メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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過 労 死 要 員 交 代 の お 知 ら せ (■■■■のおっさん)
 
一護、ついにタブーに触れるの巻


#051.アローンズソゥノットアローン

 

 

 

 

 

 ドン・観音寺の登場は黒崎一護にとって正直理解不能だった。いや、それこそ…………例えば、旅先で尽きた旅費を賄うべく農家のアルバイトにて畑で雲丹(!?)を栽培することになった一行が温泉でぐつぐつ言ってる土壌を耕しているとモグラの姿をした密猟者(?)が「鼠小僧参上!」と叫び土中に戻ろうとしたらモグラたたきが始まり最終的にモグラを追って土中に入れば全員がごぼごぼと温泉で溺れ酷い目に遭ったと自ら這い出たらその先はいきなり雪国になっており「市長」と書かれた仮面を被った男が衣服を手渡してくれたと思いきやそのまま温泉の底なし沼に落とされかけ反抗していると「私がお前の父親だ!」と言って仮面を外してそこにはボ○ボボそっくりの顔をした何者かが現れたと思いきや「泥棒は嘘つきの始まりヨッ!」と所謂オカマ口調で頭をスパーンと殴り飛ばし、ヒロインと思われるピンク髪の少女から「そーなの!!?」と突っ込まれているようなコミックの展開くらい意味不明である。

 いやだから何でまたこんなことを考えているのかと自分にツッコミを入れ直すような勢いであるが。一護としては、白昼夢の中にこのおっさんが出て来ることの意味が本当に不明だった。

 

『それで良いではないかマイ弟子一号。悩んで良いのだ。苦しんで良いのだ。悲しんで良いのだ。

 ユーはまだボーイ! 誰が何と言おうと、ヒーローに護られる子供の一人なのだから!』

「いや、だとしてもアンタ、俺守れねェだろ……?」

「ボハハハハ―――――! あまり痛い所を突いてくれるなボーイ……」

 

 思わず素のテンションで返せば、自分のイメージで描かれているだろう癖に本物さながらにオーバーなリアクションをとってから膝を抱え落ち込む観音寺。とはいえ適当に「あーまー悪かったよ!」とか雑に慰め続けると数秒で「ボハハハハッ!」と立ち直るあたりは流石というべきだろうか。一護自身、もうちょっと観音寺は大人の人格だったと記憶しているので「俺の中の無意識のおっさんのイメージ、こんなのかよ……」と困惑せざるを得なかった。

 なおその間、当然のように白昼夢の井上たちは身動き一つとっていない。どうやらこの白昼夢で、時間が進んでいるのは「色のついた」一護とドン・観音寺の二人のみであるらしかった。

 

『まあ細かいことはさておいてだマイ弟子一号! いやボーイよ!』

「いや、あんま子供扱いすんなっ!」

『そう言っているうちはまだまだボーイはボーイよ! ジェントルにはまだまだ遠い、こう……(ダンディズム)とか諸々なんか色々もう足りないのだ!』

「まだ髭生えるような年じゃねェっての! って、いや、まァそう言われりゃ子供ってのには言い返せねェけどよ……」

『ボハハハハ! だからボーイよ。何故そんな、一人だけで抱えるのだ? 何故分かち合わないのだ?』

「一人で?」

 

 相変わらず素っ頓狂なテンションであるが、しかしビシリ! と一護へ指を向けて放たれた一言は、流石に無視できない。自分の胸元を見つめ、そこを左手で拳を作り、握り、内側で暴れる感情を抑えながら一護は口を開く。

 

「…………言える訳、ねェだろ。こんなの言ったって仕方ねェし、もし本当に理解されちまったら……、そんな涙なんて、見たくねェ」

『感情を抱え、それを仮面のように覆い隠しながら前進する。なるほど、確かにそれはヒーローだ。なるほどヒーロー見習いのマイ弟子一号として、ユーのそれは正しい。

 だがボーイ。繰り返すがボーイ、ユーはヒーロー見習いであると当時に、まだ子供なのだ。大人が守るべき、守られるべき子供でもあるのだ。そして――――』

 

 観音寺は両手を開き、頭上に腕を掲げる。その視線の先に、曇った空の隙間から、光が。

 世界に「色」をともす光が、降り注ぐ。

 

『――――ユーの仲間は、ユーの友は! そんなユーを見てどう思う? 胸が、張り裂けてしまわないだろうか?』

「――――――――ッ」

 

 色のついた、石田。チャド。織姫。そしてルキア。それぞれの視線が、一護に突き刺さる。先ほどまでのようにどこか痛みをこらえるような表情であり……、だからこそ観音寺の言葉は、その視線に違った意味を与える。

 こんな顔にしないために自分が戦わなきゃいけない、という焦燥感を。

 俺一人だけでどうにかしないといけないと抱え込んでるからこうなってしまうのか、という焦燥感に。

 

『ユーが恐れているのは、ユーが悲しんでいるのは、どんなに辛く悩んだとしても! それでも「殺す」と言う意思を持つことが出来てしまうからだろう? その先に、それこそ殺意をもとに怪物のように暴れる様になってしまいやしないか? 暴れた先で、守りたかった人たちを傷つけてしまいやしないか?』

「それは、…………」

『大いに悩むと良い。大いに嘆くと良い! それがユースエイジ(青春時代)に許される、子供として当然のことだ。だからこそ、私たち大人がいる。だからこそ――――ユーの仲間たちは、ユーと共にあるのではないか! ユーが助けるために! そしてユーを助けるために!

 迷惑結構! 大人数の喧嘩とは、背中を合わせ合った方が上手くいくのだろう?』

「…………そう、なのかな」

 

 涙声で、震えながら。一護を見つめる仲間たち――――例え白昼夢の幻だとしても、その彼等の微笑みに、一護は俯いて、顔を上げることが出来ない。

 

「オレ……、たよっても、いいのかな?」

 

 どこか幼い響きの声が、零れる。果たしてそれは、自分の無力と軽率さで母を失った時からか。いつ頃からだったかは、もう一護にも思い出せまい。

 そんな一護に、観音寺もまた微笑み、その肩を叩く。

 

「それに、居るではないかユーには。ユーがどう思っているかはともかくとして――――ユーのことを考えて共に戦い、ユーを助けてくれる者が」

「――――――――」




 

 

 

 金属音が響く。斬魄刀同士の激突で、お互いが後方に跳ね飛ばされ――――しかし、そこで一護の感覚は「完全に元に戻った」。振り払った斬月の勢いで、一護の全身にまとっていた白い炎は姿を消したのだ。

 お? と虚の一護が、一護の方を見て面倒そうに頭を左右に振る。「こりゃまた火輪を起こすところからかァ?」とブツブツ言ってる言葉が、うっすら聞こえる。

 

 一護はうつむいたまま、斬月を右手で構えながら、息を整える。

 

「そう、だよな。…………本当、意味わからねェし、どういう魂胆かも全然わからねェけど。それでも今、俺をどうにかしないといけないって、そう思ってやってるってのだけは……、間違いじゃねェんだよな」

『あン?』

 

 一護の気配が変わったと、何かを感じたのか遠方で「ぎゃう?」と何かを期待するような目を向ける振子雪。

 白一護は訝し気な視線を向けたまま、斬月を両手に構え直す一護を睨む。

 

『何か吹っ切れたみてェな顔していやがるが、この世界ってのはそう都合よく出来ちゃいねェぞ? 漫画とかにある覚醒とかみてェな都合のよい展開は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。兄弟も飛び切りと言えばとびきりだが、そいつは順当に必要な工程を踏んで初めて生きる素養ってモンだ』

「わからねェよ、そんな話。だから――――」

 

 そして斬月の切っ先を前方に、まるで斬魄刀を解放する時のような風に構え。

 

「――――――全力で、死ぬんじゃねェぞ!」

『お? お、おおおおッ!? なん、だァ――――!!!?』

 

 途端、一護の全身から火輪が吹き荒れる。先ほどのそれで感覚を覚えたのだろうかと白一護(ホワイト)は警戒するが、それと同時に自分から滅却師(鞘の斬月)の力がわずかに流れ出すのを感じて、顔をしかめる。

 漏れ出た黒い影は、そのまま無自覚に霊力を放射し続ける一護の、白と黒の乱れる火輪に混じり。

 

 そして、その姿は変容する。

 

 死覇装にまとわりついた黒い霊圧と、白一護から漏れた黒い霊力とが混じり、さながらそれは不定形のコートのように死覇装と混じり、シルエットを揺らめかせる。

 その上で、残りの白い火輪が一護の全身を覆い。しかし今度のそれは、一護自身を焼くことはない。 

 

 斬月を振り払い、正眼で、一護は白一護を捉える。

 

 雨が晴れ、良く見えるようになった相手の姿を。

 

「行くぜ」

『オイオイ……』

 

 瞬歩――――先ほどまでより、より強く、早く加速する一護の感覚。

 その流れの中、白一護が斬月だろうあの斬魄刀の鎖に指を引っかけ、引き抜くように二刀に切り替える様を見る。

 

 そして長刀の方を回転させ○字衝(えんじしょう)を作り出すと、そこに小刀の方の斬月を突き入れ――。

 

『――――月牙◎字衝(げつがりょうじしょう)ォ!』

 

 その動きに合わせ、円盤の月牙の側面の円形にそって、そのままの形に霊力が放射される。

 さながら、先ほど一護の見た白昼夢のそれのように。そしてそれと異なり、形状は円柱のような状態のままに。

 

 だが、今の一護の認識はそれに負けることはない。

 

 正面から斬月の刃で受け、少しそらし、流す様に前進し。お互いの力と力が上手く逸れ、受け流す様に刀を下に振りかぶる。

 

「月牙ァ――――」

『チッ――――』

 

 そして、身に纏う火輪を「そのまま」斬月に纏わせ。纏わせた斬月のそれを斬るようにしながら、振り上げ、叫ぶ。

 

「――――天ッ衝ぉぉおおおおおおおおおッ!」

 

 そして、斬り上げた一護の一撃は。

 白一護(ホワイト)が回避するのも防御するのも間に合わず、そのまま彼を飲み込み――。

 

 

 

『ぎゃあああああああああああ、ぼぁん! ぎゃーぎゃん! ぎゃーぎゃん! ぎゃーぎゃんぎゃーぎゃんぎゃーぎゃんぎゃーぎゃん!』

『喜んでいる場合ではありませぬよ、私たちも逃げますよ子雪!? というよりも、あなたー!? 本当に大丈夫なのですよね、あなたーっ! 未亡人でもないのに未亡人にしないで欲しいのですが、あなたーッ!!?』

 

 

 

 そのまま剣の軌跡一帯の延長上……、つまりは袖白雪たちがいたビルの壁面どころか、前方一帯そのほとんどのエリアの、内在世界内の建物という建物を飲み込み、跡形もなく消し去った。

 袖白雪が大混乱した物言いをするのも無理はない。

 

 おそらく自分の心象風景や精神世界みたいなものなのだろうが、それでさえここまで粉々にぶち壊すほどに。一護は現在、本当の意味で手加減と言う手加減をしていなかった。

 

「こんなことが、出来るのか、俺に……」

 

 そもそも一角と戦い街への被害を自覚する前から、一護自身、無意識では気付いていたのだ。本当の意味で自分のありったけを斬月に乗せれば、一体何が起こるかということなど。ましてやそこに、絶対に相手を倒す、殺すと言う本能を、意志を、それらが揃った強烈な殺意を乗せたのなら、なおのこと。

 そんな一護の背後から、また何か呆れたような声がかかる。

 

『だったら要コントロールだなァ。まァ、元々仕様外の使い方してる時点でどれくらいかっつー話でもあンだろォが』

「って、おわッ!? てて、テメェ、いつの間に……!」

 

 そこには斬魄刀を背負い、どこか疲れた様子の白一護。思わず反射的に斬月を構える一護だったが、しかし相手からは完全に殺気が感じられない。おずおずと、どこか納得がいかないように自らの剣を下ろし、改めて相手の顔を見る。

 

「……何でテメェ、本当、そんな悪党みてェな顔してンだよ」

『喧嘩売ってンのか兄弟ッ!!!?』

 

 それさえなければもう少し、話を信じられなくもないのにと。特に意識せず出てしまった一言に、しかし白一護はキレた。

 

『てめェ……、何当たり前みてェな顔して禁句(タブー)言っちまってンだよ!!? 大体そいつァ、鏡見てから言え鏡見てからッ! 毎日毎日顔見合わせてる悪党面がそこにあンだろォが!』

「はァッ!? 俺の方がどう見たってフツーじゃねェか、フツー! 石田にだってンな暴言、言われたことねェぞ!」

『おーしおーしてめェがその気だってんなら、今度表に出た時に井上とかたつきとか朽木の奴に有るコト無いコトガンガンブッ込んでやろォか!? あァ!!?』

「あー! テメェ、井上は反則だろ! というか何をブッ込むって――――」

『水色の野郎ォが悪戯で流した、例の噂のさらにエスカレートしまくった奴とか? 朽木の奴と公園で(アオ)カ――――』

「止めろォ!? っつーか、水色のヤツ何言ってやがンだ!? 完全に事実無根じゃねェか!」

『事実無根だろォが兄弟、朽木の奴の飛び蹴り顔面に食らう時思いっきり中身丸見えなの注意もしねェからなァ…………』

「何度言ったって『ガキが』って言って改めねェんだよアイツ!? ていうか知ってンだろテメェ! どうせ一緒に見てンじゃねェか! あの白パ――――」

 

 

 

『――――二人ともそこに直りなさい。それ以上は殺します』

『しますー?』

 

「『は、ハイ…………』」

 

 

 

 話題が途中で朽木ルキアを交えたシモの話になったせいか、彼等の丁度間に立つように、袖白雪がお茶の間にお見せ出来ない表情のまま斬魄刀を掲げて、二人を睨んでいた。なお例によって振子雪もまねっこして遊んでいるようだが、どうやら殺意の根幹の感情を理解するにはまだまだ早いお年頃であるらしい。

 空中に正座するノリの良い、ある意味でそっくりな二人を前にため息をつく袖白雪。かかあ天下というか、力関係でいうと一護とてこの場では逆らえないらしい。

 

『全く、話せるとなるとつい遊んでしまうのですから。お気持ちはわかりますが…………、ちゃんと言ってあげなくて良いのですか?』

『あ? あー、そうだな。兄弟』

「何だよ…………」

『さっきのアレ、もう一回出せるか?』

「ん? いや、出せなくはねェけど……」

 

 言いつつ、一護は目を閉じる。それと同時に、どろりと白と黒の霊圧が右腕から漏れ出し、大体手から肘までのあたりを覆うように延びる。変形し、黒い方はやはりどこかコートめいたものに。白い方は、たゆたう炎のように。

 

『霊力が切れたっつーか、気が途切れたって感じだなァ……。メンタル面も鍛えなきゃいけねェってのは、どーにかなんねェか? こりゃ』

『流石にルキアの十分の一程度しか生きていない子供に、それを求めるのも酷だとは思いますが……』

『ぎゃうう…………、熱くない!』

「いやお前は触んなって、危ないかもしれねェだろ…………」

 

 自分の右腕に興味津々な子雪を左手で遠ざけて、同時に「ん?」と違和感を覚える一護。しれっと人語を話していたことに対してようやく違和感を覚える余裕が出来たと言う事なのだが、その追及をするよりも先に白一護が肩をすくめて言った。

 

『とりあえず、外で使う分にはもう少しマシになるはずだ。その時は、オッサンがちゃんと協力してくれンだろォからなァ』

「おっさん…………、斬月のおっさんか!?」

『あっちは、何だかんだ過保護だからなァ。ただ気を付けろ? さっきのアレは、「殺意を纏って」「それ以外の想いで」戦ってるっつー状態なんだろォが。本来そいつァ、想定されているような使い方じゃねェ。

 今はまだ釣り合ってンだろォが、バランスを少しでも崩したらまた死にはぐるようになるぜ? ――――俺だって、お前の「本当の」全力は制御できたモンじゃねェからな』

「いや別に、意図してこうなってる訳じゃねェっていうか…………嗚呼、わかった。だけど」

『あ?』

 

 立ち上がり、一護は白一護(ホワイト)を見やり。そして「あー」だの「んん……!」だの色々言い淀んでから。彼に背を向け、ぼそりと言う。

 

「…………アリガトよ。梅針の時も、力、貸してくれて」

『――――――――――――』

 

 きょとんと、あまりに想定外すぎて呆然とする白一護と、一緒に驚いた顔をする袖白雪。

 一方の振子雪は全くそういった機微を察する気が無いらしく、表側に回り一護の表情を見て「真っ赤!」とか「かわいい!」とか連呼し、うるせェ! と怒鳴られ「ぎゃ~~~!」と大層楽しそうであった。

 なお白一護はといえば、そんな一護の言葉に空を仰いで。

 

『………………そういうのはオッサンにも言っといてやれ。クールっぽいけど内心結構泣きやすいぜ?』

「えっ? いや、お、おぉ。ありがとよ、おっさん!」

 

 叫ぶ一護の声が、件の相手に届いたかは定かではなかった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「邪魔や変なオッサン! どっか行き、けちょんけちょんにハンバーグみたいになっちゃうやろがいッ!」

「くぅ……おてんばボーイ一人護る事の出来ない、ふがいないこの私を許してくれ……。

 だが! それでも私は、マイ弟子一号にヒーローの精神(ソウル)を! 届けばならぬのだッ! 何よりこの私とて、幼気なボーイを庇うくらいは出来ぬわけもない!」

「あー! また男言ったこのオッサン! 女の子や言っとるやろがい、見えんかいこのシャツ越しおっぱいの線とかおへそとか鼠径部! って、()()()の奴より話聞かへんねん!?

 ハッチ、本当にわざと入れたん違うよな? あ゛!? 訳わからんわこのオッサン! 返事くらいせいッ! 何やってんやッ!」

 

 仮面の軍勢(ヴァイザード)による暴走した一護の足止めは、熾烈を極めていたのだが。状況はとあるタイミングを起点に、大きく変化していた。

 具体的に言えば、ほぼ虚となった一護の動きが「さらに」精彩を欠きはじめ、放出する霊圧や移動速度、威力の一つ一つに至るまで落ち込んでいる。なんなら平子真子が戦った際の「感じ取れない」状態だった霊圧すら、とにかく膨大であるということが判る程度には落ち込んでいるのだった。

 

「視える……、視える気がするぞボーイ、ボーイのその悲しみが! 嘆きが! たぶん!」

 

「絶対何も判ってへんやないかいッ!」

「たぶんて言っちまってるじゃねぇか……」

「つーか、ホンマ一護の奴、威力弱くなっとるわ……。何かあるんか、あの変なオッサン」

「師匠とか言ってたが、どう考えても眉唾だろ」

 

 その鍵こそ、カリスマ霊媒師(自称)たるドン・観音寺。

 彼が出現してからこそ、一護の虚の全身を覆う黒い靄のようなものがさらに激しく、強く、虚の一挙手一投足を厳しく妨害し、制限しているのだ。

 逆にその観音寺を結界の外に出そうとすれば、虚の力がさらに強まるように外からは視える。どうやらこの男に関しては、何故か一護の虚の力も攻撃を加えたくないような、微妙な動きを示していた。

 

 おかげで現在、ひよ里が辛うじてでも虚化した一護と斬り合えているのであるが。それ故に彼女もまた、観音寺を引き連れながら戦わざるを得ず。そして当たり前のように、その謎の変なオッサンを痛めつけるようなことをする人物でもなかった。

 つまり、あえて肉壁のように使うことも無く、庇いながら戦わざるを得ないのだ。

 それにより敵の動きが大きく鈍るとはいえ、個人主義者集う仮面の軍勢(ヴァイザード)で過ごした期間から考えれば、中々に皮肉な状況であった。

 

 そして何よりこのオッサン、引きずられていようが何していようがとにかく煩い。

 

「ボハハハハ! 正直、今のボーイの気持ちはわからない! だが、それで良い! 良いのだボーイ! (バッドスピリッツ)に侵されてなお、ボーイから感じるボーイの霊力(スメルズ)! ボーイの心が、想いが! ボーイはそれで良い! ユーはもっと、大勢に頼って良いのだ! そのためにユーの友達はユーの傍にいる! 私のような大人も! お父君もユーの傍にいる!」

「単に霊力、共存しとるだけやろがい――――って、何でオッサン、そんなモンわかるんや? 今の一護、ほとんど一護の霊圧感じられへんねんけど」

「ボハハハハ――――! 当り前さボーイ、何故なら私は! お茶の間の子供達が明日朝日をあびるまでのオヤスミのトイレを守っているかもしれないヒーロー! カリスマ霊媒師、ドン・観音寺なのだから!」

「まともな回答期待したこっちがアホやった……、って、だからボーイ違うわっ!」

 

『――――――――』

 

 そして、明らかに力加減がおかしくなりつつも振りかぶった短い方の刃。それを振り下ろし、同時に地面から放射状に放たれる広範囲の衝撃波。

 わざわざこの男を連れて逃げているが故に、瞬歩をこの特殊義骸越しで行うのに若干のラグがあることも重なってか。タイミング悪く、ひよ里たちはその直撃コースに立っており――――――――。

 

 

 

「ハイ! 今デス、皆さん(ヽヽヽ)!」

 

「『三天結盾(さんてんけっしゅん)・私は拒絶する』――――!」

「――――伍の舞・白鎖(びゃくさ)!」

 

 

 

 そんな声と共に、ひよ里たちの目の前には霊力の盾のようなものが形成され。

 攻撃を仕掛けた虚化している一護は、周囲から伸びた数多の「氷の鎖」に巻き付かれ、拘束。その場で唸り声を上げるばかりであった。

 

 

 

 

 

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