メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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少しだけシリアスなようなそうでもないような回です


#046.陽気と暗黒面

 

 

 

 

 

聖隷(スクラヴェライ)――――!」

『おっと。奏でろ、金沙羅――――!』

 

 カラスのような仮面の死神(ヴァイザード)相手に、石田雨竜はいまだ安定しない能力を用いて戦うことを選択している。

 一応今回に限り、そこの道の隅からこちらを見守っているメイドに頼んで、秘密兵器を父親の書斎から無断拝借してもらって来ているのだが。眼前の相手の霊圧と、自分自身の霊子操作の不安定さから見て、まず間違いなく必要になるだろうと思い憂鬱になった。

 

(そもそも黒崎が攫われたのが悪い。全く……、朽木さんや井上さんならいざ知らずだ)

 

 その場合はむしろ、率先していの一番に後先考えず足を踏み込みそうなのが黒崎一護という男である。彼はそういう馬鹿なところのある男なのだ。ただお高くまとまって結局何もしない父親のような男を見てきているせいか、そういった気質に石田は眩しさも感じる。

 だからこそ、そんな彼から手を差し伸べられたことがあるからこそ。なんだかんだ言いつつも、自分だって一歩踏み込んで良いのだと。鼓舞するように、背を押す様に進むのだ。

 

 道中、平子真子の辿ったルートには嫌に人気がない。人通りが普通にありそうな公園手前の路上だというのに車すらわざわざ寄り付かず迂回しているのだから、現世の人間からしたらどれほど異常なのかがよくわかるだろう。

 とはいえそこに霊子の働きがあると見れば、彼等の一派が何かしらしていることに違いはあるまい。

 

(とはいえ引っ掛かることもある。()()()()から聞いた仮面の軍勢(ヴァイザード)という存在の情報を素直に解釈すれば、現世に起こる混乱など気にする必要はないはずだ)

 

 異端の死神、異形の軍団である彼らに関する噂というものを、軽くだが聞いている石田。当然下駄帽子は「尸魂界ではこんな風に言われているみたいっスねぇ!」くらいの軽い調子で言っており、胡散臭さはむしろ増している。当然事情を知るものがみれば「浦原が何を知っているか」については語っていないという事実を見出すことが出来るが、それはさておき。

 

光の線(リヒトリニア)――!」

 

 実体化するほどの高密度に収束された滅霊弓(めつれいきゅう)につがえるは、こちらもより高密度に霊子を収束して作成した射魂柱(しゃこんちゅう)

 腕輪を起点に周囲へと渦巻く不安定な霊子の波に、若干の痛みを覚えつつも。石田は仮面の死神目掛けて、引いた弦を開放する。

 

 それと同時に両脚へと霊子を収束させ、歩法走法()()()()滅却師(クインシー)としての機動力を確保。以前、梅針相手に行った連撃を試みる。

 

 対してタキシードのような恰好の仮面の男は、ムチのように変化した斬魄刀らしきものを空中へと振るいながら。

 

『アーミング・アンド・エア!』

「――何っ!」

 

 ムチ状になった刃の先端にある薔薇の花のごとき部分が音をかき鳴らす。 

 それと同時に、しなっていたムチ部分全体からも音が「波打つように」鳴り響き、周囲の霊子ごとその流れをかき乱す。それは滞留している空気の流れ、単なる風のようなそれに含まれる霊子を、あらん限り様々な方向へと、不規則に移動させるようなもの。

 結果、それは石田の未熟な霊子操作へと影響を及ぼし、最近ようやくコツをつかんだ飛廉脚(ひれんきゃく)が乱される。

 

 光の矢をわざわざ「仮面にぶつける」ことでそらし、少し身体を傾け光の一閃を踊るように躱す。それと同時に機動が乱れ、相手の背後に回るのにラグが発生した石田の腹へとめがけて、斬魄刀をぶつけ。

 

「破道の十一・綴雷電」

「ぐ、あああああああああああッ!」

 

 斬魄刀越しに、霊子収束の乱れた石田へと「鬼道の」電撃。

 これだけで仕留める目的とは思えない程度の威力ではあるが、想定外のタイミングでの猫騙しがごときその一撃に、思わず気が逸れる石田。収束されていた衣服や装甲が部分的に()()()()るが、相手はそれに構うことなく蹴りつけ、距離をとる。

 

 空中に投げ出される石田だが、「周囲の霊子」を収束して足場を形成し膝をつく。

 そんな彼を見て「なるほどねぇ」と言い、再び頭上へと手を掲げる男。いつの間にやら一瞬霊子が収束したかと思えば、そこには先ほどのカラスのような面が再形成されている。

 それを首の下にかけて、男は石田を見据えた。

 

「では、改めて。僕は鳳橋(おおとりばし)楼十郎(ろうじゅうろう)。気軽にローズって呼んでくれると嬉しいかな? ヨロシク、滅却師クン。ええっと……」

「生憎、死神とヨロシクする気はないよ。……黒崎なんかを攫うような物好き連中相手なんて、輪をかけてね」

「おや。()()()()()随分嫌われているなぁ」

 

 知ったら落ち込むか逆切れするかな? などと言いつつ肩をすくめるローズ。若干、石田の怒りどころを一人にだけ擦り付けるような仲間内特有の気安いムーブを見せつけて来るが、石田も石田で今のやり取りをふまえて違和感はさらに大きくなる。

 会話中、明らかに「分解されていた」自らの装身した霊子兵装を、再構成している現在も追撃する気配はない。それどころか先ほどの一撃とて、電撃を浴びせた時点でいつでも自分を殺せただろうに、相手はわざわざこうして自分の動きに干渉しない。なんなら石田の準備が終わるまで待っているようでさえある。

 

 いまだ実力が足りない自覚がありながらも、それでも黒崎一護に借りを返すために出て来た石田である。やすやすと殺されるつもりはないが、それにしたって状況へと疑問符は尽きない。

 

「黒崎の内に眠る虚を制御して、一体何をするつもりなんだ」

 

 平子をはじめ、ロクな情報を返してくることもないだろう仮面の軍勢。それでもわずかなりとも、相手のリアクションから情報を探れないかと、そういった意図のもとに疑問を口にする石田。

 相手はどう出るか。平子のように静かな怒りを秘めるか。セーラー服の少女のように興味なさげに無視するか。それともジャージ姿の男のように、バツが悪そうに見てくるか。

 

 果たして――――ローズは、きょとんとして石田の方を見た。

 

 

 

「何をするつもりって…………? えっと、しいて言えば普通に学生させてあげて、将来普通に結婚して子供作って育てて、普通に天寿を全うさせてあげたいってことに、なるのかな?

 いくら才能があるからって、生前から護廷隊の予備隊士みたいなことをさせるのは可哀想だと思うよ、うん。音楽を聴く暇もありはしない――――」

 

「ふざけているのか!?」

 

 

 

 石田、迫真のツッコミ。眼鏡が曇り、緊張感がやや飛び画風はデフォルメされてそうである。

 同様にローズも斬魄刀を持っていない左手でモミアゲの位置を調整しながら「冗談は言ってないんだけれどねぇウン」と、オーバー気味な振る舞いで肩をすくめた。

 

「いかに仮面の死神(ヴァイザード)()()()()()()()からといって、僕たちの復讐劇じみた臥薪嘗胆に付き合わせるのは、大人げないことだしね。ジャ○プでいったら3部のDI○がジョ○スタ○一族への復讐のためにわざわざ大量に吸血鬼を作るくらい大人げないことだ」

「じょ……、じょ? いや、その例えは全く以て意味不明だが」

「読まないのかい? ジャンプ。もったいない! せっかく現世にいるのだから、人生には色々なインプットをして損はないとも!

 それがより人生を濃く彩り、新たな音楽たちが芽吹く切っ掛けになる――――今だって『友達のために』立ち上がった君に、僕の創作意欲は胸を打たれて()()()と震えているのだから!」

「友達じゃないッ!! というか、どうして誰も彼も僕と黒崎の間にある因縁をそう易々と考えるんだ……!」

 

 謎の怒り、あるいは羞恥心に震える石田雨竜。そんな彼に向け、ローズは「そうそれ」と左手で指さす。

 

()()があるから、僕も特に気兼ねなくこうして話すことが出来る。ある意味で最も尸魂界の関係者から離れた立ち位置にいるだろう、今の君であるならば。僕らも今の段階で『意図せぬ内通』を疑わないで済むのだからね」

「……?」

 

 やはり違和感は拭えない。

 先ほどの胡散臭い言葉がどれほど本気なのかすら定かではないが、それと同時に滅却師である自分だからこそ警戒をしないで済んでいるというその言い回しに。

 

 何か()()()()()()()()()()()()()()()ような、そんな不気味さを覚えた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『――――だァから、違うって言ってンだろ!? いいか、瞬歩の抜脚(踏み込み)は、こう!』

「こ、こうか?」

『動きはそれで良いな。後はそン時に込める霊圧の具合だ。ちゃんと走りながら切り替えられるよーにしねェとクソだが、まあまずは形からだな。その状態でテニスボール踏みつけるような感触イメージしながら、霊子集めて踏んでみろ』

「あ、あ、集めるって言ったって――――」

()と感覚は一緒だ、いいからやれ! てめぇの身体のことなんざ俺が一番わかってンだから、ちゃんとやりゃそれっぽく形になンだよ、ホラ』

「お、おぉ……? って、マジで出来たぞ!?」

『だろ? 上出来じゃねェか!』

「お、おぉ!」

『じゃ、その調子で今度は斬り合いながらだなぁ』

「あぁ、行くぜ――――」

 

 

 

「――って違ェよ!!? 何、当たり前な感じで普通に修行みてェなことしてンだ俺ッ!!? こいつ俺の(ホロウ)だぞッ!!!?」

 

 

 

 思わず手元の斬月を叩きつけながら、ノリツッコミの極意(インストラクション)を受けたような勢いで絶叫せざるを得ない黒崎一護であった。そして「あっ! 悪ぃおっさん!?」などと叫びながら拾いに行く。なんとも奇妙な律義さに、やや遠方で母親の膝の上に座らされてる少女は「かわいい!」とにこにこ笑っていた。

 場所は引き続き、一護の精神にある内在世界。白い姿をした一護の虚、白一護と斬り合っていた一護であったが、途中で「あァもう見ちゃいらんねェ!」と虚が言い出したのがことのはじまり(あるいはコントのはじまり)。ちょっとタイム! と両手でストップを示し、斬魄刀を背負う白一護に、その妙なノリに動揺し思わず首肯してしまった一護。何をし始めるのかと思えば「てめぇの足運びがなっちゃいねぇ! いいかよく見てろよ兄弟(きょうだい)!」などと言いつつ、瞬歩の講座めいたことをやりはじめる始末。

 

 実際一護としても、梅針との闘いまでに使える程度に無理やり身体に叩き込みはしたものの、それぞれがそれぞれで微妙に参考にならなかった。恋次や乱菊、弓親は感覚主体の教え方。ルキアは体格が合わずに説明が例によってスケッチブックの絵により不明瞭。意外と理論派な一角のそれも、一護の霊圧総量からお手上げ状態。ある意味で最も霊的な立ち位置が近いかもしれない日番谷ですら「てめえの霊体的に扱える霊力を見極める所から始めろ」と物凄く生暖かい目で同情され。

 結果、大半は見稽古および一角から理論的なことをスポーツトレーナーのようにコーチングされつつ、見よう見まねで覚えたというのが現在であった。 

 なのでそれこそ、白一護の教え方は「完璧に一護専用の教え方」となっており、レクチャーの仕方も実践の仕方も、なんら違和感を抱かせない。なんだか頼りになる近所のお兄ちゃんみたいなノリで色々ヤジを飛ばしたり、手本を見せてくれるなどのやりとりのせいで、なんだかちょっと楽しくなっていた。

 

 楽しくなっていたからこそ、現在自分がここにいる理由を踏まえて思わずといった全力のツッコミであった。

 何を盛り上がった末にハイタッチまでしているのだと。何だこのスポーツ漫画の練習みたいなノリ。相手は自分を乗っ取ろうと虎視眈々としているかもしれない虚だぞ。せめて性根を見極めてからにしろ。

 

 色々と混乱しながらも改めて斬月を構える一護に、白一護はニヤニヤと肩をすくめる。

 

「何だよテメェ、何が言いたいってんだ」

『いやァ…………、別にィ?』

「絶対含みあるじゃねェか……! 言いてェことがあンなら、堂々と言いやがれッ!」

『テメェの過去には頼りになる兄ちゃんみてェなのとかいなかったから全力で頼ったり甘えたかったんだろォなーっと、予想はしてたがなァ。たつきの背中に庇われててそういう付き合いも全然なかったしなァ。

 ってことは関係的にもしかして……、たつきがお姉ちゃん代わり? 井上がまたヘンなこと考えそうだなァ』

「殺す……! 絶対てめぇ、ぶっ殺すぞッ!」

 

 どうしてこう目の前の相手は徹底的に自分の尊厳を毀損することに全力なのか。

 謎の怒りと羞恥に震える一護に、白一護は嫌な笑みを深めるばかり。

  

 とはいえ「大人げないですよ、我が夫~!」と()らしい彼女から声をかけられれば、適当に手をひらひらと振って少し疲れた苦笑いを浮かべる。

 本当ここはどうなってやがるンだ、と。一護の内心は、場の状況を踏まえてさらに混乱に叩き込まれていた。

 

 なんなら先ほどの「俺も斬月だ」というあの発言すら、ちょっと忘れかかっているくらいである。

 

 とはいえそこは生真面目な一護、なんとか胸の内のざわめきやら何やらをいったん振り切り、斬りかかりながら問う。

 

「テメェも、斬月だと……? 意味わかんねェこと言ってンじゃねェ! おっさんどこへやりやがったッ!?」

『認めたくねェのはわかるが、ちったー()()()()()の話も聞こうぜ兄弟!』

「誰がッ!! お兄ちゃんだテメェッ!!!!」

 

 一護が真面目に向き合うものの、一方の白一護は真面目なのか巫山戯ているのかさっぱり判らない。

 ただ剣戟越しに感じる相手の熱は……、嫌にテンションが高く、ひたすら「殺意が欠片も感じられない」ようなものでしかないのだ。それがますます一護の内心に、謎のダメージを蓄積させる。

 

 己の斬魄刀とは何もかも形が違いながらも、それでも身の丈ほどの巨大な刃という共通点を残す斬魄刀を振るう白一護。明らかに悪党みてェな面した、こちらをおちょくってくる根性の悪さを持つ相手。自らを、一護の斬魄刀であると主張する虚。

 そんな情報量を一度に叩きつけられても、というのが一護の内心だろう。少なくともキャパオーバーで混乱は加速し、段々と振るう斬月にも身が入らなくなってくる

 

 やがて白一護の打ち下ろしを直に受け、足元に形成する霊子の足場からすべらせ、ビルの壁面へと弾き飛ばされる。 

 

 ……意外と頑丈なビルなのか、窓ガラスが割れたり壁がへこみはすれど、一護がその内側に叩き込まれることはなかった。斬月に布を巻き、杖代わりにして立ち上がろうとする。

 そんな一護に、白一護は「底部が鎖になった」「穴の開いていない」斬月を肩に乗せ、見下ろす。

 

『…………こめかみに窓の破片、小せェの刺さってるから抜いとけよ』

「うるせェ! ……これだな、って痛っ」

 

 まるで反抗期の子供な一護である。否、実際彼は丁度反抗期真只中ではあるのだが。それを抜きにしても、眼前の相手の意図を図りかねているのに妙に気安いものだから、普段から取り繕っている自身のイメージ戦略的なもののみならず、気を張っている部分まで砕けてツッコミ体質が無理やりあらわにでもなっているのだろうか。

 そんな彼に、まるで手のかかる弟でも見るような何とも言えない微妙な表情を向けつつ、白一護はため息をついた。

 

『…… 一護。お前が解ってるかどうかは知らねェがな。俺とオッサンってのは()()()()()なんだぜ?』

「ひと、つ……?」

『俺も、オッサンも、テメェの霊力(ちから)。どう振るうかはお前次第の、お前が持ちうる力の象徴としての形、それが俺たちだ。

 本来なら一つの肉体を持つものの、性質がどう出るかみてェな話をするべきなんだろーが、生憎ンな回りくどいこと言ってたらお前の力にお前自身が追い付くまえに、どかん! と一発、し~ばや~って花火状態だな』

「…………」

 

 真面目な話っぽいことを言っているので、ここは「だから『しばや』って何だよ!? 聞いたことねェぞその屋号ッ!」とかいうツッコミは我慢する一護である。

 

『ま、色々あって俺達は二人であることを選んだ。お互いがそれを受け入れた。

 お前の「理性で戦う」母の愛を引き受けたのがオッサン。例えるなら護りの、鞘の斬月。

 そしてお前の「本能で戦う」父の拳を引き受けたのが俺。例えるなら攻めの、刃の斬月。

 お前がどう思おうがどう否定しようが、その事実は変らねェ。仮にこの場で俺をぶっ倒したところで、オッサンがちょっと寂しそうにして子雪が「ざこ! ざこ!」って小馬鹿にしてきて、姐さんが変な悲鳴を上げるくらいだろォな。別に消え去りゃしねェし――――』

 

「だからテメェ、巫山戯んのか真面目に話すのかどっちかにしやがれッ! やりにくいったらありゃしねェ!」

 

 やっぱり我慢できなかったね仕方ないね。えぇー、と半眼になる白一護に、渾身のツッコミを入れる一護。

 遠方で「ぎゃう?」と小首をかしげる少女と「変な悲鳴など上げませんよ!?」と慌ててアピールしてくる彼女、袖白雪(ルキアの斬魄刀が本体)

 

 一瞬ではあるが、場はデフォルメで描かれるくらいの雑な空気になっていた。

 

『いやだって……、アレだぜ? ンな話、素面でするにしたってお前も理解が全然追いつかねェだろうが。

 それに梅針ぶっ倒してからずっと内心のどっかに引っ掛かりが残ってンだろ? そこまで曇っちゃいねェが、仏頂面突き合わせて言い合ったって腹の足しにもなりゃしねェ。もっと雑に行こうぜ兄弟?』

「い、いや、だからってそこはもうちょっとやりようがあンだろ……。

 別に梅針の事だって………………、…………」

 

 ツッコミを入れつつも、わずかに視線を逸らす一護。口では強がりこそしたものの、どこかでやはり引っ掛かりが残っているのだろう。

 黒崎一護は、霊的素養さえ除けば歴とした男子高校生であり。

 不良めいてこそいるが、あくまでも現代現世の若者でしかない。

 虚を斬ることにすら当初、やや忌避感がわいていたくらいだ。斬魄刀による致命の一撃が浄罪を意味するのでなければ、その葛藤はより深いものになっていたことだろう。

 そんな彼が、自らの意志で。もはやどうしようもないと判っていながらも、介錯を引き受けた――引き受けざるを得なかった。彼にしか、相手の葛藤も理解できなかったのだから、それは一護の振る舞いからすれば当たり前で。

 

 だからこそ、上手く言語化できない(きず)がどこかに残っている。

 

 そこを慮られているなどと言われれば、一護としても言葉に詰まる。

 そしてそんな白一護を見て、袖白雪は『やはり()()()らしいですね……』と、こちらも内心複雑そうに微笑むばかり。

 

 

 

 そういった面倒見の良さと気遣い、付き合いの良さこそが、かつて朽木ルキアの心が絆され憬れた志波海燕を思わせるものであったからこそ。

 

 幻想だ死人だと、言ってはばからない彼に、それでもなお面影が重なってしまうからこそ――――彼と寄り添うように在る今の彼女には、ただただ慈しむよう見守ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

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