次回、おまけと一部まとめて補足予定
「ったく、色々あって人が疲れてるっつー時に……! しかも何でわざわざ学校来てンだテメェ等!
一気に片づけるぜ、発火――――!」
空座第一高校の校庭、陸上部がランニングしている横で当たり前のように佇む十体ほどの虚。それぞれが全く同じような姿をした、白い髄で覆われたのっぽな全身。おおよそ3メートルほどだろうか、それらはきょろきょろと周囲を見回し、一護の姿を見るとそろって大口を開け咆哮。
とりあえず生徒たちに被害が出ないようにと、すぐさま終わらせる目的のためか。すかさず火輪を纏おうとする彼であったが。どういうわけか、今日はその発現の仕方が違っていた。
解放前の斬月を右手に持ち、左手を胸の前で握り前方を睨む一護。本来ならそれと同時に全身から霊圧が噴き出して身に纏うような形になるのだが。
一護の
覆ったそれは今までの不定形のコートのようなものですらなく、しっかりとした布の形を形成。
裾はボロボロで、わずかながら不定形だったころの名残のようなものはあるが。フードがついていたりと、外から見れば死覇装の上から黒いコートを纏っているように見えるかもしれない。
そして何より異なるのは、コートを固定するよう腰に巻かれた赤く太い帯と――――コートの裾に、舞うように描かれた「紅葉の木枯らし」の柄。
「おおッ!」
『――――――――!』
瞬歩で距離を詰め、斬月を頭部に突き刺し、そこを起点に月牙天衝。
一刀振り切り、頭部から地面まで唐竹割するように一直線に霊圧の瑕が肥大化し生み出される。
一体斬り、その余波で震える大地に一瞬驚き、今度は地面に瞬時に移動して(それでも着地時に大きく衝撃波が出ているが)切り上げもう一体を月牙天衝で斬り倒す。
ただ、どちらにせよ倒れる時点でどうしようもないと判断し、途中からは雑になりはじめているのはご愛敬。倒れた髄やら何やらが学校の設備側に行かないようにだけ注意しつつ、一護は残りの虚たちを、処理するように倒していった。
そう、処理するように。
「…………俺が速く動いてるっつーのもあるんだろォけど、何だ? 全体的に遅いっつーか、ほとんど動いてねェのか? コイツら」
訝し気に空中で待機する一護。霊子で作った足場の上でヤンキー座りをしつつ斬月を肩に担いでいるが、そんな周囲に何か感知できるものがあるわけでもない。
そして地上に降りれば――――さきほどの虚の残骸がまた「地面から生えて」きていることに気付いた。
「何、だと?」
「――――黒崎君、下! 下! 地面!」
「井上!」
と、どこからか井上織姫の声。おおかた、まもなく全国大会の有沢たつきの練習試合を応援しにでも来ているのだろうが、ともあれ彼女の声を受けて解放前の斬月を一度地面に突き刺す。
『――――――――!』
「って、うお!? 何だこいつ、煩せェというか五月蠅ェ……!」
響き渡る虚の絶叫。思わず斬月を抜き上空に再度避難した一護であったが、何故か校舎の屋上の方で、彼と同じように耳を塞ぐ井上織姫の姿を見つけた。まるで左右の矢印が中心に向かう様な、漫画的デフォルメ表現で渋い顔をしているようなその雰囲気に「お、おう」と少し微妙な表情。ちょっと可愛いとか思って照れてるのかもしれないがそれはさておき。
井上織姫の指摘通りか、よく見れば。地面と同色になって擬態している、エイのような何かが蠢いているのが見えなくもないような、そうでもないような。
「成程な。……いやグラウンドほとんど埋め尽くしてンじゃねェ!? いくら何でもでかすぎだろ!!?」
「すごいよね~」
「って、おお!? い、井上お前どうやってこっちに来てるっつーか、えっ? 浮いてる!!?」
「えへへ~」
そして斬月を構えながら観察している一護の真隣に、いつの間にか織姫が並んで立っていた。黄色地に赤と橙のストライプが横に入った、赤いパンツスタイルである。わざわざ半袖を着用せず袖をまくってる意味はわからないが、そもそも空中に立つ一護の隣に何故彼女が居るのかと言う話だ。
そして彼女の足元を見れば…………、彼女が良く使う三角形の盾が、ちょうど彼女の足場のみを形成するように小さく配置されて、足場代わりにされていた。
「何つーか、器用なコトしてンなァ……」
「えへへ……、茶渡君にも置いていかれないように何か考えないとなーって」
「チャドにも?」
「うん。黒崎君が戦うって時に、一緒にいるならやっぱり、すぐ近くにいたいなーって」
近くに、というフレーズに対して言葉の真意を問いかけようとするが。下方の巨大な虚の腹か背中から生えて来た、異様にのっぽの虚もどき数体を見て、「ちょっと先に片づけるぜ」と手を振る。
「私、朽木さんみたいに攻撃手段ってないからなー …………。何か、覚えたらいけるかな?
って、すごーい! 黒崎君、すっごい速い! こう、ばびゅー! って来て、ずががががが! ってなって、ばん! ばん! って!」
擬音語を多用しながら上空で一護の動きを表現している井上織姫はともかく。空中から虚の身体への着地は、衝撃波を伴えどダメージを受けた節はない。やはり斬撃が弱点かと判断した一護は、虚の仮面がどこにあるか瞬歩を繰り返して探す。……噴き出す白い火輪による出力増強がされているためか、普段よりも1ステップでの走行距離および速度が稼げていることもあって、あとちょっと頑張れば所謂「分身の術」とかも使えそうな勢いだ。
その速度で移動しながら、各所目の前に一回一回斬月を突き刺し、虚の反応を確かめつつ移動。
「こいつ顔が無ェな…………。まさか下側か?」
だとするならば話は簡単だ、とばかりに地面の虚に刀身を半ばまで突き刺した一護。すると背中の鞘に巻き付いた包帯部分が刀の柄尻に巻き付いて――――。
「
『―――――――――――――――――――!!?』
吹き荒れる暴風。火輪「だろう」黒いコートがはためき、わずかにその爆風に紛れて紅葉のような
やがて風が止むと、そこあったのは地面に突き刺さった解放状態の斬月と……、解放時の衝撃により体内からグズグズにダメージを受け、その部分の髄を残し、まるで半分だけめくれ上がった布団のような状態となった虚。下側の面は擬態できていないのか、青紫色の胴体に若干大きい逆三角形の仮面がついていた。
『スカート……、生足…………、邪魔、させない……』
「何……つゥー俗な欲望だよお前……」
ルキアとかたつきとか、後、
「……
そう呟いた瞬間、傷痕のそれを起点に斬撃の軌跡が大きく拡大し、虚の全身を真っ二つにする。さながら超巨大な丸い電動ノコギリのようなそれを目の当たりにして、虚は「我らJKマル秘連盟は永久に不滅なりィ!!」と、断末魔にしたってもうちょっと何かあったろうというような声を上げてその場から姿を消していった。
「素直に冥福祈れねェようなこと言いやがって……。というか何だ? 他にもいるのかコイツの仲間みてェなの?
ルキアに後で聞いとくかな、もしかしたら名前アリのやつかもしれねェし…………、いや、やっぱ止めとくか」
織姫が屋上に戻ったのを追うように空中を駆ける一護の脳裏で「ついに本性を現したなこの不良高校生がッ!」と何故かテンションを上げウキウキな様子で一護にシャイニングウィザードを決め込むルキアの映像が過った。そのせいもあってげんなりしながら、着地と同時に全身から放出する火輪を解除する。
青白い出力が徐々に消え失せ、それに伴い「完全に布地のような」黒いコート状になった火輪もまた姿を消す。
そして、わずかに一護の足元から紅葉のような霊子の塊が吹いてぱらぱらと姿を消していく。なんとなくそれをぼうっと、どこか寂しそうに見つめる一護。その左手首で、雑に縛った赤いリボンがひらひらと揺れていた。
紅葉の霊子が風に乗って流れていくのを見て「何かオシャレなことになってる?」と不思議がっていた織姫だったが、そんな一護の手元のリボンに何故か視線が吸い寄せられる。
「黒崎君、その、可愛い感じのやつって」
「ん? あー、まァ……、形見みてェなやつだ。
友達、と反芻する織姫。どこか表情が訝し気ではあるが、一護とてそれに詳しく説明しようとはしない。ただ、大事なものだというのだけ伝わってくれれば良いのだと。本当に、軽くだけ触れるように言って。
それに何かを察した彼女が、少しだけ寂しく微笑み。
「…………じゃあ、もっと可愛く結んであげないと!」
「は?」
そこで、織姫の何かのスイッチが入り妙な思考回路が起動した。困惑する一護は「まっかせってよー! たつきちゃんだってポニーテールにしてあげたことあるし、私! ぴょんぴょん! ってこうこう、ね?」などと宣う彼女のノリを前に、一歩、二歩と後ずさる。上手く拒否できる自信がないが故の反応であったが「とう!
ギブギブ! と「本気で」反抗するわけにもいかず彼女の肩をタップする一護。あっという間に左手からリボンが解かれ、それと同時に解放されたと思えば、今度はそのままのノリで「ちょっとごめんね~」と軽く一護の髪を引っ張って来る。「伸ばしてねェ!? 伸ばしてねェから、無理だってのッ!」と叫ぶ一護に「大丈夫大丈夫? 寄せて上げればサイズアーップ!」などと何か別なものに対するようなことを叫ぶ彼女のノリに負けた一護。
なお、色々試した結果「ボリュームおかしくなっちゃうね~」とのことで、最終的には後ろ髪をくくるように縛る形に落ち着いた。奇しくも一護の虚が袖白雪に後ろ髪を縛られているそれに近い状態になったことに、なんとなく嫌そうな表情になった一護であったが。
「……? どうした井上」
「…………何だろう、でも……、うん、何でもないよ」
そんな一護の後ろ髪を撫で。リボンをじっと見つめていた彼女。不思議に思い確認した一護に何でもないと答えた織姫。
振り返った一護が見た彼女の表情は…………、どこか憂うような、慈しむような、そんな色を帯びた微笑みであった。
※ ※ ※
意外とすぐ消えたりしないんだなーって。
私とみんなのありったけを全部放出して、出し尽くして。皆だってもうほとんど何も残ってないっていうのに、まだ辛うじて私は残っていた。
残っていた、が正しい。抜け出ていくような感覚なんてないけど、さっきまでのアタシとちがって、もっともっと自分の中の何かが曖昧で、どっかに飛んで行っちゃいそうで、身体が、つめたくて。
てっきりアレで終わりだって思ってたから、お姫様だっこされてる今の状態ってこう、あんまり恰好良くないんだけどさ?
「お願い、あるんだ。私…………、行きたいところ、あってさ。
確かめて欲しいんだ。昨日は、見つけられなかったから」
「茜雫……?」
「お願い、一護」
だから、霊園に連れて行ってって。私のお墓、見たいって、一護に、がんばって、お願いする。
お願いして……、後は、よく覚えてないや。何か、会話したり、何かしてないと、ふわふわしたまま眠っちゃいそうで、それが一護との最後なんて、何か嫌だったから、頑張って色々やって、意識が飛ばないようにしてたのは間違いないんだけど。
一護の背中は、すごく温かかった。
ぎゅって、少しだけ強く一護を抱きしめると、ミントの香りがしてドキドキした。
どきどきとしてる私の鼓動に対して、一護はすごくゆっくりと鼓動していて。
そう言う風に一護を感じるたびに、結局、最後の最後なんだってことが、すごい実感できちゃって……。
結局ポイント使わずじまいだったな。…… 一護の手にちょっとお尻が当たるようにしてあげたりとか、ちょっとだけポイント分くらいサービスしてあげようとするんだけど、そういうのするとすぐ一護って逃げちゃうし。何だろう、これはこれでちょっと傷つくっていうか。
「ふぃう~、ふぃう~」
「口笛下手だなァ……」
そよ風か? という一護に、少しむくれて。そういう一護だってギリギリ吹けてる感じじゃんって思うんだけど、それでもちょっとドヤ! って風に得意げに言ってる一護は、可愛かったからまあいいかな。
ただ、そんなこんなあって、気が付けば霊園にたどり着いていて。……私の中の記憶が、直前のものと一致してないから、嗚呼、その分の
声はまだ出せるけど、視界がぼんやりしてきて。頑張っても頑張っても、大好きな人の顔もよくわからなくなっちゃってるんだ。
「お墓の場所は、覚えてるから」
「ああ」
「そこのね? 入口からまっすぐ行って――――」
私の言葉通りに歩いていく一護。その足取りは「昨日私が辿った道筋」と全く一緒で。
少ししゃがんでくれた一護が、「私の記憶にある」場所のお墓を見てるんだけど……。ぼやけてる目でもさ。「何も刻まれてない」ってことくらいは、色合いが違うからちょっとわかっちゃうんだよね。
やっぱり最初に見た通りで、私の名前なんてどこにもないだって。……だけど。
「お前はちゃんと、この街で生きていた。……家族だって、ちゃんと居たんだ」
嗚呼、良かった――――。
お墓に私の名前があったって、一護が嘘ついてるのなんて、丸わかりなんだけどさ。
それでも、私が好きな人は、ちゃんと私が好きな人だったって。
優しいし、不器用で、嘘をつくのも下手だけど…………。
それでも、私がこの街で生きてたってことは、嘘じゃないって言ってくれてるんだって思って。
後、告白した立場からすると……、家族だってちゃんと居たって言ってくれてるそれってさ? もしかしてこう、私、おヨメさんみたいな感覚でいいのかなーって、そんな期待もしちゃったり。
しちゃったり、する意味なんてもうないんだけどね。
…………。
嗚呼、でも、さ、一護が、そんな風に言ってくれるならさ。
私だって、頑張らないと駄目、だよね。
「また、会えるよね? きっと」
さようならが決して最後のお別れじゃないかもしれな こんな世界で、私だけは絶対もうこれっきりなんだけ さ。
それでもきっと、一護が覚えていて れるのなら、そこに、私はいるんだ。
たまに、本当にたまに思い出して れるだけでも言い。私の大好きな人が、私のことを想ってくれ って、たったそれだけでも。
もうそりゃ、古い映画のフィルムみたいに擦り れちゃうくらい、何度だって 度だって 一護 私のこと想ってもらいた けど。
「何、言ってンだよ。当たり前だろ?」
ありがとう、一護。
だから、私もさよ ならは言わないでおこうっ 思うん 。
もしかした きっとまた、私じゃない誰かかもし ないけど……、そ でも、一護に会え かもしれ いって、 信 い 。
だから一護 しの あ
すぎ を の 、 だから も好 。
も 生まれ変 なら 傍 ――――
ね?