※ダークワンの面々の漢字は、映画だとカタカナ表記だったのでイメージからあてています
(斬月が、……いや、違う!? 斬月じゃねェ!?)
突如、周囲へと火球を放った少女の死神。その一撃を
だからこそ、斬り払った地面から大きく円を描いて投げたそれを――――火球の一部が接触した斬月本体を、意識していなかったのが失敗だったのかもしれない。
一気に、斬月の刀身の一部が赤く輝いたかと思えば、その色が一気に赤く染まり。
気が付けば、自分の身体の自由が突如として利かなくなり始める。
そしてあろうことか、この時点でほぼ全力の月牙を、霊圧を込めて放とうとしている。
何をしているのか、というどころの話ではないが。それでもあの少女の死神もまた同様に爆裂する火球を無言で飛ばしており、状態はどうやら自分と似たような有様であるらしい。
洗脳ではない。さながら、斬魄刀と使い手の
「――――っ」
そして、月牙がそのまま茜雫目掛けて拡大していく様を一護は黙って見守る事しか出来ず。
仮にこのまま放ってしまえば、どれほど足掻いても、精神で足掻こうと、身体の制御を取り戻すまでに、茜雫の元まで追いつかない――――。
そして嗚呼、聞こえるはずのないと思っていた声。自らの虚の力と思われる、一護の攻撃を司ると豪語する真っ白に染まったもう一人の一護。
……だけではない声が、一護の脳裏に響いていた。
多分、あんまり聞こえてはいけない類の声が。
『――――ふほうしんにゅうしゃ!』
『うおおおおおお!? 何だコイツら、意味マジでわからねェぞ!?』
『おおお、落ち着いてくださいませ我が夫!? というか蜘蛛、蜘蛛!? 何故こんなに沢山の蜘蛛なのですか!!?』
『あ? 姐さん別に虫とか苦手っつー訳でも無ぇんじゃ……』
『殺生するのに適した時間帯がならわしで変わるイキモノなど面倒極まりないではありませんかっ!』
『駆除側視点か、あー、本当所帯じみてきたなァ……』
『――――殺すのが難しいのならば、追い返すのが妥当な処置になるだろうが……、おそらく末端の一部であるのだろう、どちらにせよ結果は変らぬか』
『オッサン!』
『ご老体の方!?』
『はなげ!!』
『………………………………』
『いやお前、オッサンその呼び方嫌がってンだから止めてやれ、ちょっと心が涙をこらえてンぞ』
『そ、そうなのですか……? いえ、とはいえそれ以前に、意味もなく罵倒するものではありません!』
『ぎゃうー! 痛い痛い痛い! 暴力はんたい!』
『いやお前、今までこっちでやってきた悪戯振り返ってみろ? 少しは手を出さねェと色々問題が――――』
(――人の精神世界みてェな所で何やってンだよアイツら!? というかおっさん頑張れ……! なんつーか、マジで!? 大丈夫ちゃんと鼻毛とかじゃねェぜっ!!)
そこはかとなくおっさんの方の斬月の息遣いが「嗚呼……」とか物悲しい響きをしていることもあり、声が届くわけもないだろうに一護は応援することしかできない。そして意味不明の状況で身体をのっとられ、あまつさえ周囲を全て一掃しようと薙ぎ払わんと霊圧を込めてしまっている状況で、わずかなりともショック療法的に冷静さを取り戻せた一護であるが。取り戻したからと言って、状況に何か改善があると言うわけでも無い。
だが一瞬、自分の意識で躊躇したからこそだろうか。茜雫の方めがけて斬魄刀を振り下ろすよりも前に、先ほどとは異なり視線を鋭くした、浮竹という隊長の介入をする隙が出来たのかもしれない。
「記録は来ているから、心配はするな! ――――
改号らしい改号なしに、斬魄刀を解放する浮竹十四郎。一護の前方に立つ彼の斬魄刀は
その刃の片方を突き出したかと思えば、膨張していった月牙があっという間にその刃に吸いつくされていく。どっと、無理やり霊圧を貯め込んだせいで「軋んでいたような」体の違和感が抜けていく一護。そんな彼の様子を見ず、自らの周囲に霊絡を表出させた浮竹は。そのうちの一つを一瞥し、先を視線で辿り睨む。
もう反対側の刃を構えると、その先、茜雫より少しそれた方角へと月牙の霊圧と
それを斬り払った男は、浮竹の言葉に対して実質、肯定するような、それでいてどこかズレた返答をした。
「その文様、間違いない。千年前、尸魂界を追放された元重貴族――――
「さて、知らんな。長きにわたり断界の闇に閉ざされ、生き永らえし今の我らは――――ただの『
『――――たーく、わん!』
(って、いや何でだよ!?)
そして一護の脳裏に響く幼児の声に、思わず内心でツッコミを入れた。
ついこの間訳の分からない現象を彼に対して引き起こした、どうやらルキアの何かしらの能力? らしい氷の剣、その本体
ただ、ツッコミを幾度入れようとも一護としては困惑しかない。突如脳裏に響く声もそうだし、全く自分の身体の自由が利かなくなっていることも含めて――――。
いや待てよ? 先ほど、おっさんと袖白雪たちは何を言っていた? ふと冷静な思考を取り戻した一護は、その場で少しだけあの意味不明なノリの会話を思い返す。
不法侵入。そして、入ってきたのは蜘蛛……沢山の蜘蛛だと。
(今、俺の
だったら対処は簡単だ。自らを占領する連中を追い出せばよい。だがどうやって? こちらからあちらに介入する方法を一護は知らないし、そもそも刃禅をしたところで「今でも」あちらの映像は不明瞭だし音も聞こえない。
そして色々と考えて、どうしようもなくなった一護だったが――再び斬月を構えさせられ、霊圧を軋むほどに身体に貯め込まれる感覚を覚える。
(や、ばい……! アイツも、平子のところのちびっ子も言ってやがったな、自分の霊圧で身体が花火みてェになるみたいな話を…………!)
とすれば、わずかなりともまだ反抗できる今の自分に出来ることは……。それでコントロールが取り戻せるかは不明だが、何もしなければただ
ならば、と、一護は覚悟を決めた。
「――――発火っ!」
漲らせるのは、戦意と
どうやら自分に、ルキアや恋次の
手首からほとばしる霊圧を自らの内側に引き込み、纏い、放出する。ゆらめくそれは白い霊圧から、徐々に徐々に黒く染まり、布のように体にからみつき――――。
「く、おお……、おおおお…………ッ!」
駄目だ、身体に纏われる霊圧が、黒いそれすら徐々に赤く染まっていく。斬月や、あの疲れたような少女の死神の斬魄刀と同様に、怪しく輝く斬魄刀のその光の色と同様に。
殺意も、戦意も、ありったけ出しても無理だというのか――――?
『なるほどなァ、コイツら経由で外と繋がってンのか。だったら、待ってろ兄弟――』
「……ッ!」
そして次の瞬間には、一護の視界が一瞬黒く覆われ、そして「体の制御を完全に奪われた」。
ただし、奪ったのは違う相手だ。今、現在進行形で自分を侵食しているだろう、この赤い光ではない。
『――――火輪の射戦・伏龍!』
斬月を持つ右手とは反対の、左手に。いつかおっさんの方の斬月から手渡された、妙な西洋剣のような何かのシルエット。ただし、色が異なる。
途端、斬魄刀の全体に黒い炎が一気に回り、炎が鎖のように姿を変え、右腕ごと覆い隠すようになる。
それと同時に、音はないものの耳をつんざくような、頭を割るような。そのような強い反響音が一護を襲った。
(何、だ……? これ…………ッ)
『一応、
おそらく白一護だろう、自らの口元から聞こえる独り言か返答か区別のつきにくい言葉に、一護は反応する余裕がない。
やがて鎖の隙間から見えていた赤い光が消え失せ、同時に頭痛を覚える音も聞こえなくなる。
それと同時に、一護の身体は、一護を見て目を見開く浮竹を一瞥すると、そのまま仮面をずらして砕き、上空のダークワンや茜雫を見上げた。
※ ※ ※
一護が今、何をしたのか意味がわからなかった。
ただ一護の顔には、さっきまで虚の全身を覆う髄を小さくした様な、ただの仮面が形成されていて。一護の放つ霊圧もそれに応じて、いつものそれよりも、怖い、そう、食べられちゃいそうな凄い恐いやつになっていて。
ただ、あの赤い光が消えたら、一護は普通に仮面を剥いで、私の方を見て少しほっとした表情になって。嗚呼すごい、たったそれだけで一護に浮かんでいた恐怖心なんてもう、どこかに飛んで行っちゃっていた。我ながら単純……? ううん、それだけ一護が格好良いってことだ。
400ポイントくらいあげちゃう。
ただ、そんな私と対照的な相手もこの場にいて。
「…………そうか、そうか、あまつさえ死神の中に
彼に罪はないのだろうが、この業の深さを許す霊界など意味があるのか?」
龍堂寺、うん、龍堂寺の方が格好良いからこっちで呼ぼうかな。龍堂寺は一護を見下ろしながら、拳を握って明らかに不機嫌そうだ。ぷるぷる震えてるし、怒ってる? 何で?
いや、一護が虚の力を使ってるってのも変って言えば変だけど、それよりも何よりも……。
「何だよアンタ。……別に、皆は関係ねェだろ。これは俺の問題だし、体質みてェなモンらしいしよ」
「体質などという生半可な言葉で、惑わされるべきではない。黒崎一護、嗚呼、
「だから何で名前知ってンだよアンタ。
…………哀れまれる筋合いはねェ。少なくとも、俺だってよくわからねェけど……、コイツのお陰でアンタの力を無効化できたって言うなら、今、それは別に悪いモンじゃねェだろ」
龍堂寺を睨む一護。その近くで、あの病んでるっぽい子が刀を握ったまま気絶してるっぽい。たぶん一護のさっきのアレで、そのまま洗脳っぽい状態が解けたってことなのかな。
龍堂寺の方はといえば、一護には同情してるっぽい? 悲しそうに見て、さっきから声音がこう、すっごい寂しそうって言うか、悲しんでるって言うか……、やっぱり哀れんでる感じだ。
で、目を閉じて、一息ついてから。
「
斬魄刀を解放して、同時に、また私の頭に、沢山の声が聞こえた。
何? と声をあげるよりも先に、あいつの斬魄刀は一護のやつみたいに、身の丈くらいに大きく、赤い、まるで「鉄の植物」みたいにびたびたとムチみたいなのがいっぱいまとわりついた刃に変わった。
「――はァ!」
「ふッ――――」
……また、だ。「ブッ」みたいな変な音を立てて、たぶん瞬歩でこっちに来た一護は、そのまま龍堂寺に斬魄刀で斬りかかる。……っていうか、あれ? 何か死覇装も、コートみたいにヒラヒラしてるし格好良くなってる!? なんか、靄みたいでちょっと変だけど、白い霊圧がゆらゆら揺らめいて、炎みたいでちょっと綺麗だ。
そのまま叫びながら、一護は斬魄刀を振り回してる。解放だってしてないのに、単純な出力だけで言ったら
ただ、そんな一護の攻撃が有効打を与えられてるかって言うと、決してそんなことはない。
「くそ……っ、火輪使ってるっつーのに、斬月の刃が通らねェ……!
それに、アンタ…………」
「……そうか、君は守りたい者たちのため
何、何、何なの!? 今、二人とも何も会話してないよね? 何、斬りあって分かり合ったみたいなこと言ってるわけ??
混乱する私なんて置いてきぼりにして、一護は私を庇うように後退。一護の斬撃は、ことごとくあの大きな赤い剣の鞭みたいな部分で弾かれていた。鞭もなんかぶつかった時の音が「キン」とか「キンキン」とか「キンキンキンキン」とかみたいな音だったし、きっとあれも金属みたいな感じだ。
ただ、それを見ているのが精いっぱいの私は、その隙間に入り込むことが出来ない。
わざわざ死神の姿になったっていうのに、一護を助けることさえできないなんて……。
「それでも……、私だって死神なんだから!
夕闇に誘え、弥勒丸――――!」
「ッ、茜雫ッ」
一護の隣を駆け、弥勒丸で風の渦を起こし、それを先端に集め――――。
「
「――――
……そして弥勒丸の風と雷の刃が、龍堂寺にたどり着くより先に。私の手足は真っ赤な鎖に拘束され、お腹に龍堂寺の拳が刺さっていた。
痛いし、意識が遠のく。
貫通はしてない、けど、ちょっと待って? 今、コイツ何やった?
コイツが声をかけただけで
その時に聞こえた悲鳴みたいな頭の痛さは…………、さっきまでとは比じゃない、まるで目の前で人が斬殺でもされたような、そんな、痛々しいものだった。
「あ、あ、あ、アンタ…………!」
「まだ意識があるか、哀れな。例え紛い物であろうと、慕う相手の力になろうとするその心は、本来なら尊いものであるのだろうがな」
「アンタ、今……!
うっ、と。それだけ叫んで、私は力が抜ける。
頭の上から、声が聞こえる。腰に私を抱きかかえて、龍堂寺は私に言い聞かせるように、ゆっくりと口を開いた。
「人、か。……確かに人ではあったのだろうが、既にお前という記憶の塊が生まれ、抜け落ちている時点で、この者たちはもう元へは戻れぬ。欠けた魂の、失われたそれは虚よりも業が深い――――各々の個性すら失った彼等彼女らは、言うなれば『動く霊子の塊』。
我ら
「か……、糧?」
「
何を言ってるか、
だけど一つだけはっきりした。コイツは、コイツらは…………、欠魂をそのまま自分の身体に取り込んだり、武器にしたりして扱えるんだ。
だから、こんなにもさっきから、私に聞こえる声みたいなのが苦しんでるんだ。
私が斬ってた時みたいに、欠魂たちは姿を消してるわけじゃない。あの時はこんな悲鳴なんて聞こえなかったから、
「ゆる、せない……!」
苦しいよ、一護。こんなに、こんなに悔しいっていうのに。私は、この男に勝てない。絶対私が何とかしなきゃいけないっていうのに、じゃなかったら、「私が生まれたことで」、自分が誰だったかわからなくなっちゃったなんて。そんなあの人たちを、こんな風に無理やりなんて、生優しい言葉じゃないくらいに、酷いことして――――。
私が……! アタシが、皆から奪っちゃったんだから、だからアタシが、かたき討ちしないといけないっていうのに…………!
「許す、許さないの話ではない。
そもそも思念珠とて
「ふり、じゃ、ない……!」
「どちらにせよ、意志は必要ないのだから――――」
「――――茜雫ァ!」
一護!
叫んで、一護が私の方に来る。斬魄刀を片手に、龍堂寺に斬りかかるようにして――――。
「
――――そんな一護を、
「………………なん、だ…………、と……!?」
何が、どうなってるの?
弥勒丸の矢じりを見て、そして、錫杖を見て……、その色が真っ赤に染まって、赤く輝いているのを、一護は睨んで。
えっだって、おかしいでしょ? 何で、何で左手が弥勒丸から離れないの?
一護、一護――――。
「一護――っ!!」
「茜、雫…………」
震える手で、上手く動かせない手を伸ばして。
その手を掴もうとした一護は、空中で、感じる霊圧が弱くなっていって。
死覇装が、普通のそれに戻ったと同時に。私の横を通り抜けるように、一護が、ふらふらって、落ちていった。
「いや、嫌だ、嫌だってそんな、一護、あ……」
「斬魄刀を模しているとはいえ、斬魄刀と同程度の内在世界は存在するか。
「一護――――っ」
声が、出ない、だけど精一杯叫ぼうとして。
泣き叫ぶのと同時に、ひらりと、一護に買ってもらった赤いリボンが舞い落ちていくのが見える。多分、伸ばした一護の手に引っ掛かってたんだと思うけど、そんなの、気にならない。
一護が、一護がこのままじゃ死んじゃう……!
「――――いやぁああああああああっ!!!!」
「…………せ、ん、……」
私の絶叫なんて、誰も気にしてない。一護以外は、私のことを見ていない。
「フッ。……
「逃がすか、西堂、限定霊印の解除は終わっているだろう! 早くなんとかしろッ!」
「いやこちとら一応平隊士っスよー? 全く四楓院隊長の方がまだマシだった……。
――――縛道の六十一、
詠唱破棄。だっていうのに、あの木刀みたいな斬魄刀を持ってる変なおじさんの鬼道は、それはもう大きな大きな光の槍みたいなのを作って、龍堂寺を拘束する。明らかに鬼道として普通じゃないし、龍堂寺もなんかちょっと顔をしかめた。
だけどそれと同時に、やっぱり木刀みたいなそれが真っ赤に染まって……、おじさんの鬼道が二番隊っぽい隊長さんに向き、龍堂寺のそれが解除される。
何をやっているか! って怒ってるけど、多分、あの人も……。
私の周囲に、龍堂寺の仲間っぽいやつらが5人集まって来る。あいつら、肩を並べて一緒に上空に来てるけど、そのうち顔がすだれみたいなので隠れてるやつが詠唱してる。多分、逃走用の鬼道だ。
一護……。
さらわれる私を追いかける、護廷十三隊の人たちから、落下する形で遠のいていく一護。
そんな一護に、初めて一護と会った時に一緒にいたお人形さんみたいな可愛い子が……、ルキアちゃんって言ったっけ。あの子が、空中で気絶する一護を庇うように抱きしめて、一緒に落ちていってた。