所属隊は知らない。いつ現世に来たかも覚えてない。ただ連中は直感で倒さないといけないと思った。
それだけであった。茜雫から事情を聞こうにも、はぐらかされ続けチャドと合流も出来ない。結局、肉体に戻った後に織姫、一護、ルキアの三人で色々質問した結果、導き出せた答えはその程度。途中でチャドと連絡を取って合流しようとしたが、流石にまだまだ食べ残しているものが多く袋詰めなどが必要と判断。織姫が「待ってて茜雫ちゃん!」と笑顔で言って、チャドのサポートに向かったが。その隙をついてひらりひらりと逃走を図った彼女。
「たく、出てこいコラッ! 本当にガキンチョじゃねェか……」
「箸が落ちても面白おかしい年ごろ、と言うやつだな」
「その例えはその例えでどうなンだ? アイツもお前も見た目通りの
「む? 嗚呼これか。今、恋次にも連絡を取っていてな。どうやら現世での間の通信は成立するらしい。
断界、つまりは現世の
例の携帯電話のような装置で連絡を取っているルキアは、ぼそぼそと電話越しに色々と確認する。向こうから『じゃあ、俺が一度向こうに行ってみるか? 非常事態っつーことで反省文も出ないだろうし』と恋次の声が聞こえるのに、少し困惑する一護。あの謎の霊体、そこまで異常事態なのだろうか。
そもそも虚のように人間を「食い殺している」様なわけでも無いし……。
「って、そんな話じゃねェな。えっと、茜雫の霊絡は…………って、見つからねェぞ!? アイツどこ行きやがったんんだっ」
周囲に漂わせる無数の霊子の帯から色付きを探すが、きょろきょろ見回すだけで一護は叫ぶしかない。おおよそ色がついているものが周囲に見当たらず、なんならルキアから伸びているものすら色はほぼ白なのだ。彼女の場合は
すなわち、霊子の残滓……、痕跡すら残さずに逃走を図っていると言う事なのだから。
マジでどこ行ったんだアイツとブツブツ呟いていると、そんな一護の視界にゆらゆら赤い帯。茜雫か? と思いそれを手に掴んでみるが、どうにも手触りの感じが違う。訝しげな表情の一護。なんとなくこの感じは、少し見覚えがあると言うか、相対した覚えがある霊圧というか。
まあ手掛かりはないとばかりにその帯を引き、辿るように歩いた先では――――。
「何やお前、霊術院入り直したんか!?
「普通に休隊しとったんに、わざわざ入り直すとかそないな事有らすかあや?」
「いやマジで勘弁してくださいって! お、俺だって色々都合っつーモンがあったっていうか……、というか今の名前だって
「平子真子……!?」
「平子!? というか話してるのって前のおっさんじゃねェか!」
思わず一護とルキアのリアクションが揃うのも無理はない。霊絡の先に居たのは、三人。一護が握った帯ではない別な帯二つ、「帯の根本だけに色がついている」二人は、平子真子と彼の仲間の眼鏡なセーラー服少女(少女?)。平子も平子で空座高校の制服姿であるが、右手に松葉杖をついており見ていてどこか痛々しい。そんな彼の左側から時折支える少女は少女で、コンビニの手提げから「ヤング」とかタイトルが見えるグラビア写真つきの週刊誌らしきものを手に持っていた。
いや、まあこのあたりでも十分お腹いっぱいであるが、そんな二人に揶揄われるようにされて絶叫を上げている男こそが、ある意味で一護にとって衝撃である。
「というか何で二人とも生きてるんだよ!? 報告しない訳にいかなくなるじゃねェか!!?」
「いや何言うてるんや……、そっくりさんやろ」「そうやあね、世の中三人は似た顔おるし」
「俺に! それで! ゴリ押ししろと!?」
「何や、情勢キナ臭いんはお前も思っとるやろ? そうでもなかったら、わざわざこっちに来やせぇへんし」
霊体にごくごく一般的な死神らしく死覇装。広がった笠をかぶる少し浅黒い肌は、一護もルキアも見覚えがある。それこそ比較的最近、半年以内の出来事として記憶に新しい。以前、母親の墓参りの日。ルキアと相対していた、あの死神だ。
と、平子達と話していた彼はふと気づいたように横を見る。「お?」と声を上げた後、ひらひら手を振り「お~い! 久しぶりだなツンツン君!」と軽い調子だ。嗚呼、本当にあの男ではないか、と改めて一護も納得するが、嫌に親し気に平子達と話していたのが気になった。
というかそれ以前に。
「あれ? おっさんて俺の名前知らなかったか? ……というか俺もおっさんの名前知らねェぞ!? あれッ!!?」
「お? そういやルッキャちゃんはともかく、ツンツン君には名乗ってなかったか? いやしかしまあ何と言うか、あの後も色々大変だったみたいでなぁ……。おじさん同情するわ、うん、ツンツン君」
「貴様は向こうで一護については、名前くらい連絡は受けているだろうに。
……
「隠密機動?」
「おう! 予備役で、普段は流魂街で探偵やってる感じだぜ」
「るこ……? というか探偵ねェ…………って、平子? あれ? どこ行ったアイツ?」
知らない単語が飛び交い、なお二人そろって説明がない。必然反応が適当にならざるを得ない一護であるが、気が付くと平子達の姿がない。「あー!」と声を上げ指さす榮吉郎。その先では、丁度セーラー服の少女が平子を肩に担いで「霊圧を爆発させるような」速度でその姿を消すところであった。しれっと一護に「ほなな~」と軽く手を振る平子は平子で何を考えているのかさっぱりわからないが、そんな彼らを見て「俺の仕事が増えるじゃねぇの~!?」と頭を抱える榮吉郎がある意味で一番哀れである。一護には事情が理解できないものの、彼にも彼で色々あるのだろう。
「っていうか、大怪我じゃねェか平子のやつ!? いや、そういうことはちゃんと言えってんだよアイツ……」
「(気を遣わせたくはないということだろうな、一護に……)」
「何か言ったか? ルキア」
「…………別に。それはそうと、おい! 貴様」
膝を抱えていじけだす彼に、ルキアは傘を捥ぎ取るように剥ぎ(?)声をかける。
「
「お? ルッキャちゃんてばせっかちだなぁ。
というか二人とも…………、はは~ん?
「「違う」」
というか逢引とか古いなァ、と疲れたようにため息をつく一護。今は夏休みであるが、学内での噂のされ方を思えばその気疲れも納得であろう。なおルキアはルキアでその類の話をまだ然程耳にしていないので「む?」と少し不思議そうなものだが、一護に関しては噂を加速させてるのは「面白そ~う」と愉快犯的な動機の友人だったりすることは、流石に一護も自覚がない。
ちぇっつまんね~の、と唇を尖らせた榮吉郎は立ち上がり、少し首を回すと表情を渋いものにする。
「今現世、大体おやつの時間か?」
「時間、関係あンのかよ」
「少しはな。……今日の大体昼頃だったか、尸魂界の上空にやべェものが映り込んだ」
話を続ける栄吉郎。とはいえその説明もいまいち要領を得ない。
尸魂界の上空に現世の街……、何故かここ空座町を中心とした街々が映り込み、それがどうやら徐々に近づいているらしい。それとほぼ同時に、尸魂界で技術やら何やら研究しているらしい場所で現世に何かよくわからないものが入り込んだのを計測し、同時に通信が安定しなくなったとか何とか。
「わかるようなわからねェような……」
「ま、ソウルソウルしたような話だからなァ」
「何だよそのソウルソウルっつー形容詞」
意味不明な言い回しだがニュアンスだけは何となく伝わるためげんなりする一護と、そんな彼に「仕方ねぇわな!」とばかりに笑う榮吉郎。
らちが明かぬとばかりに、浦原商店に行こうと提案するルキア。おそらくあちらならもっと細かい情報を持っているだろうと踏んでの一言であったが、一護は一護で見当たらない茜雫に聞こえるだろうくらい大声を張り上げて言い残す。
「あー、…………ま、まァ、蛇の道は何とやらか」
そして、一応業者としちゃ色々な意味でグレーなんだがなァ、と浦原商店に密かにため息をつく榮吉郎であった。
※ ※ ※
「なるほど、おおよそ事情はつかめた。…… 一護、わかっておるのか貴様?」
「…………何の……、ことだ……………………?」
「かなり噛み砕いていたと思うが、何故わからぬ…………?」
「駄目そうだなぁツンツン君」
「まァいきなり耐性もないところに、ソウルソウルした世界の理屈で殴られても困惑するだけっスからねぇ」
『そりゃソウルソウルした理屈ならなァ』
『ぎゃーんぎゃ』
『あの、流行っているのですかその言い回し……?』
姐さんがそんなことを聞いちゃ来るが、まァこういうのはノリだ。深く考えるようなものじゃねェ。
ビルの一室から抜け出して壁面で子雪を遊ばせていると、一護の視界の映像が足元のビル壁面に映り込んでいる。どうやら現在起こってることの事情説明をされている流れだ。
どうやら阿散井のやつとは入れ違いになったみてェだが、いや、確か映画だと現世に来てるの日番谷隊長とかだったんじゃねェか? 何でまた、アニメでちょっとだけ出たゲスト死神みてェなの来てるんだよ……。一護も名前知らねェあたりからして扱いが扱いじゃねェか。
まあそんな俺の愚痴は置いておいて。「仕方ないなぁ」とちょっとまんざらでもなさそうな顔になりながら、少しウキウキしつつへそ出し衣装の腹側から胸元側へと手を突っ込み(!)、朽木の奴はごそごそと音を立てて何か取り出そうとし――――。
『見てはいけませぬ!?』『ぎゃう!』
『あァ……?』
いきなり背後から姐さんが俺の目を目隠ししてきた。……背中に当たる感触がこう、布の柔らかさ「だけ」がメインの感じで色々と物悲しいっつーか、持ち主と斬魄刀との関係としての悲哀を感じるっつーか。
まァ多分だが、色々あさってる朽木の奴の裾が捲れて一護「には」色々見えちまったんだろォな。とはいえ目つぶしじゃなくて目隠ししてくるあたりに、姐さんとだいぶ打ち解けて来た感が強い。とはいえ別に朽木くらいの身体見たところで特に何ともないっつーか、ちんちくりんのままここまで来てるしそもそも妻帯者だからなぁという
まァ、わざわざ騒いだり振りほどいたりする話でもねェ。あとついでに言えば、姐さんが本当に隠したい一護についちゃモロに丸見えだろうし……、揶揄う材料が増えたなくらいに思っておこう、ウン。
で、姐さんに解放されて最初に見た光景は、一護に服の裾を直され「すまぬな」とか言いつつも、取り出したアイテムを「じゃじゃーん!」とばかりに見せつける朽木のやつ。
言わずと知れたスケッチブック――――つまりは、いつものアレだな。
「どれ、ここは私がわかりやすく、
「いらねェ」
「む、何を掴むか一護。貴様のためを思って、懇切丁寧に一枚一枚命を削りながら描いてだなぁ!」
「いらねェ、というか頼むから止めろ、もっと訳わからなくなるじゃねェか~~~~!」
叫ぶ一護の奴はともかく。映画だと
丁度このタイミングで、井上やらチャドの奴やらがマ〇クの袋(マッ〇じゃねェけどどう見ても〇ックのやつ)をいくつか抱えて持って来て入室してくるんだが…………。井上については楽しそうなのは予想できたんだが、チャドについては一護ほど大きく文句は言わないが冷汗はかいてたな。正気か!? くらいには思ってそうなあたり、朽木のやつの微妙な天然ぶりは承知なんだろう。
「まず、魂魄が活動する世界は大きく分けて三つ。今私たちが生きている『器子で満ち溢れた』現世。我々死神が活動する『魂のふるさと』
「ウェコムンド……?
「知ってるのか? チャド」
「スペイン語だな」
へぇ~、と頷く織姫と、その隣で半眼のままルキアのどれも一緒にしかみえないウサギ風なイラストに困惑する一護はともかく。……というか、井上の奴が来た時点で
「これらの世界を繋ぐ無限のような空間を断界といい、魂魄は通常、地獄蝶の導きをもってこの断界を介し世界を行き来する。
だが技術開発局の観測結果によれば、三日ほど前にこの断界に新たな空間が観測された。この空間は徐々に拡大していき、現在では現世と尸魂界に接触、というより
ここまでで質問は?」
「何となく判るような、判らないような……」
「新しく出来た? 世界の顔、可愛い~!」
「お前の絵じゃ無けりゃもっとわかりやすい」
まあ、ファンシー極まってるヘタウマタッチのよくわからねェ描き分けで説明されりゃ一護のようなリアクションにもなるわな。というか全員「わかった」とは言ってないのがポイント高ェ(?)。
チャドと井上の感想には何も言わず、一護の反応にはハリセン一発で答える朽木……ってそのハリセンどこから出した!?
と、ここで
「この意味不明な状況状態の調査と霊波の計測のために、予備隊含めて俺達隠密機動も駆り出されるわ、空間侵入のための調査に尸魂界から隊長格も動きだしたっつー話だ。
ま、よく遊んでる近所のチビ共も怖がってるし? 俺としても気合が入るっつーものよ」
「さっきから言ってるけど、その隠密機動って何だよ。名前からしてこう、忍者っぽいイメージはあるけどよォ」
「――――おおむねその認識で合っておる。今風に言うなら、スパイやエージェントとかになるかのぅ」
夜一さん、と一護たちが声をかける。どこからともなく「ぬっ」と現れた黒猫に、面々はそれぞれらしい反応(地味にチャドが全く気付いてなかったせいか凄い目を見開いてる)が、ある意味一番リアクションが大きいのは
まァ、色々と情報を鑑みりゃ立場的にそういう反応にならざるを得ないわなぁ…………。「罪人幇助扱いで追放された元自分の上司」っぽい訳だし、四楓院夜一。一方の夜一の方も
「話せば
「勘弁してくれよ……、只でさえ今日は厄日だってのに」
「? 知り合いなのか二人とも」
一護の確認には、そろって「全然」と返してくるが、胡散臭そうな目で見る一護もさすがに馬鹿じゃねェ。おおよそ自分の知らないところで自分の知らない事柄が行きかってるのに対し、大体説明されないで巻き込まれてるから少しはフラストレーション溜まってンだろ。……とりあえず隣の井上の胸でもチラ見して落ち着いとけ。
まァ、とりあえず話は進む。井上、朽木や一護の見た赤とんがりの霊体。コイツやら何やらについて、空気を読んで黙ってた浦原の下駄帽子が飄々と追加説明。
「知っての通りかは知りませんが、魂魄……厳密に言えば霊子というのは、現世と霊界とで行き来しており総量はある程度一定に保たれています。しかし中には、主に断界の通過中にそこに飲み込まれるなどして事故に遭うと、この輪廻循環
そういう魂魄は霊子循環に引き戻される形で、断界の内輪に戻るため長い年月をかけて徐々に徐々に一つのところに固まっていきます。この際、ある一定以上の大きさになった時に断界が『耐えきれず』穴が開き内側に再侵入することが可能となりますが、この塊は既に魂魄の形を保つことは出来ていない。まあ、無理やりつぎはぎしてるみたいなものだから、当然と言えば当然っスね」
そして、とルキアが説明に合わせて描いていた「叫び」のような顔をした(?)絵を指さし。
「この霊子が固まってできた空間
ここまでの話、ついてこれてますか~?」
「た、たぶん……」
余程朽木の絵に抵抗があんのか、いまいち頭に入ってるんだか入ってないんだか。いやソウルソウルした話が大半だから話半分で充分なんだろォが、要するに今が異常事態だっつー下準備だけわかれば良い。
ただそれはそうと「ルキアの絵に何の文句があると言うのですか」と言いながら俺の脛をつねって来る姐さんはさぁ……。
「さて……。この叫谷、霊子循環するとは言いましたが、素直にすぐ分解されつくす訳じゃない。叫谷が形成される際に、『魂魄と言う形を保てない』が故に、魂魄核に紐づく個々の記憶のようなものが、さらに叫谷から抜け落ちる。抜け落ちた記憶は
黒崎サンたちが見たのは、この
「ブランク…………、だからそうか、何っつーか、空っぽみてェに感じたってことか」
「みんな、自分が何なのか判らなくなっちゃってるんだ……」
一護と井上の言葉に、チャドは何も言わない。ただ拳を強く握ってるあたり、二人の気落ちした気分に同情っつーか、わからないなりに共感してそうで友達感覚が強ェ。
で、思念珠とか言われた瞬間「あかねしずく! あかねしずく!」とぴょんぴょん飛び跳ねる子雪は本当お前、もしかして「誕生する時」俺から前世の記憶も少し引継ぎでもしてンのか? そういう節はちょっとちょっとあったが……。
『先ほどから子雪が色々言っていますけど、何か知っているのですか? 我が夫』
『あ゛ー、何っつーかなァ……』
とりあえずコレを見れば言いたいことがわかるだろうと思いながら、俺は自分から浅打のイメージを形成する。そしてそこに霊圧を通し、斬月ではない斬魄刀に仕立て上げ――――。
『――――
『――――えっ!?』
瞬間、現れ出た解放状態の斬魄刀は、見まごうこと無く茜雫が使っていた斬魄刀のそれ。錫杖に矢じりがついたような「ベクトル操作系の」斬魄刀。
それを肩に担いだ俺を見て、姐さんはいつかの……、それこそ捩花を出した時のことを思い出してるんだろう。だからこそ、言葉を選びながら、俺に確認する。
『つまり…………、本来なら弥勒丸は
『嗚呼。だからアイツが、弥勒丸を使ってるっつーのはおかしい』
『だから、つまり……、そういうことですか』
浦原は言った。思念珠は何かしらの姿を模して現世に帰ってくると。
つまりはこのタイミングで現れた、弥勒丸を模した力を使う、あの自己の不安定な少女の死神は…………。
『…………また水没しそうなので、お洗濯は先に取り込んでおきますね』
『姐さんもだいぶ馴染んだモンだなァ…………』
同情したような目を一護の視界に向けてからため息をつく姐さんに、俺も俺で微妙にズラしたような物言いしか出来なかった。いや、まあ、一護の性格とか諸々鑑みてこれからどうなるのかとか、そのあたり予想できちまってる時点でそういうことなんだが……。
なお一護の視界では、欠魂に紛れた甲冑姿の誰かを見たとか言うコンを捕まえて解析しようとしている浦原の姿。その浦原を見ながら「だん! だん! だん!」とか特に意味なさそうな叫びを挙げる子雪がいたりする。
おまけ:補足事項
・叫谷まわりの設定微変更?:
主にアルトゥロ周りに対応してる形程度なので、フレーバーテキストくらいの感覚でお願いします汗