「生憎、飛び道具比べだったら負けるつもりはないよ。
「何を語るか、現世の子供風情が……!」
石田雨竜が相対したのは、
そんな彼を見やりながら、石田雨竜は手首に装着されている
それと同時に、梁もまた甲冑に刻まれた家紋のようなそれをなぞり――――。
「
「――――
お互いがお互いに、その身に宿す血筋と力を叫ぶ。
同時に、周囲のいたるところから欠魂が細長い木綿の布のようにひらひらと漂い集まり、梁の背部に装填されていく。
だが、そんなことよりも彼の目は驚愕に見開かれていた。
「何、だと……?」
「………それはこちらの台詞、なのだけれどもね。例えどんな形であれ、
色々と聞きたいことが出来たが、答えるつもりはあるかい?」
「滅却師……、そうか。滅ぼしきれなかったのか、尸魂界も。ざまあないなぁ、
「さ、……ふ、ふろうふし……? い、一体何を言ってるんだ…………?」
突然静かだった調子を狂気的に上げ叫ぶ男に、石田雨竜は困惑するが。
「――――ならば今日は祭りだ! 血祭りだ! 世界の崩壊と共に派手な花火を打ち上げようではないかッ! あの最後まで我らを庇い続けた志波家のように!」
「……誰も彼もそうなんだが、少しは会話するということを覚えるべきだね」
秘められた狂気を放った梁に、石田は閉口しながら光の矢を構えた。
※ ※ ※
「うぉおおおおおッ、ハアッ!」
「むぅ、実に奇怪極まりない。訳の分からぬ力よ……!」
茶渡泰虎は、ひたすらに殴りかかっていた。見様見真似のボクシングスタイルでもって、自身の変化した右腕を使い。巨体にやや見合わない軽快なステップでもって動き回りながら、自分よりも軽々と宙を舞う
相手もやすやすと倒されている訳もなく、円月輪型の刃を両手に握り、茶渡の拳を受けもすれば受け流しもする。そのいずれも、必ず刃が砕かれるため、定期的に距離を取りながら「周囲の欠魂を使用して」武装を再構成するタイミングがあり。その際にはその場にとどまり移動できないこともあり、そのインターバルがさらなる茶渡の追撃を許す。
「先にあちらに行け。
「かたじけない」
「……っ、逃がすか! ――――
そして競り合ったままの拳から霊力を砲撃する茶渡から、ぬおお! などと声を荒げながら飛び退く闍猪。
直撃を受けた崩の棍棒は、その片方が「原形もとどめず」粉々に砕かれるも、もう反対側の棍棒で彼の拳を横から殴り、自分の身体への被害は押しとどめた。
普段より身体が軽いとはいえ、茶渡もまた数発の砲撃もあってか若干、動きが鈍くなってくる。
そんな彼を見て好機とばかりに、崩は上空へと飛び立ち「自身の身体から放出した霊子」をもって足場を形成。上空より棍棒を構え。
「縛道の六十二、
「……む?」
瞬間、無数の光が茶渡に襲い掛かるように飛んで来る。速度は速く、上空から茶渡を拘束するように突き刺さる。とはいえ痛みはない。ないのだが……「光の棒」、あるいは杭にまるでその場に縫い付けられているような、そういった状況に陥っている茶渡である。
そんな彼を嘲笑いながら、周囲に多量の棍棒を欠魂を用いて生成する崩。無数のそれらを茶渡めがけて投げようとしているのだろう。
そして茶渡は、なんとなく自分の右腕を見つめてから「空中に立つ」相手を見やり。
「良く判らないが、理解したかもしれない」
「何をほざいても無駄よ、死ぬが良い! 異国の怪物!」
「怪物、か。…………そこまでは言われたことはなかったな」
そして茶渡は少しだけかがみこみ、地面を見つめ。
「――――――――ふっ」
「は、はァ!?」
そのまま、鬼道で拘束されたままのはずであろうに、光の杭ごと地面から「ぬるり」と抜け、さながらトランポリンでバウンドするようにたわんだ地面から上空へ飛び上がった。
瞬間、何かしらの光が飛び散っていたことを、崩は理解していない。ただただ、闍猪も言っていた通りに奇怪極まりない謎の能力に
そんな彼に向けて、浮かぶ棍棒の一つを手に取り殴りかかり、同時に残りを投擲する崩――――。
その両者が、空中で固まる。
「何、だ……? この、霊圧は――――」
「感じたことがない……? 何だ、何だというのだこれはッ!」
殴る茶渡の拳を受けた体勢のまま、両者ともに頭上から降り注ぐ大量の霊圧に身体が固まる。
例えるなら、針山が雨のごとく降り注ぐような、肌や全身を刺すような殺気。
立っているだけで死を錯覚するほどに、猛烈な戦意――――。
獣のような目が、どこかから自分たちを見て探っている。両者がそう確信する程の何かが、この場に侵入した証であった。
※ ※ ※
『どうしてこんな場所に!
『何だ、姐さん知り合いか何かか?』
『知らずとも一目見てルキアがあれほど怯えれば否応にでも忘れ去れませんものッ!』
『がゆん……? ぎゃう』
遠方、一護は感じちゃいねェがとんでもねェ量の霊圧が降り注いでるらしい表。一護は一護で、茜雫が囚われてるこの谷というか欠魂の迷宮みてェなモンの中にいるせいもあってか、そのどう考えても逃走一択なレベルの霊圧の存在を完全に無視していた。
……嗚呼ルキアがまた怯えていないか心配で心配で、とか言いながらギャーギャー喚いている姐さんは、割と珍しい光景かもしれねェな。どっちかっつーと右往左往してンのは俺の専売特許と思っていたが、どうやら子雪の言ってる「似た者同士」とやらも案外遠からずなところはあるのかもしれねェ。
もっともその当人は「飽きた」みてェなことを言って、ごろんと寝転がって不満そうにしていやがる。おおかた朽木の奴と離れて、あっちの視界が映像に入って来なくなったせいで、一護が欠魂で構成された雑な迷宮みてェなところをぐるぐるしてるのが嫌なんだろう。景色全然変わらねェ上に、欠魂の霊圧のせいで茜雫がどこにいるかわかりゃしねェ。
もともと存在感が薄い欠魂の霊圧だが、流石に数がとんでもねェことになりゃ、その限りじゃねェってことだな。セロテープとか、1枚1枚はほぼ透明でも重ねると色ついてる状態みてェになるのと一緒だ。
おまけに霊絡でも追えやしねェでいる一護。もともと茜雫から伸びてる霊絡は、朽木が引っ張ったアレを見る限り「複数人」のもの、その上でこれだけ膨大な数の
なまじっかその中に「茜雫の霊圧の元になった
で、そんな暗闇の中で意外と律義に声かけて来る、あの敵さんも何だってんだよなァ……。なんか映画よりも一護としっかり会話してるっつーか、妙に一護に同情的っつーか。
「まだ思念珠を人間として扱おうと言うのか? 救おうとしているのか? 黒崎一護。
そんなこと本当に出来ると、思っているのか」
姿が見えねェ厳龍。声だけ反響してる中で、周囲を見回しながら「布を巻き背負った」解放状態の斬月モドキに手をかける。
「…………当たり前、だ。茜雫は、
「やれやれ。……そこは
「何の話だッ!? というかテメェにそれを言われる筋合いねェぞ!!?」
俺の中の虚みてェな絡み方してきやがって! とキレる一護に、なんとなく生暖かい感じで視線を送る子雪。オッサンは特に興味ないのか空を見上げて何も言わずに佇んでるんだが……、姐さんのその「あんまり可愛がり過ぎると煙たがられますよ?」みてェなこっちに向けて来てる見守るような目は何なんだってんだよなァ……。
いや、まァ魂魄の自我が構成された順序的に兄弟っつーのもあるし、素材的に
ははは、と笑う厳龍の姿は見えねェが、頭上から降って来る欠魂の触手に、瞬間的に抜いた斬月モドキの側面をブチ当ててそらし、その反動で距離を稼ぐ一護。着陸と同時に斬月を切り上げる準備のように後ろ側に構え、周囲をちらちらと見回していた。
「これも、私とお前の罪か。……とはいえもはや遅い。既にこの叫谷は、ここより分かたれし『最も大きな』思念珠として彼女のことを認識した。我々が追加で組み込んだ残りの思念珠もろとも、その融合はもはや止められまい。
たった一人で幾千幾万、無辜の民
「うるせェ! アンタと梅針がどういう関係か知らねェが……、そんなことはどうだって良い!
茜雫ァ――――! 待ってろ、もうすぐそこから連れ出してやる! だから、俺が、行くまで待ってろ!」
……おーおー、でそこでちゃんと相手のアドバイスみてェなのを参考にするあたり、一護も割と茜雫のことを意識してるっつーことか? いや、まァあそこまでイケイケどんどんに距離詰めてきたヤツもいなかったし、友達除いて
でもお前よォ、ちゃんと井上のことしっかり意識したままの上でその感じは…………。
『おんな泣かせ! 悪い子! 考えなし! でもかわいい!』
『お前の男の趣味、本当どうなってンだよなァ……』
『
『ああいうのが好みか。……何かのフラグとかじゃねェよな、オイ』
後、俺の考えてることが顔に出てるのかアイツも似たようなこと考えたのか、子雪がビルの壁を背にしながら、じたばた手足を振って楽しそうに叫んでいやがる。
姐さんが「スカートくらい抑えなさいなっ」と走って行って軽くしつけしに行ったが、まァ一応ついでだな。あっちに集中してるから、こっちの声も聞こえねェだろ。
影を経由してオッサンに寄るように思念を送れば、特に何も言わずに歩いてきてくれる。こっちもこっちで十何年の付き合いだからか、やっぱり言葉はいらないくらいの信頼関係はもう有るって思っていいもんかねェ。
俺からオッサンに対する信頼感とは別に、オッサンから俺に対する信頼感と言う意味で。
『どうした? ホワイト。……何か聞きたいことがあるようだな』
『あのダークワン名乗ってる連中、どう見ても
『経緯か』
『あァ。……何っつーか、一護の周りにうずまく因縁とまんざら無関係な気もしねェからな』
そうか、とだけ言って、オッサンは空を見上げる。
そして割と気前よく嘘無く語り出してくれるンだが…………、流石にその展開は俺も想定しちゃいなかった。
『…………あれは今よりどれほど前か。我が本体たる
『いやもう言わなくていいぜ、頭が痛くなってくる……』
いくら何でも隠し過ぎじゃねェか
一応、三世界の外でもちゃんと
どこかにおわしますある種の超越者相手に引きながらちょっとビビってる俺に、オッサンは「案ずるな」と笑いかける。
『
『そこは確定させてくるンだなァ……』
瞳は、種族として世界を見渡す故のメタファーか何かなのか知らねェが。
つまりは種族の素養として、その一つ一つが眼球に浮かび上がることが、ある種の霊的な権能を扱っている証。
でその話題をわざわざ言うっつーことは、もうどう考えても千年前の滅却師との決戦前に、
オッサンの本体も千年前はオッサンみてェなものだったはずだから和尚とかに微妙に反抗してるような立ち振る舞いで心の底から協力を願われたら、さぞ心優しさを発揮しただろうに……。
※ ※ ※
「月牙……、天ッ衝ォ――――!」
「ッ、緋願花!」
暗闇の中、迸る一護の霊圧。一撃は地面「のような」欠魂の変化したものを抉り、そこを起点に拡大する霊圧の斬撃。ただその大きさは明らかに小規模で、彼自身がかなり加減していることが伺えた。
とはいえその加減一つでも、厳龍が張っていた縛道を乱すのには十分な威力がある。かき乱された霊圧のカーテンのようなそれの向こうに、斬魄刀を構える厳龍の姿。形状が奇形の太刀でなくなっており、解放状態を戻したのだろう。
「ようやく出やがったな。……アンタを倒して、茜雫を取り戻すっ」
「…………その割には、苦しそうな顔をしているじゃないか黒崎一護」
「………………」
「……そのような顔をしてくれるな。私には最初から、これしかなかったのだ」
苦笑いを浮かべ一護に斬りかかる厳龍。「解号なしで」巨大な刀へと姿を変えたことに一瞬驚きながらも、一護はそのまま斬撃を地面に流す様に受ける。
その剣戟一つでも、一護には伝わるものがあった。
(何でこんなに……、空しいんだコイツ)
厳龍と剣を交わしたが故の一護の感想である。
言葉でも、態度でも、彼は明らかに尸魂界への復讐を願っているのだろう。そこには、おそらく嘘はない。細かい事情をさっぱり知らない一護とて、自分へ向けられる哀れみの感情と、それに端を発した「死神への」怒りと恨みの感情も、決して嘘でないことがわかる。
だが、それらはどこか空虚なものなのだ。
刀を交わすからこそ、それが理解できる。例えば訓練の時、恋次と斬り合っているようなそれとも異なる。お互いに妙に気が張って、ついつい一発一発にこもる戦意が増すのだが、その際でも彼の斬魄刀には心が、想いが乗っている。
だというのに、厳龍の剣にはそれがない。決して何もかも適当にしてるわけでも、自棄になっているわけでもないだろう。だというのに、彼の剣はまるで――――。
「……だから、そんな顔をするなと言っている」
――――まるで、刃物を握る勇気すら無くした、赤子のような。つまり、意思のない剣であった。
「…………アンタ本当は、やりたくないんじゃねェか? こんなこと」
「何を言っている、黒崎一護」
「だったら何で……、何でこんな、こんなにも何もないんだ! アンタの剣からは、隠してるような得体の知れなさも、失っちまったような悲しみも、何も感じねェ……!」
斬り払い合い、お互いに距離を取り。
厳龍は、一護を見据えて睨みつける。
「…………そうか。
――
手を翳した厳龍の表情は、言葉の尊大さに比べてとても幼い。外見年齢に不釣り合いなほどに、悲しみを隠しきれていない顔だった。
そしてそんな彼の身体に、装甲の部品が追加されていく。それはまるで、まるで「欠けていたものを補う様な」、そんな自然なデザインの複雑化であった。
「何だそれ……?」
「…………我が一族は、もはや私を含め彼等しか残っていないのだ。そして私は……私は、
もとより
「……ッ」
瞬間、厳龍の霊圧が荒れ狂う。幼かった表情は抜け落ち、瞳に虚無を浮かべながら、殺意で睨むその姿はどこか痛々しくもある。
彼の豹変に一護も動揺するが、だからといってそれに足を取られるようなことはない。
余計な恐怖を捨て、前を見据える。
その姿勢だけは、少しずつであるが以前よりも血となり肉となりつつある、自らの斬魄刀からの言葉なのであった。
そして、もう一つ――――。
「……アンタが強くなってるってのも、判るよ。けど、それでも俺の結論は変らねェ。
やっぱりアンタの剣は空っぽだ。この霊圧の中でも……俺に向けてるその斬魄刀からも、何も感じられねェ」
「そのような……、そのような、私を憂う目を
斬魄刀を振り上げ、厳龍は霊圧を高め。
まるで自分の始解のようだと思いながら、一護はその名を聞いた。
そして見た。
「――――
「何……、だよ…………、
まとっていたマントが変化したような、赤い蜘蛛の巣のような柄の外套。真紅に染まった「只の斬魄刀」に見える刀を持ち、背後には巨大な、まるで
だが、そんなことは重要ではない。
一護はしっかりと、相手と視線を交わしていたからこそ気づけたのだ。
――――厳龍の眼球の中に、