メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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過 労 死 要 員 平 子 隊 長


#048.ライズアウトインホワイトダークネス

 

 

 

 

 

 剣を振り払う一護。

 斬月から放たれた月牙天衝を身にまとい、白い霊圧の炎を全身に揺らす。

 さながらゆらめく陽炎のように、しかしそれにしては異様に存在感の濃く強い光り。

 

 相対するは――――()()()()()()()()()()()白い一護。

 長く、一護の斬月のように穴の開いた「黒い」刀で煙を斬り払い、一護とは対照的に黒い炎を身にまとう。

 一護のように荒々しく強い炎ではなく、ゆらめかずに安定して出力される黒い炎。

 

 一護の視線が鋭くなる。と同時に、白一護もニヤリと微笑み――――。

 

「――――でぃあッ!」

『――――はッ!』

 

 斬月を両手に持ち斬りかかる一護に、黒い刃の斬月のみの片手で受ける白一護。

 ぎりぎりガタガタと、お互いの腕力が拮抗する――否、お互いから噴き出す火輪(かりん)と腕力とが、拮抗する。見た目こそ一護の方がより大きく火力を出しているように見えるが、その質としては白一護の方がより安定していると言えた。

 舌打ちしたい気を押さえる一護。最初からわかっている。もともとこのよくわからない炎のような霊圧の扱いは、目の前のコイツによってもたらされたもの。扱う力に差が生じるの等、最初から織り込み済だ。

 

 だからこそ――――白一護が両手に握る、白と黒の刃が気になる。

 

「テメェ……、その両手の刀、一体何だってんだ……」

『随分寂しいこと言うじゃねェか兄弟。言っただろ、テメェは斬月を真に扱い切れちゃいねェってなァ――』

 

 一護! と叫びながら、小刀のような白い、小さい刃を眼前に掲げる白一護。

 ほぼ咄嗟にそこから後退する一護を気にせず、白一護はその白い刃を横一線。

 そして描かれるように、その場にとどまり続ける一条の光は、間違いなく奴の霊圧を吸った月牙。それ目掛けて白一護は、黒い穴の開いた刀の方を振りかぶり――――。

 

「ちっ、月牙○字衝(げつがえんじしょう)!!」

  

 咄嗟に、ほぼ条件反射で自らの火輪を斬り、斬月の布を持ち振り回す一護。

 斬られた火輪の箇所を起点に、描かれた円の形に添って月牙が凝縮される。

 

 一護の前方、さながら盾のように拡大して放出された月牙越しに、一護は見た。

 

 

 

『――――月牙×字衝(げつがじゅうじしょう)

「――――な、何だッ!!?」

 

 

 

 黒い刃から放たれた、黒い月牙。それが置かれた白い月牙と重なったと同時に、その色が一気に白く漂白。その場で回転しながら拡大し、猛然とした速度で一護めがけて迫ってくる。

 冗談じゃねェぞ!? とばかりに○字衝(えんじしょう)を置き去りに、多少はこなれた瞬歩で後方へ退避を繰り返す一護だったが。だからこそ、その一撃の威力を目にしてしまう。あの梅針の攻撃すら防げた○字衝を、あっけなく呑み込み、斜め十字のような状態で炸裂する莫大な霊圧の威力を。

 

 唖然とし、少し足がすくむ一護。そんな彼を嘲笑うように、爆破の煙の向こうから白一護は笑う。

 

『そうビビんなよ兄弟! 楽しくやろうぜ――――火輪の雷戦(らいせん)連環重雷(れんかんじゅうらい)」』

「ッ!」

 

 そして嗚呼、以前「捩花」と呼んでいたあの槍のような斬魄刀と戦った時の記憶が、一護の脳裏を駆け巡る。

 煙の向こうからは、黒い刃の鎖に指をかけて回した白一護が、数多の○字衝(えんじしょう)を飛ばしてくるのだから。

 

 前方に貼る? 駄目だ、霊圧を斬ってそこから月牙を生み出す一護のそれでは、ほぼ振りかぶって放つだけの奴の月牙の速度に追いつけない。

 速度だけで言えば、素のそれでも果たして抜けるかどうか――――。

 躊躇う時間すらなく、一護は決断する。

 

「月牙、天衝ォ――――――――ッ!」

『お!? いや無茶すんなァ……』

 

 足元に収束している「周囲の霊子」、足場の代用として使っているそれを斬り、そこから月牙を放ちつつ――――さながらジェット噴射のように、ありったけの霊圧で白一護へと突撃する一護。流石にそのレベルの威力であれば、そもそも○字衝(えんじしょう)も一護の月牙に呑まれて原形を失っていくだろう。ある意味で攻防一体の移動法であり、現実世界ではとうてい使えたものではない移動()である。

 なお白一護も「そういや石田の奴からガキみてェな発想してるとか言われてたなァ」などと呆れながら呟くものだから、一護も一護で「聞こえてるぞテメェ!」とキレざるをえない。石田本人とのやりとりならまだしも、こんな訳の分からない相手にシモ含めて揶揄われるいわれはない。ないと言ったらないのだ。

 

「ぶっ飛ばす……!」

『おーおーそういう友情育むよーな仲良しこよしは石田とやれよ? 意外と抱え込みそうだからなァアイツ』

「何で石田の話になんかなってんだよッ!」

 

 はっ! と右の拳で攻撃しようとする一護のそれをひらりと躱す白一護。

 そっと黒い刃を構え、一護の霊圧の奔流を受け流し―――――――。

 

「って、えっ? いや、お、おおおおおおおおおおおおお――――――――!?」

 

『しーばやー!』

『いってらっしゃーい!』

『一体どこに行かせるつもりですか、二人とも……?』

 

 自分で制御できてない霊圧のせいで、コントロールが完全に定まらなかったらしい一護。避けられたせいでそのまま勢い良く前方、つまりはビル壁面に沿って大空へと向けて綺麗に射出される形に。

 黒い刃で防御したせいか一切傷を負っていない白一護と観客と化していた子雪が声を上げ、袖白雪が何とも同情的な視線を一護へ送っていた。

 

 

 

 数十秒後。遠くに投げ出されたまま帰ってこない一護を「迎えに行った」白一護に、襟首をつかまれたまま猫のようにだらーんと慣性に従って引っ張られる一護である。

 表情が「もうどうにでもしてくれ……」と言わんばかりに疲れた雰囲気で、さながらデフォルメされてゲンナリした様子である。

 

『ほらよ』

「わッ!? テメェ、もっと安全に下ろしやがれっ!」

 

 そんな風に気を抜いていたせいもあり、投げ出された一護はビタンビタンと音を立ててビル壁面に叩きつけられることになるのだが、今度はその白い火輪の影響か、窓ガラスを突き破ることも無くごろごろと転がるばかり。遠方(?)で「ぎゃーん!」とテンションの高い声が聞こえるが、リアクションしてやれるほど一護には精神的な余裕がなかった。

 

『やれやれ……。ま、発想は石田好みで良いんじゃねェのか? 小学生みてェで』

「だからそうやっていうの止めろって言ってンだよ!!」

『いやこれ、褒め言葉だぜ? 案外お前には合ってるのかもしれねェじゃねーか。馬鹿みてェな発想から始めて、シンプルに霊圧だけでごり押しするっつーのもなァ』

 

 最低限基礎を叩き込んでからにはなるが、とブツブツと何やら考え込んでいるらしい白一護。とはいえ右手は黒い刃の鎖に指をかけブンブンと回転させ、左手は短い方の白い刃を腰に構えていつでも斬りかかれるような体勢である。明らかにくぐって来た修羅場の数が違う、とでも言わんばかりの戦闘慣れ具合の違いだ。

 とはいえ一護の興味は、今そこにはない。

 

「まさか……、そいつは斬月だって言うつもりじゃねェよな……?」

 

 恐る恐る確認する一護に、白一護は「あン?」とむしろ不思議そうだ。きょとんとした表情をしても悪人面が変わらない当たり、その性根がにじみ出ているのだろうか。勝手に納得する一護であるが、相手に知られれば「テメェが言う事じゃねぇよ!」と突っ込み返されること必至である。

 ともあれ、柄の末尾の肥大化した箇所――布に覆われているその部分を一瞥してから、白一護を睨む一護である。

 

『……むしろあれだけ月牙撃ってンだから、斬月以外の何だってンだよ』

「……成程な。テメェの言う、俺が斬月を使いこなせてないって話は、そういうことか」

 

 少なくとも今の斬月は両刃のような形になっているが……、いやそもそもこれは分離できるものなのか? 形状から何から何まで違うし、などなど一護の疑問は尽きない。尽きないが少なくとも、相手が使ってるような扱いは今の自分にさっぱり出来る気がしないのも事実であった。

 そして、もう一つだけ確認することがある。

 

『おいおい勝手に納得すんなよ? さも自分の理解がこの世の真実のように話すようになっちまったら人間胡散臭さが増すぜ? 止めとけ止めとけ』

「だがどうにも判らねェことが一つある。どう考えても、何か根本から違うような気がしてることがある。それだけ教えろ」

『無視かよ。いや別にいいけど……って、何だ?』

 

 致命的なこと以外は特に隠すつもりもない白一護の声に、一護は警戒しながら斬月を構える。

 

「何でテメェの斬月は、そのまま霊圧の斬撃を撃てるんだ?」

『あン?』

「最初にコイツを使えるようになった時……、あの時声をかけて来たのがテメェだったのかおっさんだったか、今はどっちでもいい。俺の斬月は、斬りつけた場所から霊圧の斬撃を放つって使い方しかできねェ。

 だってのに、どうしてテメェの斬月はそんな空中に置くように、月牙を適当に撃てるんだ?」

『………………………………』

「オイっ」

『あー、…………』

「……ア?」

 

 そしてここで何故か突然、歯切れの悪くなる白一護。右手の斬月の回転も止めてしまい、なんとなく気まずげに一護から視線を逸らす。

 その視線の先を追うように見た一護。その先には…………。

  

『………………………………』

『ぎゃう?』

 

 白一護のようにバツがわるそうに、全力で目をそらしている袖白雪の姿があった。

 ちらり、と白一護と彼女の視線が交わり、アイコンタクトで何やら(ガン)を飛ばし合っている。それが妙に仲良しな雰囲気に見えることも相まって、一護は「ルキアに何て説明すりゃ良いんだ……」という謎の罪悪感がますます深まる始末。

 

 そして、最終的に下されたらしい結論はといえば。

 

『まー、アレだなアレ――――浦原喜助が全部悪い』

『その通りですともええ、全く!』

『ぎゃんぎゃーら!』

 

「いや何でそこだけ三人そろってンだよ!? 仲良し親子かッ!」

 

 再び斬月を叩きつけかけ、今度はギリギリ思いとどまった一護だったが。それはそうと右足で一発地団太を踏み、白一護たちを見る。

 ……何故か顔を真っ赤にしている袖白雪と、テンションの上がっている少女(幼児?)、そして先ほどまでの挑発が嘘のように、どこか真っ白に燃え尽きているような白一護の姿がそこにあった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 ――――困ったときは、諸悪の根源の名前を出すと良いんじゃないかな? 惣右介とか藍染隊長とか護廷十三隊一眼鏡の似合う色男とか。

 

 一瞬脳裏に過ったのは、生前っつーか一死神時代に聞いた知り合いの言葉。核たる俺の記憶なのか、それとも志波海燕としての記憶なのかは定かじゃねェが、まァ、そうだな……。

 

 そんな訳で大体の罪を浦原喜助に擦り付け(※決して嘘って訳でもねェ)、姐さんと盛り上がった所に一護のアレなツッコミと来たモンだ。

 オイ馬鹿下手なこと言ってんじゃねェ!? こっちは事実しか言ってねェっつーのに家族関係(?)ヤヤコシくするんじゃねェぞテメェ!!? 見ろあそこ、一護の妙なツッコミに顔を赤くして無言になる姐さんとか、もはや否定すらしなくなってんぞ一体どんな情緒だッ!!? 子雪もよくわからないままテキトーにテンション上げてやがるしなァ!!!

 

 やれやれと、とりあえず姐さんの方は鋼の意志で無視するとして(後が怖ェが)。……何気の抜けた顔してンだよもっと戦意絞り出せや。

 イライラしながら右の斬月を再度振り回すと、慌てたようにキリっとして斬月を構え直す一護。

 そんな一護を見ながら、次はどうしたモンかって考えてみたものの、嫌にタイミングが悪い。

 

 

 

 ガタガタと、地面が揺れる。……地面っつっても、本来重力の関係として地面がある方って意味になるが、俺から見て左側を起点としてビルが揺らぐ。

 ビルだけじゃねェ。周辺一帯、空気から何から何まで軋んでいるこの状態は、どう考えてもこの世界の普通じゃねェ。

 

 空も突然暗くなり始めてる状況は、おおよそ一護の世界じゃ始めて見る光景だ――――つまり、「夜」が迫ってきている。

 

 

 

「何、だ……? テメェ、何しやがった!」

『俺じゃねェよ。あー、頼むぜオッサン…………』

 

 空模様は、一護の心の在りようを表している。黒崎真咲(カッチャマ)が死んだ時とか強くふさぎ込んだ時に、空が曇り大雨が降り水没するっつーのは、一護が本来それだけ感受性が強いっつー表れでもある。

 ただそうであっても、雲間の向こうには光が、確かな心の火がともっている。

 

 その火が消えかけていると言うのは、すなわち一護の心「ではないもの」が、より一護よりも上位に来ているっつーことになる。こっちで急速に鍛える時間もそう余裕はなさそうだなァ……。()()か。ぶっちゃけ痛ェだろうから、あんまりやりたい方法じゃねェが。

 

 一護の方を見れば、自分の内在世界が大きく書き換わりかけている状況に、知ってか知らずかビビッてやがる。頑張って頑張って今のカッコイイお兄ちゃんやろうとしてるって言っても、内心はあの頃からずっと変わらねェ泣き虫小僧のまんまの一護。

 だからこそ案外周りの影響を受けやすい。普段のヤンキーみてェなポーズのすべてが演技って訳でもねェが、大部分は作ってる……、これもまたイメージ戦略の賜物だからな。

 

『怖いか? 一護』

 

 だからこそ、あえて挑発するみてェに言ってやれば。

 

「…………嗚呼。だけど、そんな恐怖(モン)に足をとられるなって、言ったのはテメェだぜ?」

『ヘッ。少しは見れる顔になったじゃェか』

 

 ニヤリ、と。強がりでも笑う一護の心には、多少は俺の言葉が残ってるらしい。

 そこだけは少しだけ微笑ましいモン見るような感じになっちまいそうだが、流石にこんな心境のままこれからやろうとすることを実行できるはずもねェ。

 だからこそ、あえて突き放すように――――。その身をもって教えてやるしかねェ。

 既に一護の自我としては、自分が使えるだけの霊圧の大半を注ぎ込んだ状態になっている、今だからこそ。

 

 俺は瞬歩()()()()歩みで一護の目の前まで迫り。

 

 

 

『――――でもなァ。ここから先に行くためには、今のままじゃ駄目だ。

 耐えろよ、一護』

「――――はっ?」

 

 

 

 響転(ソニード)……、霊力感知としておおよそ認識できない大虚独特のステップで近寄った後、一護の心臓すぐ近くにある鎖結(さけつ)めがけて俺の方の斬月を「叩き込み」。

 そのまま(一護)の霊圧でもって、一護自身の全身へ()()()()火輪を起こした。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「……戻ったぜ」

「ハイ! お帰りなさい」

「何や拳西が一番ノリかい。…………どうした、負けちゃったんかい? ボロボロやなぁ」

「ンな訳ねぇだろ、ひよ里。想定外の乱入者が入っただけだ。どっちにせよ、どうせすぐには来れないはずだぜ、真白がサボってなきゃな。

 それで? 黒崎一護の状況はどうなってんだ。順番は多分真子がやってんだろォが」

「あー、………………最悪や」

「は?」

 

 頭や腕に包帯を巻きながら語るひよ里に、スーツが濡れ鼠になるほど汗を流すハッチ。そんな二人を不審げに見てから、六車拳西は結界の内を見た。

 

 

 

『――――――――』

「何やそれ、反則どころの騒ぎやないやろッ!!! 何してくれてんやあの下駄帽子ッ、つか早い所交代せな霊圧尽きるわッ!」

 

 

 

 どこか一護たちが訓練している、浦原商店の地下を思わせる広大な空間。そこに張られた結界の中で、平子真子は「死覇装に隊主羽織りの姿で」、肩で息をしていた。既に服は斬り傷だらけ、独特な指かけ(?)のある斬魄刀も刃こぼれが出ている。

 そして、そんな状態でも平子はその場から引かない。斬魄刀を構え、眼前の相手を見る。

 

 つい先ほどまで、一護は単なる虚の姿だった。全身を覆う(ホロウ)の髄は、ほぼ全身を覆いつくしていた。尾を持つ髑髏頭のトカゲのような、そんな印象のある一護の変貌した姿。胸には虚の証としてか風穴――――否、正しくは「黒い影のようなものが蠢く」風穴となっていた。

 

 そしてその怪物のような一護を相手にしてすら、ひよ里や平子は手が回っていなかった。あまりに霊力の奔流が激しいため、ハッチを順番に組み入れる隙すらなく。休憩しながらとはいえ、かなり死線をさまよいながら二人は一護の相手をして、押さえるように動いていた。

 

 だからこそ、その途中。ひよ里が一護の斬魄刀の柄の部分を折り、まるで二本の刀のようにしたのが、何かのきっかけだったのかもしれない。ことこの状況でも、刀身の孔を埋める氷の封印は微動だにしていないあたり、平子の使った鬼道と浦原の施した封印の相性の良さを物語っているが。

  

 絶叫を上げた虚と化した一護は、右手に大剣を、左手に折れた方の柄を握り。

 握った柄の布が解け、左腕に巻き付き――――()()()()()に、彼女が驚く暇もなく。

 

『――――――――ッ!』

『な、何やと……? 何や、アレ――――どないなっとんねん喜助ッ!!!!!』

 

 胸の風穴から出た靄か影のようなものが、虚となった一護の全身を覆いつくす。あるいはそれは締め上げる様に、あるいは縛り付ける様に、大きくなりつつあった一護の体躯を「無理やりに」細身のシルエットへと強制していく。

 踊る霊圧は間違いなく一護のものであり、虚の霊圧ではないのだが、だからこそ理解が出来ない。

 

 混乱するひよ里と交代で入った平子が「落ち着け、アレたぶん斬魄刀の方やろ」と予想を口にし、変貌しつつある一護を警戒しながら斬魄刀を解放し――――。

 

『――――』

「……はっ?」

 

 その斬魄刀、逆撫(さかなで)が効力を発揮するよりも先に、平子真子の義骸は「粉砕された」。

 

 小さい方の斬月を突き刺され、斜め切りにされ、そこを起点に月牙(虚閃)を放たれた。たったそれだけで、彼我の霊的な密度の差により「強制的に」平子の魂魄は義骸からはじき出され、義骸自体はその場で見るも無残な有様となった。スプラッタ映画さながらの有様であり、一瞬顔を顰めた後に平子は全力でそこから目を背けた。

 

 果たして煙が明けたその場に立っていた一護は――――。

 

「反則どころの騒ぎやないやろ……、霊圧、()()()()()()()()()っちゅーことはアレやろ? どんだけ今の一護の霊力がアレなことなっとるんや」

『――――――――』

 

 そこにいたのは、「二つの角を持つ」細身の虚。赤い三つの傷のような模様が仮面の左側につき、両手には真っ二つになった――――それにしてはしっかりとした刀にも見える斬魄刀。

 身長はやや伸び、髪は長髪となって頭部を覆う仮面からはみ出ている。

 

 そしてその全身を覆う、黒いコートのような何か。一護がこの場に居れば、それはまるで斬月のおっさんのやつのような、と形容したろうそれであるが。

 

 そこからの戦闘は、拳西が帰って来るまでの間のそれは、果てしない蹂躙であった。

 逆撫の香、相手の前後左右ありとあらゆる方角の感覚を入れ替えるその能力も、理性なき獣は四方八方に月牙、あるいは虚閃を放ちクリア。

 追加で嗅がせようと焚くそれすら、単なる霊圧により弾かれ平子ごと吹き飛ばされる。

 

 ただそれでも、直接平子の身体に振り下ろされる斬魄刀の威力は軽いもので。いっそ簡単に両断されてしまいそうな横薙ぎですら、軽く掠るように表面を斬るにとどまる。動きを見るに、やはりどうも表面を覆う黒い布のようなものが、一護の変貌した虚の動きを圧倒的に阻害しているらしい。がたがたと力を安定させず、無理やり威力を矯正しているように見えた。

 とはいえそれも、蓄積されれば馬鹿にならない。あり得ざるほどに変貌し、その上でなお全く底が見えないどころか深淵を覗き込んだような状態となっている平子は、平子の「死神としての」霊体は。

 

「ぎょーさん、しんど……。まだギリ一時間も経ってへんっちゅーのに、エライご機嫌やなァ一護。そんなモン抱えて、辛かったなぁ…………。

 安心しぃ、約束は守る。それにどーも、斬魄刀の方も抑えに回ってくれとるみたいやしなぁ。……羨ましいったらありゃせんわ。でも全部無駄にはせんで。必ず何とかしたるわ」

 

 かかって来ンかい! と叫びながら、自らも虚の仮面を出現させながら、膨大な霊圧を放つ一護の虚へと斬りかかっていった。

 

 

 

 

 

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