メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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普通に体調不良で全然書けてませんでした。
 
シリアルに続きます…


#078.シャウト&ナックル!

 

 

 

 

 

「ボーハッハッハッハー! 呼ばれて飛び出てぱんぱかボハァ!? ゲホッゲホッ…………、ぬぅん! 負けぬ、負けぬぞボ()イ&ガールズ! このドン観音寺、例え太陽が西から昇って東へ沈む天変地異を前にすれど人々の魂の自由と平和のため! 子供達の夢と希望を護るため! 愛と勇気が最強であると世界に示し続ける姿勢を忘れはせんですぞォ!

 …………と、おや? マイ弟子一号は留守だろうか。霊圧(スメル)が薄い……、薄い? あのガールの霊圧(スメル)の漂っていないとくれば……ぅン! もっしもし~! もっしもし~! もっしも~~~~しッ!」

「ぼははははー!? ねえねえ夏梨ちゃん夏梨ちゃん見てみて、本物のドン観音寺だよー!? なんかうち来てるー! サインもらわないと!」

「だァもう、五月蠅いっての!? 人が宿題やってるときにさぁ! 表口営業妨害になるし! いや今日休みだから大丈夫だけど、裏口というかウチの方に来られても近所迷惑だし何なのあの変な恰好のオッサン!? こらガキ共どっか行けっ!」

「ボーハッハッハッハ! やはりこの我が鍛え抜かれたファッションから溢れ出るヨーロッパが、幼気な子供たちの注目を集めるのを阻止することはできないか……!」

「オッサンもどっかいけッ!」

「ちょっと夏梨ちゃーんっ」

「ぬぅ? それはそうとガール、後ろにいるその頭部がだいぶ後退している企業戦士(ジェントル)の御姿は……?」

『あわわわっ、あ、あなたはまさか本物……!』

「足元靴も無く、靴下も穴が開いて……。今の御姿からして、さぞ日々繰り返される毎日に心痛めた末に在る方なのでしょう……」

『そそそれは……、いやでも今は今で割と娘くらいの子が毎日学校に行ってるのを見てるだけで心安らぎますし────』

「ゲッ……!? うっそ、マジで見えてるのこのオッサン!? 一兄ぃに絡んでるのもガチ目な理由!? というか近い近い近づいてくんな、何かすっごいパッションフルーツみたいな香水の匂いする!?」

「何なに、どういうこと夏梨ちゃん?」

「ボーハッハッハッハー! 何、案ずることはない! 見たところ(バッドスピリッツ)に堕ちる様子もまだ見られないならば、今の内なら皆で歌って踊ってファッショナボゥ! することでその心の空いた隙間を埋めることが出来ましょうぞ! さあさあガールの後ろで恥ずかしがらず、年齢(トシ)も忘れて今日は皆元気にシャルウィーダンス?」

『い、イエス……? シャルウィーダンス?』

「シャル・ウィー・アキハバラァ──────ッ!」

「秋葉原ァ!」

「アキバ言っちゃったよ!? 何なのこの状況さぁっ!!? ヒゲもこんな日に限って何か大病院の方に行っちゃってるしー!? 誰か助けてー!」

 

「((ねー)さーん……、くそぅ一護のヤロー、何やってんだこんな日によォ……)」

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 こんなに町は静かだったか、と。そんなことが黒崎一護の脳裏に過る。

 幽霊が見えなくなったわけじゃない。だが、圧倒的に以前のような見え方をしていない。

 先日、魂葬した子供達の霊がいなくなったりもしてはいるが、それにしたって一護の感知力は明らかに落ちていた。

 

「…………」

 

 今だって、一護に縋りつこうとしていた半透明の何かの姿を判別することが出来ない。シルエット的にはやや太った体型の大人のようではあったが、顔の判別もできず声も聞こえず。

 悪ィな、と。自分に接触できずに不思議そうにしているそのシルエットに、一護は必要もない申し訳なさが湧いてきていた。

 

「夏梨より弱くなってンのか? これ。……その割には死神とかは全然見えるし、違いが良くわからねェ」

 

 石田雨竜でもいれば「霊子の密度の問題じゃないかい?」とか「そんなことも判らないで死神代行をやっていたのか君は」などと言われそうなものである。一護自身もどう言われるかはともかく、ふと馬鹿にされるイメージだけは湧いたのか半眼になり「けっ」と毒づく。表情がギャグ漫画調になっているイメージではあるが、それでも普段ほど元気がないのは、絡む相手としての彼女がいないからか。

 いや、例え居なかったとしても。本来の一護にとっては、これが正しいことなのだ。

 

(妙な感じがする。アイツがアホやってるのを見なくてやかましくないのはそうだけど、これはこれで違和感がねェ)

 

 幽霊の声が直近より聞こえないことへの違和感はあるが。朽木ルキアがいないことに関しては、違和感よりも納得感が強い。例え攫われたのだとしても、彼女は本来「人間世界」にとって異物であるというような、そんな感覚が。

 

「だからって、このままにしておけるかよ」

 

 

 

 ────虚圏(ウェコムンド)破面(アランカル)勢力が何かしらの意図を持って朽木ルキアを拉致したのであるならば、日番谷先遣隊は全名即時帰還とし、尸魂界の守護に戻ってもらう。

 

 それが尸魂界上層部からの決定であると、朽木白哉は淡々と答えた。

 浦原商店にて、手当てを受けた直後の面会。尸魂界からの指令を受けた朽木白哉は、見舞も兼ねた菓子折りを持参して一護にそう語った。「わかめ大使饅頭」と銘打たれた、何だか普通の餡子菓子を摘まみながら(食べろ、という威圧感に屈し)話を聞いていた一護であったが、流石にその話は理解を拒んだ。

 

『何言ってんだよ。どういう、ことだ…………?』

『中央四十六室、ひいては総隊長の決定である。……(けい)らが軽挙妄動をせぬよう、十番隊以外はそれぞれ隊長格も派遣した。場合によっては、隊士を力づくで連れ戻せと────』

『よぉ、()ろうぜ』

『うおッ!?』『更木隊長!!』『一角見なよ、あんな目をキラキラさせちゃってさあ……』『剣ちゃんこれ美味しい!』『いやアンタは遠慮しとけこの副隊長サマよぉ!』

 

 会話の途中で獰猛な笑顔をもって乱入して来た十一番隊隊長・更木剣八はともかく。最初は意気揚々と「せっかく現世に来たんだから斬り合おうか」くらいの軽いノリだった更木剣八であるが、一護から感じる霊圧の具合を見て「万全じゃねぇな。だったら美味いモンでも食べて早く治せよ」などと言って頭をガシガシなでたり、子供扱いすんなっ! と反発しながらもこのままアイアンクローをかけられるんじゃないかと一護が少しビクビクしていた一幕があったりしたが、それはともかく。

 

『敵の目的が明確ではないことと、()()()()()()()()()技術開発局の局員が観測した霊圧から、かつて尸魂界に攻め込んだ王敵である最上級大虚(ヴァストローデ)の霊圧が確認された。四十六室は、梅針事件の際の序章で遭った件の虚による悪夢の再来を最大限警戒している』

『だったら乗り込んでいって、ルキアを奪還した方が話は早ぇじゃないですか! ついでに連中のハナを明かしてやれば────』

『恋次。決定は決定だ』

 

『……確かにかつて、護廷十三隊を半壊させた相手ともなれば、お貴族様たちの警戒も妥当かもしれない。だけど納得がいかねぇ』

『隊長? あら珍しい』

 

 日番谷の言葉に、朽木白哉は目を細める。

 

『いくら地獄蝶による情報のやりとりがあるにしろ、四十六室まで情報がいって、その上で会議が決着するのがいくら何でも早すぎる。まだ1日すら経ってないんだぞ、朽木』

(けい)は、何が言いたい』

『まるであらかじめいくつか方針が手札みたいに決まっていて、状況に合わせて最適なものをポンと出しているような、違和感がある。話し合った末とかじゃねぇ。まるで、特定の条件に対して示し合わせたような違和感だ』

『だからこそ、(けい)もその不審からいくつか情報を隠していると? いや、兄のみに限らぬか……』

『……っ!?』

『た、隊長……』

『浮竹十四郎ですら気づく違和感だ。私が気づかぬこともないだろう、恋次』

 

 朽木白哉の立場は尸魂界としての立場。すなわちルキアから共有されている類の情報のない、何かしら改ざんされたであろう情報のみを把握している。

 現世における出自不明の野良の死神と協力して虚退治をはじめ事件を追っているルキアというおためごかしの正体が、ルキアによって死神の力を与えられた子供とその周辺と協力してかつ本人はもはや死神とは呼べる状態ですらなくなってしまっているという事実を、把握していないと言う事である。

 

『だが語れないと言うのならば、それはこの状況自体を否定する要因にはなり得ていないということだ。兄の違和感が状況を変えるだけの力を持ち得ない、ということでもある』

 

 とはいえそもそも黒崎一護個人を知れば、その話への違和感が膨らまないはずはないのだ────とくに、件の()()を知っている者であるならば。

 だが、だからこそそういった一通りの情報を全く共有されていない者たちの目に、状況はどう映るか。

 

『それは朽木さんを……、見捨てるってことですか?』

 

 井上織姫の絞り出すような声に、如何にも、と。あくまで白哉は、ルキアの兄はそう答える。

 

『霊界一人の命と霊界全て、秤に掛ける迄もない。総隊長ならばそう諭すであろう』

『……隊長、俺は、その命令は…………、その命令だけは…………!』

『いうな、恋次。()()()()()庇わぬぞ』

『…………ッ!』

 

 ちん、と。斬魄刀をわずかに抜き、構えという程ではないにしろ殺気を飛ばす白哉。織姫を始め現世組は息を呑み、事態を静観している浦原も帽子の隙間からちらりと彼を見上げる。

 ルキアへの感情と、今の自分の立場と、朽木白哉へと向ける感情と。それらがない交ぜとなり、恋次は蛇に睨まれたように身動きがとれなくなり────。

 

 そんなことお構いなしに、一護は白哉の襟首を掴みかかった。

 

『何でだ!? あんた、ルキアの兄貴だろ? 何で他人事みてェに言ってんだ? 何で助けようとしねぇンだ!』

『…………黒崎一護。逆に聞こう。何故、今の(けい)がルキアを助けようとする』

『何、だ……?』

『縛道の一・(さい)────』

 

 ぶん、と。手を横なぎに軽く振る程度。その動作一つで、一護も見覚えのあるその動作一つで、いとも簡単に身体の自由を奪われ倒れる一護。

 黒崎くん! と声を上げて抱き起す織姫と、居間の方から右腕を振りかぶるよう身構える茶渡。

 

『報告にあった通りならば。この程度の縛道、万全の(けい)であるならば容易に振りほどけるはずだ。今の兄は満身創痍。徒に命を散らす立場ではない』

『何言って、いやがる…………!』

『現世の人間が、と言っている。────────只の現世の人間である、今の(けい)がだ』

 

 明確な線引きであると。宣言するように、朽木白哉は繰り返した。

 

『何故、死神である我が妹を助けようとするのか、そう聞いている』

 

 白哉のその一言に。身体を抱き起されながらも、無理やり上体だけでも起こしながら、一護は睨むように()()()

 

『ンな大層な理由何か、いるのかよ』

『…………』

『ルキアは仲間だ。仲間のために命懸けようってのが、そんなに変なことか……?』

『…………』

『貸し借りの話じゃねェ。けどあいつは、ルキアは、俺を助けるために当たり前みたいに自分の命を懸けてくれた。……だったら、そんなあいつを助けたいって、連れ戻したいって思うのが、そんなに不思議なことか? 答えろ、朽木白哉ッ‼』

 

 意思を乗せ、言霊(ことば)を続け。自らの拘束を剥がそうと必死な一護は、しかしそれを為せるだけの霊力が放出されない。腕に異常がある訳でないのだから、それはやはり、ルキアを攫った死神に壊された自らの身体のせいか。霊的な急所のようなものであると、ルキアもそんなことを言っていた気がする。だがそんなことお構いなしに、一護は無理に霊圧を放とうとし……。

 ふと、その拘束が一気に消えた。

 勢い余って飛び跳ねる様に前方に倒れ込み、むしろ額を打ち付ける一護。痛い痛いと呻く一護に「大丈夫? 黒崎君……」と撫でる織姫。

 

 そして、一護は気付いた。白哉の足元に()()()()()()()、赤黒い斑点を。その上から滴る、握られた右拳から垂れる血を。

 

 二人を見下ろしながら、朽木白哉はやはり無感情に続ける。少なくとも、表面上は。

 

『……まんざら野良の死神というのも、間違いではないのやもしれぬな。嫌に()()()を思わせる点は欠点として』

『は?』

『…………下らぬ感傷だ。だが、我が妹が命を賭して助けたと言う()()に免じて、一度だけ答えよう』

 

 何故助けぬのかと聞いたな、と。朽木白哉は、血が流れる程に強く握った拳のことなど何事もないように、ただただ平静に語る。

 

『決が下されたならば、それに従うのが掟であるからだ』

『……何だよ、掟だから見捨てるって言いたいのか。てめェの妹でも…………』

『元より死神であるならば、本来は情とは無縁であるべきなのだろう。

 嗚呼。()()()()()()()()()。だがだからこそ、()()()()()()()()()()()()()律することが出来ねばならぬと。私は父母や亡き妻に誓ったのだ。故に、これは誇りの問題だ』

『………………ッ』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 無感情に見えるその目に、どこか疲れたような感情が過るのを一護は感じた。

 相手の葛藤がどれほどのものなのか、一護が一言でおいそれと断じることが出来るようなものではないと。それでもなお、助けなければならないなら踏み込むべきじゃないのかと。いくらでも言葉を重ねられたろうに、その時の一護にはどうしてかそれが難しかった。

 

 ────なんでだろ、なあ? どうして……、私は、私の大事な人を、大事な人たちを、護ろうとして、上手くいかぬのだろうな?

 

 血は繋がっていないはずの二人の顔が。どこか寒々しい白哉と、今にも泣き出しそうだったルキアの顔が、重なって見えたせいだろうか。

 

 

 

 結局、尸魂界の面々がその場から去る間、言葉を重ねることが出来ないでいた一護。日を改めて、こうして浦原商店に向かってる最中でも、もやもやとした感情は晴れない。

 

「……このままにしておける訳、ねェだろ」

 

 あのまま白哉が押し黙ったままでいるのか、あるいは何かきっかけが有れば救出に動くのか。そんなこと一護にだってわからない。だったらまずは、今自分に出来ることをしなければと。開いた右の掌を握り、じっとそれを見てから足を踏み出し────。

 

 

 

「────破道の一・(しょう)ッ! 」

「って、おぉ!? 危ねェだろ何しやがるってか、誰だ!!?」

 

 

 

 突如一護の視界に、黒装束のシルエットが張り込んで来た。頭上から落下した何者か、どう見ても死覇装に身を包んだ死神である相手。声音からして女だが、その声音の死神に知り合いはいない。

 そしてその相手が「空中で」霊力をまとい殴りつけた何かが響き、周囲に反響音が聞こえる。

 

 いや、反響音? この嫌に耳に残る音は。

 

『────────!』

「ほ、(ホロウ)……!? そこに居るってのかッ」

 

 今の今まで気付いていなかったが、どうやら一護のすぐ後ろに虚がいたらしい。死神の拳と霊力を受けたせいか、朧げながらもシルエットが判別できる程度には色が浮き出る。巨大虚(ヒュージホロウ)、何だか仮面というか頭というかが嫌に鋭角な形状をしている。

 

「────いやコイツ、普通に霊圧感じなかったから一護がわからなくても変じゃないでしょ。元々感知が苦手だって聞いてたし、おまけに今全然見えてないでしょ? 虚は」

「……は?」

 

 そして、当たり前のように目の前の死神に声をかけられて、硬直する一護。

 本当に、当たり前のように声をかけられ。その相手が相手であったため、一護の脳内は一瞬真っ白に染まった。

 

「ま、ちょっと待ってなー。インターハイ1位も目前なあたしが、ぱぱっと片づけておくからさ」

「いや、ちょ、ちょっと待て」

(はし)れ、転狼(てんろう)──マッハのようにーッ!」

「いやだから待てって、何だ、何、何だこの状況……!? というかお前何もやってないじゃねェかそれッ!!?」

 

 首元にタオルでもかけるように乗せられていた茶系の毛皮のようだったそれは、突如として犬の頭と手足、尾の先に刃を表出。ミニスカートのような黒い袴を翻して仁王立ちし、指を差し向けた()()。その指先に向けて、仔犬のようだったそれは駆けながら徐々に巨大なそれへと変貌し────。

 

 

 

『くっをのれ……! しかしJKの死神に斬られるなら本望!

 輝け生脚! 迸れパ〇ツ! 我らJKマル秘連盟は永久に不滅なりィ────ッ!!』

 

「え、えぇ……? 何なのコイツ…………」

「お、おぉ……。コイツ、()()の同類かよ。やっぱり他にもいンのか……?」

 

 

 

 狼のように巨大化した、おそらくは斬魄刀だろう何かを従える死神らしい彼女──誰がどう見ても一護の幼馴染である有沢たつきと、一護はそろって、狼に襲撃された虚の断末魔にドン引きしていた。

 

 なお、やや後方の電柱でその断末魔を上げる虚を見ながら「ド変態スケベ……」と、気持ち普段より半眼なたつきの肉体(?)がぼそっと呟いたとか何とか。

 

 

 

 

 

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