メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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サブタイ後でちょっと変わるかもです(若干納得いってない)
 
例によって色々注意… 劇 場 版 限 定 強 化 形 態


#069.MoN⑭悲しさの終わり

 

 

 

 

 

「散れ……、千本桜(せんぼんざくら)

 

 流れるような桜吹雪。

 たったそれだけで「朽木ルキアを除いた」者たち、すなわち複数に増えた闍猪(じゃい)の全身がボロボロに傷つき、その場に倒れ伏す。

 全身に数多の刀傷。舞い散る血は、しかしその勢いの一片たりとも朽木ルキアの黄色いミニスカートなワンピースを汚さず。

 

 倒れ、膝をつき、げほげほとせき込むルキア。とはいえその間も決して振子雪(スノーホワイト)を手放さず、その再生に尽力している。

 そんなルキアを見下ろしながら、彼女の頭上より声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。そして、あまり聞かない声でもある。彼が自分に声をかけたことなど、片手で数えられれば良い方だと言うのに。

 

「…………戦闘中いかなる状況であれ、斬魄刀を手放さぬ姿勢は良い。だが、警戒心は現世に揉まれむしろ甘くなった」

「兄、様……!」

 

 肩から切られたような袖のない隊主羽織。背中には「六」の刻印。貴族にのみ許される髪留めと、家の当主であることを示す白絹の布を首元胸元に巻き垂らす男。目元がどこか自分とも似ているようだが、それと反した冷静冷徹な声音と表情を失った顔。男は美しく、しかしその在りようは日本刀を思わせる。

 そして手元には、見間違えようのない「刃のない」柄と鍔のみの斬魄刀――――。

 

 間違いない。朽木白哉、ルキアにとって義兄(あに)にあたる男である。

 

「何故このような場所に……?」

 

 更木剣八が派遣されている以上、尸魂界としても理由あっての援軍ではあるのだろうが。だからこそ、そのような状況で彼がわざわざ出てくるとは考え難い。(法務)を主として尸魂界の治世に深くかかわっている朽木の当主が、わざわざ子もないというのにその血筋を断ちかねないような危険な場所へと現れることは、彼女にとって理解の外である。

 まさか私のために、などと思う事すら許される相手ではない。

 自分など所詮、()()()()()()()()()()()()()()()()、出来損ないでしかないのだから。

 

 自惚れるな、と。当然のように朽木白哉は彼女を一瞥して視線を逸らし、前方を静かに睨む。

 

「欠魂は、多量の死神の霊圧を恐れている。……尸魂界側から観測する叫谷(きょうごく)が激しく振動する現象が観測された理由について、零番隊の解析結果だ」

「死神の霊圧……」

「この一帯が更地になっていることからも、それは理解できぬこともない」

(一護…………、貴様自重というものをだなぁ……)

 

 おそらくこの、妙にざらざらと砕かれたような広大な地の果てまで見渡して、その先が不自然に崖と障子の塊のような何かであるのを見て、ルキアは何とも言えない心境になる。どれほど容赦なく月牙天衝を放ったと言うのだ、あの男。嗚呼こうして何も話してこない兄様が恐ろしや、恐ろしや。

 少しほっとしたのか、あるいは一護を思い浮かべた結果緊張が切れたのか、頭の中はテンションが愉快なことになりかけているルキアであるが。続く白哉の言葉で、彼を見つめる目が大きく見開かれる。

 

「ここで隊長格の霊圧を放出し満たせば、あちらとの接地面が大きく減少する。そのために私たちが来た。故にルキア。其方(そなた)は其方の為すべきことを為せ。其方がこの場において、大局に影響を与えることはあるまい」

「兄様……」

龍堂寺(りょうどうじ)は朽木の血筋も入っている。その末路、末席とはいえ其方が見届けよ」

「…………わかり、ました」

 

 周囲から欠魂がまた集まり始めている。先ほどの、この兄上の攻撃ですら殺しきれなかったと言うのか、敵は。ならば卍解すら覚えていないだろう自分が、この場で彼の力になれるかどうか……。

 どこかぎこちなく頭を下げ、瞬歩で先を急ぐルキア。そんな彼女に「逃がすか!」とどこかから声がかけられるが、柄を振るう白哉によってそれが防がれる。――ルキアの周囲を覆うように舞い散った桜の花びらと同時に「5人の闍猪」が、腕や足を抑えてその場に転がった。

 貴様ァ、と凄む、白哉の目の前に現れた六人目の闍猪。

 

「解せんな」

「は?」

「何故、貴様は私と義妹(いもうと)との会話の隙をつかなかった」

「あえて隙を残していた、と?」

「…………」

「笑わせる」「我々に、死神ごときの隙をつけと言うのか?」「自分たちが間もなく滅びるという自覚が足りないようだなァ!」

 

 七人目、八人目、次々と現れ出る闍猪。先ほど倒れた闍猪すら闇隷により傷を欠魂で回復させ立ち上がり、白哉を覆う。その数ゆうに二十を超え、分身したからと言って一体一体の霊力が落ちているわけでも無い。

 そんな彼らを前に、朽木白哉は少し深く呼吸を整え。

 

「であるならば今この時に限り、私は貴族としての振る舞いを忘れよう」

 

「何?」「何を言っている?」「?」「??」「はァ?」

 

 そんな白哉の一言と同時に、一人を残して闍猪全ての「首だけが斬り落とされた」。

 どさどさと倒れる多くの闍猪。言葉を続ける暇もなく、突如の出来事に唖然とするたった一人の闍猪は、何一つ動きすらなくそれを為した白哉を震えながら、しかし睨みつける。

 朽木白哉は、周囲を見回し……、自らの声が彼女に聞こえないほど離れたと確信したからこそ、声を、荒げた。

 

「――――貴様は我が誇りを踏みにじった……! 貴様は我が()()()を愚弄した!

 卍解を見せることなど笑止! 我が千本桜で、例えどれほど増えようと一人一人丁寧に斬り下し、その身も心も再起不能にしてくれる!」

 

 その衝動的な怒りを前にたじろぐ闍猪であったが、白哉の怒りの基点が何に起因するのかなど、先ほどのルキアとのやりとりから全く推察することは出来なかった。言動に落差がありすぎたせいで、それが本当に理由なのか判断できなかったようだ。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『――――「光の線(リヒトリニア)」』

『ぐあァ―――― ……! 厳龍、様……!』

 

狒牙絶咬(ひがぜっこう)――――!』『――――クレーン投げ(グルーア・ティラール)!!』

『――――ヴォェアアアアアアアア!?』

 

『――言っただろう、女。二撃決殺だと』

『あ、ああァ……! ごめんよ、アンタ……』

『誰を妄想してるのか。…………消え失せろ』

 

『縛道の六十一、六杖光牢(りくじょうこうろう)。……続けよう。(けい)の心が折れ、二度と目覚めぬようになるまで』

『こ、この、死神風情があァッ――――!』

 

 

 

「…………皆、大儀である」

 

 厳龍(がんりゅう)の心は空虚だった。

 ただ、だからこそ彼はそれに縋るしかないのだと。それ以外は要らないのだと。一護に突きつける彼の言葉には、それだけは確かな重みが伴っていた。

 

 身体に幾重にも刺さる光の刃……、欠魂が変化させられたそれら、彼の抱える胸の痛みであるように一護には感じられた。

 

(アイツは、もう…………、もう一人なんだ)

 

 握り震える拳は、怒りに猛っているだけではない。自らを奮い立たせている厳龍は、それ相応に自分で処理できない感情を、そのまま一護にぶつけている。

 厳龍の鎧が徐々に増せば増す程、それはつまり周辺で彼の配下たちが死んだということ。もともと彼らを蘇生させていたようなことを言っていた。

 

 だとするとそもそも、最初から彼は一人で。

 だがきっと……、一人は嫌だったから彼等を蘇らせて。

 蘇らせた彼らの()()()()()()と、彼本人にズレがあったとしても。それでも、それしかないのだと厳龍はそう魂に誓ったのだ。

 

 だからもう、意味などないのだろう。

 もっとどうにか出来ただろうと、今更一護が思ったとしても。そんなもの、千年もの時間の間でどうにかできなければ意味がなかったことなのだ。

 もはや、彼は只一人……、一族の妄執をかなえること以外、何も残されていないのだから。 

 

 それが例え、彼個人の本意とイコールで結ばれることでないにしても。

 

「だけど……、俺だって、負ける訳にはいかねェ…………!」

 

 血が、傷が、その隙間に黒い火輪が入り込むことで強制的に抑え込まれる。痛みは据え置きだが、それでもまだ戦える。身体の動作自体には支障がないことを、拘束されながらも一護は確信する。

 それでも無理に動いていることに変わりはない。血を止める火輪による霊圧の出入りで痛みを覚え、表情が歪む一護。厳龍が放った無数の刃の、その個所から漏れる白い火輪。

 

 痛みをこらえ、なお立ち上がろうとする一護へ、厳龍は少し悲し気に、不可解そうに問うた。

 

「…………どうして、そう必死になる? 思念珠など叫谷が見る夢のようなもの、只のかつての生の残骸。女だろうと手籠めにしたところで子を為すよりも先に『誰の記憶からも抜け落ち消える』ようなものでしかない。

 ましてや好いている女という訳でもないだろう。なのに、何故命をかける」

 

「余計な……、お世話だ…………! はァ!」

 

 左腕を無理やり拘束から剥がし、ゆらめく黒と白の「解けかけている」火輪のまま、一護は右肩の剣を抜こうと手を伸ばす。

 困惑する厳龍へ、一護は言葉を選びながら……「空っぽな彼にも通じる様」言葉を選びながら語る。

 

「何度も言ってるだろ、アイツはモノじゃねェ……、茜雫(せんな)は今、ここに居る! ここで、生きてる!」

「…………」

「不安で、怖くて、助けを求めて…………、『自分が空っぽでも』、それでも自分は精一杯生きてるんだって、そういうアイツの気持ちを、本当は判ってるだろ! アンタだって!」

「……ッ!」

 

 少しだけ目を見開く厳龍。嗚呼そうだ。彼女を殺めることになるのを罪と言い、どこか物言いに反して同情的なようにも見える時があった。であるならば、彼とてあの茜雫のことを、「本当にただのモノ」だと、そう思い込みきれている訳が無いのだ。

 だから、一護は。

 

「俺はそれを……、そんなアイツの心も全部ひっくるめて、守ってやるって――――」

 

 引き抜いた欠魂の刃が解け、弾け。彼を拘束するその全ての欠魂が、一護の霊圧と火輪とに巻き込まれはじけ飛び――――。

 

 

 

「――――誓ったんだ! 俺の、魂に……ッ!」

 

 

 

 その一護の目が青白く輝き―― 一瞬だけ眼球に、()()()()()が浮かぶ。

 思わず呆然とし、はっとして見直せば。一護の霊圧に照らされて、光る彼の瞳は一つ。見間違いか? いや、そもそもこんなものは見間違える方がどうかしている。

 

 だがそんなこととは別に……、厳龍の脳裏にはふと、幼いころに祖父(おじじ様)から聞かされた、ある言葉が反芻された。

 

 一護のその物言いにより引き出された、幼いころの、謝罪以外の会話の記憶。

 

 

 

 ――――尸魂界にも、儂らを庇ってくれた奴もいた。

 ――――結局は多勢に無勢であったが、あれは……、心の底から、暖かかった。

 

 ――――儂らの血も、命も、心も、全てひっくるめて護ると、そう叫んでくれたのだ。奴は。……志波のあの男は。

 

 

 

「そう、か。…………ならば、やってみせろ!! 黒崎一護――――!!!」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおお――――ッ!!!!」

 

 卍解された斬魄刀を構え、蜘蛛の巣のような模様のマントを翻す厳龍。

 始解とはいえはなはだ尋常ならざる霊圧をゆらめかせ、不定形なコートのように火輪を翻す一護。

 

 だが、両者の激突はやはり一護に分が悪い。

 

 一刀同士の斬り合いは、不足している霊力と霊子を周囲から寄せ集め自らに転化できる厳龍が優勢。対する一護の霊圧も、その四肢を当然のように欠魂で拘束し、動きを封じて来る。

 卑怯も何もあったものではない。まさになりふり構わず、勝つためだけに全力をかけている厳龍の姿。

 それは同時に、一護を全く軽んじていないという証明でもあり。……交わす剣戟にどこか、憧憬の感情が乗っているのを一護は感じた。

 

「それ程の霊圧であろうと、我が四百年の研鑽には及ぶまい!」

「くっ……!」

「想うだけでも、願うだけでも駄目なのだ! 黒崎一護!」

「くぅ、お、おおおおおおおおおおお――――!」

 

 厳龍が斬月自体を蜘蛛糸で縛ったのを起点に、その「切っ先が当たった箇所」のわずかな切断から月牙を発生させる一護。火輪の霊圧で無理やり身体を動かし、斬月から伸びる極太の()()で抉るような一撃を放つ。

 だが……その一撃により抉られた厳龍の腕も、その隙間も、斬月に纏わりついていた欠魂をその身に改めて集めることで何事も無く修復。その速度は先ほどまでよりも圧倒的に速く、それが彼の魂魄の状態がより「完全なもの」に近づいていると理解させられる一護。

 

 ()()が死ぬことで、仲間に分け与えていた彼本来の魂魄が戻り。

 その結果が、戦闘力の向上にかっているのだ。

 

月牙天衝(げつがてんしょう)――――!」

乱業火(らんごうか)――――!」

 

 遠方からの蜘蛛の炎が厳龍の剣に纏われ、振るうだけで炎の斬撃を飛ばし放つ厳龍。一護の月牙との正面からの打ち合いは、しかし「突き刺して放つ」という1テンポ遅れる一護の動作故に、初速から威力の最高状態に至るまでのラグで押し負ける。

 全身を燃やされる一護だが、斬撃の衝撃波以外のダメージについては放出する霊圧で無理やり無効化。火傷一つ負わない彼を見て、わずかに厳龍も頬が引きつった。

 

「何か、何か一つ……!」

 

 このままでは勝てない、勝ちきれない……! 勝ち切らなければ茜雫の元までたどり着けず、引き伸ばし続ければそれこそ相手の思うつぼ。時間切れこそが相手の勝利条件である以上は、確かに今の一護には、色々と足りていないものが多かった。

 

「まだ終われねェ……! だから――――――――」

 

 

 

「一護、受け取れ――――ッ!」

「――――ッ、ルキア!?」

 

 

 

 そして後方の果て、この欠魂の迷宮の入り口。歪む曇った空を背に、朽木ルキアは振子雪(スノーホワイト)から冷気の斬撃を放った。

 いきなり何やってんだお前!? と驚く一護は、とっさに斬月の側面で受け――――。

 

「何だ、これ…………?」

 

 次の瞬間、一護の火輪に纏わりついた冷気は、掻き消すことなく一護の身を覆い、さながら装甲のように姿を変える。

 氷の手甲、氷のブーツ、首筋や肩にも「らしい」氷の装甲。翼や尾はないものの、火輪のコートには振子雪を象徴するような氷の結晶の模した白と赤の文様(シンボル)が浮かぶ。

 何より「刀身全体を氷で覆われた」斬月。

 

 そして一護の左の視界は、わずかに黒く染まっており……。

 

『――――何でもありか、あのガキンチョ。本当何だってンだよなァ……』

「て、テメェ!?」

 

 聞こえる声は、一護の虚。触れば、氷で作られた仮面のようなものが、左目からその上だけをわずかに覆っている。

 氷輪丸じゃねェんだから、という呟きがわずかに聞こえたが、それを問いただすよりも情報量があまりに多すぎて、一護は混乱の坩堝に叩き落とされた。

 

『ま、アイツがやってる以上は基礎は完現術(フルブリング)相当なんだろォが……、さしずめ「火輪の竜戦(バーサス・クルセイド)」みてェなとこか? 名前つけンなら』

(だから何だよ、その、フルなんちゃらって……!)

『気にすンな。良いか兄弟、物事は名前ってのが重要らしいぜ? 例え一回こっきりくらいしか使わねェようなモンでも、名前があるのと無いのとだと、持続性や安定性が変わるらしい』

「いや、らしいって何だよ!?」

 

 そして、一護は二つのことに気付いた。一つはこの状態で、身体の制御権が自らにある事。そしてもう一つは――――。

 

欠魂(ブランク)が……、入って、これていねェ……?」

振子雪(ふりこゆき)の奴がテメェの装甲を基準として、周囲に凍結結界を張っていやがる。只でさえ物理的なエネルギーを伴ってる兄弟の霊圧に、凍結効果まで付与されてンだ』

 

「…………怯えているのか、欠魂よ。嗚呼そうだな、私も、怖い」

 

 一護の周囲のある一定距離を基準に、足場代わりに使われている欠魂以外の拘束に動いていた魂が、ことごとく逃げ去っている。逃げ去ったものは思念珠の方に向かっているとはいえ、再度巨大な蜘蛛から放たれた極太の蜘蛛糸……、欠魂で編まれたそれすら、一護に近づく前に霧散していた。

 

「じゃあ、行くぜ厳龍!」

「斬り合いのみを強制されるか。

 …………いいだろう! 来い黒崎一護!」

 

 闇隷による魂魄収束を斬魄刀と自らの身体に集める厳龍は、そのまま再び業火の斬撃を放つ。

 それに対し、一護は「耳に聞こえる」声に従い、霊圧を込めただけの斬月を「どこにも突き刺さず」振り切った。

 

 途端、斬月を覆う氷が砕け、月牙天衝が軌跡に従い放たれる――――。

 

 速度は同時。厳龍のそれと、一護のそれとが、ほぼ同速で放たれ。拡大し、威力の最高頂点で激突。最初はわずかに厳龍が押すものの、叫び声をあげた一護から放たれた追加の霊圧が、月牙に乗り、より太く、より重々しく変化し――。

 

 厳龍のいた場所が爆裂。同時に、その爆風の間から斬魄刀を構えて駆ける厳龍。身体はボロボロであり、一護のように「傷を無理やり塞いでいる」わけでないので、血が止まらない。

 だがそれでも、駆けながら欠魂で無理やり回復しつつ、振りかぶり。

 

 叫ぶ一護と、厳龍。

 

「うおおおおおおおお――――!」

「はぁあああああああ――――!」

 

 もはや周囲の迷宮そのものから欠魂を吸い上げ、斬撃たった一つの威力の底上げを図る厳龍。

 いかに一護の霊圧が規格外と言えど、「空間を構成する程の」密度の霊子の重圧に、()()()()()対応できない。

 

 かくして、一護は膝をつき――――。

 

 

 

『一護――――――――っ!』

 

「……茜雫の、声が聞こえる…………!」

「ッ、何?」

 

 

 

 そのまま押し負けそうだった一護は、しかしゆっくりと立ち上がり、再び氷にまみれた斬月のそれが砕け。

 

「うおおおお―――――――!」

「馬鹿な、欠魂(ブランク)が……!?」

 

 厳龍は、感じ取っていた。自らが隷属させていた欠魂が、今この時に限り「自らの内側から抜け出ていることに」。それは、一刀の霊子を強化するために使っていたものだけでなく…………。

 青白い光と、赤黒い光との爆発――――。

 光が失せ、煙が晴れていき。「縮小した欠魂の迷宮」より距離を置いて、更地に振子雪を突き刺していた朽木ルキアは、見た。

 

「フッ…………! これもまた、何もなかった私に似合いの末期か。闇より生まれ、闇に呑まれ、無に還る」

 

 厳龍の身体は、もうほぼ残っていなかった。右半身と、頭部と、左足と。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 一護も、察してしまった。新たな力を得たはずの彼らが、一護でも戦える程度の力であったのかを。何故叫谷をあえて利用して侵攻してきたのかも。――――本当の意味で、厳龍すら、最初から死に体であったということを。

 

 だからこそ振り返らず、一護は俯きながら、背を向けながら言う。

 どうしても、これだけは言ってやらないと()()()()から。

 

「……そんなこと言うなよ。だったら…………最初から、皆に死んでほしくねェって! 言ったら良かったじゃねェか!」

 

 嗚呼きっと、それが真実。彼が配下を蘇らせたのは、配下と共にことを為すためではなく……単純に寂しかったか。一人の人間として、共に生きる仲間が欲しかったから。

 それが、彼と配下たちとの決定的なすれ違いで……、それでも良いと思ったからこその、今の状況で。

 

「嗚呼、だから……哀れんでくれるな――――悲しいじゃないか、()

 

 それを最後に、厳龍の残った全身は解け、姿を消し。

 その場には、薄紅の鍔を持つ斬魄刀が突き刺さるのみ。

 

「一護……」

 

 振子雪に言われるがまま、白弦(しろづる)を放ったルキアであったが。両者の決着は、義兄から言われたような貴族がどうこうというものではなかった。

 ただ、一人の男が消え去っただけの……、それにやりきれないだけの、黒崎一護の背中を、彼女はじっと見つめていた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『俺はそれを……、そんなアイツの心も全部ひっくるめて、守ってやるって…………!

 誓ったんだ! 俺の、魂に……ッ!』

 

 一護――――。

 一護の声が、聞こえる。私の耳なのか、何なのかよくわからない。

 

 ただ、私が囚われてる幹みたいなのから、その先から、一護が伝わってくる。一護の声が、霊圧が、想いが。私を護ってやるなんて、ちょっとドキってする感じの一護が。

 嗚呼……、何だろうなー、これ。

 

 目を開けると、そこは夕暮れ。足場も何もあったものじゃなくって、弥勒丸の心象世界(うちがわ)とも違う場所。……弥勒丸っていうより、私の心象世界がこうってことなのかな?

 いや、でも、そもそもこの弥勒丸も()()()()()()()()()()()()()し……、止めとこ。複雑に考え出すともうわけわかんない。

 

 身体を見る。死覇装の黒が消え、襦袢だけを纏った私の身体を。

 きっと「私の多くは」死神でも何でもないから、だから、こんな格好になってるんだと思う。

 

 そんな私の周りを、欠魂たちがふわふわ廻ってる。まるで鳥さんみたいで、それが不思議とおかしい。

 

 あんな、見るだけで嫌悪感があって、すぐに退治しなきゃって思ってたやつらなのに。今こうして彼らと一緒にいると、安心感が芽生えてくる。

 

 やっぱり、()()は私ってことなんだろう。――――走馬灯みたいに、いっぱい巡って来る()()()()()()が、きっとその証。

 だけど、嗚呼…………そうなんだ。

 

 皆本当は、私を、()()()()()()()()()んだ……!

 

 私が生まれて、恨んだりしてなかったんだ。だから力を貸してくれるって……! 嗚呼それは、なんて、なんて…………。

 言葉が、わからない。出てこない。「色々な言葉を知ってるはずなのに」、いろんな感情がせめぎ合って、私の口からは上手く出力できない。

 

 ただそれでも、きっと――――。

 

 

 

「一護――――――――っ!」

 

 

 

 きっと今、やられそうな一護に言葉を届けるくらいは、してくれると思ったんだ。

 ありったけ、私が一護と会ってから今日までのありったけを込めて、それを、声にして、上手な言葉なんてみつからないけど、甘い言葉も、熱い言葉も、何もなくったっていい!

 

 ただ名前を呼びたい、これは、そんな原始的な本能(こころ)なんだ。

 

 

 

「……よ! 随分、大人しくしてンじゃねェか。

 滅茶苦茶な元気、どこ行ったンだよ」

 

「…………うっせーなァ、ばーかっ」

 

 

 

 だから、一護の目元がちょっと赤くても。私を見て、無理に笑おうとしてくれてるのが判っても。

 それでも、それに気づかないように……、私の心が届いたって、きっとそれだけを信じて、私も笑い返すんだ。

 

 欠魂の幹をかき分け、手を差し伸べた一護に。

 

「えいっ」

「お、おい……っ!」

 

 だからこのありったけの本能(きもち)で、一護に、私は抱き着いた。

 

 

 

 

 

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