メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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#076.水底に映るからこその光

 

 

 

 

 

(何だ……)

 

 

 

 ────ウチの隊長に頼まれちまった手前もあるし、第一コイツの顔見りゃ……、いや、ンな感傷は要らねェな。コイツはコイツで、姉ちゃんか母ちゃんか知らねェがあっちとは違う。しっかり一人の死神としてこの場にいるんだ。そーゆー事情を知ってるかどうかっつーのはともかく、それにしたってどいつもこいつも浮竹隊長の部下らしくねェ、シケた面して全く歓迎してすらいねェ。ウチの隊の清音とかくらい図太けりゃまた別だろォけど、こりゃ普通にしてたら先が長ェな。

 だったら俺が一番槍してやンのが、()()()の務めってモンだろ。

 

『俺は、副隊長の────(×× ××××)だ! よろしくな!』

『……………………………………?

 …………はあ……、……どうも』

 

 何ンだそのテキトーな挨拶はオイ!? 副隊長サマが名乗ってんだぞ形式上でもキビキビ名乗り返して「よろしくお願いします!」が普通だろォが、鳩が豆鉄砲喰らったみてェな顔してボケっとしてンじゃねェぞオイ!

 事前に知っちゃいるが、改めてオメーの口から名乗らせるのが大事なんだ。だから、言えよ――――朽木ルキア。

 

『……く……、朽木ルキア……、です。…………へ? あっ、よ、……よろしくお願いします!!』

 

 おーおー硬ェがちゃんと言えるじゃねェか。頭は働いてるな。

 よッし! オッケーだぜルキア────────

 

 

 

(何だよ、これ…………?)

 

 

 

 ────何を辛気臭ぇカオしてんだオメーはよォ、朽木。

 

 まあ、それこそ数十年前にあったコイツの姉ちゃん? とかと一緒でグジグジ悩むタイプなんだろォから、あんまり詳細聞き出して余計落ち込ませるのもどうかっつー話なんだろォがな。大方、朽木ンところの()()()が口下手やってンだろ。たぶん。

 だが忘れんな。オメーがウチの隊に居る限り、俺は死んでもオメーの味方だ。俺だけじゃねェ。清音も仙太郎も隊長も、ンマー(おおい)は家庭複雑だからよくわからねェけど、大体の奴はもう身内だって思ってるはずだ。家のしがらみで身動きに躊躇があるにしても、それはオメーがオメーなりに勝ち取って来たモンなんだから、それくらいは自信持ってろってことだ。

 

 ……だからいい加減茶化すのは止せお前等二人よォ! 酒抜けや気合で! 特に清音! オメーあんまり酷ェと親父ンところ言いつけるぞコラ────────。

 

 

 

(俺は、こんなの知らねェ……、知ってるはずがねェ…………)

 

 

 

『そうですか。まあ、朽木さんも昇級に待ったをかけられていますからね……。指導したのは貴方でしょう? ──(××××)。何か思う所があるのではないかしら』

『ンマー、そうだな。……いや、アレはアレで業が深いっつーか、下手するとあの斬魄刀って()()()()()()だよなァ……』

──(××××)?』

『いや何でもねェよ。どっちにしろ見た目もトシも俺らからしたらガキンチョだぜ? ガキンチョ。宮藤の二人みてェな外見詐欺でもねェし、心細いっつーならしっかり後ろから支えてやらねェとな。家のことで尻込みしちまうのが居るっつーのは情けねェが、俺にできるからって言って他の奴に出来るかってのも違ェだろうしな』

『あらあら。ボニーちゃんを駆って流魂街を暴走族していた頃から変わりませんねぇその面倒見の良さと言うか、放っておけないところとか』

『暴走族いうなってのッ!』

『そういうところが、素敵だと思いますけどっ』

『っ! オイ(みやこ)こんなトコで惚気ンなよ……覆に見つかったらクドクド煩せェからなアイツ……』

『あの子もあの子でアレは信頼の裏返しなのでしょうけど、素直になれないのは中々直りませんからねぇ。────あら? フフ』

『あン? どうした』

『何でもありませんよ。でも……、気を付けないと背中から刺されるかもしれませんね? 貴方』

『ンだよ、縁起でもねェ…………』

『あらあら、全然伝わっていないみたいで、まぁ………………、生まれ変わっても駄目そうですね』

『死神が輪廻転生みてェなこと語ってもなァ、霊子循環とかなり相反する概念だぞアレ────────

 

 

 

(多分これは、ルキアの過去で………………)

 

 

 

 ────。

 

『隊、長ォ……』

『全滅だったそうだ、彼女を、だが…………、──(××××)、押さえろ! 今追うのは敵の思う壺だ……! まだ相手の能力だってわかってないんだぞ』

『じゃあ何ならわかってんスか!

 俺が知る限り、一番そういうのを調べるのが得意そうなやつの能力の範囲からも外れていやがる……、姿も名前も能力も、何もかもわからねェ。それで大人しくまっていろと? ────(俺のアイツ)のことだぞ……!

 アイツはきっと、都の身体を使って…………』

「…………わかっていることは、二つ。一つは、奴が一か所に巣を作りとどまって捕食する傾向があるということ。そしてもう一つは────────

 

 

 

(浮竹さん……、ルキアの隊の隊長と話してるコイツは、()()()()()()()()()()()で、これはきっとその記憶で…………)

 

 

 

『「ひひっ! まずはお前からか……、え? 小僧…………!」』

『良い声しやがって。……(ホロウ)。オメー、今まで何人の死神を喰ってきた。それを一度でも悔いたことはあるか』

 

 俺の言葉に飄々とクズなことを言ってのける虚。気味の悪いフジツボが飛び出たみてェな眼窩の仮面をしたソイツは、こともあろうに自ら食って利用した都のことを愚弄するばかりか…………。

 一遍の容赦もねェ。

 ごくまれに正気に返る虚もいるが、コイツの狂いぶりは生前か、あるいは死後か。知ったこっちゃねェ。

 

 俺個人の怒りと、死神の調整者としての使命と……都がきっとそうだったように、俺もただ当たり前みてェにコイツを、斬る。

 

『水天逆巻け、「捩花(ねじばな)────────

 

 

 

(……誰、なんだ? アンタは。顔も見えねェ、アンタの視界からしか見えねェ、けど…………)

 

 

 

『隊長……!? お離しください、──(××××)殿……、──(××××)を助けなければ……!!』

『それで…………、あいつの誇りはどうなる?』

『……?』

 

 悪ぃな、隊長ォ。俺のワガママに、付き合わせちまって…………。

  

『手を貸せば、なるほど奴の命は救われるだろう。だがそれは同時に、あいつの誇りを永遠に殺すことになる』

『誇りが何だというのですか!! 命に比べれば、誇りなど────!』

 

 朽木を止めて、ンな悪者みてェな嫌な役、押しつけちまって。

 きっとアンタなら「気にするな!」って笑って、どうせそのまま咳込んで血ぃまき散らすンだろうけど……。

 

『いいか、よく憶えておけ。

 戦いには二つあり────』

 

 嗚呼、俺もそうやって、教わったんだった。常にその戦いが、どっちの戦いかってのを見極めなきゃならねェ。本当ならそりゃ、下手に隊士を死地へと追いやらねぇための操縦法のはずなんだけどなァ。……完全に、私情で真逆のことさせちまった。情けねェ。

 でもだから、くっきりと思い出せる。それは、命を守る戦いと────────

 

 

 

(命を守る、戦いと……………………)

 

 

 

「────誇りを……、守るための戦いと…………!』

 

 だからよォ……、本当、すみません。浮竹隊長。そんな、本当だったら今一番に、割って入って斬ってしまいたいだろうってのに、白打(はくだ)と鬼道で無茶するしかなくなってる俺をずっと、見守って。

 どれくらい辛いかなんて、俺にはわからねェ。それでもちゃんと、俺に、俺のかじ取りを任せてくれてンだ。

 俺が背負ってるのは、今、俺だけのモンじゃねェ。

 都の、都の部下だった連中の、そしてコイツに食われてきた幾人もの死神たちの、その全部を背負ってンだ。

 だったら、俺は────。

 

 

 

『……海……燕……、……殿?』

 

『「何じゃ、儂を呼んだか? 小娘────────?」』

 

 

 

(何だよ、何だよこれ……! 何だよ、こんなの…………っ!?)

 

 

 

『「どうした! 何故斬りかかって来ぬ()()()()!? フフフ……、わかっているぞ、此奴の中から儂だけを引きずり出す方法を探っておるのだろうなァ!

 ──無駄だ!!! 人間の肉体に憑依しているのとはわけが違う、儂も此奴も霊体、すなわち()()()()()()()だ! 永劫、解けることはない!!

 後はこれからじっくり一晩かけて、此奴の霊体の真髄を内から喰い散らかしてやるだけのことだ!」』

 

 ……やべェな、しくじっちまった。いくら時間がなかったとはいえ、少しはアテにしとくべきだったなァ、アイツのこと。俺個人として、多少気に入らねェところはあったが…………、それでも付き合いがあったし、別に仲違いしてた訳でも無ェんだから。

 何だ、都。いや、都だった何かなのか、もう訳がわからねェけどよ。嗚呼だから、浅慮だったっつーのは認めるっての。けど、こっからだ。浮竹隊長がきっちり「殺してくれる」なら言うことは無ェが、もし仮に逃げたなら、そう簡単に食われてやるつもりはねェ。

 だろ? 都、捩花。

 

 

 

『────殺せ! 朽木、そいつはもう……アイツじゃないんだ!!!』

「────────」

 

 

 

 ……いやだからよォ、隊長も言い方ってモンを考えてくれよ。せめてなァ…………、俺の誇りを守れとか、色々言い方あンだろ?

 ンなこと言っちまったら、皆大好き────(××××)様を前にちらっと刃が鈍っちまうに決まってンだ……ン、何だ都? いやオメー、内在世界だか精神世界だから知らねェがケツつねンじゃねェっての。フツーに痛ェってのに…………。

 

 だけどな。それでも、朽木ならきっとやってくれる。だってアイツは……俺が鍛えた死神なンだから。

 

 

 

 なァ? 朽木。

 

 

 

「か……海燕、殿……?」

 

 隊長も、ありがとうございました。俺を最後まで戦わせてくれて…………、結局、約束守れそうになくって、スンマセン。

 それから、朽木よ……。変にワガママに付き合わせて、ヒデー役目押し付けちまって、とんでもない目に遭わせちまって……。

 

 本当、悪いな。きついだろ? でもな────。

 

 

 

(何で、そんな顔してんだよ、何で…………)

 

 

 

『ありがとな。お陰で心は……、此処に置いていける』

 

 嗚呼、何だ? 霊体が、崩れ始めちまってる。

 虚として切られたせいなのか知らねェが、コイツは何なンだろうなァ。

 

 多分、俺貫いた刀も()()()だろうし……つくづくロクな目に遭わせちゃいねェな、本当。

 

 

 

『……海燕(かいえん)殿……!!! 海燕(かいえん)……、殿…………」

 

 

 

 それこそアレだな。生まれ変わっても、志波(しば)海燕(かいえん)はロクな目に遭いそうにねェわ……、ンな可愛いガキンチョ一人、泣かせた、まま、で────────

 

 

 

(何で……そんな顔していやがんだよ、ルキア)

 

 

 

 …………消えていく視界の中で、目に見える光はまばたきよりも早く点滅するみてェになって、やがて、その意味も消え失せた。

 ただ、俺に判るのはそれだけだった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 唐突に降って来た雨。

 抜けていく熱、止まらない血。

 痛さと寒さと、それに裏打ちされた身体の重さ。

 

 しかし、死んでいない。わずかに見た最後の光景、ルキアとあの、どこかで見たような覚えのある顔の男率いる破面たちが現世から消えていった、その後ろ姿。

 

 だからこそ、嘆いた勢いのまま飛び起きた一護は、見覚えのある和室の天井と。ふとんで寝かされていた一護の隣で寝息を立てる井上織姫の姿に、どこかやるせない気持ちがうずまく。

 

「────おはようございます~! 黒崎サン。とはいえ、もう夜っスけどねぇ。

 井上サンに感謝しないといけませんね? あのままだったら、とっくに死んでいたかもしれませんから」

「下駄帽子?」

 

 現れた浦原喜助。ということは、ここはやはり浦原商店か。そして彼とのやりとりで状況を把握する一護。現世での調整をする間もなく早々に破面の襲撃と、分散させられての戦闘。そのうえで朽木ルキアを奪われ、現世の()()の最大戦力と目される黒崎一護の無力化。

 

「今の貴方は、死神が霊体として活動するものの最低限しか残っていません。元から内在している膨大な霊力はともかくとして、それを扱うための身体が満身創痍。

 井上サンによる回復が間に合っても、抜けた朽木サンの霊力と、虚の霊圧ばかりはどうしようもない」

「…………ッ、けど無くなった訳じゃない、そうだな? 下駄帽子」

「おや? 立ち直りが早いっスねぇ。何か良い事でもありました?」

「いや何だよそれ。わからねェけど、ただ……」

 

 ちらり、と。手首に乱雑にまかれた、赤い女物のリボンを一瞥し、一護は浦原の顔を見据える。

 無力感に魘される、本来の一護であるならば全ての感情を抱え込んでそうなっていたであろうが────。

 

 朽木ルキアの現世在留が長引いた結果、ほんの少しだが一護は「子供として」「大人になっていた」。

 

「たぶん、だけど」

「はい?」

「下駄帽子。あんた、ルキアの後を追う方法とか、知ってるんじゃねェのか?」

「おやおや、買い被りっスよ~。アタシはただの、しがない駄菓子屋店主で────」

「いやそういうの良いから」

 

 思わず若干ギャグ調になる一護だったが、むしろそれこそが彼の余裕であると判断し、浦原も「甘い甘い、そんなんじゃツッコミ選手権で優勝どころか入選もできやしませんよ~!」などと揶揄い始める始末。思わず足元で井上織姫が布団越しに自分の太ももを枕にして寝てる事実を忘却し、盛大にツッコミを入れてしまう一護であった。

 

「おやおや。これはまあ、素直に成長したって言って良いんスかねぇ」

「何がだよ。というか、あんたその言い回しだともっとガキの頃の俺知ってるみてェに聞こえるけど、絶対知る訳ねェだろ……」

「おや? アッハッハ、まあそんな話は置いておいて……。

 仮にボクがそれを知っていたとしたら、どうするんですか? 黒崎サン」

 

 自分の、応急処置をされたのだろう包帯巻の身体(所々十字の形に織り込まれてるので担当者は石田だろうか)を撫でてから。一護は一度深呼吸し、織姫の頭を優しくずらして、その場で土下座した。

 膝をついた、見事な土下座。あまりにもしっかりとしたその動きに、思わず帽子の影越しに目を真ん丸にする浦原喜助。

 

「……今の俺の実力じゃ、ルキアを攫ったアイツには到底およばねェ。梅針とか、あいつみてェなのとは訳が違う。だから────頼む! 俺を、()()()()()にしてくれ……!!」

「…………」

「こうやってアンタが軽く構えてるっつーことは、俺より色々何か知ってるしやってるあんたがそんな風だってことは、きっとルキアは攫われてすぐどうこうと、何かあるっつー話じゃねェはずだ。

 時間は、そう長くはないにしろ……。

 だったら、惜しくても俺に出来ることはそれしかねェ」

「………………僕()に戦えと、そういう風には言わないんスね」

「それじゃ、駄目なんだ。結局おんぶに抱っこじゃ、意味がねぇ。周りに頼るってのが大事だって、最近身に染みて分かっちまったけど…………、それでも、どうしてもってところがきっとある。

 戦いには二つある、らしい。命を守る戦いと────」

 

「────誇りを守る戦い、ねぇ」

 

 はっと、思わず顔を上げる一護。浦原喜助は帽子を外し、どこか胡散臭い目をして黒崎一護のことを見下ろしていた。何故その言葉を知っているのか、と疑問が一護の胸の内を駆け巡るが、上手く言葉になって出てこない。

 そんな一護にため息をつき、浦原喜助は帽子をいっそう深く被った。

 

「……平子サンから少しだけ事情を聞いたことがあるかもしれませんが、確かにボクの経歴なら黒崎サン。貴方を死神として鍛えることが出来る。それこそ今まで見てきたからこそ、黒崎サンに合ったやり方で」

「…………」

「朽木サンに関しての見方も、まあ間違ってはいない。どうして()が今のタイミングで動き出したかは定かではありませんが、貴方が()()()、今この場で朽木サンについて何かあるのかと聞いてこないことも、評価しましょう」

「…………ッ」

 

 何故朽木ルキアが攫われたのか。その最も根幹的な疑問をあえて口に出さず、その上で頼み込んでいたことを明確に口にする浦原喜助。どうしてルキアが連中にさらわれたのかと問わない一護の心中までは測れずとも、少なくとも目的に対して、気持ちだけが逸っているわけではないと彼は理解した。

 なおその心中では、現在の状況に至るまでのアレそれに加えて目覚める前に見た夢のせいもあり、大雨洪水を通り越して深海そのものではあるのだが。もっとも、そんなことに対する内在世界からの抗議の声が聞こえるはずもない。

 

「────良いでしょう。もとより黒崎サン。朽木サンの救出に向かって成功する確率が最も高いのは、アタシは貴方だと踏んでいます。そして、胡散臭くていずれ敵に回りそうなラスボスみたいなとか思っていそうなアタシにそこまで頭を下げる以上、覚悟も決して半端なものではない」

「いや、あんた自分で言うのかよそれ……」

 

 茶化すような物言いの浦原に少しだけ気が緩む一護であったが「辛気臭いのはここまで」とばかりに、帽子の角度を少し変えてにっと微笑む浦原喜助。

 

「想う力は、鉄より強い。

 ただ黒崎サンも言った通り、時間がそうある訳じゃありません。これからみっちりボクと殺し合い、できますか?」

 

 そして、上等と。拳を握り不敵に笑おうとした、そんなタイミングで。

 がやがやと、襖の向こうが騒がしい。何事かとやりとりを中断する一護と浦原であったが、途中「ちょっ! 待ってくださいよ隊長、今何か取り込み中……」と恋次らしき喚き声や、チャドの「む……」と唸る声も近づいてくる。

 

 そして、思い切り力の限り左右に開かれた引き戸の向こうに、男はいた。

 白い特徴的な髪留めをした黒い長髪。死神らしい死覇装の上から、白い袖のない羽織り。首には白いスカーフのような何かを巻いた、目元がどこかルキアを思わせる、それでいて似ているような似ていないような微妙な塩梅の顔立ちをした男の姿を。

 

「あんた……、ルキアの、兄貴か?」

「………………黒崎一護、だな」

 

 隊長ォ、と後ろの方で止めきれなかった恋次が少しバツが悪そうにしているが、そんな自らの隊の副隊長のことはスルーして、護廷十三隊六番隊隊長・朽木白哉は一歩一歩足を踏み入れ、そっと懐に手をやる。

 何だ何だ、戦るのか!? と思わず織姫の肩を抱えて飛び退いてファイティングポーズをとろうとする一護であったが。

 

 

 

「────今回は時間がある故……、受け取れ。(けい)には我が愚妹が世話になっている」

「…………へ? あ、あー、お、おぅ……?」

 

 

  

 すっと、差し出されたそれは横に広い菓子折りの箱であった。

 どうやら普通に、挨拶に来ただけだったらしい。あまりに予想外かつ空気を読まないタイミングと振る舞いに、毒気を抜かれてどんな顔をしたら良いのかわからないのか、リアクションが雑で曖昧。

 なおその微妙な反応には、箱に押印された家紋らしきものと「わかめ大使饅頭」の達筆な筆文字、そして描かれた名状しがたいデフォルメされた海藻より棒のような手足の生えたシンプルな顔の描かれたキャラクターかマスコットか微妙なところにあるどこか朽木ルキアのイラストのセンスに通じる何かをかもしだすキャラクターが影響していたのは、想像するに難くない。

 

 一護に引き起こされて狸寝入りを止めた織姫ですら「わかめ…………、大使……?」と、普段なら可愛いと喜んでいそうなところを困惑していることからも、白哉のマイペースぶりが伺えた。

 

 ツッコミ不在の恐怖じゃな、と、猫状態の夜一がつぶやいたかは定かではない。

 

 

 

 そして先ほどからずっと一護に自らの布団を貸す形となっていた浦原商店のツインテールの少女が「あの……、あんまり踏みつけないで……」と頬を赤くしながら、白哉が開けた障子越しに小声で一護に抗議していた。

 

 

 

 

 

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