メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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間延びしそうだったので、ちょっと巻きました。
前回と今回のサブタイ通り


#075.幸福な夢の終わり

 

 

 

 

 

破面(アランカル)No.6(・セスタ)、グリムジョーだ。

 二人まとめて、俺がぶっ殺してやるよッ!」

 

 それは、友人たちとの集まりの当日、その夜。

 日中、本庄千鶴あたりが酒も飲んでないのに酔っぱらったような振る舞いをして、それに乗った浅野啓吾などに振り回され大いに気疲れした一護であるが、それはそれで悪くない日常の一幕ではあったのかもしれない。

 少なくとも、一護の心に雨が降るような、そんな負担は存在しなかったのだから。

 

 だからこそ、その日の夜に現世でまた戻って来た日番谷達と集まり、彼等がいうところの「尸魂界(ソウルソサエティ)のきな臭い動き」とやらについて話し合う、という流れで動こうとしていたというのに。

 あまりにも都合よく、その日に破面たちが襲撃をしかけてきた。

 

 数は、四。

 いずれもスターク程ではないにしろ、中級大虚(アジューカス)のヘリファルテことパトラスのような者とは比べるべくもない霊圧。

 

 とっさに一護が動き出したのは当然のことであり、ルキアによって死神化するのも当然の流れ。

 違いがあるとすれば、道中で茶渡や井上織姫と合流するよりも先に、破面の一体が一護めがけて急接近してきたこと。

 

(こ奴……、いけない! 今の私といえど、霊圧のレベルが────)

 

「強ェのはどっちだ? 答えろよ」

 

 目を見開いて獰猛な笑みを浮かべる、グリムジョーと言う破面。雰囲気はそれこそ一護の外面のイメージのような不良めいたものであるが、威圧感はまるで違う。

 振子雪(スノーホワイト)を出していたにしろ、現在のルキアは以前の朽木ルキアほど自由自在に戦える霊力を持ち合わせていない。否、例え以前の通りであったとしても、この目の前の破面に勝てるかどうか――――。

 

 いったん引くぞ、と声をかけるのは当然であり。彼女の意識がそれた隙を、グリムジョーが狙うのも当然の流れ。

 

 ただし、グリムジョーの抜き手がルキアの胴体を貫通することはなかった。

 

 

 

「……何だ? そりゃ。まァ何でも関係ねェ────要するに強ェなら何でも構わねェ!」

「今時、俺にケンカ売りにくる奴でももう少し何か考えて来るぞ、グリムジョー」

 

 

 

 発火、と。いつの間にやら無言で黒いコートのような火輪をまとう一護の姿。グリムジョーの霊圧を感じさせない瞬歩「のような何か」の動きに合わせ、一護はごくごく普通に解放前の斬月を構え、グリムジョーの素手の爪を刃の側面で受けていた。

 舞い散る一護の霊圧には、赤い紅葉のようなものが入り混じり散る。それはコートの裾部分にも見られる意匠で、なんなら腰帯のように巻かれた赤い布が、どこか物悲しげかもしれない。

 

 ただ斬月を構える一護の表情。わずかに角度的に見える彼の横顔は、どこか困惑してるようであった。

 各所で続く霊圧の高ぶり。破面の中でも精鋭と思われる者たちと、日番谷先遣隊との霊圧のぶつかり合い。とても安心できる要素など何もないだろう現在において、しかし一護のそんな表情に、朽木ルキアは妙な安心感を覚えた。

 すなわち、二人の自分が感知できないほどの速度の動きへの驚きと、グリムジョーの戦闘力への恐怖と。そして一護に対しておおよそ「口にして良い訳がない」、一瞬抱いた胸の内の暖かな何か────。

 

「お前、ああいうの苦手だろ? ちょっと下がってろ」

「に、苦手……?」

「────戦うっつーことに何も含みとかねータイプ。いや、たぶん本人なりには色々あンだろうけど」

 

 隙を堂々とついてきたグリムジョーのそれに対応した一護は、その拳と刃が交差したことで何かを感じ取ったのか。時折、梅針を相手にした時のように、一護はこうして相対する敵の何かを理解した風な振る舞いをするときがあった。

 そして実際、グリムジョーと斬り合った一護の体感は。この場にふさわしくないくらいの困惑とむず痒いような感情に引っ張られていた。

 

 グリムジョー自体、当然弱い訳はない。少なくとも「スタークという上を知らなければ」、今の一瞬でルキアの腹には風穴が開けられていたことだろう。反応できたのは今までの戦闘経験か、あるいは何か別な理由か。ただ、だからこそグリムジョーの拳から伝わってくる感情に、一護の体感が追い付いていない。

 それこそ気を抜くと火輪が解除されてしまいそうなほど、真っすぐすぎる敵意────相手を下して自分が上に立つのだという、まるで古い漫画のケンカ番長じみた「野性的な」願い。

 

 本人は否定するだろうが、殺意が混じっていなければ一護的には大歓迎な子供じみた感情が、斬月あるいは袖白雪に共鳴していた。

 

「オイ、ナメてんのか死神! 殺す気で来いよ!!」

「はァ!? い、いや、悪ィ……」

 

(何を素直に謝っておるのだ、あ奴……?)

 

 解放せず斬りかかる一護の刃を手の甲で受け止め、流す。切り傷が出来ていないため月牙を放つことは出来ないだろうが、いやそれにしたって一護も明らかに「斬れないことを前提に」、殴りにいくような動きで斬月を振り回している。火輪によるブーストでその動きは剣の大柄さに反して軽快なもので、かつ「霊圧の詰まった」密度ある斬魄刀であるが故にその一撃一撃は重いことに違いはないだろうが。誰がどう見ても、本気で殺しにかかっている時の一護らしからぬ微妙なテンションに、思わずルキアも空気を読まずデフォルメ調で半眼にならざるを得なかった。

 

「刃が通らねンなら戦い方を変えるのは良いけどなァ────まだ奥の手を隠してんだろ? 死神ってやつは。

 こっちも加減してやってんだ。そのうちにとっとと出せよ? テメーの卍解(ばんかい)って奴をよ!」

 

 そしてグリムジョーのそのあおりに対して、一護はと言えば。

 

「卍…………、解……?」

「…………は?」

 

 思わずグリムジョーも素で雑な返答にならざるを得ない、間の抜けた表情の一護。

 挑発するつもりで挑みかかれば、巫山戯ているとしか思えない表情の敵に対して、グリムジョーは怒りよりも一瞬で冷静になった。そして導き出された結論に、腹を抱えて大笑いしてしまった。

 

「テメーまさか、ハズレかよ!? ()()()が散々それっぽく煽っといて、俺達の刀剣解放みてーなこと出来もしねェのかよ!?」

「いや、解放くらいだったらしてやらねェでもねェけどよ……。というか、あの人って何だ?」

 

 対する一護としても、卑怯な手を使うわけでも無く、ひたすら物理(比喩)で自分を打倒しようという振る舞いのグリムジョーに対し、思う所がない。なさすぎて、返答もしどろもどろに素のテンションが混じってしまっており、緊張感が台無しである。

 グリムジョーとしても本来なら怒り心頭であろうが、その「ハズレ」であるはずの相手がさも当たり前のように破面、それも十刃(エスパーダ)と呼ばれる先頭集団の中でもトップの速度であろう自分に、当たり前のような顔をして追いすがって来たのだ。卍解とは言わずとも、始解の段階でも多少なりとも期待はできるだろうと、そう思っても仕方なかったかもしれない。

 

 彼にとって想定外なことがあったとすれば。

 

「────────」

「何も変わって無ェじゃねぇか死神!!」

 

 火輪によるブーストでグリムジョーの背後をとったり、あるいは彼の腕に何度も刃を打ち付け続けたり。解放前の斬月と、やってることがすっかり同じであった。

 問題としては、一護の「現在の」始解の使い勝手である。

 現在の斬月は、刃で斬った箇所を起点として自ら食わせた斬撃を拡大して放つ、と言う形式になっている。そしてその月牙の威力は、未解放状態でも十分に一般通過虚くらいならあっさり呑み、斬り倒すことが出来る。

 

 解放状態の月牙はその威力が膨れ上がるので、何が起こるかと言えば推して知るべしだ。

 町中に被害が出るような状態では、とても本気で斬撃を飛ばせない。ましてや、中途半端に「殺し合い」と「喧嘩」の中間くらいのテンションに落ち着いてしまっているのも手伝って、グリムジョー的にはある意味相性最悪である。

 

 そんな事情を相手が汲んでくれる訳もなく、不満タラタラなグリムジョーであった。今にも斬り殺さんとばかりに霊圧を跳ね上げ、腰の斬魄刀を抜き、逆手に構える。

 

「月牙──────天衝ォ!!!!」

「!?」

 

 そんなグリムジョーを見て、わずかに一護の霊圧が切り替わる。彼の射程圏にルキアが入ったせいだろうか。わずかばかり、喧嘩の気が引き、意識が殺し合いのフィールドに引きずり出された一護。「殺すなら殺す」という意思が呼応した火輪によって、一護はほんの一瞬でグリムジョーの眼前に現れていた。

 そして()の身体に沿うように霊圧をなびかせ、それを斬り、月牙を放つ。

 火輪による高速接近に加えた上で、緩急をつけた月牙は────初動の不安定さのせいもあってか、ギリギリでグリムジョーには回避された。

 

 とはいえ両腕で胸部から上を庇ったこともあり、腕を含め胴体に袈裟斬りの傷痕が残る。くしくも「原作」のようなダメージを負ったグリムジョーは、哄笑。

 

「は……、はは、はははははははははははっ!!!

 やりゃ出来るじゃねえか死神!! 勝手に失望して悪かったなあ! これでようやく────殺し甲斐が出てくるってモンだぜ!!」

「少しはガッカリさせねェで済んだみてぇだな」

 

 だがどうする、と。一護としても少し対応に困る。町を「原形を残さない程」月牙を連射できるわけもない。故に先ほどの月牙とて、ほんの一瞬、意識の隙をついた一撃であり、通常であるならば必殺ないし致命傷であるだろうそれだ。

 それを、易々とは言わずとも回避したグリムジョーの基本性能は間違いなく今の自分よりも上。

 

 不安定な初動の火輪――――霊圧の波から放たれるそれでは、おそらくまた回避されるだろう。

 だからといって市街地を傷つけて放てば、どれほどの被害が生じるかわかったものではない。

 

 人が寝静まってる時間にはまだ早いが、それでも「視えない」人々が巻き込まれかねないと言うこの状況は、一護にとってそれなりにストレスであった。

 とはいえまだまだ、戦況は五分だろう。お互い致命傷らしい致命傷もない。戦闘中、火輪を出しているにも拘らず「身体が内側から破裂するように軋んでいる」一護と、一護によって傷ついたグリムジョー。状況はまだまだ互角だろう状況で。

 

 グリムジョーの背後に、黒い世界の口が、開く────────。

 

「……何しに来やがった、ウルキオラ────」

「刻限だグリムジョー。そして──()()()

 

 開かれた黒腔(ガルガンタ)から現れたのは、以前に梅針と戦っていた死神の片方。白い肌をした破面の青年。

 そしてある程度の距離まで歩いた彼がひざまずき────奥から、誰かが歩いてくる。

 

 ちっ、と舌打ちをしたグリムジョーでさえ、空中のその場で膝をついて頭を(忌々しそうにであるが)垂れ。それを一護が見た、その次の瞬間。

 

 

 

 次の瞬間には、全てが終わっていた。

 

 

 

(何だよ、これ────やられたのか? 俺)

 

 膝から崩れ落ちる黒崎一護。火輪で形成されたコートがゆらめき形を失い、同時にあらわになる死覇装から覗く、胸部二か所の深い傷。

 

 氷ごと切断された斬月の刀身────砕かれた、袖白雪の鍔。

 

(後ろから刺されたのか、前から刺されたのか……それすらわからねェ)

 

 痛い。

 痛覚のみが一護の思考を汚染する。

 

『────────()()、脆いね』

 

 投げかけられる、深く甘い響きを持つ男性のくぐもった声。鳥の骨のような仮面を被った、白い洋風の死覇装。スタークのような破面のような風体でありながら、その顔形はうかがい知ることは出来ない。

 一護! と、朽木ルキアの絶叫が響き。その彼女の振子雪の一刀が、一護の背後に立つその誰かの仮面を斬り。

 

 膝をつき、倒れる最中。わずかに振り返った一護に見えたその視界に映る彼女は。その表情は、驚愕と、困惑と、怖れ。

 

 

 

「そうか──────やはり私が、()()()()()()()()()()()。なら、()()()()()()()

 

 

 

 倒れながら見上げた一護に見えたその男の仮面の下は……。

 どこかで見たことのある顔立ち。黒髪の……おそらく自分に似たような雰囲気の、そんな風貌が皮肉気に微笑んでいる姿だった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 おかしいなァ……、つい数時間前まではあのイタ飯屋で出たトリュフ風味のフライドポテトに鼻をやられて一護のやつが苦悶してたような状況だったンだがなァ…………。

 あっサーモンのピザは普通に美味しそうだったとだけは言っておく。全くの余談っつーか、現実逃避の類だけどなァ。

 

『――――――――こ、こ、こんなの納得がいくわけないでしょう!? あなた、我が夫、あなたも何か手伝ってくださいましっ』

『口調おかしなことなってンぞ、姐さん』

 

 思わず半笑いにならざるを得ない。そりゃ、だってそうだろう? いくら何でも、ここまでべったりになるとは俺だって思っちゃいなかった。

 

 

 

 端的に今の状況を説明しようか。

 この一護の内在世界・崩壊の危機である。

 

 

 

 いや、まず手始めに一護の見てる現実世界の方をざっくり説明しておくか。グリムジョーとなんか知らねェけど戦ってたら、ウルキオラが出て来て、で何か知らない破面(アランカル)だか仮面の死神(ヴァイザード)だかに鎖結と魄睡をブッ刺されて、急激に霊力が抜けていっていやがる。

 さっきまでグリムジョーと戦いながら、何度か月牙を撃つか躊躇って、そのたびに火輪で抜いても「抑えきれないくらい」膨大な霊圧が溜まっちまってたから、霊力が抜けるのはまだマシと言えばマシだ。

 

 問題はそう……、原作漫画でいう朽木白哉が「曲芸」扱いしたお遊びじみた、この技。要するに、相手の霊力を断とうとする一連の動きによって、一護に蓄えられていた朽木ルキアの霊力が抜け出ようとしていることだ。

 それこそ、尸魂界篇導入みてェなノリで。

 

 ……問題は、それやってンのがどう見ても虚圏一派……というかヨン様なことだよなァ。

 

 一瞬、見てたぞ? 一護はとらえきれてなかったけど、砕けた仮面の下から現れた、眼鏡をつけてないオールバックな藍染惣右介(ヨン様)の御尊顔。……少なくとも章ボスそれもラスボスクラスの章ボスがこんなお気楽に出てきてンじゃねェよ!? 何考えてんだテメェ!!? というか朽木の奴に対していった台詞何だってのと、今のヨン様の顔が、完全催眠にかかってねェ一護の視界から見ても()()()()にしか見えないっつーことの方が問題だ。

 

 藍染惣右介。五番隊隊長、言わずと知れた準ラスボスで、原作における大体の黒幕……のようでいて何だかんだその場のノリで適当かまして遊んでるような、ちょっと一言で説明するには色々と捩じれ曲がりすぎてるこの男。コイツは、一護に対してだけは自分の斬魄刀の能力である完全催眠の条件を満たさず、また催眠にかけることはなかった。それはこの世界でも同様だっつーのは、俺が俺自身であるからこそ知っている。

 生前っつーか()()()()()()()()。死神時代から、藍染隊長の斬魄刀についてはよく知っていた。俺が持っていた、今では俺自身ともなっちまったかつての俺の斬魄刀が最大限警戒し、最終的には空しいとしか言いようのない結果になっちまった、その全てをふまえ。

 

 だからこそ、その顔が一瞬で全く別な誰かのモノになっちまったことが異常極まりない。

 えっ何だその能力マジで!? 変身能力!!? アーロニーロでも取り込まれましたか? 霊圧も変だし。いや、流石にそれは無理だろォし本人の気質的にもアーロニーロ相手っつーのは絶対あり得ねェだろーがなァ。

 それに、口ぶり的にも()()姿()()()()()()な風に聞こえたし、そもそも────────。

 

『あ! な! た! いい加減現実逃避をおやめください、せ、せ、接吻いたしますよ!!?』

『おぅ本気でその度胸があるならやってみろってンだ年増生娘がよォ』

『は……!!?』

 

 ちょっと鬱陶しかったから色々言っちまったかもしれねェが、まあこれが多分最後だ。大目に見てもらいたい。

 

 この一護の内在世界が壊されかけた時、異物である姐さんや子雪がどういう扱いを受けるか。いや、そもそも「朽木ルキアのもとに還っていく」アイツの死神の力に紐づいてる姐さんが、今の状況でどういう扱いを受けるか。そういうのを考えれば、まァわかりやすいだろう。

 

 要するに、いつかの時みてェに姐さんが「空に空いた大穴」に吸い寄せられているのだ。子雪なんてそりゃもう、まるで一番の異物だー追い出せーみてェな感じでこう、「ばびゅーん!」みてェな効果音が付きそうなくらいの速度で吸い上げられて、いつもみたいに遊ぶ余裕も無く追い出されちまったし。

 姐さんも斬魄刀使いながら氷張って(樹白(じゅはく)とか言ったか?)必死に抵抗しちゃいたが、流石に無理と判断したのか俺に抱き着いて踏ん張ろうと必死になっていやがる。

 

 以前と何が違うかと言えば、俺はそんな姐さんにわざわざ手を貸してないこと。

 抱き着かれるがまま、うっすい胸の感触を楽しむこともせず、状況を傍観していた。

 

『何故……引き留めてくれないのです?』

 

 姐さんは、目を大きく見開いて今にも泣いちまいそうだ。ンな裏切られたみてェな目を向けないでくれよ。

 そもそもアンタ、朽木の斬魄刀なんだから朽木の元に戻るのが本来は正しい在り方だろうが。

 

『例えそうであったとしても……、それこそ正しく、優しく、そして情緒を鑑みた上で導かれてというのがセオリーというものでしょうっ!』

『セオリーなんてねェよ。そもそも下駄帽子が適当ほざいて、朽木の霊力を無理やりここに縛り付けた時点でなァ』

 

 俺自身、姐さんを引き留めたいっつー意思は決してゼロじゃねェ。なんだかんだ数カ月、姐さんといるのにも慣れたと言えば慣れた。俺っつー今の自我の中で志波海燕が微妙な顔してたり、志波都がニコニコ微笑みながらこっちも若干イライラしてたりっつー情緒不安定さはあるが、所帯じみてきた姐さんを今更そのまま放り出すっつー状況に、思う所がないわけじゃねェ。

 だけど、こりゃ無理だ。

 だってなァ────斬魄刀にとっちゃ、使い手が一番であるべきなんだぜ?

 俺にとっても、さっきから俺の意を汲んで影の中でじっと何も言わないでくれてるオッサンも。俺達斬魄刀にとっちゃ、死神が一番で、死神と一緒だからこそ俺達っつー存在が意味を成している。

 

 だから、色々あったがこう不自然な状況に陥ってるっつーのは、それは絶対に良くないことなんだ。

 今だけなんだ。戻れるとしたら、一護自身が虚を抑え込める本能のバランスを保って、かつ霊力が抜け出て浦原喜助の魔の手から逃れうるタイミングは。

 戻れるなら戻るべきで、その方が絶対に正しいっつーのは、何も間違っちゃいねェはずだ。今後のことに目を瞑れば……何も、な。

 

 そう姐さんに言えば、やっぱり姐さんは目に涙を溜めて……いやこらえきれずに流れちまってるわ。駄目だこりゃ。くしゃくしゃに泣いてる顔は、顔立ちは色々違うっつーのに表情の作りが朽木ルキアそのもので、俺の立場としちゃ何も言えねェ…………。

 そして、姐さんは叫ぶ。

 きっとそれは、姐さんにとって決定的なことを。

 

 

 

『……正しくはあるのでしょう、けれど! 私が…………私がようやく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のに、私が、私が傷つけてしまったあの子のために! あの子の忘れ形見のために、出来ることをして何が悪いのです!!』

 

 

 

『あー、…………、いや何言ってるか意味わかんねェよ』

 

 いやだから、俺の一言聞いて裏切られたみてェな感じでショック受けてるんじゃねェって。何だ? 海燕殿だったら意味通じるっつーか、知ってる情報だったのか? 今の姐さんのセリフ回し。明らかにこっちが知ってる話で訴えてくる流れだったぞ。

 だから何度も言ってるだろ。俺は志波海燕で()あるが、志波海燕で()ないっつーことを。

 確かに志波海燕は俺の一部ではあるが……、志波海燕のすべてが俺って訳でも、俺のすべてが志波海燕って訳でもないのだ。

 

 だから、本当に悪いンだがなァ…………。

 

「こんなの……、こんなの納得できるわけないじゃありませんか――――!!!!」

 

 泣き叫ぶ姐さんの身体は、ついに限界を迎えて俺から離れていく。

 俺もオッサンも、今回ばかりは全く霊圧の奔流の影響を受けず。だからこそ、空に落ちていく姐さんを、横にいつの間にかぬっとあらわれたオッサンと一緒にじっと見守るばかりで。

 

『――――良かったのか? ホワイト』

『何が?』

 

 見上げる俺に、オッサンが声をかけて来る。……相変わらず良い声で、それが妙におかしくて笑っちまう。そんな俺に、相変わらずオッサンはマイペースに空気を読まずに言って来る。

 

 

 

『一護や朽木ルキアを別にしても。お前は、あの客人と竜の子との家族ごっこを、嫌ってはいなかったはずだ』

『…………』

 

 

 

 まァ、だからそうやって空気読まずに言われたことに、応じてやれる余裕があるわけもなく。

 そして、ようやく冒頭に戻る

 

 いつの間にか砕かれた振子雪。一護を庇うように抱きしめる朽木。

 そんな朽木に手を翳し、義骸から魂魄を抜き取る海燕殿の顔をした藍染惣右介。

 

「私の目的は、君だ。朽木ルキア。

 君の持つ先ほどの氷の剣、その基礎にあるものと言うのが正しいかな?」

「何を────貴様は、何を知っている」

「ついてくることだ、朽木ルキア。君と、君自身の力の真相を知りたくば。

 あるいは、より言い訳らしい言い訳が欲しいのなら────────この場で黒崎一護を見逃してほしいというのならば」

「…………ッ」

 

『おい「■■■■のオッサン」! 駄目だこっちの方もいい加減限界来てるぞ!』

『ぬぅ……、仕方あるまい。一度上空へ退避しよう』

 

 起き上がろうとする一護だが、喉にも力が入らねェ。ただただ息をするだけでも、身体が重い。

 そんな一護の耳に届く状況と、霊体になりながらも一護を庇おうとする朽木の姿に、一護が何を思うかと言えば……。ご丁寧に上空に穴が開いてるっつーのに、そこすら無視して雨が降り注いできやがる。

 現実逃避するようにオッサンと色々話し込んでも、状況は何一つ進展しねェ。

 

「良いか、一護。私と貴様の魂魄的なつながりが断たれていると言うのならば……おそらく先ほど、あの者が貴様を突いた箇所は魂魄における急所、その2つだ。仮に井上の手で再生をしたのだとしても、死神の力はおろか霊力さえ戻るまい」

「何、言ってンだよ……ッ」

「さあ、何を言っているのだろうな。……いかん、な。私も、茜雫(せんな)のことを笑える立場にはないらしい。井上に謝るようなことだけは、決してあり得ないことだが」

「どいつもこいつも、何で意味のわかるように話さねェんだ……! 勝手に言って、勝手に納得して、何だよその面!」

「済まぬ、一護。だが……、今の私には、無理だ」

 

 朽木の奴は、一護の顔にかかるのも気にせず、気にする余裕も無く……泣いていた。

 

 謝るしかなかったらしい。少なくとも今、魂魄の状態で、振子雪が振れねェ状況において。朽木の奴は、もうただの人間の魂魄そのものでしかないのだと、一護にずっと、ずっと謝ってる。

 

「貴様を、助けるには……、これしかないのだ。わかってくれ、一護」

「判る訳ねェだろ!? 何、勝手に、納得して────」

「────なんでだろ、なあ? どうして……、私は、私の大事な人を、大事な人たちを、護ろうとして、上手くいかぬのだろうな?」

 

 音も無く、口が誰かの名前を呼ぶ。れんじ、と、かいえんどの、と。動きだけ追えばそう見えるからこそ、それがますます一護には理解できやしねェ。

 そもそも一護に志波海燕を一方的に重ねてる朽木が、そのことを一護に話すことは無ぇのだから、当然といえば当然の困惑で。

 

 一護からすれば、自分が向けている以上の親愛と、より強い自己犠牲の意思を向けて来る朽木に対して、何ということもできず。

 

 

 

「──────さらばだ、一護。……達者でな?」

「────────」

 

 

 

『流石にそろそろ対面しねぇといけねー訳だが、どーするか? 俺も表に引っ張らあぶぼぼぼぼばぼ――――』

『その話し合いもしたいところだがががばぼぼぼがぼぼぼぼ――――』

 

 タライ持ってきて申し訳程度に雨漏り防止にならねェかとか試行錯誤したが、まァ意味はねェ。いつも以上に雨が冷たく、ビルの部屋にオッサンと逃げはしたが、まァンなものに意味が合ったら、俺達は毎度毎度水没しちゃいねェ。

 

「どうしてだ、俺は…………、また、護られた────」

  

 だからこそ……グリムジョーがちゃんと「グリムジョー・ジャガージャック」だと名乗って煽ってから帰っていくのを聞きながらも、いまいち耳に残って無ェ一護は。その黒い向こう側へ、ウルキオラに首を捕まれ引きずられ消えていく朽木の姿を目だけで追いながら。

 

「────また護れなかった、何でだよ、()()

 

 ………………いや、そこで井上とか朽木の名前より茜雫の名前出すのは流石にどうかしてると思うぜ兄弟。

 そう思いながらも、砕けていく摩天楼を前に俺はツッコミを入れる気が起きなかった。いくら何でもダメージを受け過ぎだし……、これだけダメージを受けるに足る経緯なのは、間違い無ェからな。

 

 

 

 

 

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