細めた。

 

『いいのかよ、俺にまかせねェで。今のテメェの実力じゃ、下駄でも履いたところであの梅針鞭にゃ太刀打ちできねェぞ』

(…………それでも、俺が……)

 

 特に抵抗する素振りはない。虚の一護のその挙措に、むしろ一護の方が躊躇してしまう。

 この虚がどのような思惑で自分に手を貸しているのかは定かではない。今までの虚の経験則と、あの悪党みてェな面構えからして、おおよそ碌でもないことを考えているのだろうというのは思うが。

 そうであっても、虚の一言は魅力的で。

 しかし、だからこそそれを断ち切らなければならない。

 

(それでも、俺がやらないといけねェんだって―――――)

 

 自らの霊圧でギリギリまで霊的な身体が限界を来している梅針。

 それを…………、もはや介錯できるのは、それ以上の霊圧を内包している自分しかいないのだと。

 心情的にも、役割的にも、ほかならぬ黒崎一護が――――。

 

(――――そう、決めたんだ)

 

 言葉には躊躇と、恐怖と。しかし、それでもなお踏み越え前進するだけの勇気が燈っている。

 

 そんな一護に、虚の一護は「はァ」とため息をついて肩をすくめた。

 

『……俺がテメェの内側に戻った後、火輪を維持できる時間は大体1分くれェなところだ』

(火輪……、この炎みてェなモンのことか?)

『流石にそれ以上は姐サンも子雪も限界だろうし。……いや、それはそうと戻りたくねェな、絶対水没してンだろ。つーか水没状態で()出来てる状態とかダブルはやったことねェからなぁ』

(何訳わかんねェこと言ってんだよ、テメェ……。つーか洪水? 逃げりゃ良いじゃねェか)

『おー、何か文句あんのか? 事情もロクに知らねェくせに。

 だったらこっちにも考えがあンぞ。具体的には井上相手にガキンチョの頃の初恋がたつきの奴だって話とかのエピソードガンガンブッ込んでやるとか――――』

(ななななな、何考えてンだテメェ!!? というか違ェ! 絶対、そんなモン物心つく以前の話じゃねェか馬鹿ッ! というか何で知ってんだッ!)

 

 そりゃ兄弟(ヽヽ)お前のことは大体知ってるからなァ、と虚の一護。ニヤニヤとしながら、そのまま周囲に声が聞こえないのを良いことに一護を揶揄い始める。

 

『他にもネタは腐るほど出揃ってンぜ?

 例えば……、授業中とか体育の時とかしょっちゅう井上の顔とか胸とか太ももとか尻に視線が吸い寄せられちまってることとか、中学ン時にたつきと本気で取っ組み合いした時に結構エロいことになって気まずい時期があったこととか、家の連中に内緒で朽木の奴を深夜に風呂入れてる見張りしてる時、一回だけ扉微妙に締め忘れてた朽木のせいで思いっきりアイツの上から下まで全部バッチリ表も裏もまるっと目撃しちまったこと内緒にしてることとか。

 朽木といえば、割とミニスカで飛び蹴りされてる時に中身丸見えなのを指摘したけど全然意識してないっつーことでそのまま未だにスパッツ履いてねェのとかアイツ。いくら何でも阿散井可哀想すぎンだろ―――――』

(テメェちょっとは黙れッ!? いつか絶対ぶん殴るンぞッ!!! 大体井上とか全然見てねェし! ちょっとだけだしッ! ンな色仕掛けみてェなのに屈する男じゃねェぞ俺はッ!!!!)

『おーおー挙げた中で嫌われたくねェのが井上だけか…………、ハッ』

(殺す……ッ!!?)

 

 意味も解らずまくし立てられる虚の言葉に困惑すること必至な一護であるが、何分この虚が自分の色々と問題のある部分まで知られているらしいことに、謎の恐怖が走る。おおよそ少年漫画主人公にあるまじき顔を(精神的に)しながら飛び掛かりかねない一護である。

 もっともそれ以上自分を揶揄うことをせず、ケケケと不気味に笑いながら虚の自分は目を閉じて。

 

『話戻すが、1分だ。1分だけは下駄履かせてやるから……、絶対に決着つけろよ――――』

「――――上、等ッ!」

 

 怒りに任せて仮面を剥がして砕いた一護。

 目には謎の殺気と疲れが浮かんでいるが、その目からは黒が抜け落ち。

 

 全身から放たれていた霊圧の炎もまた、その色を黒から白へと変質した。

 

 

 

 

 


【おまけ・死神図鑑サムタイム】

・今日のメゾン・ド・チャンイチ:パート37

 

ホ『……姐サンに俺らとの繋がり封印させて霊圧の出力に弁つけたの、あの下駄帽子だよなァ? 何であんなポンコツマシンで無理やり霊力ひねり出させようとしてンだアイツ……、姐サンの苦労が水の泡じゃねェかよ、ちょっと虚の霊圧出かかってンぞ』

■『おそらく、自らの認識こそがこの世の絶対的真実であるという強い傲慢さがあるのだろう、浦原喜助には』

白『というよりも、あの、お二方? あの梅針鞭がどこから出て来たのかわかりませんか?

 霊圧の出現予兆を全く感じ取れなかったのですが……。黒腔を開いた形跡もありませんし』

子『ぎゃーぶ、ぎゃん! あかねしずく!』

ホ『おいやめろッ! つーか何で知ってるテメェ!?』

子『ぎゃう?』

■『そんなことよりも見ろ、ホワイト。お前の使った技だ』

ホ『あー、アレか……。いや、まァ盾みてェな使い方がメインじゃねェっつーか……』

白『それでも撃つことに意味があるのなら、それで良いではないですか、あなた。…………梅針鞭には虚閃だとバレてますけど』

ホ『まァそりゃな』

■『弓矢の矢でもあるのだがな……』

子『ドラゴンブレス!』

白『ことごとくすべてが死神からかけ離れた技の名前ですが…………』

ホ『ツッコミ入れるにはまだ早ェぜ姐サン』

 

 

 

・今日のメゾン・ド・チャンイチ:パート38

 

白『あの! 我が夫が表に出てる中で言いたくはないのですけど! 吸い上げられているの、どうにかならないのですかご老体の方!』

■『ただ死にたいというだけであるならば、そのような遠回りな自殺に斬魄刀が協力することは、余程のことでなければ起こり得ない。それでも協力しているのだとするならば――――』

白『話を! 聞いて! ない!』

子『ぎゃうううう、マイペース……!』

白『踏ん張ってください子雪、今は私とあの方とルキアの愛……、愛? ま、まぁ気遣っていただいているので愛で良いでしょう、愛の結晶であるあなただけが頼りです……! 飛ばされないように踏ん張ってください……!』

子『でもルキアを含めると、あたしって一護とルキアの子供みたいなことになっちゃうけど良いの?』

白『え…………? って、いえあの、いきなり素でしゃべるのを止めなさい思わず手が緩んだじゃありませんかッ! とーばーさーれーまーすー!』

子『ぎゃあああああ、ぶん! ………うぎゃッ!? 大洪水!』

白『ぶぶ…………っ! ちょッ!? 最初は呼吸ができないのですけど!』

子『ぎゃー! たのしい! たのしい! せんたっき!』

白『こら子雪、流れに逆らいなさいッ! 私とあなたは、あのご老体の方やあなたの父と違って、この世界から弾きだされかねないのでゅぶぶぶぶぶぶぶ――――――』

子『ぎゃーぶぶぶぶくぶくぶくぶく――――――――』

 

 

 

 

 

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