メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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※1:久々更新早々に相変わらず色々ネタバレ注意ですスミマセン
※2:1話と矛盾しているように見えますが、いつからアレがお兄様対面時のアレだと錯覚していた?(震え声) 予定では矛盾がギリギリない程度になるイメージです
※3:せっかくなので簡単にですが挿絵つけました!


#008.そして「我ら」の幕は上がる ★

 

 

 

 

 

 虚相手に斬りかかる一護の姿は毎度のごとく危なっかしいったらありゃしねぇが、それでもドン観音寺の時の動きを見れば、それなりに場慣れしてきたってのは理解できる。お陰で雨の降る回数もここ数日は減っているので、個人的には大助かりだった。

 

『とはいえ、あの滅却師の坊主の過去を聞いた時点で、だいぶ心は曇天なんだよなぁ……。それでも雨が降ってねぇのは、相手に心配させねぇためかね?』

『強くあろうという心の機微だ。我らはせいぜいが見守ることしかできまい――――』

 

 滅却師(クインシー)の滅亡に関する話やら、石田雨竜自身の祖父についてやら。(ホロウ)に囲まれてるっていうのに随分と余裕のある言いぶりで、しかし一護の目の前に立つ青年はボロボロでそれどころではなかった。

 おおむね、ここまでは原作通りに進行していると言える。一護が「月牙」を「月牙天衝」として認識して使っていないこと、それがさらに白雪の姐さんの能力と微妙に融合していることなど、色々と想定外の部分はあるがここまではギリギリ想定の範囲内で話が進んでいる。

 

 正直、原作のそれがどうこうっていうのは俺個人としちゃ全然問題視していないが(そもそも「俺」みたいなのが斬魄刀もどきやってる時点でお察しだ)、一護が泣いたり死んだりするようなことだけは回避したい。

 当然、原作云々は抜きにして「弟」のように見ていた一護が泣くのは嫌だし、それが原因で水没するのはもっと嫌だ。

 

 なんなら姐さんは姐さんで一護の視界に時々映る朽木ルキアの姿に狂喜乱舞したり、改造魂魄(コン)の入った一護の身体がルキアに抱き着いた映像を見て殺意と冷気を散らしたりと言ったことはあったが、まあそのくらいはいつものことだ。

 重要なのは、ここから先。

 

「……わかるか黒崎一護! 僕は、死神の目の前で滅却師の力を証明しなければならないんだ――――!

 こんな僕の考えが間違ってると思うのなら、そこで見物していると――――」

「話が長ぇッ!!!」

 

 いや、もうちょっと先だな。センチメンタルと言うには色々と思春期をこじらせて、なおかつ父親やらとの関係が上手くいっていなかったせいでよりこじれた石田雨竜。そんな彼の独白と決意表明めいた宣言に、一護は思わず飛び蹴りをかました。

 

『って、いや、気持ちは判っけど、そういう所ですーぐ簡単に暴力振るうからお前よぉ、見た目は不良っぽいけど真面目でちゃんとした男子生徒だ! ってイメージ戦略が全然上手くいかないんだぞ……』

『怖がられているからな、一部の女子生徒からは』

『私としてはこの喧嘩っ早さは我が使い手に関係してるいけ好かない男を思い出すので、正直絞め殺したいところですが……』

『『それは止めろ』』

 

 一護に海燕殿(ルキアの初恋)の姿を重ねて見えてしまうことにいら立ちを覚えているらしい姐さんの一言に、俺とオッサンのツッコミが重なった。

 

「な、何をする黒崎っ!? か、考えが正反対なことは判っているが――――」

「そうじゃねぇ! あと、そういうことじゃ無ぇだろ!

 要するにお前の先生の望みってのは、死神に滅却師の能力の方が優れてるとか証明することじゃなくて! 死神と力合わせて、一緒に虚と戦うことじゃねぇのかよッ!」

「――――っ」

 

 だったら、と言って手を差し伸べ。それをとれない雨竜に苛立ちと共感と同情を向けながら、その腕をつかんで引き起こす一護。

 

「今、それやらねぇでどうすんだ!

 呉越同舟、大いに結構ッ! 多人数相手のケンカってのは―――― 一緒に殴るやつと背中合わせての方が、上手くやれるってモンだぜ!」

 

 併せて自らの母親が虚に殺された話と。死神とかどうこうは関係なく、ただ一人の男子高校生として、自分みたいな思いをする奴が生まれて欲しくないと。そう伝えたのを受けてか、明らかに雨竜は軟化する。

 ただ、それに対してうがった見方しか出来ないのは、色々と知りすぎてしまっている俺の立場の問題なんだろーが。

 

『なんつーか、青春してんなぁ。自分のミスを責められるでもなく、正面からケンカ友達みてぇな対応されりゃ、ああもなるか』

『嗚呼……』

 

 ■■■■のオッサンはオッサンで、あっちの雨竜と一護とのつながりを俺以上に察しているのか、完全に親戚の子供を見守るお爺ちゃんみてぇな目線だった。そんな俺たちの反応に不思議そうに首をかしげる姐さんは、それこそデフォルメされたルキアみたいな三白眼めいた目ぇしていた。

 

「走れ、“月牙”――――!」

 

 雨竜の矢を時にかわし、時に彼を背に回しながら。地面に斬魄刀(俺たち)を走らせ斬る一護。その斬撃の軌跡から、青白い霊圧が飛ぶ――――色に関しちゃアニメ1期の方をベースにでもしてんのか、それとも姐さんと混じっている影響が出ているのか。まあ■■■■のオッサンの影響ってセンが一番濃厚っちゃ濃厚ではあるが。

 技の名前を中途半端に教えておいたせいなのか、月牙のラインは本来のそれよりもロスが大きい。というよりは威力よりも斬った跡ばかりが広く残っている。それを見て引きつった笑いをした雨竜は、一護に文句を言いながら二人仲良く虚退治。

 

 途中、下駄帽子(大体すべての元凶)が参戦して中途半端に自分の子供めいた連中と場を引っ掻き回したり、して、そして現れた――――大虚(メノスグランデ)

 それを前に膝をつき、絶望の表情を浮かべるルキア。そんな彼女を見て、今回ばかりは姐さんもシュンとした表情をしていた。

 

「馬鹿な、現世にそのままあんなものまで出てくるなど……、王属特務の管轄だぞ……っ!

 隊長格でもない一般の死神がどうこうできる相手ではない!」

『申し訳ありません、ルキア。私がもっと正しく貴女の力として寄り添えていれば……』

 

 んん、と少しだけヘンな顔をしそうになり(といっても顔面髑髏だが)、思わず俺は口元を押さえた。嗚呼なんとなく今までも察してはいたが、微妙にセリフが改変されていやがる……。後々の描写を考えれば、大虚(メノス)のうち最下級大虚(ギリアン)は、三席以上の実力すなわち始解を終えている死神であれば相性実力次第で勝てる、隊長クラスならほぼ余裕、それ以外の一般隊員はまともに戦えない、という分類が可能だが。どうやらわかりやすくそういう表現になっているらしく、ルキア本人の絶望も「今戦えない自分」という状況に対する恐怖心が勝っているようだ。

 それに立ち向かっていく一護と、止めようとしていたルキアを鬼道で縛る下駄帽子……。いや「お互いのためにならない」とかどう考えてもやっぱりお前、親父(真なる血統)のことちゃんと正しく認識したうえで虐めていやがるだろ。最悪の最悪は自分が刀剣解放してどうにかしちまえば良いくらいに判断してるに決まってる。

 

 なお原作と違って月牙が使えるせいか、「足」を斬りつけてそこから斬撃を広げて達磨落としみたいにできないかと考えている一護だが、残念ながら今のソイツじゃそこまで上手く事は運ばねぇんだよな…………。

 

「言わんこっちゃないっ! 僕の矢だって駄目じゃないか! 逃げるぞ!

 ……全く、何を考えてるんだぁ……、全く、い、今のでどうやって倒すつもりだったんだぃ?」

「わ、悪ぃ。いや、ほら、俺のコイツって斬撃飛ばせるだろ? だから上手く斬ってやれれば、最後には頭だけ下に落ちて来るかと――――」

「達磨落としだー!!? 小学生か君はッ!? どんな頭の悪さをしているんだっ」

「ケッ」

 

 そう言う雨竜の作戦は、ほぼほぼ原作通り一護をタンク役として自分が大砲を担うというものだったりする。まあ作戦自体は正解というかある意味で一護本来の戦い方として俺とオッサンが想定していることそのものなんだが、そこに気付くとはやはり天才か……(中の人繋がり)。

 

「なぁ、この新年会の一発芸でも始めるみてぇな状況だけど、本気で考えて実行してんのか? お前、意外と頭悪ぃんだな……」

「な、何ィ!? ストレートに馬鹿と言われるよりも腹が立つぞ君はッ!

 ってそんなことじゃなくて、君のその凄い霊力をコントロールして僕の周囲に収束してもらえば――――」

 

 なお上手くいかなくて言い争ってる模様。そんな最中でもメノスくんはゆっくりとした足取りで動いてて可愛い……可愛……、いや全然ゆっくりじゃねぇ意外と機敏だぞあのウルトラマ〇くさいサイズのくせに!? 全然可愛くねぇ!

 

『先ほどから何を一人百面相していらっしゃるのですか、髑髏の方』

『あ? あー、まぁこっちにもこっちの事情ってモンがあるんだよ。……って何だ? 姐さん。聞きたいことが有りそうな顔してんじゃねーか』

『はい。あります。貴方達の使い手のことですが…………』

 

「……っていうかコントロールって何だよ? そんなの全然、意識とかしたことねぇぞ?

 もし今の霊力ってのが凄ぇって言うんなら、今のこれが普通に全開なんじゃねーのか?」

 

 ちょうど、一護が雨竜に自らの霊力に対する認識を話し終えた時点である。ここで「嗚呼、つまりこの話です」と首肯する袖白雪の姐さん。そういや、前に精神世界とはいえ一護の霊力を使って刀剣解放してたからなぁ。今の一護の言い回しには凄ぇ違和感があるんだろう……。

 

『この方の霊力は、こんなものではないはずです。……私として色々思う所はありますが、今の所この方がしっかりしていなければ、ルキアにも累が及びますもの。だからこそ聞きますが――――蓋をしているのは、貴方達お二人ですね?』

『……まぁ、そうだな。俺が同意して、鞘の役割をしてるオッサンが抑えてくれてるってことになる。「魂を錬磨」して鋳造(つく)られる俺達斬魄刀に、本来「心を写し取る」機能を持つ鞘が使い手の魂、その力の有り方を投影して、あるいは内にあるものを引き出して自らの主に据えるってなモンだが、俺達の場合は逆に「俺の側」の意志と意図を鞘たるオッサンに汲んでもらって、一護の方に投影してるって流れになんのか?』

『…………』

 

 とりあえず霊術院での授業経験やらなんとなくなけなしで聞いた斬魄刀知識、および「実体験」としての体感やらを一通りまとめて、ざっくり「それっぽく」説明する。俺とオッサンの間だけで完結する話であれば、鞘である以上に本来なら「滅却師」の力の化身であるオッサンの力を一護のキャパシティのどれくらいに置くかということでバランスをとっているという話に出来るのだが、流石にそこまで姐さんに語る訳にもいかない。

 というか俺たちの側でそれを話したら、姐さんがルキアの元に戻った後に下手に事情を知りすぎていて、織姫置いてヒロイン化しちまいそう……、変な眉毛の副隊長が曇って一護も曇る。中々悩ましいところだった。

 

『要するに、過ぎたるは及ばざるがごとしってやつだ――――今の一護の霊格(ヽヽ)じゃ、自らの内に内包している力の奔流、ちょっとした霊圧だけで何もかもが「消し飛んじまう」。水道の蛇口から洪水レベルの水が流れ出るのでも考えてみろ? 水道自体をどうにか改良していかなきゃ、話にならねぇだろ』

『……それを堂々と言いきれる貴方という存在、それに鞘と共に自ら意志を持ち、外部から力が入るより以前に持ち得ていた死神の力…………。

 一般人ではありえぬこと、加えてその力の根源。ひょっとして真血の――――』

 

『『『――――ッ!?』』』 

 

 途端、重圧が重なる。一護本来の霊力から考えればこんなもの大したものではないのだが、とはいえあの赤いオーラをまとった(くろ)(ひか)り――――虚閃(セロ)、大虚以上の存在が放つことのできる、自らの霊力を収束して放つ光の波動。

 

「奴め、ここでアレを放つつもりか――――ッ!

 逃げろ一護! 隣のお前も、お前たちの霊格では欠片も残らんぞ!」

 

 実は雨竜に関しては真面目に正解の可能性もある一言だったりするが、そんな可愛い声で叫ぶルキアのそれに、一護が背を向ける訳はない。

 そしてそんな一護の「誰かを思い出させる」その姿勢に、姐さんがもうテレビではお見せできないような凄い表情をしていらっしゃる…………。

 

 当然のように制止を振り切り走る一護――――それに「何故か」その後を駆けてくるルキアの姿。って、は? 原作、ずっと縛道かけられたままだったはずだから動いてはいないはずじゃ……って、下駄帽子が悪い顔してやがる。ひょっとして本編でもこの時点では解いていて、ルキアがどう動くかを含めて実は見ていたとか? そんな上手い話でもあるのか?

 というか、そうだとするとこの時点で一護を庇おうと走り出したルキアってその距離感というか何と言うか…………。

 

『一護を守るものが増えるのは悪い事ではあるまい』

 

 口には出さなかったが、俺の意図が「影を介して」うっすら伝わっているだろうオッサンは、しかしルキアの行動にはそんないつも通りマイペースな返しをしてきやがる。まあ俺の「本当の懸念点」みたいなモンは伝えるにも伝えられないので、こればかりはしかたないんだが、なんだかなぁ……。というか、一護はともかく一般的な死神に対してまでは良いイメージを抱けていない雨竜が、その湿度高い彼女の気持ちでも察したのか困惑気味なリアクションじゃねぇか、おかげであっちも動けてねぇぞオイ。

 

「は!? ば、馬鹿何やってんだッ」

「たわけは貴様だ! 逃げろと言っただろう! もう良い、全ては私が悪いのだ。

 せめて貴様だけでも――――」

 

 だが、それが最悪の方向に傾くわけで――――。その振り下ろされる光は、瞬く間に一護を襲おうとして、しかしルキアは前に出て一護を庇おうと、刀を構える瞬間が遅れ。

 

 それを庇おうとした瞬間、猛烈に雨が降り出した。いよいよ限界だったのだろう、一護の心の動き―――――。

 

 

 

 その瞬間、オッサンと俺とは目を見開く。明らかに、一護と俺たちが「繋がった」。

 

 

 

『って、繋がったってだけの話じゃねぇぞ! やべぇマジで死にかけてる!

 仕方ねぇ、無理に「具象化」してくるわ! こっちに一護もついでに引き込んでおくから、後はオッサン頼む』

『判った!』

『えっえっ、えっと、私かやの外です?』

 

 姐さんには悪いが、正直本当に時間がない。精神世界での時間経過が現実世界よりもはるかに遅いことを踏まえても、あまりのハードスケジュールさに思わず俺は「空」へと駆けだした。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 ―――― 一護。こっちだ、一護――――

 

 声がしたと同時に、一護はふと目を見開く。雨が降っている。見覚えのない場所、靄の晴れたそこは、地面がまるでビルの壁面のような、そんな妙な場所である。前を見ればまるで青空のようなものが広がっており、一体ここは何処なのかと違和感しかない。

 だが、かけられた声の方を振り向けば、そこには――――白い着物を着た美しい女性。いわゆる雪女のようなニュアンスを帯びている女性と。そんな彼女と正反対に、真っ黒な壮年の男性がいた。ゆらめく黒衣のコート、こちらを見据える半透明のサングラス姿。

 

「誰だ、アンタら」

 

 女の方は何やら困惑した様子で一護に話しかけてきているようだが、その声は聞こえない。対照的に、頭に響くように黒いオッサンの声が聞こえた。

 

『誰だ? 何を言っている。私だ。お前の内の■■■■(■■■■■■)だ』

「…………」

『そうか、やはりこの名は聞こえなかったか。我が「半身」もそうであったのだ、予想はしていたが「視られている」ということなのだろう。

 ……良し悪し、好悪はともかく、ひとまず「それ」については引き下がろう。結果的に、それが今の一護を護ることに繋がるのだろうからな。

 だが悲しいなぁ。こんな時でもなければ、私の声すら聞こえぬか。いったい幾度、声を枯らせば我等(ヽヽ)の声はお前に届くのだろう。お前が生まれし時より、お前以上に我等のことを知るものなど、この世の何処にも居はしないのに』

「護るって何だよ。というか誰だよ、アンタ。アンタみたいな陰気な知り合いは、俺には居ねぇ――――って、アンタどうやって立ってるんだ、それ……!?」

 

 気が付けば、男はポールのようなものに「垂直に」立っている。女性は女性で地面から生えた「壁のような氷」に身を隠し、こちらの様子を伺っていた。

 

『驚いたなぁ……! 何故「法則が崩れた」この世界において、そんな場所に座っていられる』

「えっ?」

 

 自覚。そう、一護はビルの壁に「垂直に」座っていたのだ。急にバランスが崩れ、落ちる――――。絶叫、重力に引かれ地面に吸い寄せられる一護に追従するように、オッサンは頭を下にして、より自由落下の恩恵を受けていた。

 

『絶叫とは余裕じゃないか! ハッハッハ、頼もしいなぁ。そうだとも、死神とは多くの霊なるモノの運航を司るもの。この無数に散った霊子の欠片さえ時には意のままに支配し従属、自らの意志で収束させ――――』

「わけ分かんねぇんだよ! っていうか、まさかお前達ってアレか! 斬魄刀!

 綺麗とか可愛くないとか言ってたけど、つまりあっちのなんかちょっと目がエロい感じの女性(ヒト)がルキアの斬魄刀で!!? アンタが俺の――――」

 

 全てを言い終わる前に地面に激突――――沈んだ一護は、水底にいるような体感を覚える。

 そして呼吸が出来ないのではともがき始めた瞬間、「ここはお前の内、呼吸なら意識などせずできる」とアドバイスをされた。

 

『よく聞け、そして心しろ一護。崩壊しかけたこの世界は、つまりお前自身の魂魄が砕けかけていることを表す。

 我等二人(ヽヽ)は今、内と外とでお前の崩壊を防ぐために決死の覚悟で臨んでいるのだ!』

「あ? 二人!?」

 

 この時点で一護は、袖白雪と目の前のオッサンとが対象であると認識。言わんとしていることの意味は不明だが、少なくともロクな状況ではないらしい……、自らが死にかかっているのだろうということだけは、正しく認識した。

 砕けたビルの一つ一つが、意識すれば箱のように見えはじめた一護。オッサンは言う、この中に隠れた、一護自身の「死神の力」、それを探し出しつかみ取り、名を叫べと。

 

『外と内、我等を繋ぎ、叫べ! 其の名は――――』

「む、無茶苦茶言うなよッ! こんな大量の箱の中からどうやって……っ!」

『言い訳は聞けぬ! 時間もない! この世界が完全に暗闇に囚われる前に見つけ出せねば、我等は完全に姿を消し――――抑えを失い砕けたお前の魂魄は、その不安定さから「虚になる」』

「はァ!?」

 

 意味不明だったが。だが、その鬼気迫る声に一護はその切実さを思い知らされた。と同時に、ルキアの斬魄刀だろう彼女もまた一緒に水没しながら、隣のオッサンに「聞いていないのですが!」とでも言わんばかりに大きく目を見開いて抗議していた。なおオッサンはそれを平然と無視、というよりコート越しに打撃が「貫通して」ダメージが「通っていない」ように見える。まるで影法師のようなその有様に、マジかよと思いつつも一護は明確に死の恐怖を感じていた。

 

 水没した思考の中、脳裏を駆け巡るルキアと石田の姿。あのままルキアを下手に庇おうとして死にかけている自分のことだ、そのまま死んだりしたらルキアどころかそれを貫通して石田すら殺しかねない。

 そんなこと断じて許容できない――――許容するつもりもない。自らが死することよりも、そちらの方が、彼等に対する個人的な感情の方が勝利し。

 

 そして石田のイメージから、死神の力を帯びた霊絡の色の話を思い出した。

 

 かっと目を見開き、その色を、通常の霊子で構成されている霊絡とは異なる色合いのそれを手に、引き出す――――。

 

「――――何、だ? これ」

 

 

 

 そこにあったものは――――黒い鎖、それが柄に繋がれた一本の刀。抜き、刀身はそこになかったが、間違いなくそれは一護の刀であろう。

 そこから伝わる、言葉にならない感情。それはまるで自分の声のように、どこか懐かしい感覚が伝わってきた。

 

 ――――恐怖を捨てずに、前を見続けろ――――

 ――――進め、決して立ち止まらぬよう――――

 

「…………」

 

『引けば老いるぞ……、臆せば死ぬぞ!』

 

 もはやどうするのが正解かすらわからない。だが、一護は導かれるように刀を前方に向け、構え――――それと同時に、鎖が延びて腕に絡みついた。

 嗚呼、中断して遮ったが――――すでに「名前」は、刀から伝わってくる。

 そしてオッサンの言葉と、伝わってくるそれに合わせて、一護はただ叫んだ。

 

 

『『(きらめ)け、我等(ヽヽ)は――――』』

 

 

 

「――――斬月(ざんげつ)!」

 

 

 

 その叫びと同時に、一護は自らの感覚が現実に戻っていることを理解し。

 そして、その手に今まで見たことのない形状の「穴の開いた」巨大な刀が握られているのを目撃した。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

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