『ま、アレで綺麗に終いなら良いオチなんだろォが……』
『なな、納得できません! あれほどこう、王子様…………あなたの使い手を王子様と形容するのもどうかと思いますが、その、王子様にお姫様が救出されるシチュエーションのオチがこんなのなんて、納得いきません!』
『ぎゃーぶん! ぎゃーぶん!』
「――――ハーッハッハ! ちょこまか逃げてねェで、あの訳わからねェ
「ふゃ――――ン!?」
「知らねェよ!? っていうかてめェ誰だよ!!? マジでッ!!!」
雨は上がった。厳龍相手に心底同情して、同時にもっと何か出来ることがあったろってキレた一護の心象世界は、洪水になる程じゃねェがものすげェどんよりとしていた。友達とか、仲間とかとすれ違うっつー状況は、一護も「ンなことにはならねェよ」ってスタンスだろうが、絶対とは言い切れないっつー自覚はあるからなァ。
とはいえそれも、茜雫に嬉しそうに満面の笑顔で抱き着かれて光が差し込んだ。それでも、思う所は有ってもこの茜雫の笑顔は護れたっつーのが、一護的にプラスになったんだろォが……。
丁度そんなタイミングで、上空から更木剣八が降って来たモンだから空気読めやァ! って世界の話だった。長ェトゲトゲな髪の先端につけた鈴いっぱいリンリン鳴らしちまってまァ楽しそうだこと。
服装ボロボロで結構露出が激しいことになってる茜雫共々吹き飛ばされちまったモンだから、咄嗟に抱っこしても至る所で茜雫の肌に触っちまうわ「エッチ!」って顔真っ赤にして叫ばれるわ、その割にはもごもごして微妙にまんざらでもなさそうな反応だわで一護もツッコミが追い付かねェ。そんな状態のままバーサーカー状態の更木剣八から「もう待てねェ!」とばかりに斬りかかられちまってて、しかも振子雪のやったアレも解除された状態な割には出力も安定して瞬歩で躱したり斬月で受け流したりするモンだから、ますます相手のボルテージも高まる無限地獄。
一体どうしたモンかねこりゃ、ってのが今の状況なンだが、これに大層ご立腹なのは姐さん。朽木相手じゃねェけどそれはそれで良いのかと思いつつも、言ってることをまとめたら「悲劇のヒロインが救出されて早々にこんな状況あんまりではないですか」というような感じだ。大変ごもっとも。その状況を進めたところで井上の奴も朽木の奴も曇りそうだと思っちまう俺の方が擦れてるっつー話なンだよなァ。
『ぎゃーぶん! ぎゃーぶん!』
まあ子雪の方は割と嫌いじゃなさそうなので、このあたり親子間で興味の主体が別なところにあるっつー話か? あー、まぁ俺は俺で早い所井上の方行ってやれよとか思わなくも無ェし、何なら朽木もさっきあれだけジメジメした目で一護見てた癖に今じゃ他人のフリしてやがる。よっぽど更木剣八に関わりたくねェんだろうが……。ま、それと同時に一護が死なないっつー信頼もあるんだろうってことで勝手に納得しておこう。ウン。
というか一護の更木剣八見る目が完全に危険人物見る目でちょっと笑えて来るが……、そもそも面識ないところにいきなりのハイテンション剣ちゃん(推定八百歳児)をぶつけられりゃ、ンな反応にもなるっちゃなるか。多分俺でもこうはなる。諸行無常だ……って使い方間違ってるか? わからねェ。
要は実質、裏ボス戦みてェに更木剣八戦が始まってるって流れだ。
何だこりゃ…………。完全にギャグパートの絵柄だぞ、漫画だったら
「一護……ッ」
「チャド!」
ンで、最初にフォローに入ったのはチャド。ついで井上の奴が盾を飛ばしてチャドの防御に重ねてくるが、そいつに関しちゃ
石田の奴は日番谷隊長におんぶされて(※足引きずって)この場に連れて来られて「何を遊んでるんだ」とか言ってるが、朽木の奴が半眼でぎょっとしてるからこれも「その恰好で何を言っている石田……!?」ってコントだ。
ついでに言うと、井上と一緒に吹っ飛ばされた松本乱菊の胸の谷間に井上がダイブする形で転がってるのを見て阿散井が顔赤くしてるし、朽木の奴がジト目で視てるのに気付いてハッとして言い訳かましてるのもコントだ。
唯一、意外と剣八の振り下ろしに素手の白刃取りで耐えているチャドがびっくりだが、「お前、一護って奴の仲間か?」とかあーもう嬉しそうに目ェひん剥いて笑いやがってよォ……。
「…………友達だ」
「まァ何だって良い! いいぜ、一護の仲間だってンなら少しは骨があるだろ。二対一もたまには悪くねェ!」
「おおおおおッ!」
一護も一護でチャドがそうやって全力で踏ん張ったら逃げる訳にもいかなくなるし、抱えられてる茜雫はもう顔赤くしてるどころか真っ青にして震えてやがるし、何だ本当この状況…………。
……というかあっちから、斑目一角とか綾瀬川弓親とかも「雑魚の足止めばっかりで俺達だってつまらねぇんですから、こっちも
総評。
「……思念珠を解放したなら、叫谷より早期撤退が望ましいはずだが?」
「に、兄様!」
「たた、隊長!?」
この通り、最後に駆け付けた朽木白哉のコメントが全てだった。
早ェところ撤収しねェと、この場所が収縮しきって現世と尸魂界とが激突するっつー話なんじゃなかったか……? 聞いた話とうろ覚えの映画の話をまとめると、ンな所だったはずだが、何やってンだ?
じろり、と日番谷冬獅郎のことを見る朽木白哉だが、日番谷隊長は日番谷隊長で「俺にあれに割って入れと?」と半眼で訴えてる。こいつもデフォルメされてそうな顔だ。何でこうどいつもこいつも締まりがねェんだよ。
と、意外にもここで最初に剣を抑えたのは更木剣八。……いや抑えたっつーか、水をさされたから理由聞こうっつーノリなんだろォが、そういや意外とこの隊長って仕事には真面目だったか? 原作。
「あぁ? 何言ってやがる。俺ぁここに来れば、一角が言ってた黒崎一護って奴と
「それもあくまで、叫谷内部に『隊長格の霊圧』が満ちていない場合に限りだ。
「はぁ……」「喧嘩売ってるんスか? 朽木隊長」
「お、落ちついてくださいよ斑目さん」
「何気取って苗字なんかで呼んでんだ阿散井? つぅか、てめェはどっちの味方だ!」
「副隊長っスから隊長の味方っスよ」
「お、おぅ…………、そうだな」「フフ、一角も一本取られたね」
ンだと!? とまァ方々で好き勝手会話が始まる訳だが、そんな中一護はといえば。
「え? 何だって? 朽木って、前にルキアが言ってた兄貴!!? それに一角のところの隊長とか恋次の言ってた、っていうか、え? 何? 逃げないと拙いんだろ!? もっと皆ちゃんと話し合って動けよ!!? 誰かちゃんと説明してくれよ……!!!?」
「一護……、どんまい」
誰も状況の解説しちゃくれねェし、情報量は多いしで若干ツッコミを放棄しかけてた。
茜雫がスゲーこう、お母さんみてェな慈愛に満ちた表情で背中ポンポンしてっけど、その程度で収まる混乱じゃねェなこりゃ…………。
※ ※ ※
「臨界域の数値そのものが落ちていっているネ」
「叫谷が怯えて乖離しておるのであろう。……和尚からも許可が下りた、良いぞ
一番隊、山本総隊長に対してそう笑いかける修多羅千手丸。手元には純白の扇子と、そこに突如として浮かび上がった「良いぞ」という三文字。達筆に描かれたそれは、じゅわじゅわ、じわじわと音を立てながらその姿を消し、後には元の真っ白い扇子の地のまま。
「
「了解だぜ、山本の爺さん。
オイ死神ども! 詠唱はきちんと終わったなァ!」
そして彼の言葉を受け、巨大な打ち上げ砲台の前に立つ隻腕の美女が、豪快に笑う。義手を外したのか右腕は包帯巻のまま、高らかに全体へと指示を出す。
死覇装をまとっているわけでも、どこかの隊に所属しているわけでもない彼女であるが。この場にて「零番隊より与えられた」オーダーを完璧に管理しこなし、細かい調整やら何やらまでを一手に引き受けたその物言いに、生意気だというように反抗する者はいない。……人使いの荒さや破天荒さはともかく、間違いなくこの場における指揮官は彼女であった。
「第三詠唱、
「私語は! 慎め!
じゃ、野郎共、砲撃のための火をつけるぜ!」
バラバラではあるが、応! という声がそこかしこで上がる。
そして彼女は「砲台に取り付けられた」右腕の義手部分に、自分の欠けた腕を乗せ巻きつける。さながら超巨大な大砲が右腕についているような絵面となり、そのまま腰から短刀を引き抜き、砲台の側面に丁度開いている専用の穴の近くで構え。
「千手の涯、届かざる闇の御手、映らざる天の射手……」
『『『光を落とす道、火種を煽る風、集いて惑うな我が指を見よ……』』』
詠唱が、進む。空鶴の声をを中心として、周囲の死神たちが隊長格含め合わせながら、詠唱を継続。
その詠唱により生成される霊力全てが砲身の中に蓄えられ、その口から焔が見え隠れしていた。
『『『光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔……』』』
「弓引く彼方皎皎として消ゆ。
破道の九十一 ――――」
――――
全員の詠唱が重なった瞬間、空鶴の刃が金色に輝いたと同時に、彼女はそれを装填した。
光る砲口。集められた霊力が、護廷十三隊、鬼道衆、隠密機動やその他関係者もろともも霊力を吸い上げ、成立し、双極の槍の真の力を倍増させ発射させる。
震える現世を映す叫谷へ向かうは、さながら炎の不死鳥。叫ぶ鳥の尾ははためき、さらにその身体を大きく大きく変化させる。
そして天空を見て、その先に炎が迸り――――――――。
空の一角が一瞬「真っ黒に染まり」、それらが一瞬で消え失せた。
後には、元の尸魂界の夜空。現世と変わりない、星々ゆらめく深い闇。
そしてそこに、尾羽を七色に輝かせた双極の槍――――
百万本の霊力に相当すると言われる双極の霊力を、そのまま世界との境界を破壊するために使った特殊な砲撃。その果てに、輝かんばかりのその姿。「すげぇ」と見上げる車谷の隣、不愛想だった覆ですら「キレーです」と純朴に感想を呟くくらいには、その輝きは夏の夜空に相応しく。
あわただしく動く周囲。叫谷の消失と、現世との通信回復により十二番隊を中心として人々が行きかう中、珍しく一切の剣呑さなく微笑む総隊長や、含みなく笑い合う他の面々。
「し~~~ばや~~~~! ってなモンだな!
……兄貴、ウチの花火は世界、救ったぜ!」
義手から腕を外した志波空鶴は、左手の親指を立てて空にかざし、ニヤリと不敵に微笑んだ。
※ ※ ※
「ヒデェ目に遭った……」
「よっ、お疲れサマだな一護」
「恋次。……熱でもあんのか? そんな、普通にねぎらって来るとか」
「馬鹿野郎、流石に敵の首魁ぶっ倒した後に更木隊長だったンなら同情くらいするぜ」
「おォ…………」
「あぁ…………」
顔を見合わせて、ともに半眼で疲れた様子の一護と恋次の姿。橋の上でお互いうなだれる姿を、朽木ルキアが「何を戯れているのだ?」とデフォルメされていそうな表情である。
炎に包まれ、崩れる叫谷。端々から見える真っ暗な空間に呑まれないよう、一護たちはそれぞれに大急ぎで退却した。あれから結局、更木剣八的には満足はいってないようだが「楽しめるってことが判ったから、後にとっといてやる」とだけニヤリと言われ、一護も茶渡も、ついでに巻き込まれた石田も三人そろって何とも言えない表情であった。
ともあれ大川から現世に帰還した一護たちは、そのまま橋の上に残る者たちと、空に浮かんだ門から帰る者たち。現世に残るのは阿散井恋次のみで、他は皆一度尸魂界へと一度戻るらしく、空中には引き戸のような扉が形成され、地獄蝶が舞っていった。
「皆様、よくぞご無事で……!」
「へっ、まー少しは頑張ったんじゃねーの?」「お帰りなさい……」
「おう。というか、あの上で澄ましてるのルキアの兄貴か。…………目元とかは似てる感じ、か?」
「たわけ。私は養女だから血のつながりはない」
「へぇ~」
「でも朽木さん、二人ともカッコ良いよ~」
「ぬほ!? あ、ありがとう、井上……」
「……ストレートに褒められなれてないんだな」
「学校ではキャラづくりもあったろうし、まあ、妥当なところなんじゃないかな」
「こっちでもルキアの奴、ツンケンしてやがったのかぁ?」
「いや、どっちかっつーと……、というか、尸魂界だとルキアの奴、そんな石田みてェな嫌味な感じだったのか?」
「黒崎!? 僕のごくごく一般的な男子高校生的な振る舞いのどこが嫌味な感じだ!」
「そうだぞ一護ー! 現世的な良家の子女として相応しい振る舞いのどこに文句があるか!」
「あべしッ!? て、テメェ、だから跳び蹴り止めろって……」
「藪蛇だったか……。生きてるか―、一護ぉ」
「あらまぁ、中々平和なようで。……ところでお帰りにはなられないので?
「貴様からまだ夜一様について何も聞き出していないのでな。時間的に余裕があるなら、少しくらいは延長しても問題ないだろう」
一護たちがそれぞれ日常に帰ってきたような感覚で会話を始めている傍で、浦原と少女隊長の剣呑な会話(主に少女隊長の方が一方的に剣呑)がされていた。なお、そんな冷や汗をかく浦原の懐が一瞬ぶるりと震えたが、砕蜂と呼ばれた彼女は気付いた様子はない。
そんな風景を見ながら、茜雫は目を細め微笑んで。そして少し、寂しそうに見つめる。
そんな彼女に気付いた一護が、名前を呼んだ。
「何してンだ? 来いよ、
「…………えっ?」
「厳龍の奴がそのうち消えるみてェに言ってたけど、そんな今日明日ってくらいすぐの話じゃねェだろ? 叫谷も、現世と尸魂界をくっつけてたやつがバラバラにされたってだけで、完全に溶けるのには時間かかるだろ」
「そ、れは、うん…………、たぶん」
「だったら、ちゃんと来て皆にありがとうくらい言っとけ。自己紹介とかしねェと知らない奴も多いだろうけど、まァ――――」
――――お前も、俺達の仲間なんだから。
その一言に目を見開き、目を閉じ。それはそれは、まるで花が咲くような笑顔を浮かべた茜雫。
服装はいつの間にか制服姿に戻っており、ただ髪留めのリボンがない。
こちらに駆けて来る彼女を見て、ふとそのことに気づいた一護は懐に手をやり――――。
『――――こちら十二番隊、通信技術研究科! 警報、依然鳴り止みません! 繰り返します、現世と尸魂界との接近、依然継続中!』
「えっ」「何、だと?」「何……?」「どういう、ことだ」
死神たちそれぞれ、各々に入った着信が操作せず音声で状況を知らせる。それほど緊急事態であることはすぐに察せられ、同時に大きく「世界が揺らぐ」。
地震ではない。その証拠に何一つ、建造物どころか水面すら揺れていない。
しかし誰一人として立って居られない…………、空中の死神たちすら驚愕に顔を歪めている。
「ちょっと、隊長……!」
「内側は揺れてねェってことは、原因は外か……!」
「零番隊、何を考えている……!」
「剣ちゃん、揺れ揺れだね~」
「あぁ?」
「ちょっ!? どうして隊長だけ何も感じてねぇんですか!!?」
「一角、隊長だから……」
「ンな四席みてェな返答が欲しい訳じゃねぇよ!!」
「あはは~、つるりんぷるっぷるだー!」
「卵じゃねぇって言ってんだろうがこの副隊長よォ!」
……唯一、更木剣八一人のみ全く影響を受けた様子がないのはさておいて。
この状況に、最初に動いたのは茜雫。
待てよ! と続いた一護もまた、その先を見た。
迫りくる真っ黒な何か、そしてその間に漂う、おびただしい数の
「うん。……まだきっと、大丈夫、いけるはず!」
「あっコラ――――」
何を思ったのか、再び叫谷の入り口へとその身を投げる茜雫。「茜雫ちゃーん!?」と叫ぶ井上織姫の声を耳にし、一度振り返ってから、一護は彼女の後を追った。
内部の空間は、闇と、欠魂と――――「視認することのできない何か」が、ひたすらに迫っているような霊的なプレッシャーのみが存在する状況。
何処を見渡しても、背後に現世の出入り口と「そこだけまだ残っている」叫谷の世界くらいなもので。
「何でこんなとこに来たンだ、茜雫――――」
「一護」
ぎゅっと一護の身体を抱き寄せて、その胸に顔を埋め。
「私、怖いよ。……これから、どうなっちゃうかなんて、傷つくなんてものじゃないの、わかりきってるからさ」
「茜雫……?」
「けど、でも……、でもね?」
震えながら、彼女は一護の顔を見上げる。やや潤んだ瞳は、しかしそこに浮かぶ感情は悲しみなどではなく……。
「だけど、させないよ! 絶対、絶対に…………、こんな、楽しい世界なのに! こんなに、たくさんの人たちが住んで、こんな、こんなに…………、一護が、がんばって生きてるのに……!」
「お前、何を…………?」
「大丈夫。
震える声で言う茜雫は。言葉に反して、何処か不安そうに、一護に抱き着いたまま。今にも涙がこぼれそうな目こそが、彼女の本心を物語っている。
少なくとも、どれほど鈍くとも伝わるその感情は……、決して鈍いわけでない一護には嫌と言うほどに伝わっていて。
「そんなことしたら、お前……お前は…………!」
「世界がなくなったら、一護だって消えちゃうんだから……、そんなの、絶対嫌だから」
「や、止めろよ……! お前は、これから……、まだ、せめて――――」
そんな一護の言葉に、茜雫は…………。
※ ※ ※
あーあ。でも、仕方ないのかな。だって、
自分たちが幸せに過ごせたかもしれない、そんな世界を護りたいってさ。
大丈夫。やることは簡単なんだ。後は皆と、私の「勇気」。
その勇気を出すのが、死ぬよりも辛い。
「世界がなくなったら、一護だって消えちゃうんだから……、そんなの、絶対嫌だから」
だけど、だけどさ?
私がもし普通の女子高生で、一護と一緒に知り合っててさ?
それで、こんな感じで命を投げ出さないといけなくてもさ?
さよならが、最後のお別れじゃないんだよ。オバケって言うと怖いけど、死んだ後にまた再会できるかもしれないってさ? それって、すごく幸せなことなんだよ?
だけど私は、きっと…………。私は、私一人が私って訳じゃないから、だからさ? こんな幸せな世界で、本当にお別れしなきゃならないなんて、そんなのどんなに頭で考えたって、くくれるものなんて、覚悟なんてできない。
出来るはずがないじゃん。一護と、もう二度と会えなくなるなんて……。
「や、止めろよ……! お前は、これから……、まだ、せめて――――」
一護だって、こんなお別れは嫌だってすごく伝わってくる。
声が震えてるし……、私と違って涙流さないように頑張ってるけど、すごく色々伝わってくる。
ねえ、だからさ?
ちょっとだけ勇気、もらっても良いよね。
「えいっ」
「――――――――ッ」
叫んでいた一護の頬を両手でそっと包んで、一護の額に唇を当てた。
口と口は、こう、なんか、はずかしいジャン……。
でも、このくらいでも今の私の心には十分で。
自分が何を護りたいか、誰に生きていて欲しいかってことを、はっきりと自覚できるから。
だから、もう少しワガママ言ってもいいかな?
「茜、雫…………?」
「私より、一護が死ぬのが
「何で、お前、そんな――――」
何でって、何でってさぁ…………。
「――――私は! 一護のことが、大好きだから……!」
ちょっとくらいは伝わってたと思うけど、それでも、改めて言ってやった。やーいやーい、と囃し立てるような気にもならない。言うだけ言って、私は一護に背中を向ける。一護がどんな顔してるかなんて、確認なんてしてやらないんだ。
言って良かったかどうかとか、いまいちわからない。どうせもともと、叫谷が完全に消えるまでの、それまでの命だったんだ。この想いが叶わないなんて、そんなのたぶん最初から
だけど、どうしてだろう。
自分の気持ちに向き合って、真っすぐに好きだ! って言っちゃって。
それだけで、きっと私は独りぼっちじゃないって思えるんだ。
それだけできっと、これから先の怖さに立ち向かっていける。
「ねぇ一護――――」
だから少しだけ……、一護の顔を出来る限り見ないように、全身全霊の、私史上最っ高の笑顔を向けて。
「――――人を好きになるって、好きだって言えるって……すごく、素敵なことだよね」
これだけは伝えたかった。一護を好きになって、一護に好きだって言えて、私は幸せだって、伝えたかったんだけど……。
おかしいな、涙が、抑えられないや。声もなんかガッタガタで、綺麗だとか、カッコイイって言ってもらいたいのにさ……?
それが、私に出来た最後の、ちょっと失敗しちゃったけど、それでも……好きな人にあげることのできた、トビキリの笑顔だった。