斬魄刀の人格モノ小説(斬月以外も)増えろ……、もっと増えろ……
俺が死神だったころの記憶……って言っても、まぁたぶん「俺」の記憶だろうってやつの話になるんだが。俺の自己認識が既にぐちゃぐちゃになってるってのは回想しているが、その中にある斬魄刀との対話の記憶は、なんていうか本当に面白味もなかった。
俺の斬魄刀だった「 」はそりゃもう俺みてーに面倒臭がり屋で自分の好きな事ばっかり熱中するような、金さえあればいつまでたっても遊び惚けてそうなそんな放蕩
ひとえに、俺が死なないようにってことだ。
『大体お前よ、本当ならもう具象化できんだろ、こっちに来れるって自分で言ってたじゃねーか!』
『あーダメダメ面倒すぎます。それに大体、ちゃんと私を使いこなせているでしょう? 今なら問題ないでしょう、わざわざ卍解覚えなくても――――』
『んなこと言ったってなぁ、
『問題などありませんよ、たかが親戚の階位くらい。…………余計な力を持ちすぎると、いらぬことに巻き込まれかねませんし』
その言葉の意味を、刃禅していた俺は正しく理解できず。だからおそらく、俺は「 」が言った通り妙なことに巻き込まれて今の状況に至ってしまっているんだろうが。
「…………、誰だ? 変な音は聞こえるが、姿が、何も、視えねぇ」
『オイオイオイ、こいつぁどうなってるんスかねぇ雪の姐さんン? ちゃんと一護こっちに呼べるって話だったんじゃねーッスかねぇ?』
『わ、私だってこんな経験は初めてで、やり方はともかく勝手が…………って、大体私をこちらに巻き込んだ貴方が言いますかっ!』
『おぅオッサンも何か言ってやれよ、あれだけ自信マンマンに「同調程度はお手の物ですもの」とか言ってた姐さんによぉ?』
『………………』
『ご、ご年配様?』
『あー、駄目だこりゃ。生で一護の姿を見れて感無量って感じだな』
井上織姫の兄貴を送った後、その日の深夜。日中の疲れが強く出ている今であるなら、一護自身の霊絡が不安定になるため、こちら側の霊絡と「繋ぎやすい」と言ったことから、姐さん指示のもと、俺とオッサンとで一護自身の「意識の」霊絡を探してきた。
それに対して姐さんは、自らの化身である真っ白な斬魄刀をそいつに突き刺し、俺達と一護の霊絡を無理やりつなぎ合わせ凍らせ――――。
で、結果がご覧の有様。一護自身は「この世界」に来てはいる。来てはいるが、そこに自らの「意識」が付いて行ってねぇ。つまり同調できてねぇ。
結果、この世界のことも朧げにしか見えておらず、俺とオッサンはおろか姐さん本人の姿まで視認できてねぇ。完全にヘンな夢見てるって感じになっちまってるじゃねぇか。
『…………本来、私と貴方たちとの関係が不可思議であったこともあり、今回の同調は私を主軸のものとするつもりでした』
『お?』
『ここに居る私は「この世界の」主ではありません。故にそれに認められていない私では、霊の在るところの繋がりを結い留めるくらいしかできません。ですが逆に、それさえ出来たのならば何とかなるだろうと考えていました』
『悪ぃ、もうちょっとわかりやすく説明してくんね? 頭、そんなフワッフワした霊子理論に汚染されちゃいねぇんだ』
死神時代からこんな感じだったので、鬼道の成績が「優」だったのは割と威力一辺倒だったところがある。
『………………つまり、こういうことですね!』
出たよ。言いながら、姐サンはどこからともなくスケッチブックを取り出し……っておぉ、一護そのスケッチブックと描かれてる絵は見えんのか。飛び退いてツッコミ入れてやがる。
「うぇッ!? 嘘、だろ? 夢ん中まで出てくンのかこのウサギさんみてぇなやつ!」
『まず始めに、貴方たちの魂魄がこの黒崎一護の内にあるといっても、お互いの霊力がつながりを得ている訳ではありません。もともと斬魄刀と死神との関係は1つと1つ。お互いの魂魄をより合わせることによって、はじめてペアリングが出来るものです。
いくら初めからこの蜜柑色した頭の少年と共にいたのだと言えど、それは『共にあった』だけで『共に認め合った』訳ではないのです』
兎さんと熊……、熊か? なんかタヌキみたいな柄描いてあんぞ、少しくらいキャラ安定させろや。そんなものを説明ごとに円で囲いながら、スケッチブックを叩いている。
「な、なんかバシバシ言ってンぞッ! 大丈夫かコレ!!?」
『とはいえど、精神世界、心象風景にはその持ち主自身の霊力のつながりがどこかしらに必ず存在します。刃禅はこれを低い階層に落とし、斬魄刀、つまり我々のそれに繋ぎやすくする行為を言います』
『おぉー』
『…………』
オッサンは聞いていない。ずっと空を見上げている。
『だからこそ、その不安定な霊圧を! 私こと「袖白雪」のこの「精神的な氷結」で固定することで、安定させることが出来る訳ですね! 褒めても良いですよ!』
『おぉー! スゲーな姐さん! 精神的な氷結とかよくわかんねぇけどスゲー!』
『そうですとも、もっと褒めなさいもっと!』
『その氷のところに描かれた謎の生命体さえなければもっとわかりやすい』
『褒めなさいと言ってるでしょうがーッ!』
最近馴染んできたのか姐さんのノリが本当に朽木ルキア化しつつあって、揶揄っててちょっと楽しい感じだ。ちなみにオッサンはこの間ずっと上を向いていたんだが、俺が着物の裾を気にしていない姐さんの妙に細っこい脚にグリグリ蹴飛ばされてるのを見て、ようやく口を開いた。
『…………ならば、何故その一護の魂と我らの魂が同調できないのだ』
『……こればかりは私も推測となりますが、ご年配様。二つほど理由があるかと思います』
『す、少し、足、どけた方が、いいんじゃ、ねぇかな、姐さん、俺の頭グリグリやってると、脚の根本、中身がモロ見―――』
『「
『ギャー! 目が凍るぅううッ!』
「な、何かガヤガヤして…………、って、何だこれ、刃の、禅? ヘッタクソな字だなぁ、丸まっちぃ」
閑話休題。
少し顔を赤らめながら正座する姐さんと、精神体だからすぐ回復したものの正座させられてる俺をオッサンが見下ろす構図となった。
『遊びすぎだ』
『はい……』『わ、私のせいでは……』
『さて、理由を答えてはもらえぬだろうか。客人よ』
今度はスケッチブックを交えず(姐さんもどうやら楽しくなっちまうらしいな)、姐さんは指を二つ立てた。そこから説明ごとに、一つずつ折っていく。
一つは、死神の能力を委譲する今のやり方の都合。現在の俺達が「斬魄刀として」どういう状態にあるか、というのが一つの問題かもしれないらしい。そもそも現在の一護の斬魄刀は、解放前の「袖白雪」をガワとして、その内に俺、鞘の方にオッサンが回っている状態になっている。本来オッサンと俺とが一つであるところに、異物として姐さんが混ざってる状態だ。だからこそ例えお互いの霊力の波長を無理やり固定しても、そこにすんなりと通じるためには、妙なノイズが多い状態となっている……、かもしれないってこと。
もう一つは、そもそも俺達「斬月」が特殊かもしれないっていう可能性。
『もとより貴方がたが斬魄刀として存在していることを、もはや疑いもしていませんが。これだけ持ち主の心象風景の内で好き勝手やってる「ふぁんきぃ」な方々ですし』
『ディスってんのか? 姐さんだってそんな白くて雪みたいな清純派みてェな恰好してるくせに下は黒――――』
『「
パキーン、と鼻から下が凍っちまった俺を放置して話を進める姐さん。流石に禁句だったかコレ……、いけねェな、「そういう」衝動もこうなってから弱いものだから、心の機微っていうか勝手が微妙に判らねぇ。
もともと判ってたかどうかは置いておくけど。
『…………本来なら一つであるところの魂魄と力が、変な形で分離している。たとえそれらを一つに束ねたとしても、今回のような雑な同調のさせ方でどうこうするのが難しいのかもしれません』
『ってぇことは、後はどうしたら良いんだ?』
『どうするも、こうするも。そのうち私ももちゅ主――――ッ』
氷から首だけ無理やり剥がして話した俺に、口元を抑える姐さん。なんか知らねぇけど噛んだらしい。
『……もちゅぬ、持ち主である彼女のもとに帰るでしょうし』
『また噛んだな』『…………』
『帰るでしょうし! そうしたら、ガワに私の要素はかろうじて残るかもしれませんが、貴方たちの霊圧だけで同調を試すことが出来るやもしれません』
『試すっつったってなぁ……。あんなアヤフヤで、いつ切れちまうかもしれねぇ霊絡を無理に引っ張り込んで、切れねぇようにつなぐってのがかなり難しいんだが』
よっと、と言いながら「斬月」を取り出し、氷をちょっとずつ削っていく。一歩間違えると俺自身を斬っちまいそうだし、そうすると痛ぇからだ。そんな俺を見て「あらお可愛らしい」とオーホホホホみたいな勢いで、ニヤニヤ笑う姐さんはやっぱり良い性格してやがるぜ。
だがなぁ……、言えないが、残念ながらそう簡単に「帰れない」のを俺は知ってる訳で。オッサンは何を考えているかまでは判らねぇが興味を失ったようにまた空を眺めはじめた。なんにしても、一護と対話そのものはもうちょっと後になりそうだった。
『どうしたもんかねぇ。早いうちに「自分で」霊力を抜く方法を覚えさせねェと、自分のパワーで自壊しちまうだろ? コイツ……って、おぉ、姐サンのスケッチブック見て俺みてぇな表情してやがる』
『失礼ですけど、その髑髏顔に表情はありませんが……』
「何だコリャ……」
『…………斬魄刀も斬魄刀なら持ち主も持ち主といったところですね』
『何そんな「これだからレベルの低い人間の感性は」みてぇな顔してんだよ。朽木ルキアだって友達とかそーゆーの相手に絵を見せてこんな反応されてたんじゃねェの?』
『な……! あ、兄の方は無表情ながら理解を示してらっしゃいましたとも! チャッピーとかチャッピーとかチャッピーとか!』
『知らねぇんだよなァ……』
なおオッサン、さっきから反応してねぇように見えるけど、姐さんが絵の自慢を始めるとすぐ視線をそらすので感想はたぶん似たようなもんだろうと思う。
※ ※ ※
「刃禅、だと?」
「あァ、何か知ってるか?」
昨晩の傷を「鬼道」というらしい技術で治した朽木ルキアに、黒崎一護は感心するような声をあげた。といっても、畑違いの人間が分野の違う人間の自慢を聞いてるのと一緒だ、反応は適当なものになる。そして死神にも学校があるのかと言う話題に移った際、最近「夢で見た」単語を彼女に確認した。
「何故貴様がそのような言葉を知っている。それは、我々死神が行う作法だぞ」
「作法? いや、俺もよくは覚えてねぇんだけど。夢の中で……、あ゛ぁ……」
「……、どうした一護? そ、その目は何だその目は」
なんとなく水色で、靄のかかったような場所。そこで突然出現したスケッチブックと、そこに描かれていた朽木ルキアのものとしか思えない独特な「かわいらしい」感性に基づいて描かれたイラスト群が脳裏を過り、目の前の、自分の胸よりも下の身長をした彼女を見る。ホントはコイツが何かやったんじゃねぇだろうか、みたいな疑いの目に、片手の紙パック飲料を背中に隠してのけぞった。
「……お前のあのウサギさんみたいな絵とか、いっぱい出て来たの思いだした」
「ん? おぉーそうかそうか。ふむふむなるほど? 貴様も普段からなんだかんだ私の絵にケチをつけているが、何だ! 夢に見るまで好いてくれているのではないか!」
「あァ?」
「どれどれ、そんなに恥ずかしがることもあるまい。素直に言えば良いではないか――――もっと私の絵を見たいのだと! 私の『ぷりてぃ』な絵を見たいのだと!」
「そんな訳あるかッ!」
「何、大丈夫だ判っている、私は判っているぞー 一護。今ならほれ、貴様のその制服の襟に、私直筆のウサギのチャッピーちゃんを描いて―――――」
「止めろっつってんだろ馬鹿! っていうかどっから取り出したその色とりどりのマジックとかマーカー!」
「案ずるな一護、井上殿には好評だったぞ?」
「何布教してんだテメェ!!」
閑話休題。フェンスに背中を預ける一護と、フェンスから校庭を見下ろすルキア。
「…………刃禅とはな、斬魄刀と自らの心とをつなぎ合わせるために行う、一つの作法、儀式のようなものだ」
「禅って言ってるから座禅とか、そういうのか?」
「近いが本質がまるで違う。……死神『代行』である貴様相手だ、本当なら話すつもりは無かったのだがな」
「あァ?」
勿体ぶるじゃねぇかと言う一護に対して、たわけ、と彼女は軽く睨む。
「そもそも貴様の力は一時的なものだ。よくは知らぬが、私の霊力が『最低限』回復するのにさほど時間はとるまい。そうすれば自ずと、また私の霊力に還元されるだろう。……私は優秀だったからな」
「で、その優秀な死神サマが、俺みてーなポッと出の霊感持ちに全部分捕られちまうわけか。そーかぃそーかぃ……」
「なっ! ちゃ、茶化すな貴様ー! そもそも貴様がこんな面倒引き起こさねば、私もあの男に妙な借りなど作らず済んだものを!」
「おっとッ!」
恰好が死覇装でなくなっている自覚が薄いのか、ミニスカートを気にせず回し蹴りをかましてくる彼女と距離を取り躱しつつ、肩を怒らせる彼女に話の続きを促す。
「まぁ良い。……そもそも斬魄刀とは、死神に『与えられた』武器であり。そこに一人一人、個々人の魂を同調させることで、その刀をより強く自らが力とするものだ」
「与えられた……? って、俺のアレは――――」
「だから、たわけと言っている。貴様のそれは、私の斬魄刀――『袖白雪』を奪い取る形で取り上げたものではないか!」
コイツ、自分の刀に名前付けてんのか……。軽く引いている一護に、いまいち彼が何にそんな変な顔をしているか理解できないらしいルキア。とはいえ「白雪姫か?」といったその反応に、察するところがあったらしい。
「そうか、そもそも斬魄刀については説明が甘かったな。話を続けるぞ。
そもそも斬魄刀は、ただの刀と言う訳ではない。魂の世界、我々における『鉄』を元に作った武器であるならば、折れたところで再生することもないし、姿を消した後元に戻ってくることもないだろう」
「もとに戻る……? 支給されてるなら新品が来るとか、そういうことじゃねぇのか?」
「それでは私も『袖白雪』と永遠にお別れになってしまうではないか貴様っ! 流石に泣くぞ私もッ!」
「わ、ワリぃ……。で? それが何だってんだよ」
良いか一護、と。ルキアはしゃがみ、一護の胸に手を当てた。
「――――斬魄刀には人格があるのだ。そして、おそらくその夢では。私の『袖白雪』と『お前の斬魄刀』が、会話をしていたはずだ」
「なん……………………、だと……………………?」
困惑する一護に「ではもっと詳しく説明してやろー!」とウキウキした表情でスケッチブックを取り出すルキア。それは要らねェ、と彼女の肩に手を置いて戻そうとするが、彼女も彼女で自分の絵を見て欲しいのだろうか、もはや力比べの領域に到達していた。