メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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一方その頃...


#077.砂城の入り口 ★

 

 

 

 

 ふらつく身体に気合を入れて。いまだ霊的察知がおぼつかない「人間であるかのような」自らの霊体に戸惑いつつも、朽木ルキアはあてがわれた部屋で衣装を着替えた。

 肩と胸元が開いた衣装は鎖結と魄睡────霊体における霊力の発生源と増幅を司るそれらの機能をより妨げないようにデザインされたと聞いている。手にしている白い手袋もまた、放出した霊圧をより高速で循環させ身体に()()()()()()ためのものである、と。

 

 …………まあ、あの妙にむさ苦しい「乙女心を持つ男」の破面が言っていることをどれほど信用するかというのに依るのだが。「あなたの身体は少女らしくてキュートだ・け・どぉ……、此処は少しエッジを利かせてみようかしら?」とくねくねしながら衣服をその場で調整し(!)、手渡されたのが現在の恰好。

 あからさまに死神のそれではない、さりとて白い袴は破面たちのそれとも共通するが死神の時のニュアンスを残しているとも言える。……若干、お腹とか含め色々すーすーするが、耐えられないようなものではない。

 

 そして「必ずつける様に」と申しつけられたらしい、半透明な、大きな数珠のようなネックレス。何かしらの霊的装置であろうからして、文字通り首輪をかけたとでも言いたいのだろうか。

 そんな虜囚であることを示すかのように衣服を変えられたと言うのに、当たり前のように拘束すらされていないのは、今の己がいかに無力な存在かと言うのを知らしめられるようでさえある。朽木ルキアはそのように鬱屈とした心を抱えながら。

 

 男と、対峙した。

 

「────ようこそ、我らの城『虚夜宮(ラスノーチェス)』へ。()()()()()()()()()()、歓迎しよう。朽木ルキア。

 ……フフ、そうやって三人並ぶと、現世でいうアイドルユニットのようじゃないかな?」

「「あ、アイドル……?」」

「…………貴様は何を言っているのだ?」

 

 死覇装下の襦袢姿で連行された後、着替えた後の現在。朽木ルキアは、おそらくは連中の根城だろう「遠近感がわからなくなる」巨大さの建物の一角にいた。左右には女の破面が二人。それぞれ身長はルキアより少し大きい位か。少し……、少し? うむ、少しのはずだ。きっとそうであると、謎の対抗心にかられたルキアは自分でそう納得した。

 目の前の「鳥のような仮面の破面」らしき男の言葉に、彼女たちは二人そろって呆けた。ルキアでさえその場違いな物言いについ漫画的にはデフォルメした表情になってしまいそうであったが、くすくすと笑う声、仮面の下からくぐもって聞こえるその()()()()()()()()()に、胸の内が軋んだ。

 

 微笑みながらも感情を感じさせない声音。()()()()()()()()()()()()()声音でありながら、あの人そのものの声と、顔と、その姿────。

 朽木ルキアにとって、目の前の志波海燕を騙ったような存在は、しかし偽物と断ずるにはどうにも違和感があり、やり辛い。

 

「いや、済まない。戯れだ。うん……あまりこう、言葉を無目的に重ねるのは本来、得意ではないのだけれどね。雑談と言うほど親しくすることもないだろうし、私もそこまで君に情を向けるつもりもない。しかし、君に知る権利があると言った以上は、私の口から直接に語るという行為が必要になるだろう。それが最適最速であるのならば、その程度の労と面倒さは調伏するべき障害にすぎない」

「…… 一護の前で貴様と話していた時も思ったが、言い回しが回りくどいぞ貴様」

「「…………ッ」」

「む、むぅ……?」

「フフ、二人とも良い子だ。そのまま憤怒の情念を押さえて冷静に。そちらの方が素敵だと思うよ。

 さて……、しかし性分かな? いや、物事を焦りすぎてはいけないと友人によく言われているから、悪癖というほどではないと自負している」

 

(友人がいる……? 明らかに敵の首魁、グリムジョーと言っていた破面の動きからして絶対君主であろうこの男が、友人…………?)

 

 皆目、目の前の相手の正体がつかめない。立ち振る舞いはどことなく誰かを思い出すようであったが、その相手が誰かと認識するよりも先に、目の前の相手の()()()()()部分に目が、耳が、思考が、持っていかれる。嗚呼、だからやりにくい。偽物だとわかっていても、あの特殊な虚に乗っ取られたのを目の前で見ていたのだとしても、その胸を貫いたのが自分自身であるのだとしても、それでも。

 

 それでもこうして目の前に居る相手は、まるで()()()()()()()()()()()()()で──────。

 

「まずは紅茶をいただこう。どちらか淹れてもらえるかな? ロリ、メノリ」

「「お任せください、あい……、アルトゥロ様!」」

「ある…………?」

不滅王(フェニーチェ)、と言った方が尸魂界には通りが良いだろう」

「……ッ!」

 

 そして、そそくさと我先にと「私が淹れるんだよ!」「いやここはアタシが」「やんのか、あァ!?」と喧嘩腰で部屋から走っていく二人の声を聞きながら、ルキアは男の名乗りに戦慄した。

 

 不滅王(フェニーチェ)? 不滅王(フェニーチェ)だと?

 

 仮面を外したその素顔は、まさしく海燕殿そのものだというのに。微笑むその表情のかたちが、何一つ一致しない。思い出から抜け出たような暖かな雰囲気に紛れる違和感に、朽木ルキアは何か得体のしれないものを直視したような錯覚に陥った。

 

「おや、聞かないのだね。例えばこの顔、この姿について。尸魂界においても、山本元柳斎を始め一部の死神以外には認知されていない情報の宝庫だ。苛立ちの一つでも覚えているだろう君なら、罵倒の一つでも来るかと思ったが。

 そもそもこうして蘇る、という想定などなく、その後にあった事件のこともあってうやむやにされているからね」

「…………貴様が私の疑問に答えたとて、それが真実であるかなどわかりようもない。徒にこちらの混乱を図ろうとしているかもしれぬ」 

 

 それに、彼の心は自らの胸の内に。手と手を取り合ったその間に。例え離れたとしても、その手は…………、今は、一護に繋がれているのだ。

 だからこそ、自らを見失わない。少なくともこの場で自らを殺すことはないだろうという妙な確信を胸に、朽木ルキアは堂々と言葉を繋げた。

 

 なお、それを受けた男は少しばかりの苦笑い。

 

「これはこれは。浦原喜助の秘密主義にさぞ振り回されたことだろう」

 

 一護の名を、自分の名を。あからさまに知っていることから想像していたが、どうやら浦原喜助についても十二分に色々と知っている相手であるらしい。

 ただ、その物言いには一言で言い表せない皮肉気な響きが潜んでいるのを、ルキアは感じ取っていた。

 

(何者だ、この男。……本当にあの、四百年前に尸魂界に侵攻した破面本人だとでも言うつもりか?)

 

 ただしその後、特に「らしい」会話も無く、本人の宣言通りに紅茶を飲む会に移行したのはルキアとしても全くの予想外のそれであったが。

 ロリと言うらしい黒髪ツインテールに露出が激しい破面と、メノリというらしいどこか不良学生のような雰囲気のある破面の二人が、何故かそろって延々とアルトゥロを名乗る男について惚気のような一方的な思い込みのような、恋に恋する面倒くさい語りを延々と語ってきたり。特に他意があるわけではなく、ちらりと話をふったらすぐにそちらに傾いたあたり、よほど誰かに自慢(?)したかったのだろうか。

 また話していたかと思えば、突如二人そろって顔を合わせてメンチ切り合ったりと、ここは一体本当に敵地なのかと疑いたくもなる空気感であった。

 解釈違いというやつか、などと世迷言を思いながら「まあまあ」と仲裁に入るルキアであるが、当然仲裁できる訳も無く状況は地獄。その中で涼しげな顔をして紅茶を飲みながら「やはりあちらが淹れた方が上手だね」とぼそりと呟いている男が、一番何を考えているか意味不明であった。

 

 いや、意図はわかる。紅茶と共に現世から持ち込まれた茶菓子を前に、歓談という体で男が最初に言ったのだ。これは、少なくとも朽木ルキアが男の言葉を飲み込めるだけの、そういった関係を築くためのものであると。心理的な敵対関係こそ変わらないだろうが、それでも言葉が「魂に」届くためには、ある程度の距離感というものを掴まなければならないと。

 嫌にセンチメンタルなことを言うなと思いながら、ルキアは男の言葉を聞いていた。

 

「生憎、緑茶はあまり飲まなくてね。小豆や白玉の類はないんだ。済まないね」

「私が言うのもどうかと思うが、謝るところはそこなのか貴様……? いや、食べたいかどうかで言えば食べたいが」

「絹ごし豆腐は用意があるのだけれどもね。きゅうりは……、そろそろ栽培が成功するかな?」

「きゅうりは有難いが何故それを用意しているのだ、というよりも普通に雑談出来るではないか。何が得手ではないだ貴様……?」

「私個人の感情の問題かな? 君で言えば、今の霊体のまま全力の更木剣八の前に引きずり出されるような、そういった面倒さだ」

「面倒…………?」

 

 普通そこは怖れが先行するものだが……。種族の違いか何なのか、男のその物言いは中々一般的とは言い難いものである。なるほど、これをもとにこちらの緊張をほぐそうとしている(?)のならば、さぞ精神的には面倒なのだろう。

 と、ロリとメノリが「「さっきから思ってたけどアルトゥロ様に何、その言葉遣い!」」と怒りをあらわにし、ルキアはルキアで色々と困ってしまう。正直、育ちが良くない中でどうしてか素の口調がこう育ってしまったもので、今更どうこうというのは(猫を被るならいざ知らず)難しいのだ。

 

 とはいえ、その二人もまたほんの少し霊圧を込めれば、今のルキアの霊体など簡単に粉砕できるだろう。にもかかわらず、怒りをあらわにしながらも務めてルキアへと殺意と攻撃を向けないのは…………。

 

「今日はこのくらいにしておこう。……フフ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()かな? あちらは。中々ハードスケジュールのようだ」

「……何を言っているのだ?」

「君にとっては朗報か、あるいは悲報か。……黒崎一護が戦線に復帰するまでの期間についての推定、といったところだ。()()()()()()()()()()()()()()()とはいえ、こと自らが護ると決めたものに対する力の入れようは相変わらず過激な子だ」

「──────、馬鹿な……? 一護が、来るだと?」

 

 そんなはずはない、と。目を大きく見開き、首を左右に振るルキア。メノリたちも顔を見合わせ「何? 一護ってアレよね」「前言ってたやつ。仮面の死神(ヴァイザード)()()()()()とか言ってた」などと小声で相談し合っているが、そんなやりとりも耳に入らない。

 

 来れるはずはない。そもそもこの目の前の男は、一護の霊的な力の根源とも言えるものを二つとも破壊した。今、自らがこの「虚の生息域」に満ちる霊子でもって、欠損した霊力を時間をかけて補う様な措置をされているのとは訳が違う。器子という縛りがあり、霊子が空間に満ちるほどにすらない現世において、一度破壊された霊的器官の完治の見込みがどれほどのものか。

 たとえ井上織姫によって回復されたとしても、以前ほどの訳の分からない力が見込めるハズなどない。そう確信したからこその、一護の身を護るための人身御供である自分だったというのに────。

 

「おや? 妙なことを言うね。朽木ルキア。

 ──君が知る彼という男は、そのような矮小なる常識というもので推し量れる少年だっただろうか」

「…………貴様が、一護の何を知っていると言うのだ」

「応えて教えても良いが、今の私の言葉は君の芯には深く入っていかないだろう。志波海燕の(この)姿であることにはそれなりに意味もあるが、まずはそうだね……。情念を押さえ落ち着けるだけの余裕を持つことだ」

「何を訳の分からないことを言っている、貴様──────」

 

「スターク、部屋まで送って行ってあげるんだ」

「────あいよ、あ………ルトゥロさん」

 

 そして一瞬、ルキアは呼吸を忘れた。

 ヴ、と妙な音を立てると同時に、以前現世で遭遇した破面と、それを中心に4人の破面とが現れる。

 

 スターク……、一護と剣を交え、その後当時の現世で対応できる面々が総出で戦ってもロクな傷一つ与えられなかった、おそらくこの敵陣においても上位に入るだろう実力者。仮面の下顎、牙から残っているようなそれを首につけた、黒系の髪。くたびれた中年男性のような雰囲気は相変わらず。

 その背後にいる三人。一人は、左側に角のついた仮面をした筋骨隆々の大男。一人は、三つ編みを変に垂らした刺々しい仮面をやはり左側につけた、少年のように小柄な男。そして腹に空いた孔が目立つ、鼻の下の髭を伸ばした長身痩躯、壮年の破面。こちらも仮面が左顔面についており、ちらりとルキアを見て「フン」と忌々しそうに鼻を鳴らす。

 いや、そんな彼らに驚きはしたものの、それだけなら息を止めるような話ではない。後者三人に至っては「誰だ」という話であるし、睨みつけられた理由もよくわからないくらいだが。

 

「スターク、間違えそうになってるじゃんかー。もっとちゃんとしないとってさぁ……って、うるさいって何さ投げ捨てんな!? はうっっ!!! お、お尻痛い……」

「だ、大丈夫か、ええっと…………」

 

 そう、本当に驚かされたのは、スタークに首根っこを捕まれた()()。ショートカットで、活発そうで見るからに小生意気。体つきからして年はルキア自身より下のように見えるが身長は既に一緒くらい。それでいて虚らしい威圧感の皆無な、そう……、それこそ(プラス)にいても不思議じゃ無いような、どこか一護の妹に接していた時のような感情を、ルキアは抱いた。

 いやまあ、彼女も彼女でロリに負けず劣らずやけに露出が激しい恰好なのだが、見た目の年齢もあいまってどこか微笑ましく見えるかもしれない。そんな彼女の仮面は主に上半部に被るヘルメット型、左目をスコープのように覆う形となっていた。

 

 と、そんな彼女を雑にぽいっとしたスターク。尻もちをついて痛た……と唸りながらも、ちらりと彼女もルキアの方を見る。

 お互いの目が合って、よくわからない気まずさが場を支配した。

 

 とりあえず立ち上がった彼女に、スタークが「付いて行ってやれ」と言う。「あんたの仕事~」と面倒そうに言ったものの、アルトゥロを名乗る男も「頼んだよ」と涼し気に微笑むばかり。……やはりどこからどうみても海燕殿らしからぬ表情の作り方である。

 さて。ロリやメノリも後ろに付いて行きながら、女所帯の団体行動となるルキアたち。その道中で、思わずと言った風にルキアも言葉が自然と口から洩れた。

 

「子供の……、破面(アランカル)? いや、破面の子供というべきか、そなたは」

 

 明らかに、明らかに他の破面と比べて異質────アルトゥロを名乗る男ともまた違う、まるで何か重大な前提を取り違えているような、そのような違和感をルキアは彼女に抱いた。

 もっとも彼女の方は、ルキアの言葉に少しだけ顔をしかめるも、特に機嫌を悪くはしなかった。

 

「………………別にいいだろ? あたしは、あたしだ。こっち、着いて来て……って、大丈夫!? あんた、何でそんな身体の中スッカスカなのさ!? ちゃんと食べてるの色々、いや本当にさ」

「ぬ、ぬぉ……?」

 

 むしろ何故か、猛烈に心配された。

 話して何かしら彼女の霊圧が自分に触れたのを感じ取ったルキアだったが、今のルキアの状況ではその霊圧の度合いなど全く感知し返すことも出来ない。せいぜいが「辛うじて幽霊が見える」現世の人間程度の霊力しか戻っていないのだ。ただ「元のキャパシティ」を察したのか、それこそ吹けば飛ぶような今のルキアを前に少女の破面はそれはそれは大層取り乱した。

 敵だろうに何をそう心配してくるのか其方、と。よっぽど言おうか迷うほどに、まるで身内を心配するような妙な距離感である。

  

 ロリとメノリが「えー」と言わんばかりに微妙な顔をしているあたりからしても、少女の振る舞いは異質といえた。

 

「本当に大丈夫だよなー、明日すぐ死んだりしないよな?

 あたし、リリネット・ジンジャーバック。何か困ったことあったら、ちょっとは力になるからさあ、な?」

「あ、ああ……、ありがと、う?」

 

 そんな少女、リリネットに気圧されるように、ルキアは結局頷かざるを得なかった。

 これもまた男の言っていた距離感というやつか、と。後になってふと思い返すが、どうにも「当たり前のように」心配されたと言う事実が、ルキアからすれば本当に妙な感覚で、どこか据わりが悪かった。

 

 

 

 

 


【おまけ】

・ルキアに渡された衣装(クールホーンちゃん作)。原作織姫のと並べてバランスをとるため、モチーフ?はもうちょっと露骨な感じに。ざっくりこんな感じだよ、くらいに思っていただけると幸いです。

 

【挿絵表示】

 

 ※大体顔を描きあげるのに全力だったので、他は色々アレです...

 

 

 

 

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