メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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湿 度 上 昇 警 報
おかしいなぁ、もうちょっと話進む予定だったんですが……


#064.MoN⑨お前のために何かできるのなら

 

 

 

 

 

「ありがとう、皆が居てくれて助かった。しかし一護も、あれほど水臭いと言っただろうに……」

「黒崎君……、傷は治ってるけど、辛そう」

 

 浦原商店の一室。魂魄の姿、すなわち死神の状態のまま気を失っている一護の周囲から、2つの()()()()()()()()が離れ、織姫の髪留めに合流する。盾舜六花 、彼女の「拒絶する」能力をもって、ダークワンの首魁との斬り合いや茜雫から受けた傷を修復された一護は、しかし織姫が言う通りに苦悶の表情だった。

 一護、と呟く茶渡に、眼鏡を押し上げる石田雨竜。彼に関してはわざわざ来る謂れも無いだろうに、織姫から連絡が入れば色々とブツブツ文句をつけながら見舞いに来ていた。

 

 そしてそんな中、一護の身体に入ったままのコンが困惑しながら確認する。

 

(ネー)さん、何が起きたってんだ? あの、欠魂(ブランク)って奴らと一緒にいた連中と、戦ってたってのだけは分かってるけど」

「……茜雫(せんな)、という少女の死神。井上は面識もあるが、あの者こそ我々が探していた思念珠と呼ばれる存在であったと、そういうことらしい。

 なあ、恋次」

 

「――おう、俺もよくわかンねぇけどよ。というか、ほいっ」

 

 ルキアの声に応じて、彼女の背後の引き戸を開けて入ってくる阿散井恋次。こちらも姿は死神装束だが、手元には湯気が立つ濡れタオルを持っており。それを「ほいっ」と言ったタイミングで、同時に一護の顔目掛けて放り投げて――――。

 

 

 

「――――って熱ッ!? ば、な、何考えてンだ恋次、テメェ!!?」

 

 

 

 そして傷の痛みやら何やらも完全に忘れて、勢い良く立ち上がりタオルを投げ返す一護。デフォルメされていそうなコミカルな仕草であるが、ぱし、と投げられたそれを掴み「おーおー元気そうじゃねぇか」と軽く返す。

 

「さっきからずっと似合わねぇ面してたからな。そのくらいで丁度良いだろうぜ」

「何が似合わねェだ、別に人がどんな顔してようが関係ねェじゃねぇかッ!」

「いや別に? ただ辛気臭ぇ顔したまま突き合わせて色々確認するってのも、気が滅入る」

「テメェの感想じゃねェか!?」

「何か文句あるかよ、あぁ?」

 

 途端、顔を突き合わせて怒鳴り合う仲の良い二人。「お、起きてたんだ……」と何故か照れる織姫と、冷汗を流す茶渡、「少しは落ち着けないのか君たちは」と呆れた様子の石田雨竜に加え、丁度そんな彼らからふとんを挟んで反対側、店員の握菱鉄裁とその左右の子供たちのうち、ウルルという少女の方が「あの、私のおふとんだから……、暴れないで……」と顔少し赤くしながら、控えめに抗議していた。なお誰にも取り合ってもらえない模様。

 

「ったく、だらしねェなー。朽木の姉ちゃんが到着するより前に、派手にやられちまって」

「っていうかよ? ガキンチョ。それ言ったら一護の奴、そもそもデー ――――」

 

「――――はーいはい、そこまでそこまで。

 黒崎サンは、むしろ生還できたことを喜ぶべきでしょう。不意打ちとはいえ隊長格が三名いても、追跡を振り切って逃げおおせる訳ですから、敵もまたそれなりに強い、ということでしょうね」

 

 そして一護と恋次が喧嘩しながら戯れている横、店員の少年の方とコンが顔を突き合わせてヒソヒソ話をしようとして(※なんとなく井上織姫が見ている)いたのを含め、浦原喜助が手を叩き注目を集め中断させた。

 取っ組み合っている一護と恋次には、下から飛び上がった猫姿の夜一猫ぱんちが左右に決まる。「意外と強ぇ……、だと!?」などと似たような感想を言いながら倒れる二人はさておき、「とりあえずお茶でも持ってきてもらえますかね、鉄裁(てっさい)サン」と一声かけた。

 

 さて。ふとんが片づけられ部屋の中央には卓袱台一つ。人数分のお茶が置かれた卓上に、一応はギリギリすし詰め状態で一護たち関係者は座る。なお浦原商店からは浦原と夜一のみなので、浦原の足元にはペット用の飲食用の器にミルクが注がれていた(それで良いのだろうか?)。

 

 そして、浦原が話し始める。恋次の伝令神機から通信関係の情報をクラッキングして複製奪取し(良いのか? というルキアの確認に、いや絶対それ壊れるだろ!? と突っ込む一護と恋次)、尸魂界側の情報を取得した結果の話である。

 

「どうやら敵、かつて尸魂界の貴族だった龍堂寺(りょうどうじ)家の目的は、現世と尸魂界の衝突にあるみたいっスね」

 

「衝突……ンな隕石とかじゃねェんだから」

「いや、黒崎。それはあながち間違った例えではないかもしれない」

「石田?」

 

 適当に感想を述べただけの一護に、やや顔色を悪くしながら聞いていた石田雨竜。ここに来てもっと最初、情報が共有されていなかった彼は、朽木ルキアを始めとして周囲からいろいろと情報を一気に教え込まれた立場だ。そのせいかやや疲れているようではあるが、逆にそうであるからこそ、情報を横に並べて一度に俯瞰することが出来たのかもしれない。

 

「つまり、黒崎。……この場合、()()()()()()()()()()()()、みたいなことだろう。

 そういうことですね? 浦原さん」

「あァ……?」

「察しが良い子だ。…………まあ、そんなトコロっスね。少なくとも尸魂界はそう見立てて、対策を立てている最中のようっス」

 

 隊長格をまたあちらに戻したのもそれが理由、と扇子を広げ口元を隠しつつ、浦原は声音を低くして続ける。

 

「ただ、あちらからは侵入することが出来ない。叫谷と現世との融合もまた複数個所であるならば、それ以前から()()()()()()()()()はあったのかもしれませんが。残念ながらそれは尸魂界にはつながっていない。

 茜雫サン、と言いましたか。彼女のような思念珠がこちらに来る時の通り道が、かの異界の入り口ということになる訳だ。……ボクの方でも調査はしてみますが、流石にヒントもなく短期間に見つかるとは思えない」

 

 少なくとも、と浦原は全員に念押しする。

 

「敵の計画の要である思念珠があちらの手に落ちた以上、時間的な猶予はおそらくそう無いといえます。だからボクらがするべきは――――」

 

 

 

「――――いや、話長ェよ浦原さん。要は、茜雫がこっちに来た時の入り口を探せってことだろ?」

 

 

 

 一護の言葉に、帽子の下から目を丸くする浦原。もっともすぐ普段のお気楽な調子に戻り「その通りっスねぇ!」と軽い調子でけらけら笑う。

 行くぜ、と立ち上がる一護に「何か心当たりでも?」と聞く浦原に。

 

「……いや。でも、ちょっと忘れモンだ」

「ハイ?」

 

 不思議そうにしている浦原を含めた場の一同の中。唯一、朽木ルキアだけが昨晩、一護との雑談から得た話から、何かに思い至ったのか。「あぁ……」と、どこか力なく、微笑みが曇った。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『あの蜘蛛共め……、次は滅する。必ず滅却する』

『オッサン地が出てンぞ、ちょっと落ち着けよ?』

『落ち着く必要を感じぬぞ、あの無礼極まりない斬魄刀相手にはな。……()()()()()のは早計だったか? 恨むぞ■■■■よ』

『そりゃそうなんだろォが、俺らがどうこう言ったって表に出る手段が無ェ以上はなァ。

 というか、アー、何だ? …………、死骸、残るンだな』

 

『ぎゃーう! カニの味!』

『こら! そんなもの食べてはいけませんッ! ばっちいですよ、ぺっぺっ!

 というかカニなどあなた食べたことはないでしょう!?』

『ぎゃう?』

 

 ……何と言ったら良いか、虚の仮面が変形したみてェな蜘蛛(一匹当たり子雪くらいの大きさ、つまり子供一人分くらいのサイズ)みてェな何かがそこら中にひっくり返って散らばってる。そいつ等全員、その内外を「一護の霊圧」で蒸し焼きみてェな状態にしたせいか、何故か子雪が「良い匂い!」とか言い出して食い始めた。

 訳わからねェのは毎度毎度で今更だなァと思いはしたが、そんな娘を腰に手を当ててビシッと叱る姐さんはだいぶ母親が板について来た感がある。……恰好が今日はずっと着物の上に割烹着なことも、それに拍車かけてるがなァ。

 

 ま、そんな話は置いといてだ。

 珍しく色々と話してくれそうだった浦原()()()だったンだが、どうにも時間が無ェせいか説明は巻きで進められた。というわけで俺としちゃ2、3念のため確認してェことがあンだが……、姐さんに聞かせて大丈夫なやつか? これ

 

()()()()程度ならば、口止めを頼めば問題はないだろう。夫婦であるならなおさらな』

『あ゛ー、…………』

『フッ』

 

 そこでちょっとだけオッサンらしくなく笑ってくるところに若干、オッサンの本体たる■■■■(■■■■■■)っぽさを感じて気が滅入る。いや、別にこのオッサンがあっちと何かを今共有してるっつーことはあり得ねェだろうが、どうにも影から感じる辺り、昔を思い出して気が昂ってるような感じだなァ。

 後、オッサン直々に夫婦扱いされると俺としてはコメントが出来ねェ。いや、「核たる俺」は別に独身だったっつーか、そういう暇もなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()、そのまま今に至る訳だが、そんな俺に対して記憶もあんまり共有しちゃいねェ志波夫婦の認識が一緒に押し寄せるモンだから得体が知れねェこの感覚よ。

 

 多分あの茜雫も似たり寄ったりな感じだったんだろうなとは思うがなァ……。ま、こっちは相手の身元は割と割れてるから、混乱が少ないっつーのが救いかね?

 

『ぎゃうぎゃうっ』

『「食わず嫌い良くない」ではありませんっ、た、食べませんからそんなもの…………、本当に北海道のカニを蒸したような匂いがしますね。じゅるっ……』

『オイ姐さん』

『……はッ!? い、いえ、駄目です。そんなことをしては「せっかく人間らしい」生活をしてるのに、また獣に逆戻り…………、落ち着くのです(わたくし)、淑女たれ淑女たれ』

『何っつーか色々言ってるのはツッコミ待ちか何かか? もうちょっと何か隠してンなら脇甘いところ直しちゃ貰えないんスかねェ!』

 

『にたりよったり!』

 

『えっ』

『妥当な評価だな』

『オッサンまで!?』

 

 子雪の生意気な指摘(?)とか、あと自己暗示でもしてるみてェに「私は人妻、私は人妻……」とか連呼してる姐さんあたりはともかく。

 

 忘れ物を取りに行くって出て行った一護と、一護がいねェと瞬歩もできなくなるからとついていく朽木。どうもあのダークワンにやられた時に、落下してる最中の一護を朽木の奴が抱きしめて、縛道で霊子の網を張って受け止めた形になってたンだが、朽木の奴が遅れた理由はそもそも徒歩だったからっぽいんだよなァ……。流石に昨日今日でそこまで事態が動くと思っちゃいなかったろうし、俺としても油断しすぎだったな。警戒は必須か。

 何かしらねェけど()()()()まで失踪とか言っていやがるし。…………これアレだろ、絶対何か次の作戦用に作業時間を確保するためとか、その前後で自分の尸魂界での立場を失わないようにするためとか、そういうアレだろ。経験則的に判るぞこっちはなァ。

 

 で、他の面々は散開! っつーことでバラバラに叫谷の入り口を探してる訳なんだが、なんでか一護はあの妙にちょっと滅却師的にヤベェ感じの名前がする神社に戻って来て、きょろきょろと見回してやがる。記憶置換はしたみてェだが日中の出来事っつーことで事態が大きすぎたせいか、警察だけじゃなくってちょっと野次馬にテレビカメラ入って来てるな……。

 で、そんな一護の背後を「曲光」を使ってついて来てる朽木。お前それいつ使えるようになったンだよ、俺知らねェぞ……? いや、まァ「現世で活動するにあたって」必要になったから、新しく覚え直したとかンなところだとは思うが。

 

「何を探しておるのだ、一護」

「ルキア……? って、いや、お前、全然見えねェんだけど」

「たわけ、貴様が今周囲に漂わせている霊絡で確認できるだろうに」

「そりゃそうだけど、何っつーか気持ち悪ぃ――――って、いや、お前チョークスリーパーは反則だろォが!? つーか暑ィ、ベタベタすンじゃねェ!?」

「……貴様つくづく、日ごろから良く言っているが、()()()()()()()に対する態度がなっていないなぁ。そんなことを言うのはこの()か? ()か?」

 

『――――殺します、黒崎一護』

『いやだから姐さんそれは流石に待てって言ってンだよ!? というか()隠せッ!』

『ほぁ!? だ、誰が鬼嫁ですかッ!』

『ぎゃぎゃーん! おそろい!』

 

 朽木の奴が完全に年頃の小娘より幼い言動で一護の背中に抱き着いて腕で首絞めてやがるモンだから、姐さん的に許せねェラインを突破してンだろう。風呂に入る前に脱衣してた時にちょっと事故でガッツリ見ちまった時ほどのキレ方じゃねェが、「普段は隠してるっぽい」角が頭から生えてるあたり相当だ。

 まァ子雪だってこめかみ近くから角っぽいのが生えてる訳だし、そのあたりはあんまり突っ込んでやる話でも無ェんだろうが……。

 

 まァ、しばらく戯れた後でぜいぜい息する一護と、姿は見えねェが多分腕組んで「ふふん!」みてェに得意げになってるっぽい朽木っつー状況が完成した後。一護が霊絡で何を探してるのか、朽木は察したらしい。

 

「……茜雫(せんな)の霊絡に、おそらく色はない」

「…………ルキア?」

「大方、あやつの残滓が残っていないか探しているのだろうが。あれは最初からずっと、貴様といるときに『死神の霊絡』の色をしていなかった。唯一、斬魄刀の力を使っている時のみだな」

「お前、知ってたのか? それ」

「初めてあやつが斬魄刀を解放した時から、それだけは見ていた。お陰で私としては、正体の指摘に納得がいったところだよ。……むしろ何故貴様が知らない? 別に色仕掛けでもされて骨抜きにされていた訳でもあるまいし」

「お、おぉ…………、そりゃ、なァ……!」

「一護?」

 

 返答の微妙な歯切れの悪さに、朽木がデフォルメしちまいそうな半眼を向ける。まァ一護も一護で焦ってンのは、アレが井上の奴に見られたら色々大惨事なレベルだっつー自覚はあるせいだろォが……。

 ともかく、漂う霊絡の中から「これだ」と、伸びてる霊絡のうち3つを手に取る朽木。ぐいっと引っ張ってやると、辿る先が「一つに合流してる」のを見て、一護の表情が曇る。

 ついでにこっちの曇り空も何だか雲が分厚くなったみてェで、子雪が「わくわく、わくわく」とかテンション上げ始めていやがる……。

 

 

 

 辿り着いた先は御堂の裏、何だかダルマみてェな石像の足元にある小さな賽銭箱。そこの口に半ば入りかける形で引っ掛かった――――赤い女物のリボンが、一つ。

 

 

 

「やはりこれか。確か昨日、買わされたとか言っていたな。わざわざ忘れ物と言うのだ、戦闘中に落としたのならばこういったものだろうと思ったが」

「あァ。……考えてみりゃ、茜雫の奴がこれを万引きしかけた時に、気付くべきだったかもしれねェんだよな」

「一護?」

 

 さっきとは違い、真面目な顔で訝しむ朽木。

 一護は一護で、朽木から渡されたリボンを握って、拳を握る。

 

 震える手は力強く握られていて…………、朽木は、そんな一護の顔を見て目を見開いた。

 

「…………アイツ自分勝手で、何考えてるかわからなくて、滅茶苦茶でよ。だけど多分、大事なことってのはわかってる。そういうヤツなんだ。

 だから俺も、もっと早く気付いてやるべきだったんだ。ずっとアイツが怖がってたことに」

 

 朽木は、何も言わない。……ンでもってまァ、ポツポツ降り始めてきたなァ。

 ま、洪水にはなりゃしねェだろ。とりあえず捩花の槍を具象化させて、「水流の傘」を作ってさす俺。オッサンはオッサンで影を変形させて真っ黒な笠(被る奴だ)作ってやがるし、姐さんも慣れたモンで自分の刀を具象化するとそれに纏わせるように氷の傘を成型して、子雪を中に入れようとしてた。

 

 だん、と一護は、賽銭箱に拳を叩きつける。

 力強さには、悔恨が乗っていることは口を開かなくたってわかる。

 

「アイツ、たぶんずっと……口にはしてなかったけど、最初っから、本当は自分が何なのかって、ずっと不安だったんだ。アイツの肩を抱いた時、震えて、俺の名前を呼んで、助けてくれって全身で言っていた」

「一護…………」

「だってのに俺は、それにちゃんと気付いてやれなくて…………、アイツの心を、守ってやれなかった……!」

 

 一護の悲しみに、それでも歯を食いしばって泣くまいとしてる強がりに、朽木は目を閉じて何も言わねェ。

 

 リボンを握って、震えて、言葉が続かない一護。

 やがて朽木は、そっと一護の背中を撫でる。人目がないのを良いことに、曲光を解除して。

 

「そう、自分を責めてくれるな。そう、自分で自分を傷つけるな」

「……ルキア?」

「一護。お前がそう自分を卑下する必要はない。そもそも貴様がそう思っている原因は私にあるのだ」

「お前に? いや、これは……」

 

「――――そもそも貴様が死神にならなければ……、あの時にお前の家族を、私が守り通せてれば何も問題はなかった。ただ、それだけのことなのだ」

 

 はっとして、一護は朽木の方を見る。

 朽木も朽木で、あーこりゃ酷ぇ表情してやがる……。ちょっとだけ原作尸魂界篇導入の、離れ離れの時みてェに涙ぐんだ顔しやがって…………。

 んで、辛そうにしてる姐さんはともかく「わくわく! わくわく!」ってさっきよりテンション爆上げしてるお前は何なんだよ振子雪よォ?

 

「お前は言うだろう、大勢の人を護りたいと。だからそのために力があることは、有難いとすら思ってくれているかもしれない。だが、そういう受け取り方もあるのだ」

「…………」

「顔を見てわかるぞ? 私にそう自分を責めるなと、お前はそう()()()くれるのだろう。

 だから、それは私から貴様にも言える。……そう、格好良くなくても良いではないか。お前はお前なのだ、一護。他の誰でもない、お前自身でしかなくて。

 だからこそ、それが大事なのだ。お前がお前だから――――茜雫もきっと、救われていたのだろう」

 

『顎くいっ! 顎く――ぎゃんっ』

『(違ェからな? 姐さん湿っぽくなってツッコミ入ってねェからあんま大声でンな危ねェこと言ってンじゃねェ!?)』

 

 朽木の奴が全力で一護を慰めてるところ悪ィが、正面に回って右手で一護の頬を撫でてる構図は色々とアウトなんだよなァ……。いわゆる顎クイって奴じゃないにしろ。

 阿散井の霊圧がこっちに来てねェのを見計らった訳じゃねェだろうが、このあたりもしかして崩玉でも作用してンのか? 朽木も多分、誰にも邪魔されずに言葉を言いきりたいくらいは思ってるだろうしなァ。

 …………つーか、プロポーズした時の都の奴みてェな表情とか仕草しやがって朽木、お前……。

 

 そろそろ井上にテコ入れ頼むぜ崩玉サンよォ! 無敵の崩玉パワーで何とかしてやってくれよマジでよォ!?

 

『わかった!』

『あァ?』

『ぎゃーぶん! 任せて!』

 

 何か子雪がよくわからねェが、テンション高く頷いているのはいつも通り意味不明だからそれはそれで問題無ェんだろうが……。

 

「あやつはきっと、お前のこの温もりに救われたのだ。だから、茜雫はお前にあれほど懐いていたのだろう。

 目の前で、温もりを感じることは大事なのだ。両手から失われまいと、抱きしめるように」

「…………」

 

 ンでもって、朽木のその物言いには何も言うことができねェ……。

 事実上介錯させちまった海燕(こっち)の側から、きっと抱きしめたままその温もりとやらが失われていくのを味あわせちまった側が何か言えたことじゃねェ。

 でも今の朽木を見てると、少しだけそのことには安心が出来る。ちゃんとアイツは、志波海燕の心を受け取って、今、一護に繋いでくれているっつーことなんだろうから。

 

 一度目を閉じ、見開き、得意げに微笑み。……でも少し強がってンのがわかるような、震えた声で朽木は言う。

 

「だから、今は前を見ろ一護。

 お前が部屋で泣きそうならば、傍で手を握っていてやる。

 お前一人で抱えきれぬのなら、もっと傍で抱きしめてやる。

 ……私だけではないぞ? もっと多くの仲間が、友が、お前にはいるのだから。皆それぞれに、お前の力になってくれるだろう。お前が、皆に対してそうであるように。

 忘れたわけでは、ないだろう?」

「…………ありがとう、ルキア」

 

 ンでナチュラルに朽木の奴が慈しんでるみてェに撫でてる手を、上からぎゅって握って、少し元気はねェが笑い返そうとする一護は、一体誰の教育が悪かったンだろうなァ……。

 

 

 

 見ろよ朽木の奴、今日一番にめちゃくちゃ顔が真っ赤になってやがンぞ。動揺しすぎたぜオイ。お前が一護に見てるその誰かの面影は単なる錯覚だって、前にあれほど態度で示してやったっつーのに。

 

 まァそれに対する一護の反応が「どうした」の四文字だから、バランスは取れてるってことにしとくか。……本当にとれてるか? バランス。不意打ちは卑怯だぞ貴様ー! じゃねェんだよ朽木よォ…………。

 

 

 

 

 

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