力業解決という名のルキア師匠パートとう名のきゃっきゃうふふ
一護にとって胸糞の悪い虚を斬り、その結果「地獄の門」に魂が導かれるのを見た後。シバタユウイチの魂葬を終えた直後に、例によってチャドにすら怪しい煙と共に記憶を操作するらしい謎装置を使ったルキアに、彼は思わずツッコミを入れた。
「ふむ、これでこの男もまた問題はないだろう。このインコに関しても上手いこと記憶を――――」
「っていくら何でも無理あんだろ!」
「っと、何をする貴様! 人の襟をつかんで持ち上げて、私は猫ではないぞ!」
「知るかッ! ってそんな話じゃねぇ、記憶のイレカエってランダムだって言ってたろ! 目の前にいきなり知らないインコが置いてあるとか、全くこれに関係しない記憶でも入ったらどうするつもりだテメェ!」
「何、案ずることはない。あくまでも『状況に沿った』記憶をランダムに生成するというだけの話だ、そのあたりはよしなにしてくれるだろう」
「本当か? って、あー、それもそうだけど今、チャドは…………」
ルキアの言うところの、つまりバランサーとしての死神の役割からして、現世でそのテの力もない相手の記憶を操作すると言うのは納得がいく話ではあるのだが。それでも、魂が送られる前の少年の魂と約束をしたチャドの振る舞いに、一護は言葉が出てこない。
それを安心させるように、気遣う様に、ルキアは彼の胸をそっと叩いた。
「…………そこも案ずるな。あくまで記憶の置換が及ぶのは、現世においての範囲だ。記憶がなくなったわけではない、魂になれば自ずと思い出すこともあるだろう。それは決して、約束を破ることにはなるまい」
「だと良いんだけどな」
そしてチャドこと茶渡泰虎を自宅の病院に運び、妹たちからの追及をかわした一護は自室に戻り部屋の鍵を閉める。と、当然のように襖をあけてルキアがぬっとあらわれた。
「お、お前…………、何だその恰好」
「見て判らぬか。今の私の魂魄だ」
黒の死覇装が消え、白い和装の襦袢姿となっているルキア。見れば奥のふとんには彼女そっくりの容姿の義骸が眠るように倒れている。
と、その右手にいつものようなグローブをつけて、一護の頭を叩きつけるように「魂を抜く」。身体はベッドに倒れ、疲れ切ってそのまま眠ったように見えなくもない。
「って、いきなり何すんだよお前! 何だ、また出たのか!?」
「違う。そういう訳ではないのだ。…………お前は聞いたな? 『刃禅』とは何であるかと」
昨日の昼、小島水色が二人を揶揄う(※意味は両者とも通じていなかったが)直前まで話していた事柄。一護が夢で見たその文字。
「貴様に貸し与えた力は一時的なものだと思っているが。それはそうとして、貴様自身に『死神らしい』精神性が芽生えてきているのは事実だと思った。だから正しく、刃禅を教えてやろうと思う。貴様の戦い方を見ても、やはり素人に素人のまま戦えと強要するのも、少し気が引けた」
「あ、嗚呼……、よくわかんねぇけどスケッチブック出すのは止めろ」
「む!」
懐から少し胸元が見え隠れしながらスケッチブックを取り出そうとするルキアと、それを無理に止めようとする一護が若干もみくちゃになるが、閑話休題。あぐらをかくような姿勢になった一護の膝に、巨大な斬魄刀が乗せられる……、スペースの関係上、一護はベッドの上でその姿勢になっているのだが。
「ハァ……、昨日も言ったが、斬魄刀は名と人格を持つのだ。持ち主である私や貴様の魂をかたどり、映しとることでそれは為される」
「魂を映しとる?」
「私も詳しくは知らぬ、それはもっと上位の権限にある話だ。…………だが、ある意味でだ。赤子が親の背中を見て育つようなものではないかと、私は解釈している」
「赤ん坊か…………」
「貴様のそれは、私の『袖白雪』を媒介として、おそらく貴様自身の斬魄刀の人格が育ちつつあるのだろう。そしていずれ、袖白雪が貴様から抜けると同時に、その斬魄刀は真に貴様のものとなる」
と、一連の話を聞いていて、一護の顔が変な風になった。訝しいというか、珍獣でも見るような目だ。それをルキアに向けている。向けられる側の彼女からしたら「一体どうした貴様」という感覚であるが、それを口にすれば少し口ごもっていた。
「い、いや、だってよぉ……」
「いいから話せ。何か気づいたことでもあるのか?」
「気づいたことっていうか…………、それだとなんか、俺とお前で子供作ってるみたいなことにならねぇか? 気持ち悪い」
数秒、絶句したのか頭が真っ白になったのか両者無言。
と、ルキアが和服の裾も何のそのと気にした様子もなく飛び掛かり、一護の腕に十字に関節を極めて倒れ込んだ。
「た、たわけか貴様ー!」
「痛ぇ! や、やめろテメェ! 大体そっちの言い方が悪いんだろ! っていうか外れる、マジで外れちゃうから、あ、アーッ!」
ぎりぎりと関節をあらぬ方向に曲げようとしながら、ルキアは照れた様子もなく続ける。
「あくまで例えだと言ったではないか、それにどちらかといえば袖白雪と貴様とでだろうに! 大体気持ち悪いとは何だ気持ち悪いとはー! こっちの方がゾワっとしたわゾワっと!」
「だったら聞くんじゃねーよ! っていうか刀とは作れねェだろ! その、そーゆー、赤ちゃんとかその……」
「照れるな思春期のガキめ! 大体、私に似て袖白雪はたいそう美人なのだ」
「その比較対象でどう美人だって想像すりゃ良いんだ……」
「あっ腕ーがぴょんとナー♪」
「ああああああああああああ、アーッ!」
再び閑話休題。
「っていうか、このポーズで瞑想するってのは判ったんだが、なんでお前まで魂になってんだ?」
「検証だ。もしかしたら私も、同様に刃禅すれば袖白雪の内に入ることができるやもしれぬと思ってな。……今の我々の状況は、ある意味で異常だ。袖白雪を介して、ひょっとしたら魂魄が交差しているような状態かもしれぬ。だから一緒にするぞ」
「一緒にやるって―――――」
「ふむ、つまりこうだ」
ぽす! と当然のような顔をして一護の膝の間に入り背中を預けて来るルキア。見た目は完全に妹がお兄ちゃんにでも甘えるような状態だが、本人たちにその意思がないため絵面として酷い物があった。漫画的に言えば、デフォルメ顔でドヤっとご満悦に「私天才だろ!」といわんばかりのルキアとこれまたデフォルメ顔で「いや馬鹿だろお前」と嫌そうな顔をしてる一護である。
もっとも「貴様の胸板は硬くていかん」とか「恋次より座り心地は悪くないが」とか謎の感想を言ったのち、結局膝からは抜けて、一護の前で対面に正座をし、右手を柄に伸ばす形で落ちついた。
「目を閉じろ、一護。意識を研ぎ澄ませるのだ。余計なことを考えず、ただ刀に語り掛けるよう、縋りつくよう――――意外と貴様は根暗のようだから、簡単に成功するかもしれんがな」
「誰がネクラだッ」
文句を言いながらも、しかしこうして教えてくれているのが、彼女なりの気遣いであるのは理解している一護。深く息を吸い、吐き、心を整え――――。
――――どうしてか母親の、今は亡き黒崎真咲の顔を思い出した。
※ ※ ※
『――――殺します』
『おい止めろ、いやアンタが朽木ルキア命だってのはわかっけど、ありゃ戯れてるってだけの話だろ』
『し、しかしィ! 我が使い手とあんなきゃっきゃうふふと接触し、あまつさえ肌を見ているなど、いくら貴方がたの主とはいえ生かしておけません!』
『って言っても全然そういう欲は出してねェけどな』
『好みではないのだろう』
『オッサンも随分言うなコレ……』
上空からゆったりと落ちて来る「死覇装の」一護と肌着の朽木ルキア。ご丁寧にはぐれねぇよう一護の霊洛を掴んでいやがる。
外の様子はおおむねここにいりゃ判る(ビルが横になろうが窓を開けて中に入ればテレビの一台くらいはあるので、外の映像が中継されてる)。が、まさか姐さんが少し一護がルキアといちゃついてるくらいで嫉妬心を見せるとか思わなかった。こりゃひょっとすると阿散井恋次相手にも相当酷いことになってるんじゃ……、蛇尾丸とも相性悪いんじゃね?
とりあえず窓から外に出て(姐さんには手を貸して最後に引っ張り上げる)、降りてきた一護と朽木ルキアを見る…………って、小せぇ……。マジでちんちくりんっていうか、可愛いって印象が強いが子供っぽいって印象も強い。とはいえ一護自身も性欲がないわけでもねぇだろうし、姐さんの危惧みたいなものは百パーセントハズレってわけでもないだろうな。
「やっぱり、見えねぇ……? いや、前よりはなんとなく影とかは判るか」
「一護? 何を言っておるのだ。見ろ、こんなにも貴様のひねくれた精神を現しているような世界だというのに――――」
「ひねくれたとか言ってんじゃねぇ! っていうか、は? お前は見えてんのか!!?」
「当たり前だろう、袖白雪は元々私の斬魄刀だぞ? 同調できぬわけもない。わけもないが……、よくわからぬな。私も、姿は見えるが声は聞こえぬ――――む?」
と、いつの間にかオッサンは姿を消し、俺の影に隠れてるらしい。そして朽木ルキアが俺を見て、指をさして呆然としていた。ギャグパートとかのデフォルメされたあんな感じだ。
「お、オイ、どうしたルキア?」
「あ、あ、アレは…………、いや、酷いなこれが貴様の魂の在り方を映しとったものだと? 見るに堪えぬ酷い顔をしておるではないかっ! もっと可愛い顔にしろ!」
「『いや無茶言うなよッ!」』
「どれ私がデザインしてや――――」
「『だから止めろって言ってんだろッ!」』
「嗚呼、相変わらず天真爛漫なルキア……」
俺と一護が同時にツッコミを入れる。どうやら一護にはルキアの姿は見えてるみてぇだが、それ以外は薄らぼんやりして見えているような状態らしい。シルエットくらいは判別できるってことか。だとすると「三人」いる状態は意味不明だしいらぬ誤解を与えかねねぇから、オッサンが隠れた理由もなんとなく察した。
というか、割とマトモなはずの姐さんがルキア相手には狂信者っていうかファンめいた振る舞いになってるのは一体何なんだこりゃ……。声が聞こえないってのをいいことに普段被ってる猫を捨ててるのか? それはそうとしてシバくぞ朽木。
『……あら? そういえばご年配様は? 白いの』
『せめてホワイトとか言ってくれねぇか……。いや、朽木ルキアまで来るかもしれねぇってなったから、混乱させねぇように隠れてんだろ』
『そういうことですか。しかし…………、会話ができないとなると、どうしたら良いでしょうか』
『一護には技教えてやんねぇといけねぇから――――』
と、こっちで色々話していると、ルキアが「おーい! 袖白雪ー!」と声をかけて来る。そちらを見れば、スケッチブックにすげぇ丸まった字で「これは見えているか」と書かれていた。
はっとした顔になる姐さん。そのまま自分もスケッチブックを取り出し、よく似たすげぇ丸まった字(書体が旧字体を略したモンだから更に訳分かんねぇ字)で「見えています、そちらはどうでしょうか」とルキアに向けた。
「な、何やってんだ? ルキア」
「うむ。袖白雪と筆談出来ないかと思ってな。お前もアレは見えるか?」
「なんかすっげぇ汚ねぇ字は――――」
「可愛い字と言え可愛い字と! 貴様、私の斬魄刀の筆に文句でもあるのかー!」
「『絵についてならいくらでも」』
「殴るぞ!」『凍らせますよ!』
「『おわッ!」』
思わず後退した俺と一護が並ぶ。と、袖白雪が朽木ルキアの元に寄っていく。
『行きましょう、ルキア。少し「躾」が必要なようです』
「何を言っているかは聞こえぬが、感じるぞ? お前も今、私と似たようなことを考えていると――――舞え、『袖白雪』」
その一言と同時に姐さんの姿は解け、ルキアの手に純白の、帯を持った斬魄刀が――――。
「な、何だ、それ……?」
「ふふん、どうだ美しいだろ?
これが斬魄刀の『刀剣解放』。己の刃と同調し、心を重ねることで、その姿と力をより己の心に準じたものへと変化させる――――このようにな!」
――――次の舞・白漣。
地面に一か所突き刺し、刀を振るう。と、そこを起点に雪の波が荒れ狂うよう現れ、一気に流れ出す。声を上げて逃げようとする一護だが、まだ自覚的に空中を走ったりすることはできねぇ。
『仕方ねぇな』
仕方ないので一護を腰から抱え、瞬歩で空中へ移動し座標固定。
「おわ!? な、何……だ? 何で俺今浮いてるんだ!!?」
「たわけ、それは貴様の斬魄刀だ! 貴様のその全く可愛らしさのない斬魄刀が、貴様を抱えて飛び上がっているのだ!」
「『可愛らしさは別にいらねぇ」』
「ああ言えばこう言う……!」
――――初の舞・月白。
いつの間にか地面に円を描き、そこに氷柱を立てたルキア。何をするかと思えば、その柱へジャンプして切り傷を複数個所つくり、こちらの高さ関係ないくらいの位置から白蓮を使ってきやがった。
一護に見えてねぇってのは色々思う所はあるが、だからといってこのまままとめて氷漬けにされるってのは、(多分ギャグパートだろうが)癪に障る。
『――――閃け、斬月!』
「ほぅ?」
俺の出した斬月の姿を見て、驚いたような顔の朽木ルキア。たぶんまだ人格の映しとりが終わっていない状態、つまり「己の姿を形どれない」だろうと考えていたんだろうが、そのあたりは生憎だったなぁ。
抜刀しないままそれを上に構え、霊圧を乗せ――――オッサンが自分の分の霊圧を混ぜてくれてるのか、それは虚じゃなく滅却師の色をしていた。
『月牙、天衝ォ!』
瞬歩くらい使えるだろうとタカをくくり、全力で振り下ろす俺。基本は連射するのが使い方といえば使い方だが、別にこの技自体の威力を否定はしねぇ。っていうか、普通に強い威力を連射できるっていうのが持ち味だから、特に問題なく一発で雪崩も氷柱も消し飛ばした。
煙が上がるそれに、「なん……、だと……?」と呆然とするルキア。そして何が起こったかいまいち理解できていない一護に、我に返ったルキアは言った。
「一護、貴様の背負うその巨大な斬魄刀に、自らの霊圧を込めてみろ」
いや確かに「俺の出自」的に解放前とはいえ別に月牙放てない訳でもねぇだろうけど。あれ、ひょっとして月牙の正体を一発で看破してきたか? 事前情報も無しに一体……。
って、そういえば志波家とは縁がそこそこあるか。それなら黒崎一心の開放や技を見てても不思議はねぇ、のか?