引き続き織姫見たら例の顔しそうなパート...
私がいつ生まれたのか、そんなことは全然知らない。知らないって言うより、どうでもいいっていうか。
考えようとすると色々とゴチャゴチャして、自分で自分の立っている地面がぐらぐらと揺れるような、そんな感じになって気持ち悪くなる。
死神になると生前の記憶がなくなるらしいって、
だから無理に思い出そうとしなくていい。私は、私がやりたい! って思ったことをやればいいんだって。
「いいトコあるじゃん。……うん、ポイント高しっ」
だから、今はとりあえず一護と遊びたいって、そう思ってる。
何と言うか、見た目より一護っていい奴だと思う。
そりゃ、ずっと眉間に皺寄ってるし、言い方とかデリカシー全然なさそうだけど。
『盗むみたいになったのは私が悪いけど、わざわざ払いに来るかなぁ。意外とカタい』
『うるせェ。嫌いなんだよ、そういうの。別に見た目がコレだからって、自分から進んで悪さする必要もないだろ』
『ふ~ん』
『他人に色々決めつけられたからって、そこで居直ってやる必要なんて無ェんだ。……別にこう、俺は俺だとか、ンな哲学的っつーか、中学生みてェなこと言うつもりもねェけど』
『ふ~~~~ん……。でも意識してる方が逆に中学生くさいよ♪』
『はァ!? お、お前、言いたい放題じゃねェか……』
なんとなく、思ってることを素直に語ってくれてるんだと思う。
私がこう、ノーテンキにテキトーに今を生きているせいか、色々と駄目なことをやったって怒って。
その上で、お金なんて全然ないって言ってるのに私の代わりに払ってくれたり、強く約束した訳でもないのにちゃんとご飯も奢ってくれたり。
だから本当、一護が良いやつだってのは、肌で感じ取ってる。
まあ、文句はしっかり言うんだけどね。でもそういう時の一護はこう、子供っぽくて少しだけ印象が軽くなって、ちょっと可愛い。可愛い…………、かもしれない? うん、可愛いっていうのはカッコイイ衣装して一護と一緒に来てた女の子みたいな感じの子に言うやつだ。うん。
なんとなく、
だから、そういうもやもやは高い所に昇って、世界を見下ろして忘れるに限る。
考えたくないことも、思い出したくないことも、無理にやらなくったっていい。
そんなことしてるから、きっと一護だってずーっとこう、眉間のあたりが寄って目つきが悪くなってるんだ。あんなタレ目っぽいのに怖いのって、多分そのせいだ。うん。
落ちそうだった私を助けてくれた時なんて、あんな格好良かったのに……、もったいない。
まあ、いいんだ。私だけ一護の良さを判ってれば、とりあえずは。うん、うん。
だから明日は、もっと一護と遊んで、あの顔をもっとふにゃふにゃにしてやるんだーって、そんなことを思いながら一護と別れた。家に帰る! って言って、
ただ、思うがままに歩いて行って――――――――。
――――辿り着いた先は、お墓だった。
「えっ? ここ……アタシん家の…………?」
南空座町から抜けた先、山の方を登った空見山霊園。そんな場所に、気が付けば私は居た。
あれ? おっかしいなあ、別に昨日はこんなところ来なかったのに――――あれ? そもそも昨日って、どこ泊ったんだっけ。
「…………まっ、いいや」
思い出せないことは、思い出さないことにする。
だからふと懐かしくなって、歩いていく。
まっ、いいや。そう。だからこっちの方に行けば
あれ?
あれ?
「さ、とう……?」
よくわからないもやもやと、ゴチャゴチャが私の胸をかき乱す。そして、
二人との男の人の名前が刻まれただけの、そんなお墓。
「お父、さん…………、お母さん?」
その左側には、茜雫の名前どころか、お母さんの名前も、お姉ちゃんの名前も、妹の名前も、何も、何も、何も刻まれては―――――。
『――――』
「って、きゃッ! このトンガリ、
ぼうっとしてたせいか、一瞬反応が遅れた。
わあ! といつの間にか、墓石を取り囲むように前後左右を埋め尽くす、あのとんがり頭。
一護も言ってたけど、こう、何か捕まえようってしてはくるけど、殺すとかこう襲い掛かってくるって感じじゃないわね。
「丁度良いわ。あなた達の探してるもの、教えてくれないか…………って言っても、言葉を話せそうにないわね」
仕方ないと「義魂丸の入った瓶」を探してスカートのポケットに手を入れ……って、あれ? このスカート、ポケットない? あれ? いつも義魂丸はポケットに入れてたのに――――。
なんか、勝手に混乱してると「フン!」って野太い掛け声が上から聞こえた。
反射的に足元に体内の霊子を集中させて、ぴょんぴょんと飛び跳ねて距離を取る。
「フン、思ったよりすばしっこいな。さては
「ちょっと何言ってるかわからないわね。……よっと! アタシに何の用?」
とりあえず
そんな焦れる私に、なんか緑の和装から甲冑っぽいのつけた変な大男は笑う。
「一緒に来てもらおう。我らが主、
「ちょっと何言ってるかわかんないわね。誰よそれ」
「知る必要はない。何故ならお前は――――」
何か言おうとしてたけど、後ろから「ジャイ!」とか女の人の声が制止した。……どうでもいいけど、ジャイってジャイアントとかから来てないわよね? ネーミングなんか雑じゃない? って、悪いんだけど思ってしまう。
で、どっかの家のお墓の石に座ったり、お供え物食べたりとか色々罰当たりなことしてる連中が、目の前のジャイって奴含めて5人。
何か余裕ブッ扱いて話し合ってる隙に、私は詠唱破棄で鬼道の準備。
「破道の十一、綴雷電! やあああッ」
「チッ!」
隙アリ、ということで斬りかかった私の「電撃を纏った」一撃は、流石にそこまで油断はしてなかったのか、ちゃんと受け止められる。三日月みたいな形をした手を覆う様な刃は、そのままパンチの威力を乗せた斬撃を放てそうな感じだ。
だけど多少なりとも痺れてはいるだろうし、このまま一気に――――。
そう思った瞬間、気が付くと私は地面に叩きつけられていた。
「――――ぁ、ハッ……!」
「くすぐったいではないか。全く……、とんだじゃじゃ馬である」
速度が違った。どうやら、そういうことみたいだ。私が「いつも通り」技を連携させようとしたら、それよりも早く動かれた。あれ? おかしいなあ。私、霊術院じゃ白打とかの成績って素早さで優だったはずなんだけど……。
困惑してる私におかまいなく、ジャイって奴は私の首を掴んで持ち上げる。息苦しいとかより、弥勒丸から手が離れてしまったことの方が手痛い。……そもそもこの程度のダメージで、何で斬魄刀から手を放しているんだ、
「さあ、行こうか。…………怖がる必要はない。そんな
「まがい、もの――――?」
意味が、わからない。思い出したくもない私の記憶も、自分の感情と自分の今とのずれも。目の前のジャイってやつも、何もかもが。
ただ一つだけわかることは…………。
「――――待てよ、どこ行くってンだ?」
こんな時に駆け付けてくれる
いつの間に、とジャイって奴が一護に驚いてるけど、それは私も同感。こう、瞬歩の「びゅっ」とか「しゅばっ」とかいう音じゃなくって、こう、「ヌッ」とか「ブッ」みたいな気持ち悪い音を立てて現れたものだから、ちょっと私もびっくりしてた。
現れた一護に驚いてる間に、一護は斬魄刀を振るう。腕を斬って、血を噴き出して私を取り落とすジャイ。切断とかまでいかないのは、一護らしいといえばらしい、のかな? まだ付き合って1日も経ってないけど。
「何襲われてンだよ。というか欠魂どこ行った? さっきまで居たんじゃねェか?」
「いた、けど……、そっか、そうだよね」
「あ?」
一護は欠魂を追ってこっちまで来て、たまたま私を見つけたから助けたってだけ。そこでもうちょっと、私のために来たんだーとか言ってくれた方が、ポイントすっごいあげちゃうんだけどなー。
「ま、いいか。おいデケェの! コイツに何の用だよ」
「許さん、許さんぞ……! 厳龍様より与えられしこの身体を、よくも……!」
「話聞いてるか? いや、どう見ても欠魂操ってる側だったから斬ったけど――――」
「――――その認識に間違いはないとも、
「ぬぅぅ、しかし
「我らの目的を忘れるな」
色が白い細い男が、ジャイに声をかけて制止させる。今にも一護に殴りかかりそうだったのに、その目的のために抑えられるあたり、統率がとれてるってこと?
何のことだ、って一護が言うと、あいつらは鬼道で姿を消していく。多分「曲光」だ。でも一護は発動からその後まで全然わかってなさそうで、これってアレ? もしかして一護って鬼道使えないのかな……?
考えたらさっきのだって縛道で抑えた方が効率良いと思うし、うん。
「何なんだアイツら。……というか、何で俺の名前を? って、お前もこんな所で何やってたんだよ」
「えっ? えーっと、気が向くまま歩いたら、気が付いたらここに……」
「夜中にくるような場所じゃねェだろ。というか、お袋の墓も近いな」
「お母さんの、お墓?」
「ああ。まあ……、色々あンだよ」
そう言った一護は、なんだかちょっと寂しそうに見えて。その顔から多分、お母さんが亡くなったのは小さい頃だったのかなーって、なんとなく思った。私も
「……まっ、いいか。
アタシの家もね、お墓ここにあるんだ」
「墓?」
「そ! ぼんやりとだけど、
「何で自分のことなのに他人事みたいに言ってンだよ」
「あれ? うん……不思議だね?」
なんとなく一護の方を見て笑って、それから「さっきはありがとっ」ってお礼も言っておこう。こういうのはちゃんとやっておいた方が、一護の中の私のポイントも上がっていきそうだし。
ちょっと視線逸らして、そういうところはカタい感じに見えるけど、慣れて来ると可愛いのかな? うん。織姫とかがどう思ってるか気になるなー。
「じゃ、また明日ね。うち、お墓から結構近い所にあるから――――って、な、何?」
きゅっ、て一護に手首を掴まれて、ちょっとドキっとする。えっ何? ナニかありますか? て感じで微妙に声が出ない。
そんな私に、一護は疲れた感じで言ってきた。
「馬鹿、今目の前で襲われてた奴そのまま放っておけるわけねェだろ?
まあチャドとかたつきの奴とか中学の頃、そんな理由で泊めたこともあったし……、妹の部屋で勘弁しろよな」
「えっ?」
言ってることはわかるんだけど……、もしかして、一護の家に泊まれって言ってるの?
あれ? そんなに積極的!?
…………そんな訳ないってわかってるけど、密かに、密かに、私は胸の内が高鳴るのを感じた。
※ ※ ※
「いやベッドの下漁ったって何も無ェからな!?」
「えぇ~? 殺風景な部屋だからてっきりエッチな本はしっかり隠してる系かなーって思ったけど」
「妹たちも入るンだぞ、隠す訳無ェだろ!?」
「えっでも読んでないってことはないでしょ? えっもしかして友達と回し読みとかしてるの……? 引くわー」
「してねェよ!? というか何でそんな興味津々なンだ……!!?」
(たわけめ、声の弾み方で察しもしないのか一護のやつめ)
押し入れの中、パジャマに着替えるにもまだ関東の真夏ゆえ蒸し暑いので、人の目がないことを良いことに下着姿でくつろいでいた朽木ルキアは、聞こえて来た一護と茜雫の声に呆れた表情である。1センチ程度隙間を開けて様子を覗けば、一護のベッドの上に座り上機嫌そうに家族の話を語る少女。気安い、というより小さい子供が家族の自慢をしているようなその姿に、朽木ルキアは何とも言えない気分になってくる。
そもそもパトロールに行って来ると、一護の魂を抜いた後の話だ。帰って来て早々にベッドで身体に戻った後、そのまま窓から下に飛び降りて(やや高校生離れした身体能力である)、玄関から入り直し。何を面倒なことをしているのかと思えば、その理由は聞こえて来た
『ぼおおおおお!? い、一護が、一護の奴が、こんな可愛い子を……!』
『ほああああああ……!? お兄ちゃん、お兄ちゃんがたつきちゃん以外の女の子を……! 夏梨ちゃんに続いてお兄ちゃんまでもが……!!!』
(ついに本性を現したか、あの不良学生め!)
このあたりルキアも謎の興味津々さで一瞬テンションが上がったが、続いて聞こえた「悪者に追われてるから今日だけ匿う」という話と、ぶすっとした声の「
もう片方の妹が宥めながら色々話していたようだが、まあ入り口の方に気配があるので、つまりそういうことだろう。止めきれはしない程度には、黒崎家は仲良し家族なのだ。……まあ、御父君のテンションは「本来のことを思えば」若干困惑する部分も大きいのだが。
全く面倒な性分な、と思いつつも、それでわざわざ生活リズムを変化させる必要もない。そろそろ着ておかないとまずいかと、追加で買った一護の妹が持つものと同じデザインの黄色いパジャマ着用するためにと、まずブラを替えながらルキアは耳を澄ませる。
部屋に入って来た茜雫は、最初はどこか不機嫌そうだった。
『どうしたんだよ、途中まで全然元気だったじゃねェか』
『べっつにー。あんな誘い方したんだから、てっきり……』
『てっきり何だよ。というか、まァ、あのヒゲとかは勘弁してくれよ。俺もあのテンションは持て余してる』
『そうじゃなくってさっ! ま、でもいいや。そういうおカタいところも、一護らしいしね』
会話を重ねて機嫌を直し、ニコニコと楽し気に笑う彼女の表情に、朽木ルキアの「女」としての情念の部分が警鐘(?)を鳴らす。一体どのような手練手管を使ったのか定かではないが、どうもあの茜雫という少女、一護に向ける視線とやりとりが熱っぽい。
というか、かつて十三番隊で慕っていた志波海燕を想っていた自分が重なって、直接的にその心中を察することになり、一人物静かに自己嫌悪のような羞恥心に苦しんだりしていたが、それはさておいて。
(流石に尻が軽いと……いや今時はそうなのだろうか? いや、別に一護がそう悪い男と言う訳ではあるまいが。そもそも一護はおそらく…………)
謎の自己弁護をぶつぶつとしながら、ルキアは状況の推移を見守る。
「おい、急に黙ってどうした? 親父さんがどうした?」
「……ううん、何でもない! あー、…………って、何これ? えっ読めないんだけど?」
「何って、いや、シェイクスピアだけど……」
「もしかして原書っていうか、翻訳されてないやつ!? うっそ、一護こういうの読むんだ!」
「いや、まァ多少は……」
「何照れてるの?」
「い、いや、別に……」
(そうか、よくわからぬがそこで羞恥心を覚えるのか奴は)
おそらく同年代の男子高校生と比べて、そのような小洒落たように見える趣味があるように見られるのが気恥ずかしいのだろう。もしくは以前、それが理由で因縁を付けられたことがあるか、いじめられでもしたか。
そこをつつかれるのがよほど弱いのか、
押し入れに関しては現在の恰好が恰好であるため内心かなり焦ったりもしたが、どうにも自由奔放を絵にかいたような少女である。時々発言も失礼であるが、どこか幼いのか悪気が感じられず、そのせいもあってか一護も対応がやや妹を相手にする時のようだ。
(その割に時折目を逸らしたりしているのは……、まあ奴もガキとはいえお年頃というやつだな)
今日だって井上のはち切れんばかりの胸を18回以上は盗み見ていたし、と思い返しながら、何故か自分の身体を一瞥して謎のもやっとした感想を抱くルキアであった。
さておき。何で襲われたのか、襲われた相手の情報を何か聞いたかと問われた彼女は「知らなーい」とか「ガンなんとかとジャイアン」とかよくわからないことを言いながら、脚をぱたぱたさせ幼児のような適当な振る舞い。
「いや、だから……」
「一護がもうちょっと助けるのが遅かったら、何かあいつらも零したかも?」
「何だその言い草!?」
「あー、ごめん今のナシ。ちょっと言い方悪かった。……うん、情報は引き出せなかったけど、助けてくれてありがとね? 一護♪」
「最初からそう言えば……、お、おう」
そして、わずかに頬を赤らめ満面の笑みを向けられた一護は、何故か直視せず視線を逸らす。貴様井上は良いのかとか、私にはそのような反応をしたことがないだろう貴様とか、色々思う所があるためデフォルメされていそうなジト目を送っているルキアであるが。直後のやりとりは、流石に頭を抱えた。
「ま、それはおいといてー、明日のデートのことなんだけど――――」
「だからデートじゃねェって言ってるだろ!? いまいちわからねェけど色々大変なんだから……って、あー、人のベッドで寝るなよ風呂も入ってないのにッ!」
「いーじゃん別にぃ! そこまでカタく言わなくても……えっ? あれ? お風呂入ったら、一護のベッドで寝ていいの?」
「い、いいわけ有るかっ! というか脚バタバタさせてないで閉じろ!」
「え~~~~、何で~~~~?」
「……クマとハチミツ」
がばり、と飛び起きて正直もはやギリギリを通り越してめくれ上がっているスカートの上から自分の股を押さえ、顔を真っ赤にする茜雫である。対する一護は半眼で、チクチクと刺す様に
「あー! 今、絶対子供っぽいって思ったでしょ! それ言ったら戦争だからね、センソー!」
「いや、黄色似合わねェとか言ってた割になァくらいは思ってる」
「仕方ないでしょ、洗濯してあったのこれだけなんだから!?
というかエッチ! 一護のエッチ、エッチエッチ、エッチッチー!」
「馬鹿、隠す努力くらいしてから言えッ! というか本当その語彙の少なさ何なンだよ……」
(たわけめ……。いや、外から見ると思ったより恥ずかしいものがあるな)
一護と茜雫のそんなやりとりをジト目で見ながら、若干顔を赤くしつつ右手で胸元から身体を抱きしめ、左手で下着の上から股を抑えるようなポーズになったルキアはさておき。
その後、一護の部屋の扉の前で色々盗み聞きして騒いでいた家族をドヤしつけた一護を見送り、茜雫は目を細めて、寂し気に微笑む。どこか羨ましそうな、眩しそうな目だ。
彼女の表情を見ていまいち彼女の感情がわからなかったルキアだったが、そのまま力尽きたように寝込んだ茜雫には閉口である。結局、抱えて運ぶのもそれはそれで揶揄われそうだと諦めた一護は、彼女はそこで寝かしつけ自分は一階のソファーで寝ることにしたらしい一護。
パジャマを一通り着込み、そっと音をたてないように押し入れの戸を引き、部屋を出たルキアは、深夜の黒崎家で彼の後を追った。
「下駄帽子か? ……嗚呼、コンが言ってた奴とは戦ったぜ。すぐ逃げていきやがったから、怪我も全然無ェ」
どうやら浦原に連絡をとっているらしい。いつの間に番号交換などしていたのだろうかと少し不思議がるが、すぐ邪魔するのもどうかと思ったので、コップに冷蔵庫から出した麦茶を注いで持っていく。
「甲冑の文様……貴族とかあンのか、尸魂界? まあ覇権争いとかしてるなら、追放された奴も出ちゃくるだろうけどよ……」
電話終わりのタイミングを待ってから、ルキアは一護のいるベランダへと歩いていく。彼女の持って来たコップを見て「おう!」と軽く一護は応じた。
「ありがとな」
「まあ、真夏はしっかり水をとらねばな。……まさかこうも現世が蒸し暑いとは思っていなかったが」
「関東だしな。気候の問題で東側はムシムシするんだ。尸魂界は、カラっとしてたのか?」
「いや、地区によるかな。とはいえここまで常識外れに暑くは無かったと思うが……」
雑談を交わしながら、苦笑いを浮かべるルキア。そういえば井上織姫が「そのうち皆で海行こうよ!」と言っていたのを思い出す。クラスメイトの浅野圭吾もそんなことを言っていたが、それと便乗するのか、一護が言っていた通り市民プールで落ち着くのか。なお茶渡から「市民プールは、俺には辛い」というコメントがあったので、おそらくは海になるにはなるだろうが。
その時の石田の反応を思い出し、その話を振ろうとしたそんな時。
「……なァ、ルキア。死神ってのは生前、現世で生きてた時の記憶とかって有るのか?」
一護の発言に、ルキアは一瞬思考停止。そして悩みながら、言葉を選ぶ。
「…………流魂街、尸魂界の魂魄が送られる街区角の地域から、死神になる場合のことしか語れないが、それで良いか?」
「おう。って言っても、単語とか全然わかンねェけど……」
「今日は遅いし、かいつまんで話そう。通常あちらに住まう魂魄は、インコの柴田もそうだろうが生前の記憶を保っているものと、そうでない者とに分かれる。前者は魂葬ないし成仏した魂魄。後者は、尸魂界現地で生まれ育てられた魂魄だ。
……私はおそらく、現世で赤子の頃に死んだ人間だから、その例には当てはまらないがな。故に思い出らしい思い出も全くないのだが……、体験者いわく、『抜け落ちる』ような、『封をされる』ような感覚があるそうだ」
「思い出せないってことか? ほとんど」
「ほとんどではない。死神の霊力を育てることで、以前の自分の人格を保ったまま、その己が成立する背景その全てを『黒く塗りつぶされる』ようなものらしい。それでいて以前と言動が変わらないのだから、こればかりはいまいち判ったものではない」
例外もいると兄様に聞いたことはあったが実例は知らぬ、と言うルキアに、一護は「そうか」と気のない返事。
「どうしたのだ、貴様」
「……別に。ただ、何となく聞いてみたくなっただけだ」
そう言った一護の視線がちらりと上の方を見たのを、ルキアは見逃さない。短いが濃厚で、そして段々と長くなりつつある付き合いだ。このあたりの機微も一つ屋根の下でくらしていれば、判別もついてくる。
おそらく茜雫に関係することなのだろうと……、ルキアは自分の中にある疑念を、いくつか深めていった。