メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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#059.MoN④私とあなたと観覧車

 

 

 

 

 

『断界内部での叫谷の出現自体は自然現象みたいなものなので過去何度か確認例もありますし、()()()()()()()に関しては警戒網もそれなりにあるんスけど、問題なのは……、一般霊の欠魂(ブランク)がこれほど流入している以上、魂自体は循環する以前に現世と尸魂界とに完全に紐づいてるらしいってことっスね。イメージとしては、顕微鏡の筒が叫谷、尸魂界側が目で、現世が対象物みたいな状態ですかね。

 だからこそ、現世の映像が『数多の欠魂越しに』あちら側に映ってしまう』

『それは、おかしいことなのか? 大掛かりに動いてるから危ないっつーのは判るけどよ、いまいち緊急性みてェなモンがわからないっつーか』

 

 日中。浦原の追加解説に対する一護の微妙な反応であるが、それに対してはルキアが先行する形で解答だろう推測を語る。

 

『……あくまでも固まっているものが、自然に溶けるために出来上がるのがそれなのだ。そもそも両界と融合するなど、意味不明な状態が起きることが異常だ』

『そう! 問題なのは、この状態が双方の霊子総量のバランス的に大変宜しくない事態ってことっス。

 これを意図的にやっているとするならば、そこには明確な悪意がある。……それこそあちらでは、零番隊が動いている可能性すらあるほどにね』

 

 零番隊、というフレーズが飛び交った時点で一護を始め現世組およびルキアを含んだ四人の脳裏には「斬魄刀ゥー? ラブイッツッ!」とネオンに照らされたサングラス姿の男性死神が踊り狂う様なイメージが行ったり来たりして、いまいち緊張感が続かない。続かないが、それでも以前朽木ルキアから聞いた話が脳裏をよぎる一護。

 それは、滅却師が死神たちによって討伐された直接的な理由。虚を滅却することで、世界同士の魂魄の総量のバランスを崩壊させるが故にこそ、彼等は絶滅させられたという話が、今回の話にわずかに重なる。

 

 どちらにしろ、大勢を誰かを守るためにも、身近な誰かを守るためにも、どうにかしなければならないという意識だけは固めた一護。

 

『こちらとしては一旦、阿散井サンがあっちで事情を聞いてくるのを待つ形になるっスかね? それはそうと、出来る範囲でになりますが敵の素性についても調査させていただきます。

 ――――お代は、二番隊にツケとく感じで』

 

『いや、アッハッハッハ…………、お、お手やわらかに』

『って、金取ンのかよ!?』『有料、なのか……?』『ええ~!? すごく無料で協力する流れっぽかったのに!』「強欲商人め」

 

 各々のリアクションに対し、「ウチ本業は尸魂界(あっち)現世(こっち)の仲介業っスよ?」と笑う浦原喜助。もっともルキアは文句を言いつつも、彼が「尸魂界から正式に認可されている」仲介業者でないことは百も承知である。仕入れや情報網、料金などは他の仲介よりも若干高い。とは言えそのかわり、自分のように脛に傷のあるような立場だった存在からすれば、素性を詮索されず「確実に」目的のものを入手できるというのは、それはそれで有難い話でもあるのだ。

 おそらくそれを理解しているのだろう、西堂榮吉郎もまた強くは言い返せない。実際問題、自分が調べたところで霊波もロクに上手く計測できたわけでも無く、進展がなければそれはそれで上司から「最近だらしがないぞ貴様ー! 二撃目を喰らいたいか!」などとプリプリ小娘のように叫ばれるなど当然予想がつく。またそんな笑い話を除いたとしても、これ自体は本当に世界の危機の類かもしれない。

 

 守りたいものが明確であるからこそ、一護からすれば先達のこの死神は迷わなかった。

 

 詳しい話は奥で詰めますんで、と榮吉郎を伴い離席する浦原であったが。

 

『皆さんも、街の見回りとかお願いします。阿散井サンがあっちに向かった以上、この町は今本当に無防備っスからね。

 …………(うるる)に見回らせても良いっスけど補導されちゃいますし、今時』

 

 はっはっは、と大笑いする浦原に「お、おぉ……」とゲンナリする一護であった。ちなみに浦原の空けた障子の先、件のツインテールに独特な前髪の少女が「お、お疲れ様です……」と一護たち客人に対して頭を下げていた。

 

 

 

 そして、時刻は夕方。つまり現在に至る。

 

 

 

「まァ見回りはもういつも通りって言えばいつも通りだからまだ良いけど、それより本当、茜雫(せんな)どこ行きやがった……?」

 

 浦原商店を出た後、一護たちは各々街の見回りに出向く。もはや宿題どうこうという状況ではなく、あの欠魂(ブランク)がどこに出るかと言うことの調査が最優先だ。最初は一緒に行動していたが、途中でチャドが「済まない、バイトが……」と一旦抜けたり、何かの空気を読んだルキアが「少し遠くを見て回る!」と言って一護と織姫を二人きりにしたり、とはいえ二人きりになったからといって会話がそう弾むわけでも無い微妙に緊張していた二人は二人で、ある程度一緒に回ったら解散し現在、一護は一人である。ヘタレというなかれ。一護の内在世界でホワイトが「一護のその手の経験が豊富だったら、朽木の貞操がヤベェからなァ……」などと呟いたりしている通りなのだ。思春期の思い切りの良さと後先考えなさをナメてはいけない。

 

 途中、高校に寄った一護が「何やってんの?」とジャージ姿のたつきと、見覚えのない華奢な深緑っぽい髪の他校生の少女と顔を合わせたりといったことはあったが(ノゾミというらしい)。それはそれで有沢たつきの知り合い(部活関係?)という以上のこともなく、つまりは異常事態らしい異常事態は経験しないまま。既に日が沈みかけている。

 そのくらいで何か変わりがあるわけでも無く、死神状態でないから少し移動が面倒だくらいの思考の一護。そして同時に、いくら探しても茜雫の霊絡が見当たらないことが気がかりではあった。

 

 駅前から坂を下りて商店街に入らず、線路の上にかかる橋を渡り「ラ・チェット鳴木」と看板の書かれたショッピング街へ。道の先に行けば都立大学などもあるショッピング街は、夏休みだということを差し引いても異様ににぎわっていた。

 そんな中、やはり彼女の帯を見つけられずにいる一護はふと自分の右手を見て、軽く握る。

 

「何っつーか……、アイツも空っぽだったんだよなァ」

 

 一護の脳裏に過るのは、日中に弥勒丸を解放しようとしていた茜雫を妨害した時の事。ぶつけた斬魄刀越しに、お互いの霊圧が高まった時なのかはわからないが、その解放前の斬魄刀越しに、一護はどこか空虚な感情を感じた。空元気、と言えばマシな方だろう。何も感情がないと言う意味ではなく、何もないことに対する焦燥と飢餓感のようなものが過り、なんとなく一護は彼女のことを意識していた。

 別に俺が何かいうような話でもないかもしれねェけど、と少しだけ自嘲するが。

 

 

 

『――――エブリバディ、ボー・ハー・ハー・ハー・ハーッ!』

『『『ボハハハハ――――ッ!』』』

『おぅけェェイ! 今日も絶好調かい? レディース、ジェントルメン、ボーイズ・エンド・ガールズ!』

 

「って、いやちょっと待て観音寺!? 何してンだアイツ!!?」

 

 

 

 突如耳に聞こえた、聞き覚えのある頭の痛くなる声に我を忘れて振り返る。当然ギャグマンガのようにデフォルメできそうな驚愕っぷりであるが、そんな一護の視線の先では「お笑いライブ」と銘打たれ芸人たちが色々とコントやら芸やらをしていた最中、ゲストとしてか登壇したアロハシャツのような鮮やかな模様をした普段よりも1.5倍くらいは目に鬱陶しいドン・観音寺が、いつものように独特な笑い声をあげ観衆を熱狂させていた。

 真夏に暑苦しい事この上ない。思わず突っ込みながらも、いつの間にか周囲に人だかりが出来てそにれ呑まれている自分の状態に冷や汗の一護。そんな一護に気付いているのか気付いていないのか、観音寺はマイクにシャウト。

 

『イェアアアアアアアアアアア! 久しぶりの空座町でのライブだ、とはいえ今日は(バッドスピリッツ)臭い(スメルズ)も薄い。なのでここはヒーローとして、皆々様に『実録! ドン・観音寺が教える悪霊(バッドスピリッツ)とある日森の中出会ってしまった時の対処法ベスト119(ワンワンナイン)』を特別に披露するぜ、ボハハハハ――――ッ!』

『『『ボハハハハ――――ッ!』』』

 

「長ェ長ェ長ェ!? 何だよ119って、せめてそこは煩悩の数とかに揃えるモンじゃねェか? いや108でも十分長ェけど、何考えてンだあのおっさんッ!!?」

 

 ツッコミに忙しい一護である。なおそんな野暮な発言は歓声に掻き消されてもはや何が何やら。

 後気のせいでなければ「ボハハー。……これで宜しいのでしょうか、雨竜様」とか「ナナさんまで何でやってるんだ!?」とか聞き覚えのあるような無いような声が耳に入ってきたような気もするが、もし聞き間違いで無かった場合この場で顔合わせするのはお互い気まずいので、一護はそっとしておくことにした。自分も石田も触れて欲しくない日だってあるさ。人間だもの。

 

 そして「あれは私がかつてウェールズの森の深奥にてファッションの神髄を啓示していただけないか、森の神々にお伺いをたてていた時の頃」などという導入から始まるトーク。何故ファッションの話でそっちなのか、せめてロンドンの街とかで聞けよ何でウェールズの方行ってるんだとか色々ツッコミどころがあるような、それでいて神々にどうこうの部分だけは若干本格的な心霊エピソードっぽい風な話になっていたりと色々情緒がおかしくなりそうな一護であったが。気疲れを覚えて立ち去っていく途中の彼の耳に、そんな話の途中で観音寺が「デンジャアアアアアアア!」と叫び、一時MCのような話は中断された音が聞こえる。

 

『そこの時の上で思い出を刻むガール! お遊びは程々にしておくんだ、ここにはテレビカメラも命綱もォォ中曽根さんっ』

 

 真面目なのか巫山戯てるのかテンションが行方不明な観音寺はともかく。時計塔、というには建物の印象からしてやや低いが、それでもショッピングモール街の2階建ての建物群の中では高い時計塔の上に、茜雫は居た。真夏だというのに少し肌寒い風が、赤い紅葉とともにふく。相変わらずのブレザー制服に色々と心配になるくらい太もものギリギリを攻めているミニスカート。良く見れば髪留めの色が赤くなっているが、一護は流石にそこまで気が回らず、そして特に興味があるわけではないものの目立っている脚に視線が吸い寄せられていた。

 照明のケーブルに足を乗せ、ゆらゆらと綱渡りするように歩いていく彼女。表情は明るく、両手を開いている姿はやはり見た目の年齢よりも幼く見える。

 何あれパフォーマンス? などという声がちらほら聞こえる。実際一護から見ても、夕暮れに浮かぶ照明の明かりに照らされる彼女は、ぼんやりとシルエットが曖昧に見えることもありどこか非現実的な印象が強く残り――――。

 

 そして、観音寺が叫んだ。

 

『ヌゥウウウウウ、マイ弟子一号! あのままでは落ちるぞ、何とかできないかッ! フィジカルはユーの専門のはずッ!』

 

「って、いややっぱり気付いてンのかよ!? っていうかどうやってあっちの方見てンだ!? 建物とか通路に挟まれてて見えねェだろ絶対! それから、弟子じゃねェ!」

 

 ぼうっと彼女の姿に魅入ってしまっていた一護だったが、観音寺の檄で尻を蹴られたように、人ごみをかき分け走る。なんだか以前にも「本人ではないにしろ」こうやって心の重りを取り払ってもらったような気がするが、いや別にそんなに観音寺個人についてどうこう思っているわけでも無いしと内心で謎の言い訳をしつつ、身体能力のあらん限りを尽くして茜雫の真下へ向かい――――。

 

「気持ち良い……! って、あれ? ほ、と――――――――きゃっ」

「危ねェだろ、何やってんだお前……!」

 

 間に合った。特に受け身を取る体勢でもなく、スカートのギリギリをさらにギリギリにしながら背中から落下していた茜雫は、あっさりと一護に受け止められる。誰がどう見ても、ものの見事にお姫様抱っこ。しかも地上でスタンバイしておらず、わざわざ空中に飛び上がり彼女を抱き留めたまま前宙一回転してからの着地。アクションスターでも今日び見かけないだろうノーワイヤーアクションに、一護の素の身体能力の高さが伺える。

 そんな一護の動きまで含めてショーの一環と思われたのか、歓声に沸く周囲と、お姫様抱っこしたまま困惑して愛想笑いを浮かべるしかない一護。……後方から「何やってるんだ黒崎!?」とか聞こえるが、これもやはり一護は完全に無視である。これ以上心労を増やして溜まるかとばかりの、清々しいまでに視線すら向けなかった。

 

「えっ一護…………? えっ? …………ふぅん」

 

 なお抱きかかえられている茜雫は茜雫で、少し頬を赤らめながら悪戯っぽく微笑み、一護の首に抱き着く。特に一護も照れることはしなかったが、突然の行動に叫び落としそうになり、再度抱き留めるようにしてから足を地面につけてやる。

 やーやーやーと適当に周囲に応じて得意げな茜雫の手を引き、一護はその場から走っていき。

 

『うぅむやはりユーもまたヒーローの卵! いつかこのサングラスと我が伝説の観音寺帽(ハットオブキャノン)が似合う男になるのだァ!』

 

「いらねェ……」

「ねぇ、あの人知り合い?」

 

 茜雫の無垢な微笑みを前に、やはりげんなりする他ない一護であった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「いっただっきまーす! いやー、まさか本当におごってくれるとは……」

「あんこの大判焼きにコーラとでけぇポテトとたこ焼きと焼きそばとチャーハンとラーメンって、本当にこんなんで良いのかよ……。というか食えるのか?」

「うん! 一護も食べなって、一護のおごりだよ?」

「そりゃ俺の奢りだけどなァ――」

「昔、お父さんとここ来た時にメニューの端から端までのやつ全部独り占めしたいなーって、夢だったんだ! 自分で支払うのもアレじゃない?」

「で、お前は今日俺にそれを悪びれもせず払わせると」

「奢ってくれるって言ってたの一護だし、ごち~!」

「ごち~じゃねェよお前……」

「いいじゃない、せっかくデートなんだし」

「デートじゃねェ!? というか今日そのテのネタ多いな!!?」

 

 思わず絶叫する一護に、飄々と笑いながらチャーハンとラーメンを交互に食べる茜雫。先ほど何故か照明のワイヤーから落ちかけたのを助けて以降、妙に素直に一護と絡んでいる彼女である。ショッピングモール街から大型商業スーパーまで戻って来たら「おいかけっこ!」と言いながらスーパー内を駆け巡ったり、雑に絡みながらウィンドウショッピングしたり、そういえばとリボンの色が違うことに気付いて買ったのかと指摘すれば「えっ?」と素で返され(!)、そのまま専門店まで戻って購入し直したり。

 ……そこで女優みたいな顔をした女性店員に「彼女さんへプレゼントですね~」と見比べられたり「プレゼント用に包装しますか? 今ならリボン、もう一巻サービスしちゃいますよ?」とウインクされたりしたことが地味に胃へのダメージになっているが、そんなことは置いておいて。

 

 ともあれ事情を聞くと言うことで「お腹空いたー」と彼女が飽きてきたころで、店外のデッキのテーブルで食べるか店内で食べるかとなったとき、ふと彼女が「ねえねえ」と言ったのが事の始まり。

 その結果、現在一護たちが占領する四人掛けのテーブルには、所狭しと炭水化物の山が並んでいた。本気で食いきれるのかコレ、とちょっと冷汗な一護であるが、特に気にした様子もなく食べ薦める茜雫。なんとなく胃もたれを覚えながらも、自分の目の前にある焼きそばに箸をつけた。

 

「お前が金持ってねェのはわかったけど、容赦なさすぎだろ……」

「一護ってバイトしてないの?」

「そのうちするかくらいは思ってるけど、今は忙しいし勉強第一!」

「へぇ~、真面目なんだ。意外」

「そうか?」

「うん。でもポイント高いかも」

「何のポイントだよ……っていや焼きそばとっかすなよ!? というか今俺食べようとしてたやつ」

「えー、いいじゃん。だってあーんしてって言ったって、やってくれなかったじゃん」

「お前の俺への距離感が全然わからねェっての!? 本当さっきから!」

「はい、たこやきあーん」

「おうありがとうな、あー……って、食う訳無ェだろッ!」

「あはははははッ!」

 

 そう、何と言うか本当に気安い……、気安いを通り越してもはや彼女面である。朽木ルキアが見れば半眼になるだろうし、井上織姫とて何かの危機感を煽られて斜め上の方向に暴走しそうな一幕だ。なおそんな外から見た状況は、経験値の少なさ以上に気恥ずかしさから本能的に認めない一護である。何を言われようと絶対違ェと返し続ける様は、いっそ哀れみより滑稽さが勝るかもしれなかった。

 さておき。

 

「さっき説明した、欠魂(ブランク)ってのについて、何か知ってることは無ェか? もう何か情報とかじゃなくって、感覚的なのでも良いけど」

 

 振り回され続けてなんとなく、一護も茜雫のタイプがわかってきた。井上織姫程ではないが、こちらも感覚派というか感性主体で動いているようなタイプの少女だ。なので聞き方も「どうせロクな情報持ってないだろ」という言い回しにならざるを得ず、そしてそれはピタリと的中していた。

 

「うん、名前は初めて聞いた、かな? あのとんがりとか見たのは昨日が初めてだし」

「昨日?」

「うんうん。何かこう、ムズムズって感じがするんだ~」

「ムズムズ」

「うん」

「…………悪ぃ、もうちょっと判りやすく言ってくれねェか?」

 

 えー、と抗議しながらも、ちゃんと一護のリクエストに応えようと少し考え込む茜雫。やはり妙に素直になっている。

 

「…………目の前でこう、羽虫が飛んできて鼻先をかすめてるような感じ?」

「何でそんな例えなンだよ……」

「こう、生理的に無理! っていうか? すごい汚い感じがすると言うか……って、あっ! 別に一護のことは生理的に無理じゃないよ! あのとんがりの話だからね!」

「そこで俺のフォローに回るの含めて本当何なんだよ……」

 

 そもそも人に使っちゃいけない言葉だし生理的に無理って、などと弁明を慌てて重ねる茜雫はともかく。会話を進めていくに、どうも本能的にあの欠魂という存在を見ると、茜雫は気持ち悪い感覚がするらしい。

 

「体をまさぐられてるー、とかまではいかないけど、うん。やっぱりあんまり見てたくないかな。

 で、結局あのトンガリたちが探してるのって、何かわかってるの?」

「思念珠って言ってたけど、珠っつーくらいだから何かモノの形してンだろ」

「ふーん。……で?」

「いや、それがわからねェからお前が何か知ってるか聞いてンだよ」

「あっそれもそっかー。んーでも、私もそれは全然ダメだなー。私たち、全然ダメじゃん! また出てくるの待つしかないし」

「そりゃそうなんだよなァ……」

「……………………」

「ど、どうした?」

 

 じっと一護の顔を見つめ、微笑んでいる茜雫。少し居心地の悪さのような、気恥ずかしさを覚えた一護は思わずそう確認するが、彼女は彼女で「何でもないよ、一護♪」とやはり楽しそうである。挙措一つ一つがどうにも幼いが、しかし時折年相応の表情が覗く様に、一護はなんとなく既視感を覚えなくもない。

 誰だと問われて人名を挙げられるわけではないあたりは、流石に一護もまだまだ自分の心の捉えどころをわかっていないのだが。

 

「ま、いいよ? じゃあ、私も手伝ってあげる。でもその代わり……」

「またかよ、今度は何言って来るンだ……?」

「もー、そんなに無茶振りはしてないじゃん! 百万円欲しいーとか、五千兆円欲しいー、とか」

「例えが何で金なンだよ……」

「まあ…………、幸せにはなりたい、かな?」

「金イコール幸せみたな図式になるぞ、今のやり取り」

 

 ちらちら一護を見て何か期待するようだった彼女だが、もー! とプリプリ怒りだす。コロコロと表情が変わり続ける彼女に振り回されている一護だが、山の天気よりも読めずに困惑し続けていた。

 ともあれ、何故か立ち上がった彼女は「あれ!」と指さす。場所は先ほどのモール街に併設された小規模な観覧車。

 

「あれに一緒に乗ってくれたらもう、何でもしてあげる!」

「深い意味は無ェんだよな!? 何でもって、協力するって意味だよなァ!!? フツーに!」

「? どうしたの一護?」

 

 そして突如慌てだす一護に、にこにこしたまま不思議そうな茜雫。行儀悪く椅子の上に立っていることもあり、覗き込むような彼女の異様に短いスカートがひらひら揺れる。角度的にもそろそろモロにアウトな状態だ。店内だろうと何だろうと関係ない自由奔放さである。

 なおアウトかどうかで言えばルキアに関しては普段からアウトどころの騒ぎではないのだが、そちらにはほぼ反応していない一護は、その割にこっちには思春期相応のリアクション。知られれば飛び蹴りの一つでも入れられそうな案件であった。

 

 びっくりさせやがってと深くため息をついて「お前高い所好きだよなァさっきも」と呆れる一護に。

 

「だってほら……、高い所から見ると、それまで自分の中でゴチャゴチャしてわからなくなった気持ちとか、そういうのが一瞬遠くなって、はっきり見えて来るから」

 

 ね? と何かのポーズを決めウインクする彼女に「でも乗せねーぞ」と半眼で返す一護。いくらケチーと言われようとも、高校生はそこまでお金を持っていないのである。

 

 

 

 

 


おまけ:補足事項

 

・ここでドン観音寺!?:

 ゲストの安田大サーカス代理。なお、観音寺が一護のケツを蹴っ飛ばしたことで、回り回って茜雫の好感度がちょっとバグる模様。

 

 

 

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