結論から言っちまえば、朽木ルキアの推測通りの展開にはならなかった。
本来の俺の素性から考えれば、解放せずとも月牙を放つことは確かに可能なはずだ。でも一護はそれを出来なかった。
と言うかそもそもの話だ。
「なぁルキア、霊圧ってどう込めるんだ……?」
「……ん? 貴様、よもやそんな初歩的なことすら自覚せず死神代行をやっていたのか? センスないなー」
「お前にだけはセンスないとか言われたくねぇ」
そこからまたケンカが始まった際、再度擬人化で実体化した姐さんを後ろから羽交い締めして止める俺(と影から手だけ出して足止めしてくれたオッサン)だったが、これについてはルキア曰く「同調がすすめばもっとはっきり色々わかるだろう」という話に落ち着いた。
そして、今日もまた一護は刃禅をしている――――あれから数日は一人で刃禅をしていた。ルキアは初日の一回のみで、以降は行っていない。曰く「私が袖白雪と同調を優先してしまうと、貴様のキャパシティを超えて貴様があの可愛くない斬魄刀と同調するのを妨げてしまったのかもしれぬ」と控えている。姐さんは「流石我が使い手……」とヨヨヨと謎の涙を流していたが、そんなことは置いておいて微妙に気がかりなことがある。
あの朽木ルキアの表情―――― 一護の血縁に「志波」のそれを疑っている顔だ。
とはいえ確信は抱けていないらしく、ただどこか一護に「あの男」の影を重ねているのだけはなんとなくわかる。まぁ「志波一心」って名前覚えてりゃ無理やり結び付けられなくもないんだろうが、生憎とあのゴリラオヤジを毎日毎晩回避しつつも気づく気配はない。とはいえアイツは過去が過去だから、意図的に色々と目を背けている可能性だってあるんだが。
もっとも相手側はそろそろ「見えるように」戻ってきている可能性も高いんだが――――。
「なんかこう、よくわかんねぇのを込めて、こう! 込めて、こう! あーっ! 何か出るってルキアは言ってたけど全然実感がわかねぇ、つぅか斬魄刀と足場くらいしか視えねぇ!」
『八つ当たりだな』
『イメージ戦略崩されたからなぁ。たぶん記憶いじられるだろうが、「オナカマ」には効かねぇだろうし』
荒れる一護を見ながらオッサンと寸評。本日、
ちなみに姐さんは既に寝入ってる。乙女は美容的に寝る時間だそうだ。まぁ斬魄刀にどれだけその効果があるか知ったこっちゃねぇが……。
『俺もあの手の感覚は覚えるまで時間かかったからなぁ。無意識に引き出してる時があるんだから、そのうち何とかなんだろ』
『とはいえ我らのアドバイスすら聞こえぬからなぁ……。かの客人がいる効果は大きいというべきだが、朽木ルキアが下した判断もまた間違いではないだろう』
『? どういうことだオッサン』
『我らと一護の同調が難しいのは、おそらく客人がいるからだろう。客人が居ることで我らと一護とにより強く繋がりができ、ホワイト、お前の力が揺れ動き呼び覚まされた。だがその代わり、我らとつながっている一護がこちらに接触しようとすれば、どうしても客人の魂魄が間に干渉する。そこに双方、三者の間でずれが生まれるのだ。私とお前は影を介して一つの魂魄「のように」振舞っているが、客人は別だ』
『えっと……、あー、だからそういう尸魂界らしいソウルソウルした理屈を言ってくれても全然わかんねぇんだって。俺、尸魂史と鬼道は成績低かったし』
『…………元柳斎も嘆くだろうな。いや、そうだな。結論だけ言えば、客人が我らから抜けた時。その時こそ、我らと一護との顔合わせになんら問題がなくなる時ということだ』
『まぁ、そりゃーあっちからしても万々歳なハナシなんだろうが。…………正直、聞くぞ? オッサン。朽木ルキアに、姐さんって少しずつでも戻ってるか?』
『……………………』
最近よく馴染んできた姐さんだが、そもそもこの間姐さんをルキアが「始解」した時。あの時に使われていた霊力や放たれた霊圧はすべて「一護のもの」だった。多少なりとも自らの斬魄刀、精神世界とは言えリンクすれば双方の霊力でやりとりするのが本来は正しい。
にもかかわらず、あの時に使った氷はすべて一護の力で作られている――――その証拠に、いくら姐さんたちが暴れたところで、一護自身は精神にダメージを負う様な事はなかった。他者の心で心を害されたにもかかわらず、一切傷を負っていないと言うのは、後から考えれば不自然なこと。
空を見上げ、一護の掛け声をBGMにオッサンは呟く。
『何か外で、我らの知らぬ思惑が動いているのだろう』
『それは、見通せねぇのか? アンタであったとしても』
『…………残念ながらここに居る私は「全知全能」ではない。友を助け、仲間と手をつなぎ、敵の死にも涙を流す。そんな男の名残だ』
『そうかい。そりゃ……辛いなぁ』
オッサン本人にこちらの思考全てが筒抜けと言うわけではないからこそ。俺とて情報の重さや自己保身もあって色々と話していないことがある。だがそれ以上に、今目の前にいるオッサンの無力感が俺の胸の内に涌いてくる。
『あるいは―――― 一護と朽木ルキアの心が真に「折り重なった」時、だろうな』
『…………オッサン、ちょっとシモネタ言ったか?』
『真面目な話だ』
真面目な話と言うが、つまりはルキアと一護とがバラバラではなく一つになるとき――控えめに言って「エロ」してる時ってことにならないだろうかその言い回し。そういう意図を含んでの確認だったが、否定をしていないあたり相当アレだ。というか、それ以前にルキアが一護の好みじゃないという前提で語っているので、相当皮肉が効いている。
とはいえ、ルキア自身の性格的に一護の受け皿になれるかどうかと言えば、なれる方ではあるので…………、でもなー、一護優しいからなぁー。眉毛がヘンな副隊長が泣きを見る目にあうのを後から知ったにもかかわらず許容せず普通に応援に回っちまうような奴だからなー。甘ちゃんっていうか、本当に人が良いのだ、一護は。
なのでそうかい、と。特に何か言えることもなく、俺もオッサン同様に空を見上げ――――。
『――――うぉらあああ! 起きろ一護! 朝だぞ! 俺だ、モーニングゥ! このこの! この、オラオラッ! 参ったか、参ったなら謝りやがれ! じゃなけりゃ学校のバッグの中に入って一緒にいって――――って、アレ、抜け殻ァ?』
『改造魂魄の声だな。…………あのぬいぐるみは、そういえばライオンさんぬいぐるみだな』
『赤ちゃんだった頃お気に入りだったアレと同じキャラだな、確かに。懐かしい……』
肉体に引っ張られてか、その声の大きさに一護は目を覚まし、この世界から一気に退去した。
※ ※ ※
「――――テメェ、何モンだ!」
「おぉ? へぇ、お前『やっぱり』俺の姿が見えるんだ。イヨッ! ツンツンくんッ」
朽木ルキアに、見るからに怪しい「死神」が絡んできている――――。
その一言に訝し気になりつつも、一護はコンに言われた方向へ走った。本来なら突き出していくべきだが、ここの山近隣の地理は「意外と」詳しい。何度も墓参りを経験するうちに、覚えてしまったのだ。
そう、墓参り。
本日は母、黒崎真咲の命日――――。
諸般、いざこざがありルキアと口論になり、そして拒絶する形で彼女を突き放した一護だったが。それにより思い起こされた、事故当時――ルキアは「本当にそれは事故だったのか」という疑問を投げかけてきたが――のことで自己嫌悪に陥っている際の話だった。
ワンピースに帽子。そんなルキアに相対する死神の男は軽薄そうな中年に見える。
本当ならば死神代行を休むつもりだった。だが少なからず、男と相対するルキアの顔は優れない。
何者かと問われ、死神代行と返した一護だが。途端、真面目な表情になった男に一瞬驚く。
「おっと……、マジかルキアちゃぁん。こいつぁ…………、一応、重罪だぜ? 『死神の能力の譲渡』。
「……ッ」
「重罪?」
「まぁいいか。どうもだいぶ『心を許してる』みたいだからなぁ、真実知って腑抜けられても面白くはねぇ。――――それじゃイッチョ、手合わせ願おうかぁツンツン頭クン!」
言いながら構えていた斬魄刀を振り下ろす男。慌ててコンの口の中に手を入れ、死神としての身体と分離する一護だったが、さっきの言葉が頭を巡る。罪? 俺に力を与えたことが罪だっていうのか? そしてルキアが、本来ならそのうち能力を失うだろうからと斬魄刀についてすら詳しく話していなかったことも併せて思い出す。
はっとして見る一護。ルキアのその微妙な表情に察してしまう。知っていたのだ。当たり前だ、自称だが彼女は死神の学校での成績が優秀だったのだ。ならば「死神の力の委譲」が罪に当たることなど、知らないはずがない。にもかかわらず、彼女は自分を見捨てずに傷を負い、そして今に至るのだ。
「おぉ、面白っ。義骸じゃなくても見た目の変わり方はそう違いねぇなコリャ……。『鎖』も出てねぇし、どうなってんだこりゃ。
で? ツンツン頭クンは一体どんな手練手管で、そこのお姫様から死神の霊力を奪ったんだ。アレか? やっぱエロスか? どうやってヌッと堕としたんだーァ、ボッチなお姫様をさぁ」
「ボッチ……?」
「だ、誰が麗しい美少女貴族のオーラむんむんお姫様かッ」
「「(そうは言ってねぇだろ……)」」
声には出ずとも一護と男の内心は奇跡的に一致を見ていた。
「っていうか、落とすって意味わかんねぇよ。それに大体、いきなり斬りかかってきた相手に教える筋合いはねェ!」
「おっとっ! ……ん?」
一護の巨大な斬魄刀に違和感を覚えながらも、男は受け、躱し、斬る。
「一護、止めろ! お前は関係ないっ、このままではお前まで――――」
「だからって、丸腰のお前が何かできる訳でもねーだろ! 『あっち』とは違ぇんだぞ!」
「お? あっちってどっち? 宿屋か何か?」
「一護ッ! お前、姐さんと何かあったのかお前、一護! ユウベハオタノシミとか言われるような――――」
「コン、貴様たわけ!」
「バカ、出て来るんじゃねぇ逃げろっ!」
言いながらも剣を躱し、交わす両者。だが徐々に、徐々に男の手で一護が追い詰められていく。明らかに男の方に遊ばれている図だ。
「なぁんだお前、馬鹿力だけが頼りか? 斬・拳・走・鬼、全部なっちゃいねぇ。辛うじて斬と拳は実戦経験で動けるってくらいか。ホントにシロウトじゃねぇの」
「な、何だそれッ」
「――――こうゆーこと」
言いながら、一瞬で一護の背後に現れる男。視認できぬ速度。振り向き際、デコピンだが一護の額にクリーンヒットして吹き飛ばされる。
「……ま、確かにアイツに『似てる』から絆されるってのはわからんでもないけど、なぁ。このまま『回収』すんのも後味悪いが、オッチャンも仕事でね――――」
言いながら、斬魄刀を地面に向け突き立て。
「斬魄刀の、解放?」
その、いかにもなモーションに。一護の脳裏には、袖白雪を握る襦袢姿のルキアの映像がフラッシュバック。そして同時に、その威圧感に命の危機でも感じているのか、不自然な「鼓動」を感じた一護。自らの斬魄刀を握る手に、普段とは違う何かを――――。
「なんだ、これ――――」
『――――、―――――――――』『――――、―――』
声が聞こえる。だが、それが何を言っているか判別できない。まるで起きながらにして刃禅でもしているかのような。
だがそんな一護の様子に関係なく、紡がれる言葉と共に男の霊圧が上昇していく。
「――――――――進み・繋ぎ・叩け、『
と、そんなタイミングでルキアの携帯端末が着信し――――
相当な大物の登場。と、ルキアの肩越しに覗き込む一護とコン(一護の肉体)、そしてその背後から。
「んん、ちょっとヤバそうな奴だな。アレじゃないにしても、三席以上は必要、みたいな?」
「「おぉわッ!」」
当然のように割り込んできている男に驚き、ケンカを売る一護だが、そんな場合ではないとルキアに一蹴。彼女に導かれ走る一護達を見送りながら、男は、西堂榮吉郎はため息をついた。
「なんかだぁいぶヤヤコシイことになってるみたいだなぁ。真面目にどうすっかねぇ、現世で失踪した死神の捜索任務……、ルキアちゃん以外にも色々いるんだけどなぁ。
…………お前さんも逃げとけ? っていうか、ツンツンくんの家族とかいるんだろ? 安心させてやんな」
「は、はぁ? いや、まぁ、行くけど…………」
適当にシッシと追い払うようコンを送ると、ため息をついてしゃがみ込む。カタカタと揺れる斬魄刀に「悪かったって、また今度な?」と苦笑いを浮かべ。そして気づいた。
「…………?」
一護が先ほど倒れていたところ。榮吉郎が傷をつけ、わずかに血が流れていた箇所。胴体、腹の当たりだろうが、そこから血が滴っていたのを男は確認していた。だからこそ、その血だまりの中に。
「こいつぁ……、虚の、髄?」
そこにあったのは、まるで砕けた虚の仮面のような、白い無数の破片だった。
※榮吉郎(アニメ参照)の解放は特に設定されてなかったと思うので、中の人ネタのアレで対応してます汗